数々の有力選手を指導する長光歌子先生が
フィギュアスケート界を楽しく語ります!

歌子の部屋

vol.26

対談企画 ゲスト:岡部由起子さん

元選手で現在はISU(国際スケート連盟)の技術委員であり、ISU公式大会で審判やテクニカルコントローラーをされている岡部由起子さんにお話を伺いました。

全日本選手権、男子シングルについて

岡部由起子さん

昨年末の全日本選手権を振り返っていかがでしたか?

まず男子シングルはフリーに進んだ全体を見ての印象ですが、ボトムアップがしっかりとなされてきたと感じました。特に演技構成点で4点以下をとる選手がほとんどいなかったです。(演技構成点:スケーティング技術、技のつなぎ、演技力、構成、音楽の解釈の各10点満点評価)

以前はジャンプだけという選手もいましたが、確かに皆さんスケーティングが良くなってきていますね。

はい。特に男子選手はスピンが良くなってきたなと感じています。滑るという事がスケートにおいては一番大切な事ですので、そのあたりの底上げも大変良いことだと思います。スケーティングを磨くということは、選手にとってもコーチにとっても地道な作業なので大変ですけれど…。

みんなスピンがうまい中で私たちが教えている(三宅)星南選手にはいつもスピンで冷や冷やさせられます(笑)。まだまだ体力が追い付いていなくて…。

そうでしたね。

彼のスケーティングは本当に伸びしろがあると思うんです。でも最近身長がどんどん伸びて、何とか体力をつけていかないといけないと思っていて、大輔が練習に来た時に「どういうトレーニングさせたら良いと思う?」って聞いたんです。そうしたら「先生、食べさせて!食べて筋肉と脂肪がつかないと体力なんか出てきませんよ!」って言っていました。それから私は星南君の顔を見るたびに「食べてる?食べなさいよ?」と言っています。

筋肉が付くとパワーが付くので、もっとジャンプも安定しますし、滑りも更に良くなってくると思います。正直、三宅選手の印象として今までずっと「大丈夫かな?スケート好きなのかな?」という印象でしたが、全日本選手権のフリーを見て「これは何か目覚めた? 今までとは違う!」って思いました。そんな気迫を感じました。
それと田中刑事選手、オリンピック代表決まりました。おめでとうございます。

本当に微力ではありますが、刑事君と関われたことは本当に幸せです。代表を決める全日本選手権は痺れますよね。

本当に魅力のあるスケーターだと思います。昔は中々試合で実力が発揮できなくて…

刑事君がよく「また岡部さんに怒られました。」って(林)祐輔先生に言っていましたよ(笑)。

怒るというか…(笑)

多分ジュニアの頃だったですかね。でもたまに岡部さんに褒められるとすごくうれしいらしく、報告が来るそうですよ(笑)

ストレートにしかものが言えない性格でして… なので、良かったら素直に褒めるんです。本当に今回の全日本選手権の田中選手は素晴らしかったと思います。

ありがとうございます。今回彼は守りに入らなかったのが良かったと思います。うれしすぎて私も濱田(美栄)先生みたいにジャンプしてしまいました(笑)

私も心の中ではジャンプでした!でもここからが本当のスタートですね。オリンピックでは同学年の羽生(結弦)選手、親しい後輩の宇野(昌磨)選手との3人で盛り上げて気負わず攻めて欲しいです。

刑事君のフリーは昨シーズンと同じ曲ですが、私は「慣れて滑らないで。」と伝えています。惰性でジャンプだけを狙っていくのは絶対にダメです。

それは本当に大事な事ですよね。あと昨年の全日本選手権はジュニアから選抜されて出場した選手たちが、良い滑りをしていたのでうれしかったです。

確かにスケートがうまい選手ばかりでしたね。

ジャンプを失敗しても、ジャンプ以外の演技の部分で何かを残そうとする選手たちが増えてきたなというのが大きな印象でした。そして、何と言っても羽生選手が怪我からの復帰が叶わなかったのは大変残念でした。早く元気な姿を氷の上で見たいです。

全日本選手権、女子シングルについて

女子では紀平(梨花)選手のトリプルアクセルは素晴らしかったですね。他の3回転ジャンプのようにスッと跳びました。男子ですら「跳ぶぞ!」って構える選手もいますが、彼女は演技の中で自然に跳んだ印象でした。新時代の到来を感じます。

そうですね。ダブルアクセルのような感じで跳んでいましたね。

女子もスケーティングやスピンが全体的に良くなってきた印象です。あくまでジャッジの視点ですが、男子女子に限らずスピンで点数を稼いでほしいと思っています。合宿などで選手達に、「ジャンプは絶対に先生と練習してください。」と言っているのですが、スピンはとにかく自分でたくさん練習して欲しいと伝えています。スピンは自主練習しても形が崩れにくいので、練習すればするほど上手になると思うのです。そして「GOE+3」の評価を貰ってほしいです。全てのスピンとステップで「レベル4、GOE+3」が貰えたらジャンプを2つくらい失敗したって全体的には良い点数がもらえますから!

本当にその通りだと思います。私も今回の全日本選手権は女子も素晴らしいと思いました。でもやはりオリンピック選考を兼ねているということで緊張感はすさまじかったですね。

ハラハラドキドキでした。特に最終グループは痺れました。選手にかかってくるプレッシャーは相当大きかったと思います。オリンピック出場の枠が3枠の方がもちろん良かったと思いますが、2枠だったからこそ、ここまでハイレベルな大会になったのかもしれませんね。
そして、宮原(知子)選手が間に合ったのは本当に良かったです。フリーの演技後思わず涙がこぼれそうになってしまいました。彼女は今シーズン、怪我との戦いがありました。私の中では髙橋選手と少しかぶるところがありました。戻ってきてくれた彼女には芯の強さをひしひしと感じました。

私は関西大学のリンクで今シーズン、宮原さんがジャンプを跳べない時期もずっと見てきました。そんな中でも彼女は本当に素晴らしい練習をしていたんですよ。私は岩野桃亜選手に毎日毎日練習の度に「宮原さんの練習を見習いなさい。」と言ってきました。「ジャンプができなくても、演技のつなぎなどをやり続けるという事がいかに大切か。その姿勢がお客さんの胸を打つのよ。」と。私も全日本選手権の彼女の演技はもちろんですが、ここに至るまでの彼女の懸命な、そして真摯な姿に感動をもらいました!

聞いているだけで涙が出てきそうです。髙橋選手が戻ってきた時も同じく感じたのですが、人生において望みを捨てない、諦めないという意思を彼女から感じ、私自身にとっても本当に励みになりました。そして、これまで淡々と滑っている印象の選手でしたが、幸せそうな笑顔で演技をする、感情の表出ができる選手になったという印象を受けました。

体つきも顔つきも、魅力的になりましたよね。

今回の全日本選手権は本当に様々なドラマがありました。今大会で、宮原選手、坂本(花織)選手が五輪に選ばれたのは、プレッシャーのかかる中で勝ち抜いた精神力の強さがあったからだと思います。選手のみなさんそれぞれが力を出し尽くして素晴らしい演技で魅せてくれました。

全日本選手権、カップル競技について

アイスダンスの村元哉中選手・クリス・リード選手のカップルは本当に上手になりましたよね。

すごく成長したと思います。村元選手は元々シングルでは国内の第一線で活躍していた選手ですが、アイスダンスでの表現もあそこまでできるようになるとは思っていませんでしたので驚きました。アイスダンスもペアもシングルに比べてまだまだ日本ではマイナーですが、強くなって真のフィギュア大国になるべく、みなさん頑張って欲しいと願っています。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)