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第4回(2000.6.22)
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松本絵美



N氏とはじめて会ったのは、もう11年前のことである。私が今の会社(現ロボット(※1))に入社した当時より、あの落ち着いた風貌(?)のためずっと年上だと信じていた彼が、実は私とほぼ同じ歳であると知らされ軽い衝撃を受けた事を今でも記憶している。
彼とは一緒に仕事をするようになってからまだ5年だが、その前の数年間がいわゆる会社の呑み友達であったため、つき合いはもう約10年以上になる。その間、N氏には本当にいろいろと驚かされることが多かった。
まず最初に驚いたのは、知り会ってすぐの頃、大学時代に制作したというアニメーション作品「TV-UOテレビウオ」を見せてもらった時である。物語の面白さはもとより作品のクオリティの高さに驚いた。ただ遊んでばかりいた自分の学生生活を振り返ると、「この人はずっと前から本気なんだ」と、妥協を感じない姿勢を見せられた気がした。そして当時CMディレクターをしていた彼が本当にやりたいことは、これなんだなと思ったものである。

と…ちょっと回想文風?に野村氏を語ってみましたが、付け加えておきますと、私、松本絵美は、彼と仕事仲間及び遊び友達であると共に、よくケンカをする仲でもあります。でも、そのほとんどは仕事に関する事ですが…。
今回の「羊-関」はそんなバックステージにいる私が知っている野村氏に関することと、制作現場の話を少し語りたいと思います。

野村氏は本当にいろんなことが自分でできる(やりたい)器用な?人です。でもそれにはう〜んと努力もしてる人です。学生時代に制作した作品を見せてもらうとそのことがよくわかります。またその作品の一つ一つが実に良いのです。例えば『僕の展開図』(のり代のついた平面の展開図の事、組み立てると野村氏になる)などは笑えます。
組み立てるとちょっと猫背の野村氏の立体が出来上がるしくみで、こんな発想はどこからでるのか本当に感心してしまいました。また、野村氏(主人公が野村氏そっくり)が登場する短編の漫画3編などは、これまた実に哀愁があふれるもので味わい深い作品です。少しカッコ悪い?主人公が切なくておかしくて…、現在ある野村氏の素(元素)がそこにはあります。



ストレイシープを担当していて感じることは、そうした作品の延長上に「ポー」が生まれたんだという事。ストレイシープは生まれるべくして生まれた作品で、彼がアニメーション作家として再活動するために生まれたキャラクターなのです。もちろんストレイシープに関わるすべての方の支えがあってこそのことですが…。

そんなこんなで、前述のような彼の埋もれた作品を世に公開すべく「野村辰寿のホームページ」を、我が社のサイト《 http://www.robot.co.jp 》で立ち上げようかと思っております。そこには、その「野村辰寿の素」というようなコーナーで、今までの作品等も紹介できたらと考えています。企画を始めたばかりなので、立ち上げにはもうしばらく時間はかかりますが、皆さま乞う御期待!ということで、宜しくお願いします。




ストレイシープの作品の制作現場はとても楽しいものです。もちろん、そうは言っても、終盤の仕上げになる編集作業に至までの作者の生みの苦労はあるのですが、関わっていただいている皆さん(制作スタッフの方々)と、一つのものを作りあげる作業の過程は、本当に大好きです。特に最終の作業になるMA(※2)の現場はそれをとても実感できます。

まず当日行う作業として、SE(音効)を入れる作業があるのですが、SE(音効)を担当の小林さんの無駄のない作業には恐れ入ります。小林さんがスタジオに入る前に仕込んだ音は、タイミング、音色?ともに一発OKで、その音入れの所要時間は約1時間弱、これは驚異です。動かない絵が、まるで動いているかのように立体的になる瞬間がそこにはあり、ポーの行動が手に取るようにわかる気がします。
(オンパの小林さんは、野村氏がCMのディレクターをしていた頃からいつもお付き合いいただいている方で、ロボットが制作するCMのほとんどのSEを担当しています。)

その次に映像に音楽を入れていく作業ですが、作曲のめいなCo.(メイナカンパニー)の張さんが作った音楽を、当日スタジオで聞く瞬間がとても好きです。ストレイシープの物語をぐっとドラマチックにしてくれる無くてはならない音楽が入ると、いよいよ作品完成の実感が沸いてきます。
(ここで一言 → 張さん、浦さん、編集後に出来上がった映像(音無し映像)を渡してから、ほぼ5、6日後にMAの現場になるので、いつも作曲に時間が無い中、音楽制作をお願いして本当に申し訳ございません。)

その後、いろんな出演者の方の声録り作業へ入っていきます。まず、野村氏が映像に合わせて感情をこめたセリフを一度読み、出演者の方へ説明してから実際の録音が始まるのですが、そのほとんどはミュージシャンの方なので、はじめて声の出演を体験される方も少なくありません。しかしながらそこはさすがに表現者、こちらが考える以上のキャラクターをつくり出していきます。これも音楽とは別の一面を近くで体験できるとても貴重な時間。楽しく作品に参加して頂いた皆さん、本当に感謝しています。

そしてすべての音入れが終わると、いよいよ原マスミ氏の登場。
(野村氏の演出のこだわりとしてナレーションとポーの声の原さんの声録りはいつも最後の作業になります)
私はいつも原さんとスタジオで会うのを楽しみにしています。もちろん普段お会いするときも面白い方なのですが、なんと言っても原さんのポーになる瞬間は実に楽しいからです。これはスタッフであることの喜びの一つと言えるかもしれません。

そんな音入れ作業が終わると、ようやくクライマックスがやってきます。ミキサーの内山さん(小林さん同様に、ロボットのCM作品でも大変お世話になってる方)と、野村氏、スタジオにいるスタッフすべての人々によって、作品を完成させていくのです。スタッフは多い時で10名以上スタジオにいます。音楽プロデューサーの奥村さん(これまた、野村氏のCMディレクター時代からのつき合い)と、実際に音楽制作をしていただいてるめいなCo.の張さんと浦さん、原さん、私、制作担当の佐藤、ミキサーの内山さん等々。作品を作り上げていく現場を本当に実感できる瞬間が、深夜近くに訪れるのです。
何度も繰り返し、音のレベルや位置を確認して出来上がった完成作品をみんなで試写するとき、なんともいえない達成感がそこにはあります。だから深夜になっているにも関わらず打ち上げに出かけて行くのでした。(本当?)

スタッフの方には、仕事としては決して楽なスケジュールや、それに見合う十分な制作費をお支払いできないのが現状ですが、皆さんも私と同じストレイシープの制作を楽しんでいただいてる…と信じています。そして多分皆さんから愛されている作品であるからこそ御協力を頂いているのだとも…。この場をお借りしてお礼を言わせていただきます、本当にありがとうございます。そしてこれからも末長くお付き合いの程宜しくお願いします。

※1 ロボット … 野村氏が社員として所属の会社名。
※2 MA作業 … 完成した映像に音を入れる最終仕上げ作業。

さて、バックステージ話はこれでおしまいです。次回「羊-関」の私からの指名は、お待ちかねのポーの声の原マスミさんです。原さんはミュージシャンであり、画家であり、テレビでおなじみの声の人であり…と、様々な一面をお持ちの不思議な方です。次回をどうぞお楽しみに

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