あらすじ
<第7回> <第8回> <第9回>

<第7回> 「涙のプロポーズ」
 「俺は葉月さんのことが好きだ」。
 賢三(岸谷五朗)が打ちあけると、エリ(鈴木 杏)は手放しで喜んでくれた。
 「私、応援する。頑張ろうよ、お父さん」。
 賢三は葉月に告白しようとするが、反対にショックな言葉を聞かされた。「プロポーズされたの、神谷さんに」 喜びの涙を浮かべる葉月を前にしては、賢三は自分の気持ちを抑えるしかなかった。
 賢三はおとなしく身を引こうとするが、エリ(鈴木 杏)は不満げだった。
 一方、秋彦は葉月にプロポーズしたものの、気持ちは揺らぎだしていた。
 恩師の教授から娘と見合いしてほしいと頼まれていたからだ──。

<第8回> 「娘も親を愛してる」
「やっと元気になったみたいだね」。エリ(鈴木 杏)は賢三(岸谷五朗)がいつもの様子に戻ったのを見て、ホッとした。葉月(財前直見)と秋彦(阿部 寛)の結婚が決まって、沈んでいる瞬間があったからだ。
 賢三がオフィスで2人の結婚式場を選んでいると、見慣れぬ中年女性が近寄ってきた。そして満面の笑みで、賢三の手を強く握りしめた。何やら感動しているらしい。
 そこへ葉月が飛びこんできた。「お母さん!」。
 葉月の母親、弥生(茅島成美)だった。夫を早くに亡くし、女手ひとつで葉月と柊を育ててきた。葉月から結婚を知らされて上京してきた。「この子は誰に似たんだが、気が強くて、強情でわがままでしょう」。 賢三は思わず「その上、お節介で図々しいとこもありますしね」。これがいけなかった。「他人の娘つかまえて何ですか!」「お母さん、落ちついて」。葉月の言葉も耳に入らない。「ホントに不愉快だ わ。行くわよ」。弥生はさっさと出ていった。「娘が娘なら、親も親だな」。賢三は 吐き捨てるように言った。
 これでとんだトバッチリを受けたのが秋彦。「あんな人の紹介した結婚相手なん か、信用できなくなってきたわ」。それでも実際に会ってみると、秋彦の誠実さは弥 生にも伝わった。「ふつつかな娘ですが、どうぞ末永くよろしくお願いします」葉月と秋彦は笑顔を交わした。
 翌日は日曜日。賢三に秋彦から電話がかかってきた。葉月と一緒に弥生を東京案内するつもりでいたが、急きょ病院に行くことになった。だから代わりに賢三に付き添って欲しい、と言う。
 というわけで賢三はエリを連れて、待ち合わせ場所へ。さすがに葉月は申し訳なさそう。ところが弥生とエリが意気投合してしまった。「エリちゃん、お台場よね」「うん」。
 歩きまわっている時は良かったが、カフェで一休みしているうちに、またもや賢三と弥生の雲行きがあやしくなってきた。東京で3人で暮らすことを提案した葉月に弥生は「店もあるし、遠慮しとくよ」「素直に同居すりゃいいでしょうが」「大きなお 世話よ」。またしてもケンカ別れ。
「なんだよ、あのクソハバア」「また、そういう言い方・・・」。帰宅しても毒づいている賢三をエリがたしなめていると、柊(板谷由夏)がやって来た。「うちの母さ ん、口が悪いのよ。同居の話がもつれて、このまま2人の結婚に反対するかも」。賢三は心配に・・・。「もし自分の母親になるとしたらどう?私と結婚したらそうなるわけでしょ」。柊の真剣なまなざしに賢三はたじろいだ。「好きなの?お姉ちゃんのこと」。賢三は笑顔をとりつくろって動揺を隠した。「俺だって好みがあるよ」「そうよね」。しかし柊には賢三の本当の気持ちがわかった。葉月が好きだということが・・・。
 賢三が亮介(丹 直樹)の店で飲んでいると、弥生が1人で姿を現わした。「あら、いやだ。あなたいたの」「一緒に飲みましょうよ」。実はその日の昼間、弥生が 葉月のことをよろしくと秋彦に頭を下げている姿を、賢三は偶然目撃していたのだ。
 素顔は娘のことを心配する母親なのだ。弥生はジョッキを手にした途端、激痛に顔をしかめ、そのままうずくまった。「どうしたんですか!」。 賢三は弥生を背負って救急病院に駈けこんだ──。

