<第7回> <第8回> <第9回>


<第7回>
 買い物から帰ってきた女流棋士・小田嶋さくら(田中美佐子)は、先に帰宅していた棋士の夫・佐吉(小日向文世)に「窓が開けっ放しだ。換気扇がつきっぱなしだ。食べ終わる前にヨーグルト買ってくるな。卵を買い忘れたろう」と頭ごなしに小言を言われた。さくらは極めてルーズ、佐吉は神経質なほど几帳面と、性格はまるで正反対であった。佐吉が出かけるはずだったこの日、さくらは、出演しているテレビ番組「囲碁教室」の打ち合わせに行くつもりであった。しかし、佐吉は一緒に外で夕飯を食べようと言い出した。困るさくらはしぶしぶテレビ局に断りの電話を入れる。
 諦めて化粧台に座るとアクセサリーがない。佐吉に聞くと「派手すぎる。お前には必要がない」と決め付ける。さらに「そんな番組は辞めろ。家にいろ」とテレビ局に電話をしようとする。さくらは、番組が唯一の外界との接点であり、解放されるひとときであった。我慢しきれなくなったさくらは、電話を手に取る佐吉を後ろから殴り付けた。逃げる佐吉を動かなくなるまで何度も殴りつけた。さくらは罪を逃れるべく、偽装工作を開始した。
 佐吉が作ったように麻婆豆腐を作り、携帯電話がかかって来たようにみせかけるためタイマーをセットする。凶器を捨てる……。そのまま、テレビ局に向い、打ち合わせが始まる。その時にタイマーが鳴る。携帯を取り出したさくらは、まるで佐吉からかかってきたような振りをして「はい、卵買って帰ります」と話し、ディレクターらに「主人が麻婆豆腐を作って待っているそうです」と言う。嘘のアリバイ証明である。
 帰宅。玄関に倒れているはずの佐吉の死体がない。慌てるさくら。暗いリビングに走り込むと佐吉の死体につまずき転んでしまう。まだ息があった佐吉が、這ってリビングに向い息絶えたらしい。はずみで卵を割ってしまった。コーヒーを飲んで気を落ちつかせ、警察に電話するさくら。「帰宅したら、夫が死んでいるんです」。鏡に向って微笑むさくら。
 西園寺守(石井正則)、今泉慎太郎(西村雅彦)と古畑任三郎(田村正和)が捜査を始める。
 まずさくらが遺体につまずいたことに疑念を抱く古畑。コーヒーカップがふたつもテーブルにあることも不思議である。夜になる。空腹になった古畑は、作りおきの麻婆豆腐を食べさせてもらう。料理が得意のはずの佐吉が作ったにしては、なぜかまずい。ネコがなぜ晩の餌を食べないのか…。古畑の詰めが始まる。

<第8回>
 バロネス工業の科学研究所の研究員・堀井岳(福山雅治)は、ロダンの「考える人」像に爆薬を仕掛けていた。包装紙でくるみ紙袋に入れ、研究室へ向う。堀井は車椅子に乗っていた。
 堀井は親友で同僚の等々力(板尾創路)を誘って外へ出る。等々力は、近く結婚するらしい。堀井は紙袋から「考える人」像の包みを取り出し「プレゼントだ」と差し出した。大学時代、学園祭用に二人で作った「しゃべる考える人」である。堀井は言う。「友情の証だ」等々力は堀井の友情に感動する。二人は同じ大学出身で、等々力と結婚する片桐恵(戸田菜穂)は二人のマドンナ的存在。三人はこの会社に揃って雇われた。この度、等々力は妻と別れて恵と結婚するとのだ。
 夜になった。堀井は、等々力の自宅マンションを訪れようとしている恵の携帯電話をコールする。「僕を振ったのは、等々力の肉体に惹かれたんだろう」と繰り言を述べる。事故に遭い、車椅子生活になる前、堀井と恵は恋人だったのだ。いらだち、電話の電源を切る恵。それを確認した堀井は、研究室の事務方に内線をいれ、「図書室の鍵がない。探してくれ」と請う。最終使用者である恵を探して、事務員も携帯を鳴らす。が、連絡はつかない。
 さらに、堀井は等々力の隣家宛てにピザの宅配を注文する。そして、ボイス・チェンジャーを使い、等々力の部屋に電話を架ける。「地下鉄荷物預かり所ですが、堀井さんの落とし物があります」。等々力は論文コンクール審査結果の電話を待っているため、落とし物を取りに行く役は恵が引き受けた。外に出る恵。隣家では、ピザの宅配係と住人が「頼んでない」「頼まれた」ともめていた。当然、外出する恵の姿は二人に目撃された。
 堀井は、頃を見計らって再び等々力の部屋に電話した。恵の不在を確認すると「『考える人』の中に手紙が入っている」と切り出す。受話器の子機を手にしながら、堀井の言うとおりに裏蓋をこじ開ける等々力。そして爆発……。
 夜の研究所。西園寺守(石井正則)刑事は、堀井に事情を聞いている。そばには、今泉慎太郎(西村雅彦)。そして古畑任三郎(田村正和)。等々力は自宅で研究中、何かの薬品が爆発して死んだと思われていた。しかし古畑は「亡くなった等々力さんは人に恨まれるようなことは……。事故にしてはおかしい点があって・・。」化学者が薬品を扱うのに手袋をしていなかったのはおかしいというのだ。また死んだ場所がトイレというのも疑問が残る。辻褄の合った説明をする堀井。しかし古畑の頭が回転を始める。
 一方、事件当夜、等々力の自宅にいたことから心配がつきない恵は堀井に相談する。恵に不利になるようアドバイスする堀井。西園寺は爆発の直前姿を消し、しかも、等々力との関係を否定する恵を犯人と断定する。爆発物製造の能力もあり、発言もあいまい。西園寺は、恵に任意同行を求めた。堀井の思うつぼである。だが、古畑だけは、逆に辻褄の合い過ぎる堀井に不審感を抱いていた。恵に対する今一つ裏腹な行動も不自然。頭脳明晰な化学者に真っ向から立ち向かう古畑・・・。

