対談
対談〜数字で表れてこないユニセフ活動の本質〜 - 1234 -
事務局: そこで今日の対談ですが、お二人が現地視察を終えられて、小形さんから外務省のユニセフ担当という観点からユニセフの活動について率直な意見や疑問をぶつけていただき、それに対して日本ユニセフ協会の早水さんよりお答えいただく事で、ユニセフの活動がよく見えてくると思いますのでよろしくお願いします。
小 形: 私は今まで2年半ユニセフを担当していましたが、一般の方から「ユニセフは子どものために具体的にどういう仕事をやっているんですか?」という質問を頂いて説明に困ってしまうケースが多かった様に思います。
早 水: カブールでお話しした時も、ユニセフの活動が見えにくいっていう話でしたよね。
小 形: 例えば、どの位の量の薬を配っているとか教科書を何冊配っています、というのは非常に説明し易いのですが、教育システムが機能するようにこの様な事をしていますとか、男の子に比べて学校に通える女の子が少ないという状況を改善するためにこの様な事をやっていますというような説明を具体的な事業を取り上げて説明して、こういう成果がありましたと説明する事は大変困難です。
まして、ユニセフは160カ国位で活動をしていて、更に長期で事業計画を立て、子どもに関わる全ての仕事をやっていますから、ユニセフの事業を説明するとなると、どうしても各国における個々のプロジェクトの特徴をまとめた抽象的で一般的な説明になってしまいます。
外務省としては、日本の援助により何処にどの位の成果がありましたといった“日本の成果”を説明する事が求められますので、ユニセフについても、ユニセフに拠出する意義を理解頂けるよう、また、援助が有効に使用されるよう、ユニセフと協力して、子どもたちに配布する教材に「この教材は日本からの貢献により作られました」といったような文章を入れるなど、日本の貢献をアピールするためのさまざまな工夫をしています。それでも、国際機関を通じた援助の場合は、”日本の成果”を目に見えるものとし、数値的に示すことはその活動や組織の性質上、とても難しいと思います。
私は、今回のアフガニスタン視察では、「ユニセフの活動をわかりやすく説明する」という点にも留意して実際の現場を見てきたんですが、やはり説明し易いものと説明しにくいものが別れてしまうなというのが最終的な印象でした。
事務局: 具体的に例を挙げていただけますか?
小 形: 例えば、学校では、ユニセフのロゴの入ったテントがあり、そこでは子どもたちがユニセフのロゴが入った鞄や教材を持って勉強していて、ユニセフの活動とその効果は一目で理解できる非常に分かり易いものでした。それに対して、難民の帰還センターに行ってみると、テントだけユニセフのロゴのついたもので、そこでユニセフが実際に何をやっているのかは分かりにくいものでした。
早 水: 現場での説明もちょっと混乱してましたね。
小 形: 後からの説明で、難民帰還センターで予防接種を行っているのは保健省だけれど、ユニセフはワクチン供給や注射を打つ人の研修を実施して、間接的に帰還難民の子どもへの予防接種の実施に携わっていることが判りました。このようなユニセフが政府やNGOと協力して間接的に行っている活動は今回の視察である程度見えてきましたが、ユニセフの方から受けた説明でも、ユニセフが直接実施せず、様々な他機関と協力して実施する事業や、制度の改善や人材育成に関わるソフト面での事業に関する説明となると、やはり途端に分かりにくくなるとの印象を持ちました。
早 水: わかりますね。基本的なユニセフのポリシーは本部からでているペーパーを見れば分かると思うのですが、実際フィールドのオペレーションで何を一番彼らが念頭におきながらやっているかというところで、見えにくくなってしまうのではないかという気がします。 「ユニセフの仕事は国あるいは地域の自立を支援する」という認識がユニセフという組織全体の基本だと思うんですよ。 ユニセフの仕事は、例えば今回のアフガニスタンに関してユニセフが一番関心があったのは教育面なんですけれども、やはりその国の教育省がいったいどこを向いているのか、それが本当にユニセフがベースとしている『子どもの権利条約』に基づいたものだろうかと。それがかつてのタリバンに対しては距離を置かざるを得なかった理由ですよね。
小 形: タリバン時代には、女の子は学校に通えませんでした。男の子についても、例えば算数で、「何人殺して更に何人殺したので合わせて何人でしょう」といった軍事的な教育がされていたと聞いたことがあります。
