フジテレビジュツ博

開催レポート #7

第1回:2019年2月22日(金)・23日(土) 開催

フジテレビジュツ博 特別講演
『小道具・持道具・装飾の世界』

2019年2月22日 13:00~ マルチシアター

『小道具・持道具・装飾の世界』
司会
内田嶺衣奈 (フジテレビアナウンサー)
パネラー
有限会社京阪商会 シニアマネージャー 山本健史
株式会社テレフィット 第四営業部長 伊藤則久
株式会社KFライズ 副社長 若林一也

 

内田嶺衣奈アナウンサー

内田嶺衣奈アナウンサー

内田アナ:「小道具」「持道具」「装飾」の違いについてですが、まずは「小道具」について。
KFライズの若林さん、説明していただけますか?

小道具とは何か

セットに飾る道具・役者が使う道具が小道具

株式会社KFライズ 副社長 若林一也

株式会社KFライズ 副社長 若林一也

若林実はテレビドラマですと「小道具」という表記はあまりしません。「持道具」という表記がほとんどですね。最近では、たまに「小道具」表記もありますが。それはさておき、一般的に「小道具」とはセットに飾られている品物すべて、そして役者さんが芝居で使用する品物のことを呼びます。
品物によっては持道具と重なるところもあります。それに、消え物と呼ばれている食べ物関係なども取り扱います。現状、食べ物類は衛生管理士のライセンスが必要になってきたりで、専門の取り扱い会社に来てもらったりもしますが、基本的には「小道具」の取り扱い範囲ですね。ですから、「小道具」は撮影進行上でかなり重要なパートだとは思います。

内田アナでは「持道具」については、京阪商会の山本さんからお願いします。

持道具とは何か

役者が身に着ける道具が持道具

有限会社京阪商会 シニアマネージャー 山本健史

有限会社京阪商会 シニアマネージャー 山本健史

山本「持道具」とは一般的には装身具といった身に着ける物で、帽子、履物、バッグ、アクセサリー、そういった物を扱っています。「小道具」とは違っていまして、役者さんが手に持つ物と理解していただくと分かりやすいかなと思います。

内田アナ洋服だったり、そういう身に着けるものすべて「持道具」なんですか?

山本そうした区別に関しては、小道具さんや衣裳さんとリンクするところもあるんですが。一例としては、明治以前の刀とかは小道具さんの扱い、というように我々の中では分けております。

内田アナ時代によって違うんですね。ありがとうございます。 では次に「装飾」について、テレフィット伊藤さんお願いします。

装飾とは何か

小道具・そこからはみ出すものも全てセットに飾るのが装飾

株式会社テレフィット 第四営業部長 伊藤則久

株式会社テレフィット 第四営業部長 伊藤則久

伊藤テレビの作品の内容、登場人物の設定、時代設定によって、道具の種類や色、形が変わってきます。性格を表すリアルな道具や、趣味を表す道具もあります。それらの道具を1点1点コーディネートして、スタジオセットやロケにおいて全てを飾って、その設定にあった雰囲気を作り出すこと、それが「装飾」の仕事です。

内田アナフジテレビは今年開局 60 周年ですが、テレビ開局以前は、皆さんの会社は映画・演劇などで活動されてたわけですよね。

舞台・映画からテレビへ 小道具・持道具・装飾の歴史

伊藤もともとは映画を中心に高津装飾美術、歌舞伎を中心に藤浪小道具という会社が道具の貸し出しをやっていました。テレビ局が開局してからは、各局から小道具操作などの依頼があって、両社が出資してテレビ用に 1970年にテレフィットが設立されました。来年で50周年を迎えます。

内田アナKFライズは、映画の小道具会社が母体と聞きました。

若林そうですね。映画が母体ではあるんですが、やってることはテレフィットさんとあまり変わらないです(笑)。京映アーツという、もともとは映画の小道具会社なんですが、需要が増えてきたのでテレビ事業部を独立ということで、KFライズが設立されました。

内田アナテレビと映画ではどう違うのですか?

若林やることはほとんど一緒なんです。フィルムかVTRの差というくらいです。テレビと映画で何が違うって聞かれると説明できないですね(笑)。

内田アナ京阪商会は、テレビの持道具の会社として設立されたんですか?

