あらすじ
<第10回> <第11回>

<第10回> 「愛する人のために」
 葉月(財前直見)と秋彦(阿部寛)の結婚式は12月23日。決めなければならない事がたくさんあるのに、葉月はどこか上の空。賢三(岸谷五朗)の事が気になって仕方ないのだ。
 そんな事には全く気づいていない秋彦は、賢三に披露宴でのスピーチを頼んだ。「僕達にとって、恋のキューピットだし」。そこまで言われると、賢三は断る訳にいかなかった。
 その夜、賢三が部屋でスピーチを考えていると、電話が鳴った。松本にいるエリの祖父母からだった。「明日そっちに行くから。エリの事、このままって訳にいかんだろう」。電話を切った賢三とエリは顔を見あわせた。エリを松本に連れて帰るつもりなのか――。 あくる日、二人は賢三の義父、惣太郎と一緒にやって来た静子の前で、緊張していた。二人の前で賢三とエリは、必死にうまくやっていると、まくしたてたが・・・いつのまにか親子ゲンかに・・・。「まあ、ケンカするほど仲がいいって言うでしょう?」とあわてて取り繕っていると、「誰がエリを連れて帰ると言った」惣太郎は見透かしたように言った。静子もニコッとした。「久しぶりにエリの顔を見に来ただけですよ」。惣太郎はちょっと淋しそうにつぶやいた。「やっぱり親子なんだな」。賢三とエリは安堵した。
 その夜、2人が亮介の店で食事していると、葉月が姿を現わした。「松本に連れて行かれるんじゃないかって、気がきじゃなかったのよ」。翔太(北村一輝)から事情を聞いていたのだ。ひと安心した葉月は猛烈に食べはじめた。「嫁入り前の女が、よくそれだけ食えるね。結婚するって自覚が足りないんじゃない」「あなたに言われたくないわね」。またもや賢三と葉月は口論をはじめた。「まるで夫婦ゲンカみたい」。
 亮介の一言にエリはうれしそうだった。
 帰宅した葉月は柊(板谷由夏)から聞かれた。「お姉ちゃん、本当に神谷さんと結婚していいんだね?心の中に他の誰かがいるような気がしたから」「なに、くだらないこと言ってるのよ」。葉月は一笑に付したが、自分の気持ちにまで嘘はつけなかった。
 「火事だって!」。賢三の大声に、オフィスの同僚達は思わず振りかえった。葉月たちの挙式を予約していた結婚式場が火事で使えなくなった。「とにかく他の式場を必ず見つけるから。ただ日にちが変わるかも」。賢三は電話で葉月に伝えた。
 「23日はダメなのね・・・。」葉月の声が沈んでいた理由は秋彦が打ち明けてくれた。23日は葉月の父親の命日だったのだ。「彼女の花嫁姿をすごく楽しみにしていたそうです。でも、しょうがないですよね」。秋彦も諦らめ顔だった。
 しかし賢三は諦らめなかった。「外回りするから。所長に言っといて」賢三は翔太に伝言をたのむとオフィスを飛び出した。やがていくつもの結婚式場から苦情の電話が舞いこんできた。どうやら賢三は23日にもう1組挙式できないかと、強引に迫っているらしい。
 翔太から連絡をうけた葉月はとある結婚式場へ向かった。「その日に結婚式させてあげたいんです」。賢三は担当者に深く頭をさげていた。「この通り。助けてください」
「あいつが・・・私のために・・・」葉月は、動揺のあまり賢三に言葉をかけられず、その場から黙って立ち去った――。

