あらすじ
<第4回> <第5回> <第6回>

<第4回> 「涙のボロ雑巾」
 「わあっ、ステキ!」。葉月(財前直見)の買ってくれた衣類を賢三(岸谷五朗)が手渡すと、エリ(鈴木 杏)は大喜びした。
 「こんなにもらっていいんですか?」。エリがかけたお礼の電話を賢三が代わった。「おたくと見合いしたい人がいるんだ」「いいですよ」。明日プロフィールを見にいくという。
 「葉月さん、お見合いするの?」。エリがさびしそうな表情を見せたのを賢三は気づかなかった。
 「この人ですか」。プロフィールを見せられて、葉月は秋彦(阿部 寛)のことを思い出した。「この前、本屋で偶然会ったの。いいわ、お見合いします」。賢三が連絡すると、秋彦は大喜び。その夜、亮介(丹直樹)の居酒屋で飲むことになった。
 「何を着ていけばいいんでしょうか?デートコースはお台場、それとも横浜?」。
 これまで女性とほとんどつきあったことのない秋彦はマニュアル本をカウンターに積みあげている。
 「どこでもいいから、ちょっとムードのいいとこ行くだろ。そしたら、一気にブチュ、ガバッ。これでいいのよ」。賢三はなげやりに言った。
 その頃、葉月のマンションでは柊(板谷由夏)が秋彦のプロフィールをチェックしていた。「こんなステキな人が35歳まで独身だったなんて、絶対なんかワケありよ」「私になんか恨みでもあるわけ」。葉月としては面白くない。
 賢三は酔っぱらった秋彦をふりきって帰宅した。エリは静子が送ってくれた身の回り品を整理していた。「ごめん。新しい学校の手続き、すっかり忘れていた」「大丈夫よ」。静子が転入に必要な書類を同封してくれていた。荷物の中には亡き妻・薫(木村多江)の写真も入っていた。「エリは優しいな。お母さんにそっくりだ。俺、これから頑張るからな」「うん。でも、あんまり頑張りすぎなくていいから」。
 父と娘は穏やかな笑みを交わした。
 翌朝2人は転入先の南中学を訪れた。「制服と体操着を購入して下さい。5万円ぐらいです」。担任教師の言葉に賢三は絶句した。どうやらお金がないらしいと察したエリはとっさに機転をきかせた。「前の学校のじゃダメですか?」「いけなくはないけど」。民子とエリを見送ると、賢三はあわてて会社にむかった。
 「遅刻分はきっちり給料から引かせてもらいますから」。大原所長(斉藤 暁)にクギをさされて賢三はガックリ。自分の席に戻ったら、今度は翔太(北村一輝)から「まだ仮採用の身なんだから、欠勤や遅刻はまずいですよ」。千春(古川理科)も口をはさんだ。 「そろそろ1組ぐらい結婚させないと危ないんじゃないですか」。 葉月と秋彦とのお見合いはまたとないチャンスなのだが。
 「今日はよろしくお願いします」。秋彦が先にやって来た。
 緊張のせいか、小刻みに震えている。あゆみ(金子絵里)が葉月を案内してきた。服装も髪型もキマっている。2人はお見合いルームでむかいあった。賢三はなんとかその場を盛り上げようとするが、口を開けば2人から白い視線をむけられる始末。
 「じゃあ、あとはお2人の時間を楽しんでください」。賢三は退散した。
 せっかく2人きりになれたというのに、これまで女性とほとんどつきあったことのない秋彦はガチガチ。予約していたフランス料理店では手術の話題をまくしたてて、葉月を不快にさせてしまった。
 「すみませんでした。つまらない話ばかりしてしまって」「いえ、そんなこと。おやすみななさい」。葉月の背中を見送りながら、秋彦は大きなため息をついた。
 秋彦はすぐに賢三に電話をいれた。「失敗したみたいです」。しかし葉月のことをあきらめられない。もう一度チャンスがほしい。 「頼れるのは賢三さんだけなんです」。熱意にうたれた賢三は葉月を呼びだした。「いい人だということは分かるけど」。
