FUJITV Inside Story〜フジテレビで働く人〜

中川 将史

『何か“オモシロいコト”ないの?』の
中川ディレクターに聞く…
“相性抜群”のキャスティングの妙と
“自分が笑えるもの”を
届けたい演出へのこだわりとは

Vol.12

中川 将史Masafumi Nakagawa

フジテレビで働く人の仕事への取り組みや思いをシリーズで描く『FUJITV Inside Story』。
第12弾は、2023年10月にスタートした『何か“オモシロいコト”ないの?』の総合演出を担当する中川将史ディレクター。この番組はSexy Zoneの菊池風磨とシソンヌの長谷川忍がタッグを組みMCを務めるバラエティー番組だ。MC二人の魅力や、大きなコンセプトを決めない総合バラエティーを目指す理由、バラエティーの制作現場の裏側を聞いた――。
(2023年12月15日掲載)

『何か“オモシロいコト”ないの?』
MCに
菊池風磨とシソンヌ長谷川を
起用した理由…
“トムとジェリー”のような関係性

『何か“オモシロいコト”ないの?』を立ち上げたきっかけを教えてください。
『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』で、(菊池)風磨くんと長谷川(忍)さんとは、4年近くずっと一緒にやっていて、あの二人は相性もいいし、僕も一緒に仕事をする上でなんか合うなという好感触があったんです。だから昨年3月、『菊池風磨の許せないTV』という単発番組を風磨くんと長谷川さんとでやったのですが、それがやはりすごく面白くて。いつかこの二人でレギュラー番組をやりたいという思いが、今回、実を結んだという感じです。
中川 将史
菊池風磨さんは『ドッキリGP』での“許せない!”が衝撃的でしたが(笑)、彼の魅力はどんなところにあると思いますか?
風磨くんは若いのにすごくバラエティーに貪欲で、いろんなことができてめちゃくちゃ頭もいいんです。成長も早いしセンスもすごくあるから、彼は次世代のバラエティーの中心人物になっていくだろうと思っています。お笑いをやるにしても、嘘がないというか人間味にあふれていて、自然な感じが素晴らしいですよね。
長谷川忍さんの魅力も教えてください。
長谷川さんはとにかくみんなに好かれますね。女優さんからもそうで、初回に出演していただいた吉岡里帆さんに対しても、ものすごい勢いで「お前!」とか言っちゃうのですが(笑)、それが全く悪意があるように聞こえないんです。そうした懐の深さみたいなものが、長谷川さんのいいところだと思っています。
中川 将史
そのMC二人の息がぴったりで見ていて楽しいです。お二人の関係性をどう見ていますか?
懐の深い長谷川さんに対して、風磨くんはグイグイ甘えていけるタイプなんですね。だから同じ立場で喧嘩もできるし、あの二人はよく見てみると、毎週だいたい揉めているんですよ(笑)。どちらかがマウントを取ろうとしたりいじりあったりして、ああいう年の差を感じさせない対等さとか心の開き具合がある関係性っていうのは、これまであまりなかったのかなって思いますね。なんだか喧嘩するほど仲がいい『トムとジェリー』を見てるような感じですね。
この番組はコンセプトを決めない“総合バラエティー”という形とのことですが、その理由を教えてください。
一つのコンセプトでやることが個人的にはあまり得意としていないというか、飽きちゃうんです。それは僕が『みなさんのおかげでした』を見て育ち、実際に制作にも携わってきた経験もあって、毎週企画が変わるような、毎週新番組のような環境にしたいという考えがありました。あとはやはりあの二人は、「プレイヤー」であると同時に、「リアクター」でも、「回し」でもあるという一つの役では収まりきれない程の実力があるんです。しかもそうした役回りを彼ら自身も望んでいたので、あらゆる方面で彼らの力が発揮できる総合バラエティーという形にしました。
中川 将史
初回からすごく面白くて、吉岡里帆さんがゲストの壮大なコントは最高でした。どこまでがアドリブでどこからが準備したものだったのですか?
もちろん全部吉岡さんのアドリブですよ。こちらは小道具をたくさん用意したり、エキストラさんを呼んだりなんて一切していません(笑)。でもまあ、あれは本当に吉岡さんが企画を面白がってくれたおかげで、想像していたものよりはるかにオモシロい作品になったと思います。僕も吉岡さんとは初めての仕事で、どこまでやってくれるのかな…どんな感じになるのかな…って心配な部分もありましたが、あそこまでノリノリでやっていただいて、スタッフもびっくりしていました。
中川 将史
菊池風磨さんの“同じ顔がたくさんいる”企画も面白かったです。あのような企画はどういう会議から生まれてくるのですか?
“同じ顔がたくさんいる”という企画は、実は『笑っていいとも!』を担当していた時、同じようにマスクを作って「本物の木梨憲武さんはどれでしょう?」っていうのをやったことがあるんです。今回は“同じ人がいっぱいいる”というところから派生して、いろんなシチュエーションに風磨くんがいたらさらに面白い!いうところまで発展させた形ですね。会議はやはりいつも楽しくて、昔から会議がつまらないことはあまり経験がないですね。文化祭のノリというか、みんなで「これって面白いよね?」ということから始まって、その場で生まれた笑いとかゲームもありますし、そんな楽しい会議の空気感が画面にも現れていたらうれしいですね。
中川ディレクターは総合演出という立場ですが、どういう役割なのでしょうか?
総合演出という立場ではありますが、自分で撮って自分で編集もしたいタイプなので、基本的には自分がやります。今、同時に担当している『ドッキリGP』のロケも7割近くは自分で撮るか、顔を出していますね。特に“何かオモ”は新しいチームなので、意識して僕が一番先頭に立って撮っている感じです。
中川 将史

