対談
対談〜数字で表れてこないユニセフ活動の本質〜 - 1234 -
事務局: 現在のアフガニスタンの人達は食べることにも困っている状態じゃないですか。そんな貧困状態では子どもたちを働かせてでも食料や住む家を何とかしたいと思う事が普通だと思いますが、親も学校に行かせる事を望んでいるし、子どもたちも学校に行ける事を楽しんでいる様でした。その様な教育に対する高いモチベーションは元々アフガニスタンにあったんでしょうか?
早 水: アフガニスタン自体が決して教育レベルが低かった国ではないんです。シルクロードの十字路ですから、ペルシャ文化や仏教文化も入ってきていましたし、コーランというものもあって。そういう意味では基本的には教養というものをずっと持っていた国だと思うんです。
教育が即生活の手段という考え方は彼等自身も持っていなかったし、文化的な伝統に対する誇りもありますし、知識人はコーランを読めてあたり前という文化があります。
例えば去年の冬を越す為のサバイバルキットを送った時にも、その中に必ず教育キットは入っていました。それは要らないから食料をほしいという声は全くありませんでした。それは文化的なものである以上に、むしろ人間の本能的なニーズだと思いますよ。
小 形: アフガニスタンはタリバン時代にすら、隠れてでも迫害されてでも子どもに教育を与えたいという人とそれに協力する人がいて、教育に対する意識が強いという印象を受けました。
事務局: あのような追いつめられた状況の中で、あれだけ沢山の子どもたちが勉強する為に集まってくるという事は凄い事ですよね。
早 水: 教育というのは人間が成長していく段階で、自分と自分の家族が食べていくことしか見えないところから視野を広げて、隣の子どもはどうなのか、隣のコミュニティーはどうなのか、その国の子どもたちは今みんなどんな事を考えているのか、世界はどうなっているのか。
そうやって徐々に視野を広げていくプロセス、そしてそれを理解するのに必要な知識とスキルを身に付けさせるプロセスだと思うんです。
そう考えると教育の場が絶対必要になってくると思うんですよ。それを親がどう理解するかだと思うのですが。
早 水: 客観的に見ると、アフガニスタンの識字率は非常に低いんですよ。女性においては5%とも3%とも言われていて、100人のうち97人が文字が読めないのです。その数値データから見ると、他のどこの国よりも低いくらい悪いですよね。
でも、親子両方の教育に対する期待がもの凄く強くあるんですよ。やはり基本的に教育が大事であるという意識をもった国民なのではないでしょうか。
小 形: 暫定政権が出来て、アフガニスタン復興会議の時に自分達でどの分野に一番支援が必要なのか優先順位を決めましたが、その中に教育という分野がしっかり入っていました。
そして、アフガニスタン暫定政権が『子どもを学校に戻すことが私達の今一番優先課題の一つです』と言ってユニセフの事業を全面的に支援した結果、3月23日には178万人の子どもが学校に戻ることができました。
これは、アフガニスタンの人達自身が、子どもが学校に戻ることはアフガニスタンの目に見える復興と暫定政権の成功の証であると認識し、一生懸命取り組んだことに加え、アフガニスタンのエリート層の人達の教育に対する意識が非常に高かったことがあると思います。また、このような努力に対する国際社会の支援も強かったと感じました。
早 水: タリバンがその反面教師としての役割を果たした様な気もします。それまで勉強したいのに出来ない状態でみんなずっと抑圧されていたという意識が、今暫定政権になって一気に出てきたのではないでしょうか。
小 形: 女の子達にとっては特に嬉しいですよね。これまでは学校どころか外にも思うように出れず、ずっと家の中に閉じ込められて家事の手伝いをするしかなくて、将来は全く見えなかったんですから…。
以前にユニセフが作ったソマリアの教科書を見せていただいたのですが、国語の教科書に女の人がコンピューターを使って働いている絵が載っていたんです。その教科書の作成に携わったユニセフの方からは、女性の社会進出が難しいイスラムの国でも、子どもたちは教科書で女性がコンピューターを使って働いている絵を見ることにより、「女性でもこのような職業につくことができるのだ」と感じ、自分の将来の可能性を広げることができると伺いました。
