<第1回> <第2回> <第3回>
<第1回>
高級マンションの一室、人気の若手落語家・気楽屋雅楽(市川染五郎)が、翌日の独演会に備え新作落語「タイムマシンで行こう」の稽古に励んでいた。それを終え、雅楽は、兄弟子・苦楽(モロ師岡)が待つ居酒屋に足を運んだ。苦楽は、いまだ二つ目の冴えない兄弟子だったが、古典をよく知りつつ、また新作落語の創作においては右に出るものはいなかった。そこに一目おく雅楽は「あにさんの新作をやりたい」と、ねだるが、苦楽は相手にしない。
話を変え、雅楽は翌日の独演会の前に師匠・有楽(梅野泰靖)に付けてもらう稽古を代わってもらえないか、と持ち掛ける。一対一の稽古を代われるわけがない、と、苦楽は断るが、「目の悪い師匠のこと、ちょっと変装すれば分かるわけはない、一生のお願いだ」と雅楽は懇願する。渋々承知する苦楽だった。
お礼にと、苦楽を高級クラブに誘う雅楽。ホステスに「新作は日本一」と紹介する。苦楽は、新作のネタ帳を取り出し、披露する。その表紙には「NO 2」の文字。「NO 1」は盗まれたという。
家に帰った雅楽はデスクの引き出しからノートを取り出した。そこには「NO 1気楽屋苦楽」の文字。開いたページには「タイムマシンで行こう」のタイトル。苦楽のネタ帳を盗んだのは雅楽だったのだ。
翌日、苦楽は雅楽の代わりに師匠有楽の稽古に出かけた。雅楽の着物を着て大人しく座る苦楽に、古典を聴かせる有楽は、それが身代わりだとは疑いもしなかった。
そのころ、雅楽は気楽屋一門のオフィスに忍び込んでいた。雅楽はあるノートを盗み出し、わざと非常ベルを鳴らし、苦楽のライターを置いて逃げ去った。
その後、雅楽は素知らぬ顔で独演会に出演していた。弟子達の間では昼間に事務所に入った泥棒の話でもちきり。出番がやってきた。メクリには「タイムマシンで行こう」の演目タイトルが。客席で見ていた苦楽は愕然とする。噺が終わった後、苦楽は雅楽に詰め寄った。「おれのネタ帳を盗んだのはお前だな!」「兄さんの噺がやりたいんだ」と懇願する雅楽に「あまったれんじゃねぇ」と怒り狂う苦楽はそのまま自分のアパートへ帰って行った。雅楽はその後を追う。
「帰れ」と追い返す苦楽に、雅楽はさらに懇願を続ける。しかし譲らぬ苦楽に雅楽は「僕は兄さんを殺すしかなくなる」と悲し気に切り出す。「昼間の泥棒は僕なんだ。真打候補リストが書かれたノートを盗んだ。そこに兄さんの名はなかった。ここで兄さんが死ねば、将来を悔やんで自殺したことになる。現場には兄さんのライターを置いてきたし、僕にはアリバイがある……」と完全犯罪をほのめかし、そしてナイフで首に切り付けた。 悶絶する苦楽は血まみれの手で雅楽の風呂敷きに手を掛け、テーブルの上にあった「煮干し」を握り締め、絶命した。一方雅楽は苦楽に変装し、苦楽が行く予定だった老人ホームで何食わぬ顔で噺を演じるのだった。
現場検証が行われている苦楽のアパートに、古畑任三郎(田村正和)がやってきた。今泉刑事(西村雅彦)も健在。新人・西園寺刑事(石井正則)もなかなかに腕が立つようである。西園寺は「煮干し」がダイイングメッセージではないかと訝しがる。古畑と西園寺は、寄席が終わり打ち上げをやっている気楽屋一門の打ち上げに向かった。
そこには雅楽が仲間と飲んでいた。苦楽が死んだ話に驚く一門の噺家たち。がそれほど驚いた素振りを見せない雅楽に対して不信感を抱く古畑であった。
