あらすじ
<第1回> <第2回> <第3回>

<第1回> 「奇跡の歌声」
 チェーン展開しているラーメン店。カウンターの中で店長の吉村浩輔(高橋克典)がバイトの真司(塚本高史)にラーメンの作り方を教えていると、ドアが開いて2人の女の子が入ってきた。「いらっしゃい!よう」。浩輔の妹の由佳(加藤あい)と友達の美紀(矢沢心)。「こんにちは」。兄妹なのに由佳が遠慮がちなのは母親が違うからだ。由佳の母親が亡くなって、唯一の身寄りである浩輔を頼って上京してきたのはまだ半年前。現在は作曲家をめざして専門学校に通っている。
 浩輔に対する由佳の態度がぎこちないのにはもう一つ理由があった。何の目的もなく、客から罵声を浴びせられても、店長の仕事を淡々とこなしている兄の姿が歯がゆかったのだ。「たった一人の兄貴があんな落ちぶれた野郎だったなんて」。店を出るなり由佳は美紀にこぼした。じつは浩輔には現在の姿からは想像もつかない“過去”があったのだ─。
 店内ではテレビのベストテン番組を見ていた真司が「すげえ!」と驚きの声をあげた。売れっ子の音楽プロデューサー江崎正彦(金子賢)の手がけた3曲がトップ10入りしている。「店長はどんなの聴くんですか」「別に」。浩輔は無関心を装ったが、じつは浩輔は江崎のことをよく知っていた。浩輔はロックバンドのメンバーとして活躍後、音楽プロデューサーに転身して大成功した。しかしスランプに陥った時、焦るあまり他人の曲を自作曲として発表してしまった。盗作が明るみになると同時に、浩輔は音楽業界から追放された。その当時の後輩が江崎であった。
 江崎は同じ頃、都内の録音スタジオで苦りきった表情を見せていた。「声がのびていない」。うなだれる新人歌手を残して江崎はスタジオを出ていった。「何とか再開してもらえませんか」。あわてて江崎をとりなしたのは工藤康之(西岡徳馬)。江崎の所属するレコード会社の幹部社員だ。「与えられた条件で仕事をするのがプロでしょう。例えば吉村浩輔は─」「関係ないでしょ!」。工藤が浩輔の名前を口にすると江崎は血相を変えた。「いまどうしているんでしょうか?」。工藤の秘書の加藤佐和子(畑野浩子)が口をはさんだ。「さあ、盗作やっちゃおしまいだよ。10分後に再開してください」。工藤は締めくくるように江崎に言うと立ち上がった。
 「ああっ!」。由佳はファーストフード店の前に停めていた自転車を出そうとして、横のバイクに倒れかかった。店内から不良グループが飛び出してきた。そしてリーダーの田村良二(深水元基)が手を差し出した。「修理代、10万円」「私、お金ないの」「明日金持ってこいよ」。良二は由佳のバッグから携帯電話と学生証をまきあげた。
後からやって来た仲間の島崎未来(中島美嘉)が由佳のCDウォークマンを手にしていた。「それ返してくれる?」。しかし彼女は無慈悲にもCDウォークマンを地面に落とした。
 未来は近所では札付きの不良少女で通っており、良二たち不良グループとも仲良くしていた。
幼くして父親と離れ離れになって、スナックのママとして働く母親・綾(川島なお美)が女手一つで育ててきた。綾は未来をでき愛しており、なかなか子離れができない。未来はつい先日も傷害事件を起こし、綾に付き添われて家庭裁判所で審理を受けたばかりだった。
 困った由佳は仕方なく浩輔のもとにいき、今日のできごとを打ち明けた。
 次の日、由佳は浩輔に付き添われて、良二たちの待つ神社に向かった。「こいつの携帯電話と学生証を返してくれ」「金と引き換えだって言ってんだよ!」。良二に殴られてもじっと耐えた浩輔だったが、未来が由佳を押し倒したのを見て声を荒げた。「妹には手を出すな!こいつには将来があるんだ」。未来がナイフで浩輔の腕に切りつけた。「やりたきゃやれよ」。にらみあう浩輔と未来。先に背を向けたのは未来だった。「あいつマジだよ」。由佳の携帯電話と学生証を投げ捨て、良二たちはあわてて未来の後を追っていった。
 「いい歳して何やってんだか」。浩輔は腕のケガを坂井圭司(石原良純)に治療してもらった。浩輔とは高校時代からの親友である。父親は坂井病院の院長。圭司には次期院長のイスが約束されている。
