<第4回> <第5回> <第6回>
<第4回>
歯が痛んだ古畑任三郎(田村正和)は、金森晴子(大地真央)が院長を務める金森歯科医院へ足を運んだ。子供が騒ぎ、治療具の不気味な音が響き、怯える古畑。治療室では金森が、恋人でありながらほかの女性と結婚を決めてしまった山村淳一(陰山泰)の治療を行っていた。山村は気が咎める様子であったが、金森は「結婚式には呼んでよね」と気に留めた風もない。麻酔の必要な治療を受け、山村は帰っていった。
金森はピストルを準備し、治療室の絵札を付け替える。これから行う犯罪を隠蔽する準備である。古畑が治療室に入る。金森は古畑を診療し、歯石を取ることを勧める。不安がる古畑の顔にガーゼをかけ、目を塞ぐ。そして、治療室の絵札を再び付け替え、助手の瀬川エリ(伊藤裕子)に古畑の歯石取りを代わってもらった。助手は別の患者「佐竹」を治療していると思い、古畑は金森に治療されていると思う、という状況を作り上げたのだ。
金森は急いで近くのコーヒーショップへ飛び込んだ。そこでコーヒーを頼みトイレで着替える。スーツにソフト帽、口髭に眼鏡という男装だ。その格好で向かいのビルに急ぐ。そこには先ほど治療した山村の会社があり、金森はそのフロアーの男子洗面所に忍び込んだ。そこに麻酔がきれ、痛み止めを飲みに山村が入って来た。声をかける金森。驚く山村。そして金森は拳銃を取り出し、山村を射殺した。
金森は、すぐさま逆のコースをたどって医院へ帰ってきた。そして、素知らぬ顔で古畑に歯周病の説明を始めるのだった。
白昼の殺人。すぐに捜査が始まった。今泉刑事(西村雅彦)は、西園寺刑事(石井正則)から「被害者には別れた恋人・金森がいる」と聞いた途端、金森が犯人と決め付ける。すぐに医院に向かうが、そこには古畑が。しかも金森から治療を受けていた、というアリバイを古畑が証明してしまった。すぐさま「物盗り」の犯行と犯人像を変更する今泉だった。
金森はアリバイを証明してくれたお礼にと古畑を食事に誘う。食事の後で歯を磨く金森。口にものを入れると必ず歯を磨くのだという。さらに帰宅のタクシーの中で古畑は歯の磨き方を教わる。その時、何かの匂いが残っていることに古畑は気付いた。このことで、古畑は金森の犯行と確信するのだった。
が、裏付けは難航した。目撃者の証言もあやふや。古畑を治療した助手こそ山村の恋人そのものであり、犯行の協力をするわけはないと金森に論破され、困り果てる古畑。助手本人も治療室の絵札のせいで「佐竹」を治療したと信じ込んでいる。コーヒーショップの花田店長(八嶋智人)は「女が変装して殺したんだよ」と軽く推理してしまうが……。さて、古畑任三郎、どうやって金森を追い詰める。
<第5回>
山荘で執筆をしている売れっ子小説家・安斎亨(津川雅彦)は、妻・香織(三浦理恵子)の部屋に入り、箪笥からショールを抜き出した。その時、香織が、編集者・斎藤秀樹(細川茂樹)と車で帰ってきた。二人はいかにも仲がよさそうである。山荘に入ってきた二人に、安斎は不機嫌そうに対応し、外に出た。目配せした香織と斎藤は抱き合う。その頃森を奥深く進んだ安斎は、拳銃を取り出すと、手をショールで巻き発砲した。
その夜、山荘のリビングでは、安斎を囲んで古畑任三郎(田村正和)と西園寺刑事(石井正則)が加わり、にぎやかにパーティーが始まっていた。古畑と安斎は知己のようである。古畑が担当したある事件で飼い主のいなくなったゴールデンリトリバーの万五郎を引き取ったのが安斎である。二人は小学校の同級生。「校長の銅像に悪戯描きが見つかった時、疑われた私を、名推理で救ってくれたのが古畑だ。彼がいなければその後の人生は変わっていた」と感動の思い出を語る安斎。が、古畑は西園寺に耳打ちする。「彼とはそんなに親しくなかった。なぜ今晩呼ばれたのか分からない」
古畑はなぜ自分が山荘に招かれたかを、招待状のFAXを見せて安斎に訪ねる。安斎は「私はおまえを呼んでいない。妻の仕業だろう。ともかく楽しんでいけ」と言う。
