<第7回> <第8回> <第9回><第7回> 「函館へ!!愛と感動の旅立ち」
保育園を辞める決意をした李理香(菅野美穂)は、基次郎(江口洋介)の住む函館を訪れた。だが、基次郎が働いているはずの函館山のロープウエイに基次郎の姿はない。係員に尋ねても、基次郎を知る者はいなかった。「過去10年間に長沢基次郎という人は働いてないねぇ」。年配の職員の返事に、李理香は見知らぬ土地で困惑するしかなかった。李理香は、手紙の差出人住所を頼りに、函館の街に向かった。
やっと「長沢」と表札の掛かった家を見つけた。呼び鈴を鳴らしても誰も出てこない。ポストを探ったら、自分の出した手紙が入っている。「どうして、嘘をついたんですか?」。複雑な気持ちで、基次郎宛ての手紙を書くのだった。
翌朝、再び、基次郎の家を訪ねた。何と、ポストの中の手紙が消えている。誰かが取りに来たのだ。「長沢さんは最近見ないけどねぇ」と通りすがりの老婆も言う。
「基次郎、あなたはいったい誰? あなたはどこにいるの? まるで狐に摘まされたような気持ちです」と李理香は疑問に思いつつ、「約束を破ったせいで、あなたから手紙が届かないような気がします。見てはいけないものを見てしまった、恐怖で心がいっぱい」と手紙を書くが、不安を感じ、函館を訪れた旨を書いた手紙を破り捨ててしまった。
李理香は保育園へ戻った。未明(原沙知絵)が話し掛けてきた。
「本当に辞めるの?」
「ほかに謝罪する手段ないし」と李理香。だが、未明は、珍しく言い返してきた。
「辞めればすむんだ。李理香の考え方って気楽だね。辞めれば責任が取れると思っているんだ。すべて、人のせいにして逃げてきたんじゃない。幸福に見えて、あなたよりもっと苦しみを抱えて生きている人もいるんだから。あなたは甘えているだけ。寂しいから人の玩具をとるわがままな園児並み。人間やめたら?」
未明の強烈な言葉を受けた後、自宅に戻ると、基次郎からの手紙が届いていた。「同僚と飲むビールは最高です・・・」。月を見上げた李理香は「あなたは誰。あなただけを心の支えとして生きてきたのに」。うなだれ震える李理香は、とうとう基次郎に「函館へ行きました。あなたが嘘をついていたことを知りました。もう何も信じることができません」と手紙を出すのだった。
李理香は怨念の固まりのように、父・蓮井明彦(串田和美)の家の前に隠れていた。蓮井が出てくるのを確認すると後をつけた。蓮井の行き先はアンテックショップだった。蓮井はここのオーナーなのだ。扉に「アルバイト募集」とあるのを見て、李理香は「アルバイトしたいんです」と蓮井に声をかける。蓮井は快く応じてくれた。蓮井は、李理香が実の娘であることに気付かなかったが、「リリカ」という名前に記憶をたどる様子を見せ「知り合いの名前と全く同じだ。奇遇だな」という。李理香は「お願いします」と下を向いたまま、冷たい目で床を見つめているのだった。
翌日、李理香は、保育園に辞表を出した。「不倫をしていました」と言うのだった。しかし、園長(石井苗子)は「子供を抱きしめる時のあなたは愛情にあふれていた。不倫して木場家を傷つけたことは厳しく処罰されるべきことですが、あなたはここで自分を投げてはいけません」と励ますのだった。李理香の目から涙があふれた。
門では未明が待ち受けていた。李理香は「未明とは友達になれそうな気がしていた」というのだった。
一方、李理香は、基次郎が函館に存在しなかったことを、中也(伊藤英明)に話した。「なぜ騙したんだろう」と訝る中也に、「何かわけがある」と李理香は弁護してしまう。それに対し中也は「お前の周りには非現実なことばかりある。俺のような現実的な友達が必要だ」とアピールするのだった。
だが、その時、李理香の携帯が鳴った。昴(陣内孝則)からであった。「出るな。自分を変える時だ」と叫ぶ中也を無視して、李理香は電話に出るのだった・・・。<第8回> 「Zoo100万枚大ヒットへ」
李理香(菅野美穂)は昴(陣内孝則)の事務所をにいた。そこに突然、昴の妻・昭子(真矢みき)が夜食をもって訪ねてきた。玄関に脱ぎ置かれた李理香の靴に気づき、「誰がいるの?誰なのよ!」と激昂する昭子の前に姿を現わした李理香。そして「あなたが憎かった。私を苛めるあなたが憎かった」というのだった。
「私がここへ強引に連れ込んだんだ。この人に責任はない」という昴の言い訳など聞こうとせずに、「嘘よ、この泥棒猫があなたをそそのかしたのよ」と李理香を睨み付ける昭子。
李理香は落ち着き払って言った。「そうです。欲しかったんです。葛井さんに優しくされて嬉しかった」と言って、つかみかかろうとする昭子から一瞬の隙で李理香はその場を逃げ出した。