<第9回>
 スマトラから成田へ向かう大スンダ航空ジャンボ機。就寝時間で明かりの消えたファーストクラスにご存知、古畑任三郎(田村正和)がいる。横の西洋美術研究家 臺修三(玉置浩二)が話し掛ける。「このカメオはローマ時代のモチーフが描かれている。インドネシア文化にローマ文化が影響を与えているという私の持論が証明される……」。いかにも興味なさそうに聞く古畑だった。
 1階のビジネスクラスには、今泉慎太郎(西村雅彦)と西園寺守(石井正則)が座っている。ほかに客はなく、仕事を続ける西園寺に対し、今泉は退屈してファーストクラスの古畑を見に行こうなどと言い出す。その周りを子供が走りまわる。癇に障った今泉は注意させようと乗員を呼ぶと、それはスチュワードの花田(八嶋智人)。
 ファーストクラスでは、臺が古畑を離さない。が近くの席から、臺の妻もえ子(もたいまさこ)が声を掛けた。臺は無視しようとするが、渋々自分の席に戻る臺。彼はどうももえ子にウンザリしているようである。1階に降りた臺は後ろから呼びとめられる。臺の恋人・市川由美子(川合千春)である。由美子は結婚を迫る繰り言を言い、二人で写ったプリクラを見せ走り去る。慌てて追う臺。
 由美子はビジネスクラスの洗面所に駆け込んだ。臺も中に入り、もみ合う二人。その時、機体が大きく揺れ、由美子が壁で頭を打ち倒れた。ぐったりする由美子。臺は由美子が絶命していることに気がついた。このままでは自分が殺したと疑われる。動揺する臺は、どうにかして自分と由美子の関係を消し去ろうと考えた。プリクラだらけの彼女の化粧道具などが入ったバックを手に洗面所を出ると、先ほど走り回っていた少年と出くわしてしまう。うろたえながらも手近な席に腰掛けて、コンパクトの鏡に貼り付けられたプリクラを必死ではがす臺。由美子のバックをゴミ箱に捨て、やっとのことで、自分の席に帰り着いた。
 が、ネクタイピンがないことに気付く。きっともみ合った時、現場に落としたに違いない。拾いに行かねば疑われる。臺は、機内を歩き回っても疑われないようにと、クロゼットに掛けてあった副パイロットの制服を着込み、再び洗面所に向かった。が、どこにもピンはない。あせる臺に、乗員と勘違いした今泉が「グレムリンを見た」と声を掛けてくる。さらに、西園寺も「洗面所に死体がある」と言って来る。
 臺は、乗員の前では乗客、乗客の前では乗員の二役を演じ、どうにかこの状況をしのぎきろうとする。西園寺は、現場の状況に不審を抱く。なぜ、洗面所の化粧用のテーブルが倒れているのに、化粧道具がないのか。さっきの少年が、不審な人物を見たという。乗客の中に犯人がいるはずだ。少年を伴って機内を回る西園寺。


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