“自分が笑えるものを放送する”
“ひとつひとつに
意図・理由を持つ”
バラエティー演出のこだわり

“笑い”を届ける上で、どんなことにこだわっていますか?
「自分が笑えるものを放送する」ということですね。面白くないって自分で思ってやっていたら、それは絶対に視聴者にとっても面白くないですし、ちゃんと自分が面白いって言えるものを送り出したいという気持ちがあります。だから、撮る前に“見える・見えない”ってよく言うのですが、“見えていない”ものを撮って大失敗することがあるので、そこは自分が絶対面白いという自信があるものでないと撮らないですね。だからさっきの吉岡さんの回も、チャレンジングな企画なので最初は不安もあるのですが、自分の中で勝算はあって、しっかり撮れれば面白いはずだという自信は持っていました。
中川 将史
特に大事にしていることはありますか。
後輩たちにも言っているのですが、なぜこの企画やキャストなのか、なぜそのカメラの画を選んだのか、なぜこのテロップやナレーションなのか・・・全て説明できるぐらい、細部において“演出の意図”を自分の中に持っていないとダメだってことですね。言葉一つで面白さが半減することもあれば倍増することもあるし、タイミングもそうで、「ここで間を入れたら爆笑!」っていうこともあります。そうしたひとつひとつに最後までこだわることが大事だと思っています。
中川さんが手掛けている『ドッキリGP』あたりから、フジテレビのバラエティーがより元気になってきた印象があります。
そうなんですかね…?(笑)。もちろんドラマも大事なんですけど、「会社全体で面白いバラエティーをもう一回作ろうぜ!」という機運になったのかなと感じています。そうした中で僕らディレクター、プロデューサーたちにも少しずつ自信みたいなものが出てきて、「なんかいいじゃん!」って言ってもらえるような雰囲気にはなってきていると思います。
中川 将史
最近は配信など、見られ方が劇的に変化していますが、その中でテレビに求められるものはどういったことだと思いますか?
「マス」をすごく大事にしたいなと思っています。例えばパロディやモノマネをネタとして取り上げたとしても、多分昔よりその楽しさやおもしろさを共有してくれる人って減っていると思うんですね。「ああ、アレね!」と、世の中の誰もが知っていることを扱うことで当たり前に受け取られていたものが、興味が分散していっている今は、その面白さが伝わりづらくなっている・・・。僕はそうした状況が、すごく寂しいと思っているんです。放送の翌日、学校でみんなで盛り上がって話しができるというように、「テレビはみんなが共有できる話題を増やしていくメディア」であるべきだと考えているので、そうした役割は、やはりしっかりとテレビが担わないといけないなと思っています。バラエティー番組でもそういうところを目指したいですね。
中川 将史

フジテレビ入社のきっかけは
VHSで擦り切れるほど見た
『みなさんのおかげです』
“何かオモ”を看板番組にしたい!