李理香は自分のアパートに戻り郵便受けを開けるが、基次郎からの手紙は来ていない。李理香は涙をこらえ月を見上げるのだった。
覆面歌手・蓮井朱夏こと李理香の歌う「ZOO」は、ヒットチャートを邁進していた。CDは飛ぶように売れていく。
そんな中、李理香は覆面歌手・蓮井朱夏としてラジオに出演した。チャート1位になったのを記念し、1回限りの約束で応じたのだ。李理香は児童養護施設で育ったこと、そこで虐待を受けたこと、そして「ZOO」は自殺しそこねた時に生まれた曲であることなどを淡々と語った。彼女はさらにこう加えた。「愛が欲しかったんです。でも愛が何かわからない。みんなが普通に持っている愛が、私には最初からなかったんですから・・・。」
李理香が、父親・蓮井明彦(串田和美)のアンティークショップで店番のバイトをしているところに、蓮井が古い鳥かごを抱えて帰って来た。その由来を話す蓮井を見て、李理香の怒りと憎しみが込み上げてきた。
「中の鳥はどうしたのですか?」
「逃げ出してしまったそうだ」と蓮井。
「家族のもとへ帰ったのですか?」
怪訝な思いがしながらも、蓮井は「家族はいないだろう」と答えた。
側に寄った李理香は「まるで私みたい」と言うや否や、鳥かごを奪い、床に叩き付けた。「何をするんだ!?」怒鳴る蓮井に、李理香はうっすらと笑みを浮かべて言った。「お父さん・・・・・・。何故怒るの。怒りたいのは私の方なのに。自分の子を捨てることが出来る悪魔。どうして捨てられたの?鳥篭の方が大切?自分だけ何故幸せなの?何故私だけ不幸なの?」
蓮井は、絶句し、そして李理香は自分の娘だと理解した。「そうだったのか・・・」
蓮井は李理香の方に手を伸ばそうとする。だが、李理香は叫んだ。「触るな!」。そのまま店を飛び出す李理香。蓮井は罪の意識で、その後ろ姿を悲しい表情で見送るしかできなかった。
「あのとき、死んでいればよかった。基次郎、なんで私を助けたの」とさまよい歩く李理香。
アパートに戻ると、未明(原沙知絵)が訪ねてきた。未明は、源太(杉本哲太)をとられたという嫉妬にかられて李理香にひどいことをいってしまったことを謝りにきたのだ。「また友達になって」と未明。
そこへ中也(伊藤和明)がやって来た。中也は、李理香のCDデビューの話しを知らない未明の前で、「印税ががっぱり入ってくるから、保育園では働けないわけだ」と失言する。李理香は結局、蓮井朱夏の秘密を明かすことになったが、「とにかく友達には歌手であることを隠すよな」という中也だった。李理香は、父親に会い、罵倒したことを話した。「スターなんかになりたくないよ。私は普通の幸福が欲しいだけなの・・・・・・」と李理香はつぶやくのだった。
李理香は昴に会いに行った。こういう関係は今日で最後にしたいと伝えるためだった。ホテルの玄関で別れを告げる時、シャッターが鳴った。
後日、テレビのワイドショーや写真週刊誌に「人気歌手・蓮井朱夏と脚本家・葛井昴の密会」が大々的に取り上げられた。柿崎プロデューサー(筧利夫)は、悔しがるが、歌を辞めるつもりはないという李理香の決心に安堵する。
揺れる心のまま部屋に向かう李理香は、郵便受けに基次郎からの手紙がないことを確認し、ため息だけが漏れる。自分も手紙を書いては破るの繰り返しだ。が、その時、父・蓮井が訪ねてきた。「すまなかった・・・」と謝りにきたのだが、「何で捨てたのよ!」と怒鳴り狂う李理香。「お前のことを忘れた日はない」と苦悶する蓮井。李理香は、蓮井の頭に水をぶちまけ、「じゃ、自殺しなさいよ死んで償ってよ。墓につばをかけに行ってあげるから」と、言って飛び出した李理香は、中也が歌う場所までたどり着いたが、そのまま倒れ込んでしまった・・・。<第9回> 「死なないで!愛する人よ・・・」
父・蓮井明彦(串田和美)に「死んで償って」と罵声を吐いた後、倒れてしまい昏睡した李理香(菅野美穂)は、病院で目覚めた。そばには中也(伊藤英明)がいる。「いつでも頼って構わない」と優しい言葉をかける中也。そこへ柿崎プロデューサー(筧利夫)、未明(原沙知絵)もやって来た。未明も「本当に心配なの。あなたが壊れちゃうんじゃないかって」と、保育園を抜け出して駆けつけたのだ。「こうやって、お前のこと皆が心配しているんだ。お前は一人じゃないんだ」と中也が言う。小さくうなずく李理香だった。
柿崎は、「テレビ出演が決まった。写真誌に顔が出たこのタイミングできちんとベールを剥ぐのがいいんじゃないか」と言う。最高のミュージシャンを集めるらしい。だが、李理香は、中也と二人で出演することを望んだ。路上の弾き語りが原点にあることに拘ったのだ。中也は困ったが、「お前が心配だからつきあうよ」と承知した。