「こんな生活していたらロクなことないぞ」。坂井は浩輔が挫折した後も見限ることなく、気にかけてくれていた。
 由佳は美紀と高級カラオケボックスでバイトしていた。人目を引く華やかなグループが来店した。由佳はサングラスの男が江崎であることに気づいた。「作曲の勉強をしているんです」「悪いけど、今はプライベートなの」。佐和子にさえぎられた由佳は切り札の一言を口にした。「私の兄も音楽プロデューサーでした。吉村浩輔です」「えっ!?」。江崎だけでなく、佐和子や他の一同もハッとして由佳を見つめた。
 浩輔が店で本部のスタッフと売上成績について話していると、携帯電話が鳴った。「これから時間ある?」。浩輔は由佳から呼び出され喫茶店に行った。由佳と一緒だったのは江崎だった。「どういうことだ!」。浩輔の声には怒気が含まれていた。「俺が呼んでもらったんです。今お仕事は何を」「どうでもいいだろ。俺の落ちぶれた姿を見にきたのか!」。江崎は浩輔から作曲の強い影響を受けていた。「俺は盗作なんか絶対にしません。俺があなたの分まで頑張ります」。逃げるように店をでた浩輔を追って由佳が声をかけた。「ごめんなさい」。由佳は浩輔の妹であると打ち明けることによって、江崎に関心を持ってもらいたかった。「もういい。俺はもう音楽の仕事には戻れない」。由佳と別れた浩輔は夜の繁華街をさまよった。いつしか一番思い出したくない記憶をよみがえらせていた。
 週刊誌が盗作騒ぎを書きたてた時、工藤は偶然似てしまったと言い逃れるよう進言した。しかし浩輔はマスコミの前で盗作を認めた。浩輔はばく大な賠償金を支払い、そして音楽業界から追放された。
 いつしか雨が降りだし、浩輔は高架下の公園で雨宿りすることした。雲間から月が顔をのぞかしたその時、どこからか女性の歌声が聞こえてきた。その声は高架にエコーして、まるで天から響いてくるように聞こえる。浩輔は打たれたように声の方に歩きはじめた。月の光を浴びた女性のシルエット、それは島崎未来だった──。彼女の歌声に、浩輔は忘れようとしていた“何か”を揺さぶられるような衝撃を感じた・・・。

<第2回> 「復活への序曲」
 月の光を浴びて歌う未来(中島美嘉)の姿に浩輔(高橋克典)はじっと立ち尽くしていた。そんな浩輔の姿に気づいた未来は歌うのを止め、呼び止める浩輔の声には耳も貸さず、背中を向け立ち去ってしまう。浩輔は未来が落としたペンダントを拾った。
 浩輔がアパートに帰ると由佳(加藤あい)が待っていた。「ごめんなさい」。由佳は江崎(金子賢)と引き会わせて不快な思いをさせたことを詫びた。「今日のことはもういいよ」。聞いたばかりの未来の歌声が頭を離れない浩輔は、どこか上の空だった。
 同じ頃、未来は自宅に入ろうとして良二(深水元基)に止められた。「バカなことしやがって」。未来がブロックで殴った少女が入院したのだ。物陰から様子をうかがっていると、1階のスナックから刑事が出てきた。「戻ってきたら出頭させて下さい」「あの子はホントは悪い子じゃないんですよ」。母親の綾(川島なお美)はうろたえていた。今度捕まれば少年院送りは免れないだろう。良二は雑居ビルの空き部屋に未来をかくまうことにした。未来を追っているのは警察だけではなかった。未来がケガを負わせた少女の兄は組事務所に出入りしており、捕まれば大変な事態になることは想像できた。「俺が何とかする。ここに隠れてろ」。未来は出て行こうとしたが、良二はカギをかけて部屋に閉じ込めた。
 未来の歌声が忘れられない浩輔は仕事に身が入らない。もう一度聞いてみたい―。坂井(石原良純)と屋台で飲んでいても、未来によく似た少女を見かけると、あわてて後を追いかけてしまった。「よっぽどいい女なんだろ」。事情が分からなくても、浩輔が夢中になることを見つけてくれて坂井はうれしかった。
 一方、江崎は彼の手がけた歌手のCD売り上げに、かげりが見え始めたことに焦りを感じていた。「深刻に考えることはないですよ」。その言葉とは裏腹に、工藤(西岡徳馬)がひそかに新しいプロデューサーと接触していることを、恋人である佐和子(畑野浩子)から聞かされていた。「俺にも、この会社にもとびきりの新人が必要なんだ」「だったら自分で探したら?」。佐和子に言われなくとも、江崎はその必要性を痛感していた。
