<第1回> <第2回> <第3回><第1回> 「大人の欲望!!夜メロ開幕」
人が人生に求めるものは何なのか・・・。仕事か愛か、あるいは自分が生きていたという証としての子供なのか・・・。ともに中年に差し掛かった妻帯者の敏腕CMディレクター・桐吾と外資系コンピューター会社の独身キャリアウーマン・暁は、ともに「子供」というキーワードに翻弄されている。桐吾夫婦は子供がいないカップルだった。自己実現が難しい仕事でありながら、家庭には常に「子供」という言葉が重く圧し掛かり緊張が漂う。暁は、両親の離婚からか、結婚=幸せとは思えず、男性不信。にもかかわらず、60歳になった自分を考えると子供だけは欲しい。矛盾し相容れない状況に流されながら、二人は運命的な出会いをする・・・。「自分」と「子供」というエゴイズムの象徴と、「愛」という他者あっての感情に挟まれ、二人はそれにどう折り合いをつけて人生の海を渡ろうというのか・・。
売れっ子CMディレクター工藤桐吾(三上博史)は、後輩の神谷恭介(玉山鉄二)と共に、健康ドリンクのCMに使うロケハンのため、親友・北村甚(勝村政信)の勤める博物館に来ていた。甚から「人間が死んでも遺伝情報は消えない」と説明を聞きながら、桐吾は見学の幼稚園児たちを眺めていた。
帰国子女で外資系コンピューター会社に勤める高畑暁(天海祐希)は、医師の妻に納まっている友人の山崎エリ(猫背椿)に、大量のベビー用品を渡していた。暁は独身だが、妊娠したと思い込み、グッズを買い漁ったのだ。そんな暁は、精子バンクのドアを開けていた。職員の解説を聞きながら、暁はパソコンの中にいる背番号化されたドナーを眺めていた。
暁はエリと三村日菜子(西山繭子)に、精子バンクのことを話した。エリと日菜子は、未婚で子供が欲しいという暁を理解できない。暁は「卵子はどんどん減ってくの。子供産むなら今」と強弁する。しかし「父親がただの番号と言うんじゃいや。排卵日にデートしてくれるだけの人がいないかな」とわがままを言う。エリが応じた。「東大出の候補者がいる」と言うのだ。暁は会ってみることにした。
桐吾の家で、甚が、女に会ってくれと言いだした。モデルのガールフレンドにCMディレクターを紹介すると言ってしまったのだ。キッチンで桐吾の妻・澄子(石田ゆり子)が聞いている。明るく振る舞っているが、桐吾は複雑な心境である。澄子との間に子供はいなかったのだ。まさにその時、車椅子に乗った桐吾の母・サエ(中尾ミエ)が現れた。「赤ちゃんの帽子、編み上げたよ」。気まずい空気が流れた。
桐吾は、甚の願いを聞いて、件のモデル・奥田めぐみに会うため噴水の前に来ていた。噴水の反対側には暁が、やはりエリの紹介した“ドナー候補”を待ち受けていた。共に相手の顔が分からない。「あ・・・」「どうも」。誤解したまま、暁は説明を始めた。「幼い頃に両親が離婚したので結婚願望がなく、子供だけ欲しいんです」。不審に思った桐吾は「奥田めぐみさん?」と聞き返した。暁は人違いを察し、慌てて店を飛び出してしまった。
暁は疲れ果てて自室に戻った。と、すでに妹の平山昌美(佐藤藍子)が来ている。子持ちだが、夫とけんかして遊びに来たのだ。「お姉ちゃんはお母さんの期待の星。エリートと結婚して子供作って」と勝手なことを言う。
CMコンペで桐吾が大賞を受賞した。パーティーには奥田めぐみも来ていて厚かましく「仕事をくれ」などと言う。ウンザリしていると、映画プロデューサー小西が声をかけてきた。「人の記憶に残る仕事をやってみたいと思いませんか」。桐吾の気持ちは揺れる。桐吾は佐古田部長(田山涼成)に映画製作のために長期の休みを申し出た。だが佐古田は「お前に芸術性がないからCMをやってこられたんだ。意地を通したいんなら、会社を辞めろ」と突っぱねる。
