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第29回(2001.07.08)
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巻上公一

羊の声(メーメイ)のできる巻上公一です。
牛の声(モーメイ)なんてのもできます。
これすべてホーメイの親戚です...........わけのわからない導入にて失礼。

ホーメイは、このところほくが得意にしている不思議唱法です。2つとか3つの音を 同時にコントロールする声の技術で、南シベリアのトゥバという国が世界で一番盛んなところで、95年に行って以来毎年行ってます。距離は近いんですが、行くのに 3日もかかってしまいます。実は、今年も行くつもりで、あさって出発なんで、こころはそわそわしています。

そう、トゥバにはたくさん羊がいますよ。ラクダも、ヤクも、トナカイもいます。これみんな遊牧してるんです。もちろん遊牧しながらほーめってる人もいますが、ホーメイ歌手は尊敬されていて、うまいと一生食いぱぐれなしです。

これは4年ほど前のことです。イルクーツクから飛行機に乗って、トゥバの首都クィズィルに行きました。この飛行機36人乗りのなんで、たいてい満員になります。ぐすぐずしていると席がなくなり、立ち乗りになるという凄い飛行機です。席にあぶれると通路には座らせてくれません。荷物扱いということなんでしょうか、荷物室に立っていることになります。以前、羊が乗っていたという噂もありました。

大きなバスの停留所のような飛行場に降り立つと、バンが迎えに来てくれました。友人のオトクンのともだちバロージャが、うしろの扉を上に開くと、ハエが空中にたくさん逃げました。中からは、羊の匂いがプーン。バンをよくみると「北海道拓殖銀行」と書かれてます。日本製の中古です。そういえばイルクーツクでは、「北方領土返還」と書かれた街宣車をみかけました。それもどうやら中古なんです。あのメッセッージはイルクーツクじゃ誰も読めませんからね。ロシア語で書いておかないと意味がないとはじめて思いました。

バンは猛スピードで街に向かい、大きなホールの前で止まりました。そしてすぐ楽屋に通されると、食事が山のように出てきました。(こんなしあわせな楽屋はめっ たにありません) むしゃむしゃ食べて、満員の会場の席に案内されました。まん中 のまん中の特等席です。驚いたことに大統領の隣でした。こんなVIP扱い日本で慣れていないので、落ち着きません。

それは知り合いの歌手クーラル・ナジェージダさんの50歳の誕生日コンサートでした。彼女はトゥバの国民歌手ですから、さすがに盛大でした。もちろん、ぼくも出演。ぐちゃぺちょめろろへ〜とか声のパフォーマンスです。それをナジェージダさんがマネするんですが、それがなんとも可愛らしい。

コンサートの後は、パーティーです。やはりまん中のすごくいい席に座らされました。トゥバでは、羊が一番の食事です。どんなものも羊味がします。ぼくの目の前には、羊のお尻のまっしろな脂肪のかたまりがでーんと置かれました。トゥバではそこんところが最高のごちそうなんだそうです。とても日本人には耐えられません。「ここがもっともおいしいですね」ぼくはナイフを持って、率先して肉を切り取り、みんなの皿に分けます。自分のところにはほんの少し。

そうこうお茶を濁しているうちに、ダンスタイムです。ロシア式アコーディオンのバヤーンとエレキギター、キーボードに付いているリズムボックス。これをバックに歌手たちが歌い踊ります。トゥバもロシアに所属してますので、ロシアでもっとも有名な日本の歌「恋のバカンス」、これをぼくは何回もエンドレスで歌うはめになりました。そして老いも若きもディスコなダンスを踊りまくりました。

この時、はじめて結婚まもない妻を連れていきました。
そして、パーティーの後、ナジェージダさんの部屋に案内されると、これがベッ ド、これが食べ物と、説明し、ナジェージダさんの家族は出ていってしまいまし た。知らなかったのですが、自分の家を明け渡すというのが最高の接待らしいです。でも、そんなこと知らない日本人は、残されて途方にくれるばかりです。(ライブのMCにつづく)

次は、ヒカシューの名付け親、プヨプヨ、パイクの作曲家にして変形類研究家。環境音楽の草分けユニット、イノヤマランドで活躍する山下康です。


巻上公一

モダン・ヴォーカリスト

「なぜぼくに声の依頼がないのでしょうか」と知りあいたちの声の出演にうらやんでいる。23年も続くヒカシューはもちろん、ベツニ・ナンモ・クレズマーでも、その歌は超絶。年をおうごとに磨きがかかってきた。世界的に活躍するヴォイスパフォーマーである。近年は口琴という埋もれた楽器に取り憑かれ、スイスやサハ共和国の口琴奏者と共演、口琴人気の火付け役となった。

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