 「俺と逃げよう。誰も知らない場所で一緒に暮らそう」。良二はポケットから万札の束を出したが、未来はなげやりに言い放った。「私らにどんな仕事があんの。どこ行っても同じ、未来なんかない」。その時、ノックの音がした。「誰だ!」。浩輔だ。街で見かけた良二を尾行してきたのだ。「歌をもう一度聞かせて欲しいと伝えてくれないか」「知らねえよ!」。諦めてその場を立ち去った浩輔を未来が追いかけてきた。良二の隙をついて部屋から逃げだしてきたのだ。「返せ!」。あのペンダントのことらしい。その時、浩輔と未来は数人の男たちに囲まれた。「どけ!その女を痛めつけなきゃいけねえんだ」。未来がケガを負わせた少女の兄とその仲間だ。2人は手を取りあって逃げだし、交番に飛び込んだ。男たちはあわてて散ったが、警官が未来の顔をじっと見つめている。警官の手には彼女の手配写真が握られていた。手錠をかけられ刑事に連行される未来を浩輔は見送った。
 「この間はすみませんでした」。由佳のバイト先に再び江崎が現れた際、浩輔との応対で腹を立てていた由佳は、警察に電話をかけ江崎の車をレッカー移動させた。由佳がそのことを正直に謝ると、「面白い子だな。自分から白状するなんて」と江崎は由佳の反応を楽しんでいた。しかし、由佳が去り際に何気なくもらした一言に江崎は気色ばんだ。「兄は音楽を捨ててませんから」「えっ、どういうこと?」。江崎の問いかけに由佳は何も言わずに立ち去った。
 専門学校の楽曲コンペに応募することを決めた由佳は、浩輔に見てもらおうと自作曲の譜面を差しだした。浩輔は首を横に振った。「俺は見てやれないよ」。しかし、由佳は引き下がらなかった。「音楽を裏切ったなら、もう一度ちゃんと音楽をやるのが罪ほろぼしじゃないの!新しい曲、作ってよ」。由佳は部屋のガラクタの山からギターを取り出した。「私に音楽の楽しさを教えてくれた人に、ちゃんと前歩いてほしいの」。しかし、浩輔はギターをゴミ収集所に捨てた。由佳はそれを拾うと弾きだした。たどたどしい手つきで、メロディにならない。「弾いてよ」。戸惑いながらも浩輔の指が弦をはじきはじめた。頭の中では未来の歌声をよみがえらせていた。浩輔の演奏は5年間のブランクを感じさせなかった。「昔はやり直せた。今は違う」。それでも自分の中で何かが変わりつつあるのを浩輔は感じていた。
 その頃未来は厳しい取り調べを受けていた。「あいつがナイフで刺そうとしたからやったんだ!」。相手がナイフで襲いかかってきたから、未来はとっさに落ちていたブロックで殴った。けれど現場からナイフは発見されていない。「どっちだっていいんだよ。俺たちはお前らを順番に掃除するだけだよ」。刑事たちは不良少女の未来の言い分に聞く耳をもたなかった。
 あれから浩輔は部屋で由佳と飲み明かした。翌朝、未来が拘留されている警察から電話が入った。母親に連絡が取れないため、未来が逮捕されたときに一緒にいた浩輔に引取人になって欲しいとのことだった。「歌、一緒に始めないか?」。家に戻った未来に、浩輔は言った。「母親の店を手伝うって決めたんだ。私にはそれしかない・・・」。そう言う未来の顔はどこか切なそうだった。「人は変われる!俺だってやり直したいんだ!」背中を向けた未来に呼びかける浩輔。その表情には希望が見えた―。

<第3回> 「お前を信じる!」
 未来(中島美嘉)が綾(川島なお美)のスナックを手伝うことになった。「これで楽になるわ。あんたも悪い友達と縁が切れるし」「やるよ。うっせえな」。未来はぶ然とした表情だったが、綾は娘とずっと一緒にいられるとあってゴキゲンだ。綾に頼まれて未来が買い物に出かけようとすると、浩輔(高橋克典)が声をかけてきた。仕事を抜け出し、店の前で待っていたらしい。「歌、好きなんだろ?好きじゃなきゃ、あんな風には歌えない」「別に好きでもない。消えろ!」。浩輔がなおも追いすがろうとすると、良二(深水元基)たちに囲まれた。「てめえ、気持ち悪いんだよ!」。いつしか未来は姿を消していた。