 葉月は言葉をにごした。「俺は惚れた女1人、幸せにできなくて逃げつづけてきた。でも、 おたくや神谷さんには誰かを好きになって、幸せになる権利があるんだ」。賢三のひたむきな説得が葉月の心を動かした。
 「もう一度、会わせて。頼りにしているから、アドバイザーさん」。葉月は去りぎわにつぶやいた。「あなたにもあるわよ。人を好きになる資格」。
 賢三がマンションに戻ってみると、エリはまだ起きていた。「葉月さんが結婚したら、もう会えなくなるのかなあ。イヤだな」。賢三は思わず声を荒げてしまった。
 「そんなにアイツがいいなら、アイツに面倒みてもらえよ」。
 賢三の中でいつしか葉月は特別な存在になりつつあった。
 「昨夜はごめんなさい」。翌朝エリから謝られて、むしろ賢三の胸には苦い思いが広がった。エリと同級生たちの会話が耳にはいった。
 「まだ制服そろわないの?」「私ずっとこれだよ」。エリは明るく言ったが、ふと表情をくもらせたのを賢三は見逃さなかった。
 銀行で2万円おろしたら残高はもう千円もない。大原所長に前借りを申し込んだ。「本気ですか」。仮採用の身分ではとうてい無理。質屋もパチンコもダメ。
 賢三は薫の写真に前でぼやいた。「エリのために何かしてやりたいんだけど。制服1枚、買ってやれないんだ」。
 ところが捨てる神あれば拾う神あり。翌日出社するなり社員全員に金一封が配られた。会社の創立30周年記念だとか。中身は5万円。
 「所長、あんたはホントにいい人だ!」。賢三が大喜びで制服を買って店をでると、ケータイが鳴った。翔太からだった。「本間さんが来ないんですよ」。
  葉月と秋彦の2回目のお見合い。賢三はあわててオフィスに戻った。
 「どうしたの?」。意外にも葉月は怒っていなかった。「ホント悪かった」「あなたが謝ることないわよ」。葉月は明るく言った。「帰ろっかな」。
 賢三と葉月がビルを出た途端、むこうから秋彦が息せききって走ってきた。
 「申しわけありません!」「そっちから頼んどいて、電話の1本もないってどういうことだ」。賢三は気色ばんだ。「子供がバイクにはねられるのを見たんです」。
 応急処置して、救急車に同乗して病院まで付き添っていたという。「助かったのか?その子」。
 秋彦は笑顔でうなずいた。「ええ、一命を取りとめました」。
 秋彦と賢三のやりとりを聞いていた葉月がつぶやくように言った。
 「今度は私にチャンスをください。神谷さんのことをもっと知りたくなりました」。葉月の気持ちを察した賢三はそっとその場から離れた──。

<第5回> 「ダメ親父の恋と娘の初恋」
 賢三(岸谷五吾朗)は大原所長(斉藤 暁)から叱責された。何度も見合いをスッポかした女性会員を説教したからだ。「わたしの指導力がたりずに申し訳ありません」。慌てて翔太(北村一輝)が謝ったが、当の賢三に反省の色はまったくなし。
「たまには頭を下げることも必要よ。エリちゃんがいること、わかってるの?」。葉月(財前直見)からも責められた。
「大きなお世話だ」。エリ(鈴木 杏)の名前を出されると弱い。
葉月は秋彦(阿部 寛)とつきあうことを打ち明けた。
「あなたが彼の本当の良さを教えてくれたのよ。ありがとう」「感謝してくださいよ」。賢三は笑みを返したが、内心は複雑な思いがうずまいていた。
 エリは下校の途中、同じクラスの小峰(勝地 涼)という男の子から話しかけられた。「今度の日曜日、どっかに行かない?」。どうやらエリのことが好きらしい。「ダメじゃないけど」。
 エリがマンションに帰ると、柊(板谷由夏)が待っていた。葉月が秋彦とデートなので夕ごはんを一緒に・・・という。実は柊のお目当ては賢三なのだ。「こんばんわ」。さっきの小峰が参考書を届けてくれた。
「塾だから、ついでにと思って」「ありがとう」。
2人のやりとりをちょうど帰ってきた賢三が目撃した。
