<第7回> <第8回> <第9回> <第10回>
<第7回>『姫路城 吉原から来た側室』
隠密奉行朝比奈河内守正清(北大路欣也)が向かうのは播州・姫路藩。姫路城は壮大だが、藩内は乱れていた。
藩主の榊原政岑(川鶴晃裕)は一年前、江戸吉原の三浦屋から高尾太夫を身請けして側室西の方(寺田千穂)としたことが時の将軍の怒りに触れて蟄居を命じられた。子の政永(富平和馬)が新しい藩主になったがまだ八歳である。姫路は徳川幕府の西の守りの拠点であるため、これでは国が治まらないと見た幕府は越後高田への国替えを命じた。
そんななかで、国替えの要となる江戸家老島村忠左衛門(津嘉山正種)の命が狙われているという情報が入り、老中土屋相模守(船越英二)が朝比奈に調査を依頼したのだ。
その時、御小人目付の真鍋平太郎(金田明夫)に見合いの話が持ち上がっていた。真鍋は見合いの席への付添いを、朝比奈と妻のりん(萬田久子)に頼んだ。承知はしたものの、そわそわする真鍋を置いて、姫路へ立つ朝比奈だった。やがて真鍋も後を追う・・・。
江戸家老の島村が単身姫路に帰ってきたが、藩次席家老田代対馬(中島久之)一派の刺客たちに襲われる。しかし、深編笠のまま応戦する島村は強い。そのはずで、江戸で島村と打ち合わせた朝比奈が変装して刺客をだましたのだ。
田代は国家老が病気なのを良いことに、両替商の船場屋(須永克彦)と結託して藩政を私物化し、数々の悪事を行っていた。しかし、中原桂二郎(草野康太)ら若手の藩士には、悪いのは、藩主が幼いのを良いことに西の方と手を組んで不正を働く島村だと言っていた。その言葉を信じた中原ら四人が刺客となって島村を襲ったのだ。
島村は藩の重要産業である播州木綿を一手に扱う商人、播磨屋清兵衛(楠年明)の協力で田代の悪事の動かぬ証拠をつかんだ。
一方田代は、島村襲撃に失敗した四人に動揺が広がっているのを見て、自分の不正を知る立場にもいる勘定方の二人を密かに斬らせた。
西の方も藩の混乱に心を痛めていた。腰元のりえ(竹本聡子)の案内で朝比奈に会った西の方は、「藩を救って」と朝比奈に懇願した。
四人組の侍がまた一人、今度は田代に斬られた。絶命の直前に「田代にやられた」と言うのを聞いて、中原は島村のもとへ走った。
田代一味はその日の夜、森へ集まることになっていた。その場所へ朝比奈、真鍋、中原、そして島村の側近たちが走った。田代一味は不正の証拠書類を井戸に沈めようとしていた。両陣営の激しい斬り合いとなった。やがて田代が朝比奈に斬られた。
朝比奈は島村へ、証拠書類を処分するように言う。これで藩の名誉は守られ、国替は滞りなく行われるだろう。
真鍋の見合いはりんが先方にうまく話してくれていて、近々に行われることになった。朝比奈の家には、りえから美しい播州木綿の反物が届けられていた。
<第8回>『奈良 金魚になった少女』
大和郡山の城下で放火が相次ぎ、市街の半分近くが焼失した。郡山藩ではこれまで藩を治めてきた本多家がお家断絶となり、柳沢吉里(石田登星)を藩主とする柳沢家の支配となっていた。幕府の奈良奉行山川勘兵衛(篠塚勝)の報告では、下手人は浪人となった本多家の旧家臣とされていた。
老中・土屋相模守(船越英二)の要請で、隠密奉行朝比奈河内守正清(北大路欣也)は大和へ向かう。今回は不思議なことが起こった。若年寄の大久保山城守(大出俊)が、目付筆頭の渡辺弥佐衛門(鶴田忍)に対して、「最近、老中土屋と大目付朝比奈が独断で大名統制を進めているのは遺憾、大和郡山に人を出して朝比奈の独走を封じろ」と言ってきたのだ。朝比奈の行く先を知っているのは、奈良奉行の山川に大久保が目をかけていたためだ。小人目付の真鍋平太郎(金田明夫)が朝比奈の後を追った。
郡山城下で、そして幕府直轄の奈良の市街では浪人狩りが行われていた。真鍋もこの網にかかって捕らえられ。浪人たちの処置について、山川は全員死罪を主張した。郡山藩大目付の荒井外記(井上高志)はためらったが山川は強硬だ。
