しばらく沈黙が続いた。
僕の心臓はバクバクして破裂寸前でいたが、表情はきっと穏やかだったに違いない。 もうここまでくるとなにを言われても怖くなかった。僕はうつむいたままのA子をずっと見つめていた。
この状態で何分ぐらい経ったのだろうか。
10分? いや20分? よくわからない。
A子はなにか覚悟を決めたかのように息を大きく吐いた。そして久しぶりに僕に目を合わせた。

「実は…私はお母さんと二人で暮らしてるの。」
「うん。」
「ミヤザキくんとは一緒にいたいけど、今まで一人で私を育ててくれたお母さんをひとり置いて北海道には行けないよ。今度は私がたくさん働いてお母さんに恩返ししたいの。一人にさせたくないの。」

―そのことをずっと悩んでいたのか…。
僕は馬鹿だ。なんであんな夢を見ていたのだろう…。
なんでびくびく恐れていただけなのだろう…。情けない。

「A子…」
「ん?なに?」
「僕は今まで単に表面だけ、上辺だけの男になっていた。」
「?」
「でも僕は気づいたんだ。A子を幸せにしてあげることが僕にとって一番なんだって。だから、A子の大事なものは僕にとっても大事なんだよ。A子をこの世に産んでくれたお母さんに、僕は心の底から感謝してる。だからこれからはA子ひとりじゃなくて、僕たち二人でなにかお母さんにしていこうよ。一緒に恩返ししていこう。」

彼女は涙ながらにコクリとうなずいた。
僕は彼女の肩に手をかけようかどうしようか迷ったけど、A子から僕の袖をギュっとつかんで来た。

「ミヤザキくん。素敵なホワイトデー…ありがとうね。」

A子は震える小さな声で僕に言った。

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