李理香は、病院から帰る道々、中也に言った。「人を憎む気持ちって苦しいね」。
中也は「憎む気持ちって愛する気持ちと遠くないと思う。強い憎しみの後ろには、同じくらい大きい愛情が隠れているはず」と、はっとするようなことを言う。「お前の重い荷物を半分くらい持ってやりたい」と続ける中也に李理香は「優しいんだね」とほほ笑みかえす。「お前のこと好きみたいなんだ」と中也は告白してしまう。だが、李理香は、「私は人を好きになったり、愛したりってきっと出来ない人間なんだと思う」と、言いつつも、どうしても基次郎(江口洋介)のことが気に懸かる旨も伝える。「そいつ、お前のことだましてたんだぜ」という中也に、李理香は決心したように言った。「会ってくる。会わなければいけないという、使命感があるの」。
アパートに戻ると、外で昴(陣内孝則)の妻・昭子(真矢みき)が待ち受けていた。「泥棒猫」と叫んで李理香を引き摺り倒し、はさみを取り出した。「お前のような悪女は野放しに出来ない。丸坊主にしてやる」。あわやというところで、中也が追いついて来た。「覚えておきなさい」。昭子は捨てぜりふを残して去って行く。心配でたまらない様子の中也である。
そのころ、未明は、保育園に子供を迎えに来た源太(杉本哲太)に話し掛けていた。「私じゃ駄目ですか?私にほほ笑んでくれるのが、嬉しかったんです」。が、源太は不思議な顔をして「思い過ごしじゃないですか。そういう話しは迷惑です」と子供と帰っていった。残された未明は、悔しさと哀れな無力感に、涙が込み上げてくるのだった。
一方、蓮井は、李理香に壊された鳥篭をやっと修理し終えた。李理香に浴びせられた罵声や李理香を捨てなければならなかったころを思い出し、涙を止めることが出来ない。心も虚ろになった蓮井は、鳥篭を持ったまま外へ歩き出した。涙のたまった蓮井には何も見えない。ふらふらと路上に出る蓮井。横断歩道の信号は赤になる。トラックのクラクションが鳴り響く。「自殺して償え」。蓮井には、この李理香の言葉しか聞こえなかった。軋む車輪、衝突音、宙を舞う鳥篭・・・そして再び粉々になる鳥篭・・・。蓮井ははねられた。
そんなことを知るよしもない李理香は、昴からの電話に応えていた。昴は取り乱した妻が、乱暴を働いていないか心配していた。李理香は、無事であることと、函館へ行くことを昴に伝えた。昴は自分も行きたいと言うのだった。
ゼブラレコードでは、再び、写真週刊誌に蓮井朱夏のことがすっぱ抜かれていることで騒ぎになっていた。今度は保育園の保育士時代の不倫話である。テレビ出演も抜かれた。柿崎らは極めて李理香に近い人間に情報提供者がいると睨み、調査を開始した。
病室のベッドでうなされる重体の蓮井は、妻・蓮井妙子(仁科亜季子)に囁いた。「私には別れた妻との間にに二人の子供がいる。そのうちの娘が現れた。会って謝りたい。名前は李理香・・・。アルバイトの・・・」。
妙子は李理香の部屋に向かった。
函館行きの用意をしている李理香の部屋のドアがノックされた。妙子である。
「蓮井の妻でございます。蓮井は交通事故で危険な状態です。あなたに会いたいと申しております。事情は分かりませんが、どうか、間に合ううちに顔だけでも見てやってもらえませんか」
李理香は、蓮井に浴びせ掛けた自分の言葉を思い出していた。が、意を決して、妙子とともに病院へいくことにした。
蓮井は集中治療室に運び込まれていた。李理香は、蓮井の手を握った。「李理香です」。蓮井はうっすらと目を開け、「本当にすまなかった・・・・・・」。医者は退室を促したが、李理香はそのままベッドサイドに止まった。
朝日が差し込む病室。蓮井は峠を越した。「あなたのお陰です」と妙子。だが、李理香は「そうでしょうか」と言葉を濁す。李理香は、妙子の視線に耐えられず、そこを静かに去った。
李理香はそのまま函館に向かった。再び基次郎の住所の家を訪れた。相変わらず人のいる気配はない。隣家のベルを鳴らし続けると、やっと女性が現れた。「長沢の文通相手で東京から訪ねて来た」と自己紹介する李理香に対し、家族に連絡を取ってみるから、連絡先を教えろ、と言う。その言葉にすがることにした。
丸一日、連絡は来ず、二日目、電話が鳴った。基次郎の母・杏子(風吹ジュン)であった。杏子は、基次郎と李理香の文通は知っていたおり、李理香は杏子と二人で会うことになった。
李理香は、杏子に「文通は孤独な私にとって、唯一の逃げ場でした。でもなぜ、基次郎はいないのですか」と説明を求める。
杏子は静かに秘密を明かした。
「助けたのは偶然ではありません。基次郎はあなたに会いに行ったのです。」
驚がくする李理香。杏子はさらに意外な事実を伝えるのだった・・・。