あらすじ
<第1回> <第2回> <第3回>

<第1回> 「オトナはとっても不器用です」
 水島賢三(岸谷吾朗)はタクシーから降りようとしてためらった。ドアのすぐ外でカップルがもめている。「とにかく今日で終わりにしよう」。ショックにうちのめされた女の表情が夜目にもはっきりと見えた。女と目が合った。互いにバツが悪くてあわてて視線をそらした。男は賢三が降りたタクシーに乗って、走り去った。「くだらね」。賢三は小さくつぶやくと、足早に行きつけの屋台に向かった。
 賢三の仕事は結婚相談所”センチュリーブライダル”の結婚アドバイザー。勤めはじめて3カ月。まだ仮採用の身分なのに、仕事に対する態度は熱心とはいえない。「こちらへどうぞ」。女性スタッフの園田あゆみ(金子絵里)が女性の2人連れを案内してきた。「お待たせしました」。カウンターの向こうに腰かけたのは昨夜のあの女だった。
 女の名前は北沢葉月(財前直見)。仕事は外国の恋愛小説の翻訳。仕事の評判はいいが、真面目な性格なので、実生活では恋愛ベタ。昨夜の相手からも「キミは重い」と言われてふられたのだ。33歳でシングル。もちろん結婚願望はおおいにある。
 付き添っているのは8歳年下の妹の柊(板谷由夏)。仕事はスチュワーデス。姉とは対照的に自由奔放な楽天家。姉妹で一緒にマンション暮らししているので、葉月がまた失恋したのにすぐ気づいた。そこで引っこみ思案の姉をなかば強引に結婚相談所に連れてきたというわけ。「あの人はちょっと」「なに言ってるんですか」。賢三は同僚の本間翔太(北村一輝)に代わってもらおうとしたが、無理やり座らされた。
「当社ではコンピューターによるデータマッチングをしております」「はあ」。昨夜のことはおくびにも出さずに、賢三はシステムの説明を始めた。「結構いいのに当たるんですよ」「いえ、けっしてコンピューターで選ぶわけではございません」。翔太があわててフォローした。自分に合ってない仕事だと気づいているので、賢三の対応ぶりはどこかしら投げやりだ。
 葉月もあまり乗り気には見えない。それでも結婚相手の条件を次々と並べたてた。「一部上場のサラリーマン。長身でスポーツマンタイプ。英語が話せて、親とは別居で──」。慣れない手つきで賢三がインプットすると、画面に結果が現れた。該当者なし。葉月の顔から笑みが消えた。
「もう少し条件を絞ってみたら」「妥協したくありません。こういうの信用できないわ」。気づいたら2人はケンカを始めていた。「そんなだから、男に捨てられるんだよ!」。その一言で葉月は席を立った。「お姉ちゃん!」。柊が後を追っていく。やりとりを聞いていた同僚の藤川千春(古川理科)が口をはさんだ。「現実見たほうがいいのは水島さんでしょ」。所長の大原啓輔(斉藤 暁)もにらみつけた。「辞めますか」。この不景気に新しい仕事を見つけるのは、結婚相手を見つけるよりもむずかしい。
 その夜、賢三はワインバーで1人きりでグラスを傾けている葉月を見かけた。横顔がさびしそうだ。賢三はためらいながらも隣りに座った。「元気だしてよ。1杯ごちそうするから」「それで入会させようってわけ?」。険悪なムードになりかかった矢先、昨夜葉月とケンカ別れした男が店に入ってきた。しかも女を連れている。「ね、今度旅行にでも行かない」「は?」。賢三はとっさに葉月の気持ちを読んだ。「じゃあ、ハワイでも行くか」。2人は恋人同士を装って、腕を組んで店を出た。
「ごめんなさい。早速次の人を連れてくるなんて」。いつも2人で来ていた店だという。「でも、フラれた翌日に結婚相談所に行くわたしも最低よね」。葉月は自嘲気味につぶやいた。「仕事に生きるのもいいじゃないですか」。その一言で葉月の顔色が変わった。「わたしが結婚にむいてないってこと?」。結局は昼間と同じく、ケンカになってしまった。
 ところが翌日、葉月は1人で事務所にやって来た。「入会します。結婚してみせます」。賢三はわが耳を疑ったが、葉月の決意は固かった。条件も絞った。「絶対にいい人、見つけて下さい」「大丈夫ですよ」。早速明日のカップリングパーティーに参加することにした。葉月がウキウキ気分でビルを出た途端、少女とぶつかった。「ごめんなさい」。少女は持っていたオルゴールを落としてしまった。