古畑は「落研」出身の科研の職員を頼み、ダイイングメッセージとみられる「煮干し」の件をきく。職員は「古典落語の『干物箱』ではないか」と示唆する。友達に身代わりを頼み親の目を誤魔化して遊郭に行く若旦那の噺である。疑われたことに感づいた雅楽は先手でアリバイがあることを示そうとする。ますます疑いを募らせる古畑は、ねちっこく雅楽を追う。
<第2回>
「井」のマークで有名な高級ホテル「井沢ホテル」。評判のメディア・プランナー、由良一夫(真田広之)は朝食をとりながら、「岩田大介都議会議員(佐渡稔)、今日、不倫の釈明会見」といった見出しが躍る新聞を読んでいた。食事を終え立ち上がると、当の岩田が後ろからやって来て、「今日のことで相談がある」と持ち掛けてきた。由良は「正直に不倫を認め、その上で有能な政治家であることを印象づけろ」と指示する。「もしも追いつめられたら、得意のスペイン語で逃げるように」と付け加えるのも忘れなかった。岩田は唯々諾々と話を聞いていたが、由良に新事業に対する融資の話になると居丈高に脅しをかけた。これが、二人の関係を象徴していた。
由良がホテルを出る時、支配人が声をかけてきた。今晩、ホテル10周年の記念イベントを由良のアイデアに従って行う、と言う。
岩田の不倫釈明会見の実況が始まった。岩田は由良の指示通りコメントし、記者の総攻撃を受けていた。ご丁寧にも、スペイン語付きで。
夜が訪れた。由良はサイレンサー付きのピストルを用意し、秘書からの電話を待った。夜9時に電話するように指示したのだ。アリバイ作りである。電話が鳴ると、由良は、すぐにこちらから架け直すと言い、携帯電話で秘書に架電した。そして、そのまま、岩田の部屋に向かった。岩田は携帯電話で話ながら入ってくる由良を不愉快に思いながらも、部屋に招じ入れた。由良は、次回のドラマのアイデアを秘書に伝えメモを書かながら、岩田の頭を撃ち抜いた。そしてピストルを死体に握らせ、もう一発撃った。これで硝煙反応も本人から検出される。不倫釈明会見の失敗もあり、自殺の動機は十分である。もちろん手袋を着けており指紋一つ残していない。一息ついた由良は、つい外をのぞいた。目の前の高層ビルでオフィス・ラブの真っ最中である。由良は引き続き電話で、「現代風の『裏窓』のアイデアも入れてくれ」と秘書に指示を出した。さらに岩田に渡した会見のコメントを書いた紙片を灰皿で燃やし、苛立ちながらペン先でその紙片をほぐしていった。
翌日、死体が発見され、古畑任三郎(田村正和)の登場。もちろん、今泉慎太郎(西村雅彦)、有能なる新人刑事・西園寺守(石井正則)も同行している。状況は限りなく自殺であるが、古畑は、灰皿の燃えかすから、岩田の死の直前に、ある人物が部屋を訪れていたことを見抜く。その男は、灰皿の紙片が燃え尽きるのが待てないほどせっかちである。岩田はフィルターの根元までたばこを吸うほど、ゆったりとした人物。つまり、誰かがいた、と古畑は睨んだのだ。
古畑は朝食をとっている由良の前へ現れた。岩田が前夜、頻繁に間違い電話を架けていたのが、ホテルの記録で分かり、その数字から、由良の部屋に架けたかったのでは、と推理したのだ。由良は全く関係ないと話に応じないが、古畑が一緒にエレベーターに乗ると、由良はせっかちに「閉まる」のボタンを押している。古畑は、犯人は由良だと確信した。
古畑は執ように由良を追う。犯行現場に右手の手袋指紋しか残っていなかったことで、左手で携帯電話を架けていたのではないか?も自室の電話交信記録に、架電の記録がないのは携帯を使ったからではないのか?……しかし、ことごとく、由良の合理的な説明を受けてしまう。
