フジテレビジュツ博

開催レポート #6

第1回:2019年2月22日(金)・23日(土) 開催

フジテレビジュツ博 特別講演
『スチロールアートの世界』

2019年2月23日 13:00~ マルチシアター

『スチロールアートの世界』
司会
山中 章子 (フジテレビアナウンサー)
ゲスト
東宝舞台 佐々木 美穂
國新産業 須山 欣朗
東宝舞台 佐々木 美穂 國新産業 須山 欣朗

山中アナ今回はスチロールアートの世界についてお二人からお話を聞かせていただこうと思います。まずは自己紹介をお願い致します。

佐々木東宝舞台 入社11年目、佐々木美穂です。スチロール歴は7年です。

須山國新産業 入社17年目、須山欣朗です。スチロール歴も17年です。

山中アナ早速ですが、私は初めて「スチロールアート」という言葉を聞きました。スチロールアートってなんですか?

須山発泡スチロールを使って様々な造形物を造ることです。

山中アナ実際にイメージするのが少し難しいかもしれません。そこでこちらのセット写真をご覧ください。

情報プレゼンター『とくダネ!』

情報プレゼンター『とくダネ!』

山中アナ須山さんがスチロール造形を担当している
『とくダネ!』のセットです。
どの部分がスチロールか皆さんわかりますか?

情報プレゼンター『とくダネ!』
情報プレゼンター『とくダネ!』

山中アナ実は画面に映るほとんどがスチロールです。どうしてわざわざスチロールを使うのですか?

須山木材で出来ないこともないのですが、もし木材であったらとても重いです。スチロールには大きく3つの利点あり、1番目には、軽いので取り回しが楽です。2番目は早く作れる。3番目は汎用性があり、どんな形も作れます。
特に「一点もの」を作るのに向いています。大量生産には向いていませんが、テレビのセットは二つとないものをつくることが多いので…

山中アナなるほど、テレビセットになくてはならないものですね。今回22階の会場にお二人の作品も展示しています。

山中アナこれは随分大きな作品ですね。この作品の制作工程を教えて下さい。

佐々木まず大きなスチロールに「当たり」と呼ばれる下書きを描きます。

山中アナ自分で描いているんですか?

佐々木すべて自分で描きます。

佐々木次に胴体と手を切り離します。手が32本あるのでバラバラにした方が成形がしやすいのです。そして胴体を削り出して仕上げます。

佐々木腕をつけたらコーティング剤を塗り、最後に塗装をして完成します。

山中アナ通常どのような発注があり、具体的にどんな順序で制作していくのですか?

佐々木この作品は今22階に展示していますが、最初はデザイナーからピアノを使ったラフなスケッチが届きました。

デザイナーのラフスケッチ

デザイナーのラフスケッチ

佐々木煙のような雲の表現は曖昧なので、作っていて難しいけれど楽しい部分です。デザインの意図や方向性を外さないように気をつけ、イメージに近づけます。

山中アナデザイナーからのラフスケッチが、このように完成するのですね。ちなみにこの作品の制作日数はどの位ですか?

佐々木翼とその下の雲は3日間、舞台周りの煙は先輩の笠原さんと鍋田さんが2日間で仕上げました。

山中アナこれは彫刻刀のようなもので掘るのですか?

佐々木みんなそれぞれ自分用のナイフを手作りで作ります。会社に入って初めの仕事はナイフ作りからです。

山中アナそうなんですか。私たちはさすがにマイクまでは作りませんからね。
さて、続いて須山さんの作品に移ります。この作品は飲食店から依頼があったと聞きました。

須山はい、(スケッチのない)文字だけの発注でした。

山中アナこれを形にするのですか?

須山コミュニケーションの中で形を詰めていくことが多いのですが、必ずしもこれを作って欲しいと最初から絵がバシッとあるわけではありません。

山中アナやはりイメージを膨らませて制作するのですか?

須山イメージを膨らませプレゼンをします。そして制作に入ります。

山中アナこの3つの注文から出来上がった作品がこちらです。

須山制作過程で「壁に吊るしたい」とリクエストがきたので発泡スチロールにしました。しかし話が変わり、床に置きたいとなり、最終的にこの様な形なりました。

山中アナそもそも発泡スチロールには種類があるのですか?

佐々木硬いものから柔らかいものまであります。硬いものの方が密度が高くきれいに仕上がります。

山中アナ発泡スチロールといえばポロポロとかけるイメージですが、その辺りはどうですか?

