前サッカー日本代表監督 フィリップ・トルシエ(後編)
インタビュー・文/李春成
[Q]あなたはGKの川口能活を、本番で一度も起用しませんでしたね。
[A]日本のGKは、どの選手のレベルもひじょうに接近していて、甲乙つけがたいんですね。誰か一人だけが突出した存在というわけじゃないんです。私の時代で言うと、楢崎(正剛)と能活にそれほどの差はありませんでした。
じゃあ、なぜそのうちの一人を残し、もう一人をベンチに置き続けたのかと問われれば、その判断は人間的な部分だとか、存在感だとか、あるいはGKに最も大切なオーラの有無だとか、そういうものを基準にして考えるしかないんです。
当時の能活には'96年のアトランタ五輪、'98年のフランスW杯に出場してきたという強いプライドがありました。事実、日本のサッカーファンのヒーローとしても君臨してきました。そんな周囲の環境もあって、彼は"自分が日本のナンバーワンGKなんだ"と、盲目的にそう思い込んでいたフシがありました。
そこであえて私は、楢崎と競争させる方法をとったのです。同じポジションの選手同士を競争させる手法は、私のチーム作りのコンセプトでもありましたからね。だから、最後の最後まで、誰にも指定席を与えませんでした。ある日、私は彼に言ったんですよ。「W杯に向けて、君にはゼロからスタートしてもらいたい。もし自分がナンバーワンだと思っているんだったら、ナンバーワンであることの証明を見せてほしい」と。
だけど彼は、私が提案した競争の原理を受け入れることができなかったようでした。その結果、フェアに闘い続けた楢崎のほうが少しだけ上回ってしまったんですね。ただ能活も俊輔と同じで、そのような経験が血となり肉となり、今では4年前よりもさらに強くなってます。第2GKで終わってしまったという辛い過去を乗り越えた結果でしょう。だから今大会で彼が第1GKに選ばれたとしても、私はまったく驚きません。
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