<第11回> 「さようなら、お父さん」
 賢三(岸谷五朗)も葉月(財前直見)も、そして秋彦(阿部 寛)もそれぞれの立場でショックにうちのめされていた。
 葉月はエリ(鈴木杏)の言葉が気になって何も手につかない。ためらいながらも、賢三に思いきってたずねた。「エリちゃんから聞いたの。あなたが苦しんでいるって・・・私の事好きだとかなんとかって・・・」。賢三は内心の動揺を隠して、明るく取りつくろった。「バカだね、何それ?おたく、うぬぼれも強かったんだ」。葉月は違和感を感じながらも帰っていった。1人残った賢三はふっと笑みを消した。
 だが、葉月はこれでふっ切れたわけではなかった。秋彦と新居選びをしていても、心は別のところにあった。そんな葉月の様子に秋彦の胸のうちで不安が大きくふくれあがった。
 一方、賢三は亮介(丹 直樹)の店で翔太(北村一輝)を相手に飲んでいた。
 そこへ葉月と秋彦がやって来た。「賢三さん、結婚式出られないとか・・・」秋彦が聞くと、賢三は2人にからみはじめた。
 「大変なんだよ、子供育てるのは。おたくらみたいに浮かれてる余裕ないんだよ」。
 「エリちゃんがお荷物みたいな今の言い方、父親として最低よ!恥ずかしくないの!」。葉月の声を背中で聞きながら、賢三は店を出ていった。
 「お帰りなさい」。エリは、心配そうに賢三を見つめた。実は、さっき亮介の店へ賢三を迎えにいって、賢三の言葉を聞いてしまったのだ。
 賢三の中で何かが崩れてしまった。オフィスではあくびをしながら会員に応対した。亮介の店では誰かれかまわずにからんだ。
 「しっかりして、お父さん」。エリは毎晩泥酔して帰ってくる賢三を懸命に世話した。
 「他に相談できる人いなくて」。エリは葉月に頼った。
 「ごめん、私も何もしてあげられない」。葉月もつらかった。
 一方、賢三は秋彦から問いつめられていた。「いいんですね?僕と葉月さんが結婚しても」「当たり前だろ」。秋彦は賢三をじっと見て言った。「今のあなたは、誰も幸せにできないはずだ」。
 エリもついに憤りをぶつけた。「葉月さんに好きって言えばいいじゃない。お酒飲んで、うじうじしているだけなんて、おかしいよ!」。
 酔いは賢三に言ってはいけないことを口走らせてしまった。「お前なんか、引き取らなきゃ良かったんだよ。松本に帰っちまえよ!」「!・・・その方がお父さんいいの・・・」「ああ、帰れ!」。賢三は部屋を飛びだした。
 賢三はとうとう帰ってこなかった。「さよならは言えなかったけど、しょうがないよね」。エリは、賢三への手紙を置いて部屋を出た――。

 「どうしたの?」「帰ってきちゃった」。突然帰ってきたエリに祖父母は驚いた。
 惣太郎(大林丈史)は怒ったが、静子(岩本多代)は「もう少し様子見ましょう」と冷静にうけとめた。
 「俺ね、父親やめちゃった。この解放感、たまんないね」。そんな賢三に柊(板谷 由夏)や翔太も失望した。酔いつぶれた賢三に亮介も言った。「あんたに飲ませる酒はない。帰ってくれ」「バカヤロ」。賢三は毒づいた。
 葉月は柊から迫られていた。「お姉ちゃんは本当に後悔しないの?」「好きよ、賢三が好きよ!でも、あんなに私のことを思ってくれている神谷さんにどう言えばいいのよ」。結婚式はもう来週なのだ。「お姉ちゃん・・・」。柊はもう何も言えなかった。
 カーテンの隙間から差しこむ朝日で賢三は目ざめ、そして、エリの手紙に気づいた。賢三をうらむ言葉は一つもなく、一緒に暮らした日々への感謝が綴られていた。
 「・・・私、本当に幸せだったよ。また離ればなれになるけど、私はいつまでもお父さんの娘です。さようなら、お父さん」。賢三は意を決したように飛びだしていった。
 そして賢三は葉月と秋彦が挙式する教会にかけつけていた――。


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