F1 スーパースター列伝Vol.1
文・山口正己

しかし、これらの一連の"事件"は、シューマッハの勝負に対する一途さの成せる技、という見方もできる。我々農耕民族には理解できない戦いの血が、彼ら狩猟民族には流れ、中でもシューマッハは、その濃度が濃いのだろう。これは大胆な予測だが、多分当たっているだろう。
その裏づけとして、シューマッハの徹底振りを証明するような、スイスに移住した時の話が面白い。
ローザンヌの丘陵地帯にシューマッハは家を買った。遥か遠く正面にアルプス連峰を望み、眼下に水をたたえるレマン湖が広がる。緑の斜面にはワイン畑が連なり、散歩がてらの小さなワイナリー巡りも楽しめる。時間がゆったり流れる風光明媚な場所である。
ところが、シューマッハが手に入れた家は、常識的に考えるのと少しばかり違う場所にあった。そういうシチュエーションの家ならば、アルプスやレマン湖が見える場所だと思うかもしれないが、シューマッハの家は窪地にあったのだ。こちらから見えなければ、あちらからも見えない。つまり、シューマッハは、自宅を、"世間と隔絶することで、戦いのための英気を養う場所"と考えていたに違いないのだった。

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