「なんだ、あのニヤけた野郎は」。賢三は不機嫌に玄関を開けた。
「お帰りなさい」。エリはなぜ父親がにらむのか、理由が分からない。賢三はさっきの少年のことが気になって、せっかく柊が作ってくれた料理の味など上の空。「なんとか言ってよ」。柊の気持ちなど気づくはずもなかった。
 翌日は週1度の賢三の休み。「お父さんはのんびりしてて」。エリは朝食を用意すると学校に向かった。賢三がベランダに布団を干していると、また柊が姿を現わした。「デートしよ。見たいラブストーリーがあるんだ」。無理やり映画館に引っぱられてきたら、前から秋彦と葉月がやって来た。柊と秋彦は初対面だ。
「姉のこと、末永くよろしくお願いします」「はい」。
結局4人で映画を見ることになった。葉月は秋彦と話がはずんでいる。賢三は気になってしかたない。
 映画館を出た賢三はファーストフード店を何気なく見て、ハッとした。エリがあの小峰という男の子と楽しそうにしゃべっている。「あの野郎!」。ブチ切れた賢三は2人につめよった。
「こんなとこで何やってんだ!」。小峰はきちんと挨拶したのに、興奮している賢三の耳には聞こえない。
「エリはまだ中一だ。男とイチャイチャする歳じゃない」「やめなさいよ、子供相手に」。葉月や柊がなだめても、賢三の怒りはヒートアップする一方。「今度エリにちょっかい出したら、タダじゃおかないぞ」。小峰は走って逃げた。エリも店を飛び出した。
 3人と別れた賢三が亮介(丹 直樹)相手にグチをこぼしていると、葉月が店に現れた。
「自分の娘が信じられないの?」「わかったふうな口たたくな」。葉月は引き下がらない。
「あなたが人を好きになることを諦めるのは勝手だけど、エリちゃんにもそれを押しつけるなんて間違っているわ」。葉月の言葉は賢三の胸にグサリと突き刺さった。賢三は乱暴に席を蹴って出ていった。
 葉月はマンションを訪ねたが、賢三は帰っていなかった。沈んだ表情のエリがポツリとつぶやいた。「わたし、長野にいたほうが良かったのかな」「なにバカなこと言うの。お父さんは、あれでも、ちゃんとエリちゃんのことを考えてるんだよ」。2人のやりとりを玄関の外で聞いていた賢三は、いたたまれずにその場をそっと離れた。
「お父さんの愛しかたは下手くそだけど、その気持ちに嘘はないと思うな。あれじゃ、お父さんもエリちゃんと一緒にお嫁に行くなんて、言いだすかもね」。うつむいていたエリは顔をあげると、やっと小さく微笑んだ。
 賢三は深夜の街を1人、さまようように歩き続けた。葉月の言葉がいくつも頭の中に浮かんだ。その夜、とうとう賢三は帰宅しなかった。翌朝、心配した葉月はマンションに立ち寄った。「お父さんから連絡は?」。エリは首を横にふった。ふと通学路に目をやった2人はびっくりした――。

<第6回> 「お父さんなんか大嫌い!」
エリ(鈴木 杏)は賢三(岸谷五朗)に気持ちをぶつけた。
「私と2人だと窮屈なんでしょう。ずっと長野にいればよかった!」。
エリは賢三のマンションを飛び出した―。
エリ(鈴木 杏)の中学の三者面談が近づいてきた。
エリは賢三(岸谷五朗)に来てもらいたいが、会社を休まなければならないので言い出せない。
エリの目には、賢三がいい父親になろうと、無理しているようにうつっていた。
明細書と通帳を見て、ため息をつき、電卓を前に悩む父親の姿を、エリはこっそり、うかがっていたのだ・・・・。
一方、葉月(財前直見)は心落ちつかない日々を過ごしていた。
秋彦は仕事が忙しくて、なかなか会う時間がとれない。 葉月は、せめて秋彦の声を聞きたいのに自分から電話をかけるのにためらう。そんな悩みを賢三に打ち明けた──。


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