<第9回> 「ダメ親父のプレゼント」
「お姉ちゃんのことが好きなのよ」。葉月(財前直見)は柊(板谷由夏)から言われ、やっと気づいた。会えばケンカばかりしている賢三(岸谷五朗)から密かに思われていたとは・・・。しかし秋彦(阿部寛)との結婚の準備は着々と進んでいた。
 2人の婚約パーティーを亮介の店で開くことになった。「私も行かなきゃダメかな?・・・なんか、葉月さんにお別れを言うみたいで」。エリ(鈴木 杏)はいつになく出席することをためらう。「いつなの?」「来週の火曜日だよ」。「12月5日・・・?」その瞬間、エリがのぞかせた表情を賢三は見すごしてしまった。
 翔太(木村一輝)にも声をかけると大乗り気。「バースデーケーキみたいなケーキも用意しましょうよ」。その言葉で賢三は思い出した。パーティー当日はエリの誕生日だった!
 エリに内緒で、一緒にお祝いすることにした。どんなプレゼントを選べばエリが喜ぶのか、賢三には見当もつかない。若い女の子でいっぱいの店で、コギャルから白い目で見られる始末。「どう見ても不審者よね」。振り返ると、仕事帰りの葉月が立っていた。2人は家具店の前にさしかかった。賢三が目をとめたのは勉強机。エリはいつもちゃぶ台で学校の宿題をしている。「あなたにしてはいい選択かも」。葉月も賛成してくれたが、問題は8万9800円という値段。賢三は財布をのぞいて、思わずため息をついた。「違うもんにすっか」。
 しかし、やっぱりあの勉強机をプレゼントしたい。そこで会社が終わってから、夜間の道路工事のアルバイトを始めた。「同僚が飲もうって、しつこいんだ」。エリには嘘をついた。工事現場で賢三は臼井(六平直政)という中年男と口をきくようになった。青森からの出稼ぎで、成人式を迎える娘のために振りそでを買ってやりたいと言う。2人は意気投合して、ともに現場で汗を流した。
 「会社で寝ちゃダメだよ」。エリは朝帰りの続いている賢三のことが心配。
 そして、もうひとつの気がかりは誕生日のこと。「お父さん、やっぱり忘れているのかな・・・」。カウンターで会員の応対をしている最中でもウトウトしていた。エリが1人で留守番していると、葉月が来てくれた。「淋しかったらいつでもウチにおいでね」「でも葉月さんが結婚したら」。エリはのどまで出かかった言葉を飲みこんだ。
 ようやく勉強机を買えるだけのアルバイト代になった。「ぎりぎり間に合ったよ」「俺ももうちょいだ。エリちゃんによろしくな」。賢三は臼井と握手して工事現場をあとにした。
 パーティー当日。「じゃあエリ、今夜7時に遅れるなよ。・・・主役なんだから」賢三はつい口をすべらせてしまった。「覚えててくれたんだ、誕生日。お父さん、ありがとう」。
 賢三は仕事を終えると、家具店へ一目散。まだ勉強机が残っているのを確認すると、アルバイト代を受け取るために工事現場へ向かった。
 受け取った給料袋の中身を確認して行こうとすると、臼井が松葉杖をついてやって来た。「おっさん、どうしたんだよ」。ケガで全治1カ月。明日青森に帰るという。
 「振りそでは?」「仕方ないさ」。臼井はあきらめたように首を振った。
 「使ってよ」。賢三はもらったばかりの給料袋を臼井に無理やり握らせた。「エリの誕生日は毎年あるから。けど、成人式は一生に一度きりだろ」。臼井は涙ながらに受け取った。勉強机は買えなくなったが、せめて何かプレゼントしたい。雑貨屋でかわいいマフラーを見つけた。1980円。これならギリギリ買える。賢三は大きなリボンをつけてラッピングしてもらった。
 パーティーはすでに始まっていた。秋彦は葉月の指に婚約指輪をはめた。2人のうれしそうな様子を見て、エリはしぜんと微笑んでいた。「やべっ。もう始まってるわ」。賢三はプレゼントを抱えて夜道を走っていた。若い男たちが中年男を取り囲んでいた。殴られているのは臼井だった。
 「返してくれ!」。若者は臼井の持っていた給料袋を奪い取った。「なにしてんだ、お前ら!」。賢三は若者に飛びかかって給料袋を奪い返した。やがてパトカーのサイレンが近づいてきた――。


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