 オルゴールを直すうちに少女の身の上を聞いた。田代エリ(鈴木 杏)、長野の中学生だ。「父に会いに来たんです」。母親を3歳の時に亡くして以来、母方の祖父母に育てられてきた。物心ついた時にはすでに父親の姿はなかった。「わたしも一緒についていってあげるよ」。エリからメモを受け取った葉月は息をのんだ。「この人がお父さんなの?」。そこには賢三の名前と住所が書かれていた。
 その頃、賢三は翔太を誘って行きつけの居酒屋にいた。顔なじみの店員の宮川亮介(丹 直樹)にからかわれた。「うちのツケだってたまってんだから、クビにならないように」。1人きりで飲んでいるスーツ姿の男が目に止まった。神谷秋彦(阿部 寛)、医師で2年ぶりに海外から帰ってきたばかりという。独身同士と知って意気投合したのも束の間、酔った賢三はケンカをふっかけようとしたが、勝手によろめいて鼻血を出す始末。「止血してやる」。賢三は照れ隠しなのか、会社の名刺を手渡した。
 鼻にティッシュをつめこんだ賢三がマンションまで帰ってくると葉月が待っていた。「あなたに会わせたい人がいるの。あなたの娘のエリちゃんよ」。賢三の酔いはふっ飛んだ。「ごめんなさい、急に」。エリは祖父母から父親も死んだと聞かされていた。中学入学の時に戸籍を見て、初めて賢三が生きていることを知った。「勘弁してくれよ、今ごろになって、どうしろって言うんだよ」。エリは落胆の色を浮かべると、踵を返して走りだした。「エリちゃん!」。葉月は賢三をにらみつけると、エリを追いかけていった。
 葉月はマンションにエリを連れ帰ると、1人で賢三に再び会いに出かけた。「会ってあげて」「俺は父親の資格なんてないんだ。女房が倒れた夜だって、飲み歩いていたんだ」。妻の薫が急死した当時、賢三は仕事を辞めたばかりで借金もあった。とても男手一つで幼いエリを育てる自信はなかった。義父母に委ねるしかなかった。
「親だったら、どんなに生活が苦しくても子供を手放したりしないはずよ」「だから俺には父親の資格なんてないんだよ」。賢三は夜道を歩き去った。
 翌日のカップリングパーティーの会場。賢三は葉月と顔を合わせようとしない。「お姉ちゃん!」。柊が現れた。エリがいなくなってしまった。リビングにはオルゴールと手紙が置かれていた。長野に帰るという。願いごとが1つ書かれていた。”このオルゴール、お父さんに渡して下さい”。
「一緒に来て!時間がないのよ」。葉月は賢三の腕をつかむと会場を飛びだした。「見送ってあげて」「俺はあの子に会う気はない!」。
しかしオルゴールから流れてきた”いとしのエリー”を耳にした途端、賢三の表情が変わった。このオルゴールは10年前、賢三がプレゼントしたものだった。賢三ははじかれたようにタクシーに乗った──。

<第2回> 「娘の涙とダメ親父」
 エリ(鈴木 杏)は長野・松本市の祖父母の家に帰っていった。「間に合わなくて良かったよ。話すことなんかないしね」。賢三(岸谷五朗)は葉月(財前直見)の手前、意気がってみせた。「よくそんなことを言えるわね」。葉月は帰宅するなり、センチュリーブライダルの会員を脱会すると、妹の柊(板谷由夏)に打ちあけた。「あいつの顔、二度と見たくないから」。柊は首をかしげた。「私はけっこうタイプだけどなあ」。母性本能をくすぐられるらしい。 翌日賢三は出社するなり、所長の大原(斉藤 暁)に叱責された。「アドバイザーがイベント放って飛び出すなんて、どういうつもりなんだ?」。翔太(北村一輝)からも「職場放棄ですよ」と責められた。「アドバイザーと会員の恋愛はご法度ですよ」。千春(古川理科)が誤解するのもむりない。実は賢三が葉月と会場を飛びだしてから、ひともんちゃくあった。野々村章という男性会員が葉月を一目で気に入ったらしく、しきりと会いたがっていたという。
 葉月は担当編集者の島田から新しい仕事を打診された。ラブストーリーの神様と呼ばれているアメリカのベストセラー作家の作品だ。「ぜひやらせて下さい」。二つ返事で引きうけた。葉月はその足でセンチュリーブライダルへ向かった。「解約手続きに来ました」「じゃあ、書類持ってきますから」。賢三の対応ぶりを見て、翔太はあわてて説得を始めたが、葉月は聞く耳をもたない。そこへ賢三に野々村から電話がかかってきた。「ああ、そうでしたよね。北沢さんに告白しようと思っておられたとか。残念ですが、彼女辞めるんですよ」。書類を記入していた葉月の手がピタリと止まった。「あのー、その人に会ってもいいですよ」。