一方、暁は、噴水前で会う予定だった東大出の“ドナー候補”水野と会っていた。自信過剰の水野の様子に違和感が広がり、暁は逃げ出してしまった。エリに報告すると、「お高く留まって、文句言いながら一人で年とっていくのね」と嫌味を返される始末だった。
そんなある日、後輩・井原淳哉(合田雅吏)と飲み、酔って帰り着いた暁は、パソコンの掲示板に「子作り協力者募集」というメールを出してしまう。翌日、会社で100通を越える返信メールを削除するはめに。だが1通のメールに目を留める。その送り主・牧村に希望を託して、暁はホテルへ誘う。牧村は紳士風だったが「妻が浮気した復讐に子供を作ってやる」と言い出した。さらにロープで暁を縛ろうとする。二人はもみ合いになり、暁はやっとのことでホテルから逃げ出した。服は破れ、傷心の暁は噴水の脇に座り込んだ。
帰宅途中の桐吾は噴水の脇に座り込む暁を見つけた。服の破れた暁にジャケットをかけてやり尋ねた。「どうしてそこまでして子供が欲しいのか」。暁は「妊娠を勘違いした時、60歳になって自分に残っているものって何だろうって思ったんです」と答え、ジャケットを返して立ち去った。
桐吾は家に帰って、澄子に退職し映画を撮る決意を告白した。が、澄子は驚くべき頑なさで拒んだ。「ふざけないで。夫婦って互いのために我慢して責任を果たすもの。あなただけ好き勝手出来ると思うの」。余りの剣幕に桐吾は息苦しくなっていった。
桐吾の頭に血が上る事件が起きた。自信のあったCMで、桐吾の知らぬ間にカットが差し替えられたのだ。佐古田部長は「お客がいいというのだから、いいだろう」と取り合わない。家庭も仕事も、桐吾は帰る場を失った気がした。
そんなころ、退社した暁の前に、牧村が待ち伏せしていた。「男が好きなんだろ」。牧村から逃げ出して、情けなく歩く暁。
そして、二人はみたび、噴水の前で出会うのだった・・。
<第2回> 「好きになってはいけない人」
桐吾(三上博史)と暁(天海祐希)はホテルへ入った。が、桐吾の携帯が鳴る。送信者は澄子(石田ゆり子)。桐吾の気持ちは萎えた。「ごめん」。桐吾はそのまま部屋を出て行ってしまった。
桐吾が家に戻ると、テーブルには手をつけていない食事がある。澄子に申し訳ない気持ちが広がる桐吾だった。
一方、暁は、日菜子(西山繭子)とエリ(猫背椿)に、桐吾との一件を話した。訝る二人に、暁はたまらず、「精子バンクに行くわ」。バンクには好奇心に駆られたエリがついてきた。と、隣のコーナーにやって来たドナー登録希望者らしい男は、偶然、エリの同窓生だった。その男が記入していた申込書は、学歴から容貌まで嘘ばかり。暁は、暗澹となった。
桐吾が仕事に出ると、スタジオの雰囲気が悪い。恭介(玉山鉄二)が、「佐古田部長(田山涼成)が、桐吾さんは、映画に誘われて天狗になり、仲間を見下していると言いふらしている」と教えてくれる。暗い気持ちになった桐吾は、ポケットに忘れていた暁のイヤリングに気がついた。
桐吾は暁を訪ねた。桐吾は、初対面の時に暁が落としていったイヤリングを返し、さらに、ホテルまで行った日の無礼を詫びた。「勢いだったんだ、多分」。暁は、複雑な思いを抱きながらも、「分かりました。もう、ご迷惑をお掛けしません。子供のことはほかで解決しますから」と言い切ってその場を去ろうとした。その時、暁の携帯が鳴った。妹の昌美(佐藤藍子)からである。暁たちの母親・ゆり子(長内美那子)が階段から落ちたと言うのだ。「車で行きましょう」。桐吾が申し出た。
病院に着くと、ゆり子が退院するところだった。医師の説明をメモしようと、暁のバッグを探った昌美は、精子バンクの申込書を見つけた。昌美は憤った。「お母さんに『父親のない子を産みます』って言えるの?」。当のゆり子は、桐吾が暁の恋人だと勘違いしていた。
