数々の有力選手を指導する長光歌子先生が
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.26

対談企画 ゲスト:岡部由起子さん

元選手で現在はISU(国際スケート連盟)の技術委員であり、ISU公式大会で審判やテクニカルコントローラーをされている岡部由起子さんにお話を伺いました。

オリンピックについて

岡部由起子さん

岡部さんにとってオリンピックとは特別な存在だったりしますか?

はい!もちろん特別です!私自身は選手としてオリンピックに出場はならなかったので、オリンピックへの想いは強くあります。現役の頃ペア、シングルでオリンピックを目指していたのですが、ペアの枠が無くて叶わぬ夢で終わりました。
ですからソチオリンピックにジャッジとして参加させていただけたのは幸せでした。羽生選手が金メダルを獲得し、髙橋選手の爽やかな心洗われる演技、町田選手の大活躍、あの場でそこに携われたことは、一生の宝物です。

あの時大輔はフリーの最終グループで羽生選手の前の滑走順だったんです。大輔にとっては多分これが最後のオリンピックになるであろうフリーの演技を終えた後、観客の皆様へのあいさつをサッと早めに切り上げてリンクから上がってきました。そしてキス&クライで中々点数が出なくて待っている時も「早く点数出して。次はユズルだから。」と言っていました。その時は自分の生徒ながらいいやつだなって思いましたね。

そんなことがあったんですね!平昌オリンピックではどんなドラマが待っているのかワクワクしています。

ISU(国際スケート連盟)のお仕事

岡部さんは最近、ISU内で大会のオフィシャルとしてだけでなく、他のお仕事もされているとお聞きしました。

はい、現在はアジア地域のフィギュアスケートのレベルアップにも力を入れています。日本、中国、韓国に関しては基盤ができていますが、それ以外の国はまだまだスケートに関しては発展途上です。そういった地域のボトムアップに協力しています。2017年にはSEAゲームス(東南アジアだけのオリンピック)が行われたのですが、その大会に初めて冬のスポーツ、フィギュアスケートとショートトラックが追加されたんです。その大会ではISUからの指名を受け運営の調整役として参加しました。トップ選手の育成も大切ですが、今ISUでは、発展途上の国々の選手たちの底上げにも大きな関心を寄せています。

ISUの役員やスペシャリスト、ジャッジさんも日本の代表なんですよね。

はい。日本人がISUの中で立場を確立していくことで、日本に対する世界の見方も変わりますので、こういった活動もしっかりとやっていきたいと思っています。

私は常々申し上げていますが、岡部さんは日本のスケート界を世界へ引っぱっていく存在だなと思っています。

とんでもないです。今私がこの技術委員という立場になれたのは、日本の選手たちが今日まで努力して頑張ってくれているおかげですし、選手と苦楽を共にされているコーチの方々のおかげです。また、選手、コーチ、連盟、メディアそしてお客さんを含め日本のスケートに関わる全ての方々のおかげだと思っています。皆さんに支えられて私は選ばれているので、いつも凄く感謝しています。その想いをできるだけ選手の方々に還元したいと思っています。

岡部さんの想いは選手にとってもコーチにとっても凄くありがたいものです。

フィギュアスケートの魅力

改めてこういったお話を岡部さんとする機会もあまりないので聞きますが、ずばり岡部さんにとってフィギュアスケートの魅力は何だと思いますか?

「表現」に尽きると思います。「表現」を「評価する」ということは非常に難しいです。しかし、面白い。そこが魅力なのだろうと感じています。「フィギュアスケートの表現」というものは、ただ単純に才能だけではできないことだと思います。試合を経験していくことや、人生を積み重ねていくこと、本当に色々な要素が合わさってこそ選手それぞれの表現というものが生まれるのだと思っています。選手によってはそれが上手くできない人もいますし、若さ故に表面的になってしまう選手もいます。髙橋選手のように振付師の意図したものを汲んで、さらにそれを超えて自分の表現を生み出し、昇華させる選手もいます。また、宮原選手のように毎日地道に、本当に地道に練習を重ね、さらにフィギュアスケート以外にもバレエやパントマイムなど色々な経験をして、一つのプログラムを創り上げていく選手もいます。十人十色の軌跡をたどって創り上げた表現と技術を、同時に評価するという競技は他に例がなかなか無いのではないでしょうか。

その通りですね。本当に人それぞれ、性格も身体的な能力も違いますし、そんな中で選手は素晴らしい演技をして、感動させてくれる。本当に面白いですよね。

はい。そういった面では選曲もとても重要だと思います。年齢や経験も考慮して、選手それぞれに合った選曲をして欲しいです。たまに「この曲を踊る力はまだ備わっていないのに…。」と思うこともあります。時として振付師が提案した曲と、選手自身が踊りたい曲が違ったりしますよね。でもそれは、洋服選びと同じだと思うのです。自分が着たい洋服が必ずしも似合うとは限らなくて、プロスタイリストさんが見立ててくれる洋服の方が似合ったりします。振付けや選曲は慎重に行わないといけません。洋服と同じで歳を重ねると、似合うようになる、合うようになる事があるというのも似ていますよね。

全くその通りだと思います。本当に選曲は難しいですよね。
選曲でいうと今シーズン、世界ジュニア選手権に選ばれた星南君と須本(光希)選手のフリーは2人とも「レ・ミゼラブル」じゃないですか。2人とも夏の合宿からずっと一緒というのもあるのですが、私は星南君の曲を他に変えてみてはと思ったことがあるんです。でも彼はこの曲に相当想い入れがあるらしくて、自分で編曲してきたんですよ。

ご自分で編曲したのですか!? それは凄いですね!

はい。最終的にはプロの方に調整して貰ったんですが、曲の切り貼りや並び替えは自分でやったんですよね。さすがにそれだけ強い想いを持った曲は辞めさせられないですよね。

選手それぞれ想い入れのある曲というのはありますものね、是非お気に入りの曲で頑張って欲しいです。

今日はありがとうございました。

岡部由起子さん
長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)