早 水: あと、銃が何丁あったとかね。そういう公的な教育に対してサポート出来る場合と出来ない場合とがあったんですね。ただ、一方でタリバン下という中にあっても寺子屋的なホームスクールに対しては公式チャネルを通じずにローカルNGOコミィニティーを通じて随分支援はしていたんですよ。女の子を集めたホームスクールなどですが。そういう意味では基本的にはやはり「自立支援」と「子どもの権利条約に定める子どもの権利の実現」がまず基本なんです。そうすると今のアフガニスタンで見にくくなっている部分というのは、現在の政府がかつてのタリバンとははっきりと違う形で民主的な政府を作ろうとしている。そして教育省の改革もなんとか行おうとしている時に、ユニセフの立場としてそれはこちらがやりますよという事では絶対なくて、「一緒にやりましょう!」「一緒に考えましょう!」という事になるんです。 そうすると教育省の意向をどこまでリードして、且つユニセフの理念と上手く融合させた形でどの様なプラン作りが出来るか。アフガニスタンの現在はまだプラン作りの段階だと思うんです。中心的な課題はね。 もちろん“バック・トゥ・スクール”というのは国中の人たちに「平和」を実感してもらう上で、ユニセフの強い分野を生かして、50日間であれだけのロジスティクスを行ったわけですから大変な実力を見せたと思っているんですけれどね。 あれは一つのアフガニスタンの国民に対して見せる事業だったと思っています。しかしこれから必要なのはそれを如何に定着させるかという事。そして、定着するためにはユニセフがいくら頑張って10年20年と続けていくだけで終わる話ではないと思っているんです。 その為には、国の形態がどうなるのか?教育省自体はどう考えるのか?それに対してコミュニティーや県の行政がどの様に関与していくのか?それがその国の教育システムの将来に対してどの様な意義を持つのか?それがしっかり発展的なプロセスの最初のステップとして位置付けられるか?その辺を凄く気にしていると思うんです。
小 形: これに対して、「国連機関の活動」と聞いた時、多くの人が思い起こすのは、紛争や自然災害で多くの人が死んでいるような状況に対応するため、とりあえず生存を確保できるように食料や毛布を配る、といった人道的支援活動だと思います。その様なイメージを持っている人にとってはやはり、ユニセフが行っている事業は非常に分かりづらいのではないかと思います。
早 水: ユニセフは現場で子どもの、特に生存に関わる問題については直接的に関与していきます。去年のドンキーキャラバンもそうなんですが、毛布を運び込むためだけにもの凄いお金と人手を注ぎ込んだりしますよね。それは正にワンショットのサバイバルであって、その1つの分野として絶対やらなければならない。しかし一方で、非常に長期的な視野のもとでこの国の教育システム・保健システム、それから教育養成システムをどうするか、それに対してコミュニティーデべロップメントとの関係では学校をどうやって使っていけるのかという話になってくると、これはやはりプランニングが中心の仕事になってきます。それが確かにドナーの方から見ると分かりにくいとは思いますが、物の形で表れるものだけではないという事を理解していただきたいんです。
小 形: 本当はそうなんです。その国が発展できるよう、各種制度がきちんと機能するためには、ソフト面での支援が欠かせないんです。しかし、一般的に、政府、民間を問わず、ドナーは、「形として残り目にみえる」支援を重視し、例えば、建物を建てて、「これは○○の支援によるものです」という看板を立てる方法を好む傾向があると思います。
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対談写真02-1
各国の支援が国旗で表示されている。
アフガニスタンの現状01
親も子供も教育の重要性をしっかりと認識している。(仮設テントの教室)
アフガニスタンの現状01
ユニセフのマークの入ったバックを手にたくさんの子供たちが学校に戻ってきた。
対談写真02-2
子供たちの勉強ノート
アフガニスタンの現状01
連日たくさんの国外避難民が帰還している。
アフガニスタンの現状01
帰還民受付センター
アフガニスタンの現状01
帰還民はこのセンターで麦・石けん・飲水用のポリタンク・バケツ・毛布・シートといった支援物資を受け取る。 (日本からの支援による小麦)
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