暁が、女性誌を眺めていると、桐吾が、敏腕CMプロデューサーと紹介されている。暁は、CMに詳しい後輩の淳哉(合田雅吏)にビデオを貸してもらう。
そんな夜、桐吾の家では、母親のサエ(中尾ミエ)の誕生パーティーが開かれていた。甚(勝村政信)一家と恭介も呼ばれている。そこで、甚の妻みどりが妊娠していることが発覚する。皆、一様に澄子の方を気にするのだった。
桐吾のスタジオに佐古田部長が現れた。「来週から現場に来なくていい。庶務課長だ」。桐吾はショックで声も出せなかった。
桐吾の最後のスタジオの仕事が終わった。そこへ、暁がやって来た。病院へ送ってもらった礼を言いに来たのだ。だが折り悪く、二人はスタジオに閉じ込められてしまった。撮影用の美しい明かりの下で、二人は話し始めた。
「恋愛は儚い。子供なら無条件で家族になれる」。「僕には子供がない。仕事が生きた証かな」。
暖房も切られたスタジオで二人は身を寄せ合った。しばらくして桐吾が火災報知器を見つけ、ブザーを鳴らして助け出された二人は、早朝の街に佇んだ。
「僕が、君の子供の父親に立候補したらどうする」。桐吾は意を決した表情で切り出した。
「いいです。あなたで」。暁もその申し出を受けるのだった。
<第3回> 「愛と誠を求めて」
桐吾(三上博史)と暁(天海祐希)の「子供を産む目的だけの」付き合いが始まった。暁は基礎体温を綿密に測り、「付き合う」日を決め、桐吾に連絡を取る。月1回の限定デートである。だが、昼間から唐突にホテルに入ることをためらう桐吾は、「その前」に食事や遊園地やゲームセンターに誘う。最初はそのことに戸惑った暁も、少しずつ「デート」自体が楽しく思われるようになる。
そんなことを、エリ(猫背椿)と日菜子(西山繭子)に話す暁。ドライ&クールに装う暁だったが、エリは「男の気持ちは、どう変わるかわからないわよ」と見抜いたようなことを言う。
実際、暁に気を遣いながら遊ぶ桐吾に、暁は徐々に惹かれるようになる。例えば遊園地の射的の景品の恐竜のゴム人形の中から、暁のお気に入りの恐竜を探す桐吾の姿は、暁の微笑を誘うのだった。ただ、キスをすることだけは拒み、心動かさないように努力しなければならなかった。
桐吾と澄子(石田ゆり子)との夫婦生活は、澄子の健気さ、桐吾の優しさゆえに、さらに冷え込んだものとなっていた。そんな二人が食事をとっている晩、サエ(中尾ミエ)は、車椅子のまま夫婦の寝室へ忍び込んだ。そして、ゴミ箱の中から、桐吾と暁が行った遊園地の半券とホテルの領収書を見つけるのだった。
暁は自室で、妊娠検査薬の試験紙とにらめっこしていた。最近の日課である。どうも判定が不明瞭である。と、エリに電話し、サジェスチョンを受けようとした。エリは面倒臭そうに受け答えをするが、その時、暁の部屋に妹の昌美(佐藤藍子)が飛び込んできた。また夫と喧嘩したのだ。昌美は妊娠試験薬を見つけ驚く。暁は「大人の付き合いをしている」と、どうにか、その場を切り抜ける。
一方、経理に回された桐吾は、仕事では最悪な気分に落ち込んでいた。佐古田(田山涼成)は高額な飲み代を制作費に回してくる。文句を言っても相手にされない。すれ違う昔の仲間も敬遠する。くさる桐吾は、帰宅途中に覗いた玩具屋のウインドウに恐竜のプラモデルを見つけた。それを買い込み喫茶店で必死に工作する桐吾。暁が好きだと言った恐竜のモデルだったのだ。
桐吾は、「あの時だけ会う」という約束を違え暁を呼び出してしまった。プラモデルを渡すためだ。契約違反を詫びつつ「あの、迷惑じゃなきゃ」と恐竜のモデルを差し出す桐吾に、「私もお話がある」と切り出す暁。「生理が遅れている」。言葉の出ない桐吾を前に、「子供は私が育てる」「認知はいらない」など意を決して「契約条項」を挙げる暁だった。だがプラモデルの礼だけは述べ、頑な様子で帰っていった。暁も本当は切ない気分だった。