翌朝、古畑は、香織に招待状FAXのことを尋ねるが「知らない」と言う。その頃安斎は森の奥で万五郎にハンカチを拾って土に埋める芸を仕込んでいた。その時、今泉刑事(西村雅彦)が顔を出す。古畑たちを追ってきたのだ。
安斎は、騒がしくなった山荘から離れたところにある山小屋に古畑を案内した。仕事小屋である。昔を懐かしむ安斎は「数字ゲームをやろう」と言い出した。でこぼこのテーブルの上で二人は小学生のようにゲームを始めた。しかしちょうどその時、香織と斎藤が抱き合っている現場を窓から見てしまった古畑に、安斎は「今に始まったことじゃない」と言い捨てる。
そんな状況を古畑から聞いた西園寺は、香織の策謀ではないか、と言う。「古畑さんを呼んで、懐かしの友人に会い、その後、自殺したように見せかけるという、夫殺しを企んでいるのでは」と言うのだ。古畑は「今晩何か起きる。香織から目を離すな」と指示する。
その晩、「人生ゲーム」に興じる香織と古畑たち。変わったことは起きない。安斎がコーヒーをいれ、万五郎が、今泉のパンツをくわえて持ち出そうとしたくらいである。香織が眠たそうにしたため、ゲームはおひらきになり、安斎は万五郎を連れて山小屋へ仕事に行ってしまった。これで「事件」は起きそうもなくなった。が、一人になった古畑は、これから起きる「事件」の被害者と加害者を取り違えていることに気が付いた。今なら「発生」を未然に防げる。立ち上がり山小屋に向う古畑は一体どんな結論に達したのか。
<第6回>
甲陽フィルハーモニーの常任指揮者・黒井川尚(市村正親)は、これから演奏会が行われようという夕刻、愛人で楽団のビオラ奏者・滝川ルミ(待田しおん)から別れ話を持ち出されていた。外は雨、場所はルミのマンションである。未練を残しながら、黒井川はそこあったワインを抜こうとして、オープナーで指をけがする。ルミは「みんな不器用ね」と言いながら傷に絆創膏を張る。しかし、なおも「次の男は誰なんだい」と迫る黒井川に、ルミはほとほと愛想が尽きる。激情した黒井川は、大理石の灰皿をつかみ、ルミを殴り殺してしまった。
外の雨はさらに強さを増して行く。黒井川は、ルミを事故死に見せかけることにした。熱帯魚の水槽のエア・ポンプのスイッチを切り、CDをかけ、指紋を拭き取り、灰皿を片づけ、ルミに上着を着せ外出の支度をする。雨の降り込む外階段に死体を引っ張り出し、ビオラ・ケースを投げ捨て、死体を転がした。演奏会に出向く途中、足を滑らし転倒、打ち所が悪く死亡した、という筋書である。黒井川は終わったと思った。
現場検証に古畑任三郎(田村正和)、今泉慎太郎(西村雅彦)、西園寺守(石井正則)らいつもの刑事がやってきた。思い出せないメロディーの曲名を気にしながら、古畑は、2階とはいえ雨の日にエレベーターを使っていないこと、今夜の演奏会が代役たてて進行していること、被害者の上着の左ポケットに鍵が入っていたこと、水槽のポンプが止められていることなどから、事故死に疑いを持つ。
そのころ、指揮棒を振っていた黒井川は、クラリネットの音色が不安定なことに気が付いた。黒井川は絶対音感の持ち主である。クラリネット奏者の石森(橋本さとし)を見ると指に絆創膏を貼っているのが分かる。ルミの「みんな不器用ね」という言葉を思い出した黒井川は、クラリネット奏者・石森が、新しい恋人だったに違いない、と確信する。
翌日の音楽葬の折、黒井川は石森に近づき、それを確認する。その時、古畑たちがやってきた。古畑は殺人の疑いを示唆し、現場で芽生えた疑問を黒井川に当てる。その場はしのいだが、不安に思った黒井川は、石森に罪を着せようとクラリネットを壊し、リード金具をルミの部屋に置くなど工作する。捜査陣の目は石森に向いたかに見えたが、古畑たちは、さらに黒井川の犯行との心証を深める。雑音、騒音などすべての音がドレミ・・で聞こえるという絶対音感、この特性を持った人間が犯人だ、という確信した古畑は、大きな罠を仕掛ける。