山本いいえ、ウチも映画から始まりました。最初は昭和30年に映画の持道具会社として、京都の太秦撮影所に設立しました。その後、テレビ局が開局して忙しくなるということで、東京にも進出して現在に至るというところです。
仕事の内容は、ドラマでいえば美術打ち合わせがあって、衣裳合わせがあって、制作の意図を反映するように道具を揃え、なおかつイメージを膨らませてプレゼンし、それを現場で操作するというものです。

内田アナイメージに合ったものをどう準備できるかが、作品の完成度に深く関わってきますよね。

山本そうですね。それが上手くはまると、演者さんや演出から「よく用意してくれた」と言われますし、そういう時がやりがいを感じる瞬間だと思います。

内田アナそれぞれの歴史から得意の分野があって、発展してきたんですね。厳密にジャンル分けされているというよりも、得意分野を中心にオーバーラップする部分もあるという感じでしょうか。

内田アナ今までいろんな番組に携わってきたと思いますが、ここからは皆さんに「特に印象に残っている道具ベスト5」をうかがっていきたいと思います。

内田アナ第5位はこちらです。これは若林さん、解説お願いします。

若林これは『コンフィデンスマンJP』のダー子っていう主人公がいるスイートルームです。パッと見いろんな物がありますが、タイアップといって、商品を提供してもらう代わりにテロップを出して宣伝する形をとっているんです。ちなみにどのくらいの割合で、タイアップの品物があるか分かりますか?

内田アナえー? ソファーなどは高級そうなので、家具会社のものかなって思いますけれど・・・。5割とかですか?

若林9割です(笑)。監督やデザイナーからの注文は、高級志向だったり本物志向だったり色々あるんですが、それを映像にするとなると、そうなってしまうんですよ。道具屋さんにある道具よりも、街にある流行の先端を求めていくと、そうなってしまいます。

内田アナ通常のドラマだとタイアップは何割くらいなんですか?これは通常と比べて多い方ですか?

若林今回は特殊な話なので多いです。やはり高級志向だとタイアップが多くなりますね。例えば時代物だったり戦争物だったりすると、昔からある道具屋さんの方がたくさん持っているので、道具屋さんのものが多くなります。

内田アナ映画やテレビを見て、「あー、これ欲しいな」とかあるじゃないですか、そういった意味でも影響を与えますよね。

若林そうですね。ドラマが始まると、かなり問い合わせが来るみたいなので、メーカーさんはとっても喜ぶんです。

内田アナちなみにこのセットの中の物では、どれが一番高いんですか?

若林ソファーセットになるのかな。テーブルも含めたセットですね。ちなみにベッドまわりにあるソファーは大道具さんが作ったものなんですよ。セットの一部としてソファーがあるということです。

内田アナじゃあ、借りた物と作った物が混在してるんですね。私もこのドラマは見ていたので、今も「あ、あのソファーだ」なんて思いながら写真を見ていました。

若林近々映画も公開になるので、是非ご覧ください。

内田アナそうですね、こうしたセットに注目してみたら違った見方もできると思います。

内田アナ続いて第4位はこちら。皆さんもドラマでよく見かけると思いますが、これは山本さんお願いします。

山本は機動隊の装備です。右側は警察官のものですが、実は今から25年前に装備が変わりました。そこで国から出されているもの、例えばベルトの幅は何センチとかピストルケースは何センチであるとか、そういった資料を基にして作成したものです。
真ん中にある警察手帳、バッジがついていますが、その上の空欄になっているところに顔写真が入ります。これは一般の方が見る限りにおいては“作り物”には見えないと思いますので、警察署には撮影用という届けを出して、警察庁の認可を得ています。作りが多少異なっていればいいということで、例えば「POLICE」の文字が本来は1.5cm幅であるのを1.1cm幅にしているとか、そういうことであれば“良し”とされています。

内田アナそのくらいの差だと、素人には分からないですね。

山本分からないですね。でもお役人がそう言っておりますので、それで“良し”とするってことですね。
弁護士バッジ、これもほとんど本物と見分けがつきません。私も見分けがつきません(笑)。実は、天秤のマークの大きさが本物と異なっています。徽章専門店で作ってもらうのですが、本物と全く同じだと「偽造」ってことになりますので、少し大きさを変えてもらうなどしてやっています。
こういったものは警察からも管理を厳しく言われていまして、道具には社名を入れて「小道具用」と明記し、ナンバリングして取り扱っています。ここが一番気を使うところで、万が一紛失して悪用されたら大変ですので、厳重に取り扱っております。