 翌日早速お見合いがセッテングされた。「返事は明日のお昼までに私に電話して下さい」。賢三は早々に2人きりにした。「僕たち、気があいそうですね」「ええ」。第一印象は2人ともいいようだ。うれしそうに公園へ出かけていった。
 その夜、賢三がいつもの居酒屋で亮介(丹 直樹)相手に飲んでいると、葉月がやって来た。「どうでした?」「ええ、おかげさまで。今夜はご馳走させて下さい」。葉月はうれしさを隠しきれない。あとは明日の野々村からの返事待ちだ。なごやかな雰囲気が葉月の一言でガラリと変わった。「あれからエリちゃんとは?」「余計なお世話ですよ。放っておいてくれないか!」。またもやケンカ。賢三はエリのことを忘れたわけではなかった。その夜、何度も電話をかけようとしたが、結局ダイヤルを押せなかった。
 次の日、意外な人物がセンチュリークラブにやって来た。賢三が居酒屋であわや殴りあいになりかけた医師の神谷秋彦(阿部 寛)だ。「何しに来たんだよ」「入会を申し込みに来ました」。賢三は渋々と秋彦のデータを入力していたが、同じ屋台の常連だとわかって意気投合した。「あんた、いい人だ」。秋彦が帰ると同時に、野々村から電話が入った。「それなりに楽しかったんですが・・・」。葉月との交際を断ってきた。
 あれだけ野々村のことを気に入っていた葉月にどう伝えればいいのか。しかし黙っているわけにいかない。「相性が良くないみたいで・・・」「要するに私とは付き合わないと?」。葉月にとってはダフルショックだった。島田から仕事を断る電話も重なったのだ。柊はフライトで明後日まで帰ってこない。葉月はマンションの部屋で1人落ち込んだ。
 賢三は秋彦と屋台にいた。「医者ってモテると思われがちだけど、そうでもないんですよ」。秋彦は大学病院の勤務医。早く結婚して父親になりたいという。くしくも2人は35歳同士。上機嫌で饒舌な秋彦に対して、エリのことが気になる賢三はちょっと元気がない。「女の子が生まれて高校生になったら、デートするのが夢なんですよ」。コップ酒を一気に飲んだ賢三の脳裏に、エリの姿がよぎった。
 秋彦と別れた賢三が居酒屋をのぞくと、亮介がホッとした表情をむけてきた。「もう大変なんですよ」。葉月が泥酔していた。「なんで私じゃダメなのよ」。賢三はタクシーで葉月をマンションまで送っていった。隣人が宅配便を預かっていた。別れた恋人が葉月の写真や服を送り返してきたのだ。「これ、気に入っていたのよ」。笑みをつくろう葉月の目から一筋の涙が流れた。「送ってくれてありがとう」。賢三はかける言葉が見つからなかった。
 ところが翌日のボーリング大会に葉月は姿を現わした。「先日はどうも」。野々村にも笑顔であいさつしている。葉月は立ち直りが早い。「昨夜は迷惑かけてごめんなさい」。賢三は苦笑するしかなかった。「あなたの番ですよ」。同じチームになった葉月は秋彦と親しげに話し始めた。
 葉月のポジティブな生き方は賢三に影響を与えた。あの夜、エリは賢三にたずねた。”私が生まれた時、うれしかった?”。父親としてエリ本人に答えてやらなければならない。賢三は長野・松本市の田代家を訪れた。「ごぶさたしております」。突然の訪問に惣太郎と静子は困惑の色を隠そうとはしなかった。「いまごろ、なんの用だ!早く出ていってくれ」。惣太郎は玄関に賢三を叩きだそうとした。そこに帰ってきたばかりのエリが立っていた。「帰って下さい」。エリはきっぱりと言い放った─。

<第3回> 「娘の日記と新米オヤジ」
エリ(鈴木 杏)を連れ戻そうと祖父の惣太郎と祖母、静子が上京してきた。義父母に責められ、賢三(岸谷五朗)は何も言い返すことができない・・・。その時、静子がエリの日記を取り出した。「読んでやってください。」そこには戸籍を見て、自分の父親が生きていることを知った日からの心の揺れ動きがつづられていた。 賢三の中に、熱い思いがこみあげてきた。その瞬間・・・。 一方、葉月(財前直見)は書店で秋彦(阿部 寛)と再会した・・・。


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