エコアナ・藤村さおりリポート あなたは「排出量取引制度」を正確に説明できますか?
[2008年5月2日更新分]
今回の環境と経営のビジネストレンド研究会は、早稲田大学大学院 法務研究科教授の須網隆夫先生の講演。先生が地球温暖化を肌で感じたことから講演は始まりました。
12年以上前に先生がベルギーに滞在していた時は、夏も涼しくエアコンの必要性がなかったため、エアコンが一般家庭や車には付いていなかったのに、最近再びベルギーを訪れた際には、どこの家庭や車にもエアコンが付き始めていたそうです。これは単に経済の問題ではなく気候の要因によるもの・・・・・。目に見える形で気候変動が表れてきたと感じたそうです。
今回の勉強会の主題はEUで行われている「国内排出量取引制度」について。EU型国内排出量取引制度(=キャップ・アンド・トレード方式)は一国の中で企業毎に排出量の上限を義務付けて取引する制度で、これには賛否両論あります。
むむむ???こうやって話を聞いてみると、どうやら私も排出量取引の違いについて、混同していたことが分かってきました。
まず、排出量取引には
(1)京都議定書で定められた国同士の取引制度 と
(2)各国内で自由に取引できる制度
の二つの異なる取引制度があり、整理して考える必要があると先生は言います。
そこで、本題の「国内排出量取引」に話は戻ります。
ECはこの排出量取引市場がEU内部で自己完結するとは考えておらず、アメリカや日本など同じような国内排出量取引制度ができた場合にそれと連結させ、最終的には世界レベルでのEU型排出量取引市場ができれば良いと最初から目論んでいたはずだと言われています。それを裏付けるように、今やEUとアメリカの一部の州でも、排出量市場統一に向けて協定を締結するなど、まさにEUの考えた市場が徐々にできつつあるといえそうなのです。
では日本に目を向けると・・・・日本の温室効果ガス排出量は90年比で、2006年度において6.4%増加しているのだから、今後必死に頑張り、あとは増加分をどこかから買ってくるよりない状況です。こうした中、経産省は、CO2を排出するとコストがかかるのでは商品価格に反映せざるを得なくなり「EUルールは産業の成長を抑制する」と、排出量取引に反対していましたが、ここにきて潮目が変わってきたと先生は言いいます。
先述のEUとアメリカの一部の州との排出権市場統一の動きや、アメリカ大統領選挙もそう。共和党マケイン氏にしろ、民主党のクリントン、オバマ両候補にしろ、排出量取引制度導入に前向きな政索を打ち出しています。
こうした状況を受けてか、2007年12月、経産省が「場合によっては導入も仕方がないのではないか」と方針転換。また今年2月には排出権取引制度は「やります」と言い始め、経団連も「やらなくない」と言い始めたのです。時期は明言していませんが、近い将来、日本もEUルールを導入することになるでしょうし、EUと連結した動きになってくることを前提としながら次の問題を考えざるを得ないだろうと先生は言います。
ただし、EUルールに賛成していた環境省が2006年から細々と行ってきた自主参加型排出量取引制度(40社程度)というのがありますが、これは「自主参加型」であって、EUでの強制型(参加社は12,000社)とは現時点ではかけ離れたものになっているようです。
では今後、排出量取引が誰にとって、どのようなビジネスになっていくのか、先生の展望をまとめてみました。
今回の講演を聞いて、こんがらがった糸が解きほぐれた感があり、底辺の知識が揺るぎないものとなりました。しかし、皆にとって環境における制度は、理解することが先決ではなく、制度にのっとって行動に移すことが、この待ったなしの状況ではまずは先決なのでは、と思いました。