第10回 2005年3月17日(木)放送 あらすじ

#10 刺青

 雪の夜、勇吉(寺尾聰)は、朋子(余貴美子)に電話をかけ、ある頼み事をした。それは六介(麿赤兒)に会う仲介をしてもらうことだった。「拓郎(二宮和也)が世話になっているお礼を言いたいんです……もちろん拓郎には内緒で……」。
 その翌朝、勇吉はリリ(森上千絵)に夕方から出掛けることを伝えた。六介に会うためだ。梓(長澤まさみ)は美可子(清水美砂)のところに銀細工を習いに行っていて姿は無い。
 まさに梓が美可子の部屋で銀細工に磨きをかけているその時、髪を振り乱した女が部屋に飛び込んできた。女は梓が声をかけるのも聞かず、あちこち探し回るとそのまま消え去って行った。こわばる梓……。
 そのころ「森の時計」ではある話題で盛り上がっていた。相場(梨本謙次郎)の話では、なんと滝川(納谷真大)と美可子が愛人関係だったというのだ。それが滝川の妻・珠子(杉田かおる)の知るところとなり、大騒ぎなのだという。常連が盛り上がっているところに、なんと珠子が現れた。梓のところにやって来た女だ。佐久間(久保隆徳)が気配を消して出て行こうとする。珠子が呼び止める。「知っていたのね、佐久間さん。口裏を合わせたでしょう!」。逃げる佐久間、追う珠子。痴話げんかの余震が常連を襲う……。ミミ(高橋史子)だけは「人の不幸って楽しい」とニッコリ。
 その騒ぎが収まると、顔を腫らした滝川が隠れるように現れた。美可子の夫の四十九日の法要の時、喪服姿の美可子にぞっこんとなった滝川は、妻がいるにもかかわらず自分のペンションに連れて来たのだと言う。アパートの部屋代も滝川が払っていた。なのに滝川は「タマコガ、カワイソウ」と腫れた口で独白しサメザメと泣くのであった。
 夕方になり、勇吉は六介への手土産のブランデーを買って朋子の車に乗った。美瑛の喫茶店で、勇吉と六介は対面した。「拓郎の父の勇吉です。長いことお世話になっていたのにご挨拶もせずご無礼いたしました」と自己紹介する勇吉。六介は手土産のブランデーを見ながら「あんたは変な親父だ、というより異常だ。心配しなかったのか。探したのか。父親失格だな。反省していても詫びても許さないのか。あいつは澄んだ目をしている。ナイーブだ。理解しようとしたのか」と畳み掛ける。さらに六介は「今やあいつは俺の息子だ。あいつを乱すな」とピシャリと勇吉を拒んだ。だが、「このブランデーは今夜、あんたからと言わずにあいつと飲む」とほんの少し救いを残す六介に、勇吉は打ちのめされるのだった。
 工房に六介が戻ると、拓郎はまだ制作を続けていた。厳しく指導を始める六介の思いを拓郎は知る由も無かった。
 勇吉と朋子は「北時計」に帰り着きそこで話し始めた。朋子も、なぜそこまで息子を拒むのか、疑問を口にした。ゆっくりと封印した記憶をたどる勇吉。「きっと生理的なものです。事故を聞いてニューヨークから戻って来た。かみさんの遺体のそばで、拓郎が泣き喚いていた。そしてあいつは、腕を捲り上げて『死神』と彫られた刺青を私に見せたんです。ゾッと鳥肌が立ちました。こいつは死神だ、と」。
 勇吉は「森の時計」に一人で戻った。と、裏口に人がいる。美可子であった。中を開けて二人は話を始めた。美可子が今度の騒ぎのことを説明する。「あの人優しかったんです」「富良野って地名が気に入って奥さんのこと気にならなかった」「噂なんか気にしないでこのまま富良野にいる」「体の関係ができると相手が死ぬの」「マスター、私と組みません?」……強い女のサガを見せ付ける美可子だった。
 焼き物に没頭する拓郎の元を朋子が訪れた。陣中見舞いと言いつつ、拓郎の刺青を確認するためだった。シブシブだが、拓郎は腕を捲り上げて刺青を見せた。
 「あんた、これを父さんにいきなり見せたんだって。どうして?」。
 拓郎は「お母さんに刺青を見せてれば、あの事故は起こらなかった。錯乱した僕は、もう隠すまい、父さんを見たら見せなければって……」と答えた後、「父さんが言ってましたか、そのことを。やっぱりそのことなんですね」。
 朋子が帰った後、拓郎は、ぼーっと燃え盛る窯の温度計を見つめていた。
 そのころ、勇吉は一人で暖炉の火を見つめていた。そして、めぐみの火葬された場面を思い出していた。「熱いんだろうな、ここで焼かれるのは……」。

キャスト

湧井勇吉 … 寺尾 聰
  ○
湧井拓郎 … 二宮和也
皆川 梓 … 長澤まさみ
  ○
井上美可子 … 清水美砂
  ○
水谷三郎 … 時任三郎
水谷美子 … 手塚理美
滝川珠子 … 杉田かおる
  ○
九条朋子 … 余 貴美子
  ○
湧井めぐみ … 大竹しのぶ

 ほか

スタッフ

■脚本
 倉本 聰

■監督・演出
 宮本理江子

■音楽
 渡辺俊幸

■制作
 フジテレビジョン
 フジクリエイティブコーポレーション(FCC)

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