F1 スーパースター列伝Vol.1
文・山口正己

しかし、だから全日本F3000に出ました、というだけでは逸話にはならない。仙台のスポーツランド菅生で行なわれたそのレースの予選前日、シューマッハは、ブリヂストンの浜島エンジニアをつかまえて、相当しつこく予選タイヤのレクチャーを受けた。現在、F1で活躍する浜島裕英モータースポーツタイヤ開発総括責任者は、その日、後でシューマッハが何度もワールドチャンピオンを経験できるとは夢にも思わなかったが、いまでもその日の様子を明確に覚えているという。
「とにかくしつこかったです。私の英語力もあるかもしれませんが、予選用タイヤの暖め方とか使い方を、事細かに聞いてきました。2時間近く話し込んでいたと思います。ようやく納得したんですが、ここから後が凄い。あまりに長い時間話をしたので、辺りはすっかり日が暮れて、仲間のドライバーたちはみんな帰っちゃったわけですよ。で、マイケル(浜島さんは、英語読みでシューマッハをそう呼ぶ)がどうしたかというと、自分のピットに行ってチームメイトのマシンと自分のマシンをつぶさに比較し始めたんです。やがて、ボディの下面に貼り付けるアンダートレイをジ〜ッと眺めた後に、メカニックに、チームメイトのものと付け替えるように指示したんです。自分用の方が、地面に擦れてできるささくれが多かったんですね。少しでも空気抵抗が少ない方が有利ですから」。

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