大和郡山は金魚の産地。妻のりん(萬田久子)から、土産は金魚と頼まれていた朝比奈は、溜池で金魚を養殖している初老の男と知り合う。断絶となった本多家の家老をしていた大野甚左衛門(勝部演之)だ。だが江戸での情報に反して、元家老も旧家臣も、お家再興を期して不穏な動きをしているようには見えなかった。ただ、「金魚が好き」という理由で大野のところで働いている、かすみ(つぐみ)という若い娘には、気になるものを感じる朝比奈だった。
かすみの父一枝竜玄(和崎俊哉)の父親は、かって幕府に仕える伊賀忍者だった。しかし、新しい藩主柳沢吉里の父親で幕府の実力者だった柳沢吉保によって公職を追放されて切腹。一族は流浪の身となった。竜玄には柳沢家への恨みを晴らして江戸へ帰り咲く執念があった。
そこに付け込んだのが奈良奉行の山川だった。山川の背後には若年寄の大久保がいた。まず竜玄配下が郡山城下に放火をする。その罪を本多家家臣になすりつけることで、新しい郡山藩に不安を与え、大目付の荒井を仲間に引き込む。その上で、捕らえた浪人を全員処刑。さらに藩主暗殺も企てれば、柳沢家は領内不取締りとされて改易は必至。そこに大久保が新しい藩主として乗り込む、という計略だった。
奈良の牢から郡山城に移送される真鍋ら浪人たちの行列が伊賀者に襲撃された。伊賀者は浪人たちの縄を解き、真鍋もうまく逃げる。だがその直後に山川の指示で藩の鉄砲隊が多くの浪人を射殺した。
朝比奈は、自分は隠密奉行の不正を探る役目を帯びて江戸から来た、と言って山川と会い、藩乗っ取りの陰謀を暴き始めた.
<第9回>『長崎平戸 森に潜む魔人』
隠密奉行朝比奈河内守正清(北大路欣也)が向かうのは肥前・松浦藩領の平戸。かって南蛮船が入り、鯨も捕れる土地だ。老中土屋相模守(船越英二)の話では、平戸で公儀隠密として活躍していた跡部三十郎(夏八木勲)の消息がこの十ケ月途絶えている。その様子を調べて欲しいと相模守は頼んだ。
行き先を尋ねる妻のりん(萬田久子)に朝比奈は、「鯨の捕れるところだ」と言う。陰で聞いていた真鍋平太郎(金田明夫)は、鯨で名高い紀州の太地と誤解した。
平戸に着いた朝比奈は、地元では漁師として暮らしていた三十郎の消息を訪ねるが、しおみ(中島ひろ子)という三十郎の娘は、父は海に落ちて死んだと言う。せめて墓参りをと、三十郎が住んでいた根獅子(ネシコ)の浜に行った朝比奈は、付近の住民の何人かが墓の前で十字を切るのを見て驚いた。浜の近くには「うしわきの森」という深い森があって、そこには河童が出るという。人々は恐れて近づかなかった。
ネシコに、郡代官の花村伝兵衛(団 時朗)の一行が来た。しおみや、漁師の彦兵衛(多賀勝一)、浦次(藤沢慎介)らの顔色が変わった。郡代官は、ネシコの漁民が鯨を捕った金を隠していると言って、取り立てにくるのだという。明らかに違法な取り立てだが、断れない漁民にも何か弱みがあると朝比奈は見た。
しおみが「うしわきの森」に「お告げ」を聞きに行ったのを見て、朝比奈は森に入り、「河童」を見た。幅広いマントを着て髪を刈り上げ、宣教師のようにも見えた。後をつけると岩屋へ入り、マリア像の前でオラショ(ご誓文)を唱えた。「河童」は跡部三十郎。ネシコの隠れキリシタンたちの指導者だった。
間違って紀州の太地に行ってしまった真鍋が平戸に着いた。途中から与市(樋浦勉)という土地の男と一緒だったが、与市は「郡代には貸しがある」と言っていた。
与市は一年前、ネシコのキリシタンを花村に密告して恩賞金を貰っていた。ところが、死罪になるはずの漁民たちが取り締まられていない。それは、彼らが鯨を取って金を稼げるからだ。花村は漁民たちを脅して金を取り、彼らも信仰を守るために応じていた。
そのことに気づいた与市は、花村をゆすろうとしたが、逆に殺されてしまう。しかし朝比奈は一計を案じて、与市が生きていて、松浦藩家老小松丹後(北町嘉朗)の屋敷に逃げ込んだとの噂を流す。それを知った花村は、キリシタン全員を処刑して口封じをするしかないと決意した。