そういった部分でも、ユニセフが子どもたち自身の将来を広げる手助けをしている事が見えて、ユニセフの工夫や理念を感じることができ、ユニセフは良い仕事をしているなと思いました。
アフガニスタンでも、今後教科書作りは大変だと思います。子どもたちに「価値観」を伝える仕事になりますから。アフガニスタンの人達自身がどの様な人材の育成を目的にしているのか、そしてその為にどの様なシステムや教科書を作っていくのか、ユニセフがそこにどうやって関わっていくのかというのは、非常に大きな課題だと思います。
特に、教科書作りの場合は、先進国の感覚と基準だけで教科書を作った結果、その国で受け入れられないということにならないよう、気をつける必要があります。
早 水: そういう事は実際にその国にいないと絶対に分からないですよね。ユニセフの活動はその教科書作り一つをとっても、現地スタッフを含めて裏で働いている人達が沢山いるわけですからね。
小 形: そういうユニセフならではの活動や良さを皆さんにも知っていただいて、「あなたの1ドルにより○○を配ることができました」といった成果だけではなく、その他の面でも重要な支援活動があるという事を分かっていただけでば良いですね。
事務局: 今日のお話を聞いていていくつか感じた事があったのですが、NGOの活動は、最終的に支援を受ける人たちに一番近いところでディレクションをしているので、数字的に表現する事が容易な様ですが、数字で表現できる事の積み重ねだけでは効率良く機能できなくなってしまうという事(部分最適の積み重ねは全体最適に繋がらない!)。
もう一つは、ドナーに対する貢献度の説明も数字以外の物差しが必要なのではないかという事。例えば工夫とかアイデアの評価基準が数字以外で見える様になると、より納得するのではないでしょうか。
また、アイデアを生み出す為には人間的なエネルギーなどにかかるコストや研究費も必要であるという事をもう少しフォローされれば凄く分かり易くなるのかなと思います。
また、ユニセフは全体を統括するプロデュースという立場で「ビジョンや戦略の構築」を行っているので活動の見えにくい部分があるのであって、違った角度から考えると、市場の評価につながりにくい見えにくい部分をやっているからユニセフとしての価値があるのだといえる様に思います。
“数字に表しにくい活動”が“数字となって見える活動”を生み出しているとは言えないでしょうか?その辺りをどうやって表現していくのかという事は今後のテーマだと思うんですけど…。
今日はありがとうございました。
<こぼれ話>
女性が教育を受けることによって結婚年令が上がる。
そうするとその期間に衛生知識や保健に対する意識(例えば妊娠・出産の知識やエイズの問題など…)や子どもの育児の問題などを身につける事ができる。
従って生まれてくる子どもたちに対する衛生も進み、幼児死亡率が下がる。そして子どもをたくさん産まなくてもちゃんと育つという自信を持てば、多産多子の状態から少産少子に移る。これが究極的には人工増加を抑制することに繋がり、生活環境も安定する。
いかに教育が大切であるかという事は、人間の権利としての教育であると同時に様々な意味での社会の自立であり、地球規模で考えた時にも教育の重要性というのは結果的にその様な側面も持っている。
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対談04-1
勉強を楽しむ子供たち。
対談04-2
たくさんの子供たちが学校に戻ってきた。
対談04-3
学校の帰りに働く子供たちも多い。
対談04-4
勉強道具の入ったバックを大切にする子供たち。
対談04-5
子供たちは貧困を感じさせないほど明るい
対談04-6
女の子が教育を受けられるようになった事は、アフガニスタンの歴史的な大きな出来事である。
対談04-7
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