だが、西園寺は、由良が企画で参加しているレストランが、実は、由良が実質的なオーナーで、その投資者は岩田であったことを掴んでくる。しかも、その企画は、岩田が手を引こうとしていることで暗礁に乗り上げそうであることも分かった。これで由良の岩田殺しの動機は見つかった。あとは、アリバイ崩しである。そして、古畑は、由良の大きなミスに気が付いた。それは、由良が犯行時間に自室には絶対いなかったことが証明できるという致命的なミスだ。さて、古畑はトレンド・リーダーの殺人者を追い詰めることが出来るのだろうか……。
<第3回>
古畑任三郎(田村正和)と今泉慎太郎(西村雅彦)、西園寺守(石井正則)の3人の刑事は出張を終えて、とある小村・雛美村に立ち寄った。古畑のかぜの調子が悪そうなので、医者にみせ、一泊しようというのである。今泉は、まるで修学旅行のようにはしゃいでいる。
一行が旅館に着いたころ、荒木嘉右衛門村長(松村達彦)の屋敷で村を挙げての宴会が始まった。東京のデパートの仕入れ責任者・日下部薫子(あめくみちこ)をもてなしていたのだ。雛美村は、荒木を中心に生き長らえてきた寒村で、今、村おこしのため地酒開発に乗り出し、東京のデパートと組み大々的な売り出しを図ろうとしていた。宴席はそのための供応であった。荒木は村民の敬意を一身に集め「お館さま」と呼ばれる人格者であった。しかし、薫子はいかにもウンザリとした様子である。村に一つの医院の久野医師(奥村公延)はそういったむらの事情を診察を受けに来た古畑に語る。
一方すっかり観光気分の今泉はピンポンで遊んだりとお気楽。旅館の外にある自分にそっくりの地蔵さまを見ていたら、警官に咎められ逃げる。逃げ込んだ資料館で薫子と出会う。今泉は一目惚れし、ピンポンに誘う。薫子も同じ旅館に泊まっていた。
ピンポンで爪を欠いてしまった薫子に自分の爪切りを差し出す今泉。さらにバーで一緒に焼酎で乾杯。ただ薫子は今泉の職業を聞き「助けてもらうかも」と不思議なことを言う。
部屋に戻った薫子に村の助役・鵜飼(岡八郎)から「荒木の屋敷に今すぐ来い」と電話が入る。屋敷には村の幹部や村民が待ち受けていた。村の人達は、実は薫子がデパートの仕入れ担当でない事実をつかんでいた。「お前につぎ込んだ1500万円はどうなる」と続け糾弾した。薫子は真っ赤な偽者だったのだ。だが、薫子は全く動じず「騙されるあんたたちが悪い。訴えたって無駄。あんたたちが特別背任で捕まる」と開き直る。さらに「地酒が契約になる見込みはまずない。田舎者はこれだから駄目だ」とたたみかけた。騒ぎ出す村民。これを見ていた荒木は、床の間の日本刀をつかみ、「おんなっ」と叫ぶと一刀のもとに斬り捨ててしまった。
荒木は自首すると言うが、村民たちは許さない。「お館さま」を守り抜け、とばかりに、全村民で口裏を合わせ、薫子が村に来ていた一切の証拠を消すことに決める。
翌朝、地蔵さまに落書が発見され、今泉が村の警官に問い詰められる。今泉は、落書きがされたとされる時間に、薫子と一緒にいたことを思い出し、旅館、資料館、バーと探しまくるが、一切の記録が消されている。が、今泉は爪切りに残された薫子の爪を思い出し、古畑に見せる。さらに薫子が泊まった部屋の洗面所からコンタクトレンズの煮沸器を見つける。間違いなく薫子はいたのだ。村人全員で嘘を付くのはなぜか?古畑は事件の臭いを嗅ぎ取った。動き出す古畑任三郎。
しかし、荒木を守ろうとする村民の結束も固い。古畑の力量を見抜いた助役・鵜飼は、薫子に似た娘を探し、古畑たちの前に連れてくる。その女は「私が薫子です。事情があって嘘をついた」と一芝居打つ。しかし、その芝居に大きなミスがあった。古畑の詰めが荒木に迫る。