そこまで読んだ朝比奈はネシコに馬を走らせる。しおみに森の岩屋まで案内させた朝比奈は、三十郎と対面する。優れた隠密だった三十郎は、キリシタンでもあった。漁民たちの信頼を得た三十郎は、やがて隠密を捨てた。森の河童を演じて村人をおどし、信仰の拠点である「うしわきの森」に人が来ないようにした。
花村の軍勢たちが来るのを知った三十郎は、「血を流すのはデウスの御心ではない」と言い、岩屋に集まった漁民たちとともに死罪になる覚悟を決めた。十字を切りオラショを唱える三十郎と漁民たちを、朝比奈は見捨てることが出来なかった。
朝比奈は花村の軍勢の前に立ちはだかり、花村とその腹心たちを斬り捨てた。そこに、事態を知った家老小松がかけつけた。しかし朝比奈はキリシタンのことは一言も言わず、河童の活躍で問題は解決した、と言うのだった。
朝比奈宅には後日小松から、平戸の銘菓カステラが届けられ、りんは喜んだ。
<10回>『朝比奈暗殺計画』
隠密奉行朝比奈河内守正清(北大路欣也)が近江彦根に行く。老中杉田淡路守(高橋長英)の駕籠が浪人たちに襲われ、それに彦根藩が関係しているのでは、という疑いを確かめるための任務だ。
三十五万石の彦根藩は徳川家康以来、井伊家が藩主を務めている。井伊家からは代々幕府の大老が出、その地位は極めて高い。疑いが事実なら朝比奈の身にも危険が及ぶ。
この度は朝比奈もりん(萬田久子)に行き先を告げなかった。困ったのは真鍋平太郎(金田明夫)だが、淡路守が真鍋の上司に彦根行きの情報をもらし、真鍋も後を追う。
彦根藩領内に入った朝比奈と真鍋は、ならず者に襲われた若い女おゆみ(水島かおり)を助け、おゆみを守って城下まで行くことにする。しかし、これは朝比奈の命を狙う一味の罠だった。おゆみは甲賀の忍び。 おゆみが手引きをして、朝比奈の後を何人もの甲賀者が追った。人気のない道でも、夜の旅籠でも刺客が襲うが、朝比奈が撃退する。
琵琶湖のほとりの船宿で、朝比奈と真鍋はそれぞれ別の部屋で、酒にしびれ薬を入れられる。真鍋は縛られて甲賀者を指揮する安藤重三郎(谷口高史)にどこかへ連れて行かれる。朝比奈は刺客に囲まれたが逃げる。案内したのはおゆみだったが、これも罠だった。 おゆみは湖畔の小屋に朝比奈を閉じ込め、ろうそくに火をつける。小屋には爆薬が仕掛けてあり、共に死ぬ覚悟だった。彦根藩には召し抱えられていない甲賀者がなぜここまでするのか。そう問う朝比奈におゆみが答えた。
彼らは、彦根藩のためではなく、昔取りつぶされた山路藩の再興のために命を賭けているのだった。山路藩が再興されれば、自分たちの地位も上がる。そして、山路藩の再興を彦根藩は後押ししている。ところが老中杉田淡路守がこれに反対している。そこで淡路守を襲い、また幕府に邪魔をさせないために朝比奈の命を狙ったという。
しかし、山路藩の再興問題について、もしそんな話があるなら知っているはずの朝比奈は何も聞いていなかった。「おまえたちは、ありもしない話に踊らされ、利用されているらしい」。そう朝比奈が言った直後に小屋は爆発。しかし間一髪で朝比奈とおゆみは脱出した。おゆみの心に動揺が走った。
おゆみは安藤と、安藤が仕える鏑木菊馬(木下浩之)に事の真偽を問いただした。菊馬は山路藩主の血筋を引く男で、おゆみが思いを寄せていた。
おゆみたちが疑いを持ったことで、菊馬と安藤が正体を現した。彦根藩が後押ししているという話は真っ赤な嘘だった。菊馬と安藤が甲賀者たちに、彦根藩物頭用人谷田部采女(河原崎建三)として紹介した男も偽物だった。朝比奈と菊馬、安藤とその配下の斬り合いの中で、おゆみは菊間に斬られ、絶命した。
裏で糸を引いているのは杉田淡路守だった。自分で刺客を雇って自分を襲わせ、彦根藩の仕業と思わせる。そして、おゆみらに朝比奈を殺させれば、彦根藩に疑いがかかり、やがては自分に大老の地位が来る。そういう計算で、とっくにお家再興の大義を捨てた菊馬と安藤を金で動かしていたのだ。
朝比奈の怒りが爆発した。菊馬を斬り、谷田部と安藤を生け捕りにして江戸へ運んだ。動かぬ証拠に、自害に追い込まれる淡路守だった。