須山樹脂のコーティング剤をかけると、発泡スチロールとはわからないくらい硬くなります。

山中アナお二人はスチロールアートの仕事をしていますが、どの様な経緯でこの仕事に惹かれたのかご自身の体験も含めて詳しくを教えてください。

須山もともと学生時代は、日本画を専攻していて平面の作品を作っていました。この世界に入ったきっかけは今の会社のアルバイトでセットに絵を描いたり、色を塗ったり、同時に発泡スチロールを成形する作業もしていて、それまで全く触ったことがなかったので面白いと思いました。

山中アナ日本画の平面からいきなり立体になって大丈夫でしたか?

須山もともとは平面でしたが、考え方次第では立体の作りやすさや、面白さが次第に楽しくなってきて、こんなこともできる、あんなこともできる、など新しい発見が次々にありました。

山中アナ日本画の経験が活かせる事はありますか?

須山仕上げの段階で完成の色を考えながら塗る過程は、日本画の経験が活かされていると思います。

山中アナ知識もなくポンと入ってきて、できるものですか?

須山彫刻をやっていたのですか?と聞かれることが多いのですが、掘る作業は経験など関係なかったです。

山中アナつづいて佐々木さんにも伺います。どの様な経緯で今の仕事につかれたのでしょうか?

佐々木美大時代に舞台の美術デザインを勉強しながら友達の劇団の美術小道具のお手伝いをしていて、その延長上に今の仕事や東宝舞台があることを知りました。そして東宝舞台に会社を見学させて下さいと電話したら、快く案内してくれました。

山中アナどのような印象を受けましたか。

佐々木工場で作っている作品のクオリティや規模が学生の自分とレベルが全然違っていて、ここで働きたいと思いました。

山中アナちなみにどのような入社試験ですか?

佐々木履歴書を提出し、合否が届き、その後作文がありました。作文のテーマは『私の好きな人』、その後、面接官が10人くらいの前で面接をしました。最近の試験の形式は私の頃と異なっていると思います。

山中アナ自分の作品を提出するとか、この時間内で何かを制作しなさい。のような試験ではないのですか?

佐々木その場で作る試験はありませんでした。ただ私の場合は学生時代に作った作品集を持っていき見てもらいました。

山中アナどんな作品の写真だったのですか?

佐々木学生時代に演劇の小道具で作った白骨死体や、熊のリアルな着ぐるみの写真を見てもらいました。

山中アナ最初からスチロールアートをやりたいと思っていましたか?

佐々木会社に入ってから詳しく知りました。そしてこの部署に入りたいとアピールして入りました。初め発泡スチロールはお魚屋さんのイメージしかなく、大きな塊を見た時はびっくりしました。

山中アナどれくらいの大きさですか?

佐々木900ミリ×1800ミリで厚みは様々です。

山中アナおよそ畳一枚くらいですね。工場ではみなさん制作されているのですか?

佐々木様々な部署があり、大工さんや絵を描いたり、紙を貼る部署もあり、工場の中で流れ作業になっていて、最後は美術部が仕上げ完成させます。

山中アナそして佐々木さんはご結婚され、子育てと両立しながら美術の仕事は難しいのではないかと思うのですが、如何ですか?

佐々木時短勤務なので職場の方のフォローと家族の協力のお陰で何とかやれている感じです。
妊娠した時に辞めようかなと思ったり、育休中に復帰してやっていけるか不安になることもありました。職場の先輩や後輩に助けられ、続けられているので感謝しています。スチロール造形の仕事も、会社のことも好きなので続けて良かったです。

山中アナもっといろいろ伺いたいのですが、せっかくなので会場の皆さまから質問はありますか。

来場者発泡スチロールをカットする時は電動工具で切るのですか?

佐々木電動工具も使いますが、ニクロム線を張った「弓」という工具があって、先に余分な部分を大きくカットします。

須山2人で引っ張って切る時もありますし、削り出す作業の前に切り出す作業、なるべく削り粉が出ないように道具を選びます。

山中アナ私からも質問があります。条件、制約なしに自由な物を作っていいならば、何を作りますか?

佐々木私は以前から作りたい物が2つあり、一つはルーブル美術館にある「ニケの天使像」で、入社した時からいつかは作りたいと思っていました。もう一つは3Dモデリングで弊社の社長の3頭身フィギュアを作りたいと思っています。

須山私は抽象的ですが、風が巻いてるとか正解はないけど、皆がイメージできるものを作ってみたい。手でしか作れないものを追求していきたいです。

山中アナそれぞれ素敵なテーマですね。ありがとうございました。もっともっとお二人の話を聞いてみたいところですが、残念ながらお時間となってしまいました。本日はありがとうございました。

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