 浩輔がラーメン屋に戻ると、由佳(加藤あい)と美紀(矢沢心)が来ていた。美紀はこれから新人オーディションを受けるという。合格すれば江崎(金子賢)のプロデュースでCDデビューできる。「緊張している時はノドが開きにくいから、アップテンポの曲がいいよ」。浩輔は無意識のうちに美紀にアドバイスしていた。由佳は浩輔に微笑みかけた。「お兄ちゃん、前はあんなこと言わなかった」。浩輔が再び音楽への関心をよみがえらせたことがうれしかった。「見てやるよ、由佳の作った曲」。浩輔は照れながらも約束した。
 美紀に付き添ってレコード会社を訪れた由佳は江崎とばったり顔を合わせた。「ウチの学校のイチオシです」。しかし江崎は無表情に美紀をいちべつしただけだった。
 その夜から未来は綾の店で働くようになった。「これがウワサの娘さん、お名前は?」。客に聞かれても無視していると、浩輔が入ってきた。綾が他の客の相手をしているうちに、浩輔は未来に話しかけた。「せっかくの才能、このままにしておくのか?」「そんなもん、あるわけないだろ。うるせえんだよ!」。ストーカーと勘違いされた浩輔は店から叩き出された。「俺は彼女を歌手にしたいんです」「あの子に歌の才能なんかあるわけないじゃない。親だからわかりますよ」。綾も浩輔の話をまともに聞こうとはしなかった。
 オーディション結果に失望した美紀は江崎のマンションを訪ねた。「どうしても歌手になりたいんです」。美紀は江崎に抱きついた。しかし江崎からは突き放すような言葉が返ってきた。「才能もないのに夢にしがみつくヤツは嫌いだ」。いたたまれず美紀は部屋を飛び出した。「冷たいんだ」。バスルームから佐和子(畑野浩子)が姿を現わし、工藤(西岡徳馬)が新人歌手探しを急いでいることを伝えた。江崎は知らなかった。「俺を信用していない証拠だ」。江崎の口調には怒りと焦りが込もっていた。
 「俺を動かしたのはあの子の歌なんだ」。浩輔は坂井(石原良純)に未来のことを打ち明けた。「お前がその子の歌に動かされたなら、彼女を動かすのはお前の音楽なんじゃないか?」。坂井の一言に浩輔はハッとした。早速自らプロデュースして大ヒットしたCDを買った。しかし帰宅した浩輔は迷った挙げ句、そのCDではなく、自分のお気に入りのものを取り出した。そして紙袋に入れると、未来が気づいてくれるようスナックの前に置いた。“君が歌えばきっと素敵だと思う”とメッセージを添えて。
 渋々ながらもスナックの手伝いを始めた未来だったが、近所の目は冷たかった。チラシを他人の店に勝手に貼って文句を言われた。「最近ビル荒らしが多いんだよ」。深夜、ビルの屋上にいたのも見られていた。浩輔にもらったCDを聞いていたのだが、まるでビル荒らしの犯人のように言われた。「今はちゃんと真面目に働いてますから」。頭を下げてわびる綾を見ているうちに、未来は怒りを爆発させた。「真面目に働いたって、結局疑われんじゃねえかよ!」。
 怒って店を飛び出した未来は由佳と鉢合わせした。「あなた、兄とどういう関係?もう関わらないでくれるかな」。浩輔の持っていたスナックのマッチを不審に思って、由佳はやって来た。「それはこっちのセリフだよ。歌手になれだの、うざいんだよ!」「あなたに!?」。兄に再び音楽への情熱をよみがえらせたのが未来だったとは。由佳はショックに打ちのめされた。「どうしてあんな子に?もう一度音楽やる気になったの、私の力もあるって言ったよね?」。不満をぶつける由佳に対して、浩輔はきっぱりと言いきった。「あの子には才能がある」「あんな不良に才能があるって!?」。由佳の声にも耳を貸さず、浩輔は未来の元へ向かった。
 「君に話さなきゃいけないことがある」「別に聞きたくねーよ」。浩輔は未来に、自らの過去を打ち明けた。「人の曲を盗んだ。盗作したんだ」。音楽業界を追放されて以来、失意の日々を送ってきたこともありのままに告白した。「君の歌を聞いて、もう一度音楽をやりたいと思った」。浩輔が話し終えると未来は立ち上がった。「きっと作る。君が歌いたいと思うような曲を」。しかし未来は何も答えずに帰っていった。浩輔の思いははたして未来に届くのだろうか──。


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