結局その時の妊娠はなかった。一緒に病院についてきてくれたエリは、「あんた、がっかりしたの?ホッとしたの?」と暁を問いただす。「あんた『子供、子供』って騒ぐのは寂しいからでしょ。今、その工藤さんで埋まってるんじゃないの」と喝破する。暁は一生懸命にごまかそうとする。
二人は、暁が思い出したいと言うなつかしの音楽を探しに、エリの知っている音楽バー「マイアサウラ」へ出かけた。と、暁はそこに、桐吾が仲間の甚(勝村政信)と恭介(玉山鉄二)と一緒に来ているのに気がついた。桐吾も、エリも互いを認めた。なんとエリは、席を立とうとする暁を押さえながら、桐吾らに話しかけ始めた。
「私の知り合いに、子供だけ欲しいという女性がいるんですよ。男もそう言われると単純にうれしくなるのか」
遺伝子研究家の甚は、エリの真意も分からず「オスには自分のコピーを残したいという利己的遺伝子が体中を回っている。愛情関係なしに」とまじめに答える。
「だってよ、暁。工藤さんはどうですか」
エリの徹底攻撃に居たたまれなくなった暁はその場から逃げ去った。エリも後を追う。恭介は、桐吾と暁の関係を察する。「奥さんに対してひどい」と桐吾に言い残し恭介も去る。甚も桐吾の浮気に気づくが軽く考えている。だが、桐吾は「無性に子供が欲しくなる。生きた証として……」と言いかける。驚く甚に「冗談」と取りつくろう桐吾だった。
気落ちした桐吾が家に帰ると、澄子の後ろからサエが車椅子で現れ、手編みの赤ちゃん用ケープを持ってくる。桐吾はとうとう切れ「俺たちに子供は出来ない。編まなくていいんだ」と声を荒げる。澄子はその場を納めようとサエを寝室に連れて行く。とサエの布団には以前ゴミ箱から拾った遊園地の半券とホテルの領収書が……。澄子は愕然とし、寝たふりをするサエは薄目を開けそれを見ているのだった。
丁度その時、桐吾の携帯が鳴る。暁からである。「妊娠していませんでした。次は再来週の……」。澄子はその様子をガラス越しに見つめていた。
また「その日」がやって来た。ゲームセンターで遊ぶ二人。外に出ると雨。仲良くひとつのコートに包まり走る二人。だが桐吾の携帯が鳴り、消えると、澄子からと察した暁は「今夜は止めませんか」と切り出した。だが、桐吾は「行こう。月1回を無駄にしたくない」。二人はついに唇を合わせる。
二人の熱い抱擁の最中、澄子は繋がらない電話を静かに置き、そしてサエの部屋に入り、でき上がったニット類を掻き集めるのだった。
部屋に帰った暁は、幸福感に包まれ、恐竜のモデルを抱きしめる。一方、家に帰った桐吾は、澄子が現れないのを不審に思う。中に入ると、澄子は放心状態で、サエが編んだニットを切り刻んでいる。桐吾に気づきうろたえる澄子。桐吾は深い罪悪感から、澄子をしっかと抱きしめるのだった。
数日後、桐吾は、澄子を連れて久しぶりに映画に出かける。心から喜ぶ澄子。桐吾は暁に思いを馳せる。
そのころ暁は、いつものように検査試薬をにらんでいた。苦い微笑が広がる。と、桐吾から電話が入った。「約束違反だが会いたい」。
暁は指定の店に行き、ジュースを頼んだ。桐吾が切り出す。「終わりにしよう。これ以上になると僕は引き返す自信がない。申し訳ない」。
暁も悲しげに言う。「もう少し続けたかったけど、ありがとうございました」。
二人は手を握り、そして暁は席を立った。だが、出口で暁がふらついた。はっと気づき、桐吾は後を追った。
「子供……?」。
「私、妊娠しました。だから、どっちみち、お別れなんです」。微かに笑顔をつくる暁が去って行く。桐吾は立ち尽くすだけだった。