バラエティー番組の現場の“働き方”は以前と変わってきていますか?
ADさんたち等もしっかりと休んだ方がやっぱり元気に働いていますよね。僕らがADの頃は昼から朝までずっと働いて休みもなくて…という感じだったので、そんな時に特番とかあると、正直「嫌だな」「正月もやるの?」みたいに思っていたんですよ(笑)。だけど最近のADさんはもちろん忙しくて大変な時期もある一方で、しっかり休みもとれるので、特番があっても「やりたいです!」とやる気十分で言ってきてくれることが増えてきましたね。だから働き方改革は、もちろんADさんたちにとっても、そしてチームにとっても良かったなと思います。女性のスタッフの数も増えていますし、以前は先輩が残っている間は帰れないみたいな雰囲気もあったのですが、今は先輩が率先して「帰れよ」と声を掛けています。スタッフ同士の距離も近づいてきた感じもあって、すごくいい空気感を生んでいるかなと思います。
中川 将史
その話の流れで恐縮なのですが、一番大変だった現場を教えてください。
なんだろうな…。忘れちゃうんですよね。「もう大変だ!二度とこんなことやりたくない!」って思っていても放送した時にめちゃくちゃ面白いって言われると全部吹っ飛ぶんです。だからお話しするなら、大変だったことというより、過酷だったことですかね。『ココリコミラクルタイプ』(2001年~2007年)という番組のスペシャルで、そのマスコット人形が世界を回るというミニコーナーのADを担当した時、ヒマラヤ山脈にヘリコプターで撮影に行ったのですが、着陸地点が雪でよくわからないなか、ようやく陸地が見えたので降りた瞬間、ヘリが傾いて危うく落下しそうになりました。でもこれはもう“過酷”というか“やばかった”話ですね(笑)。
では反対に一番うれしいことはなんですか。
さきほどもお話ししましたが、面白いと言ってもらえるとそれまでの苦労が全部吹っ飛ぶんですね。お腹がよじれるほど笑ったとか、近所迷惑になるぐらい笑っちゃったよとか、そういう声を聞くと、もう最高にうれしいですね。
やはり最近ではSNSの反響も結構気に留めているのですか?
もちろん否定的な意見にガックリくることもありますけど(笑)。でもやはりみんなが喜んでくれる反応をみると、それはすごく力になりますね。
中川 将史
話は変わってフジテレビに入社したきっかけを教えてください。
僕は小さい頃、父親の転勤で海外に5年間くらい住んでいたのですが、母親がテレビっ子でバラエティーが好きだったこともあって、日本にいる叔母が『みなさんのおかげです』や『ものまね王座』などの番組をVHSという昔のビデオテープで録画して、船便で送ってくれていたんです。それが僕にとっての最大の娯楽で、それを擦り切れるくらい毎日のように見ていたので、『みなさんのおかげです』が大好きになりました。番組に登場するたくさんのスタッフがみんなとても楽しそうだったので、「なんていい職場なんだろう」って子供心に思って。それがバラエティー番組を志したきっかけですね。
中川 将史
その大好きな番組に実際、携わることになったのですね?
入社3年目で『みなさん』に配属されたのですが、知っている人たちが目の前にたくさんいるわけですよ。「ダーイシ」さんとか・・・。その時はそれから14年間もこの番組に携わるとは思ってもみなかったのですが、ありがたいことにその間、コント、トーク、ゲーム、ものまね、料理などなどたくさんのコーナー、企画をやらせてもらえたので、自分の「演出の引き出し」をすごく増やすことができました。それはものすごく大きな財産になりましたし、この番組が僕の「原点」、「礎」の一つですね。
最後に今後の目標を教えてください。
当面の目標は『何か“オモシロいコト”ないの?』をゴールデンタイムの番組として進出させることと、『ドッキリGP』もこれまで以上に面白く人気番組にしていくことですね。『何か“オモシロいコト”ないの?』を、誰もが知っていて、放送を毎週楽しみにしてもらえるような番組にしたいということが一番ですね。
中川 将史

ぱっと見、ちょっと“おっかない”印象ながらも、周囲の笑いをとりながら、カメラマンの要求に応じて気さくにポーズを取ってくれた中川ディレクター。また、「番組制作者は、細部についてまで“演出の意図”を自分の中に持ち、最後までこだわることが大切」と熱く語る姿からは、これまでバラエティー番組と真摯に向き合い続けてきた矜恃も伺えた。「自分が笑えるものを視聴者にお届けする」信念のもと、これからも自ら現場を飛び回る日々が続くことになりそうだ!

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