内田アナそして第3位はこちら。時代劇でよく見かけるものですが、伊藤さんお願いします。

伊藤先ほど言いました高津装飾美術や藤浪小道具では、こういった時代劇で使う刀や甲冑などを扱っています。右は真田幸村公の鎧で、高津さんが大河ドラマ用に作成したものですが、役者さんに感じていただけるように、本物に近い重さでしっかり作ってあります。左上は藤浪さんのものですが、歌舞伎は舞台で動きまわるのでかなり軽量に作られています。刀も照明が暗いので、柄が派手に作ってあります。「装飾」ではこういう甲冑の着付けも行います。

内田アナ映画やテレビでも、激しく戦うシーンの場合は軽量化していて、皆さん本物をつけているような演技をしているから重そうに見えるってことですか?

伊藤日本で作る映画ではあまりないんですが、海外資本の映画は軽量化した鎧で合戦のシーンを撮っていますね。

内田アナシーンに合った重さの甲冑を作っている、ということなんでしょうか?

伊藤はい、えーと、そういうことにしておいてください(笑)。

内田アナ2位はこちら。食べ物が並んでいますけれども、これは若林さん、伊藤さんお願いします。

伊藤左側は『プロポーズ大作戦』というドラマで、結婚式・披露宴から始まり主人公が過去に行くって話なんですが、1クール中ずーっとこの消え物が繋がっちゃってるんです。毎週セットを組むのですが、その都度全部写真を撮って、グラスの中身の減り具合を最後まで繋げていくって感じでした。

内田アナあ、この張られたテープは「ここまで飲んだよ」っていうのが分かる目印なんですか?

伊藤そういうことです。

内田アナえー、すごく大変な作業ですね。

伊藤これを「直繋がり」って言うんですけれど、作るのはフードコーディネーターなんですが、そういう操作は「装飾」になります。

内田アナこれだけ細かいと、たまに間違えちゃうこととはないんですか? あ、減ってなかった、とか。

伊藤泡がですね、割りばしでガーっと混ぜるんですが、その辺が若干違うかもしれないです。それ以外は完璧だと思います(笑)。

内田アナでは、若林さんからもお願いします。

若林右側は『失恋ショコラティエ』というドラマのチョコレートの店の風景です。普通にショーウィンドーに飾るのは、あらかじめ包装されたものをきれーいに並べておけるのですが、常に温度の低い所でないと溶けますよね。しかしスタジオは照明がガンガンに当たっているので、だいたい溶けますよね。

内田アナチョコレートは全部本物だったんですか?

若林そうです。色が合っていれば味は写らないのですが、この時は大体500個くらい毎週作りました。どういう新しいチョコレートを作るかっていうストーリーなので、毎週違うチョコレートが出てくるんですよ。
そして、作っていく過程のものも全部作ります、「食べかけ」と一緒なんですが、次週に繋がるから、つながりも取っておくために別の冷蔵庫が必要になってきて、スタジオと準備の消え物室は常にチョコレートの匂いでいっぱいだったので、甘いものが好きじゃない人はつらかったと思います(笑)。ちなみに銀紙も全部オリジナルで用意しなければならないので、それも大変でした。

内田アナそして1位はこちらです。こちらも若林さん伊藤さんお願いします。

若林これは『グッド・ドクター』の手術室です。医療機器メーカーの協力がないと成立しないので、ほぼ全てタイアップです。で、これを普通に買うとなると、いくらになるかと思いますか?

内田アナいやー、医療機器は本当に高いイメージがありますが、9000万円くらいですか?

若林これで2億くらいですね。それだけ高度な医療をやっている病院はもっと広いのですが、テレビだと作りきれないのでこのくらいを借りてやってます。撮影していないときは全部カバーを作って被せて、スタジオを施錠しなきゃなりません。

内田アナ盗まれないため、安全管理のためですね。

若林盗まれるってことは、まずないとは思うのですが、壊される場合があるんですね。なので、こういうのをやってる時はとにかく施錠です。

内田アナ素朴な疑問なんですけど、医療シーンは緊迫してることが多いじゃないですか。急患が来て、バタバタっと動いてぶつかったり、落としたりってシーンはひやっとしながら見てるんですか?

若林そういうシーンは結構多いので、まあ我々は慣れましたけど、演技する方が気になっちゃうんじゃないでしょうかね。「これ大丈夫かな?大丈夫?」って、結構聞かれます。

内田アナ伊藤さんからもお願いします。

伊藤弊社も『コードブルー』というドラマで医療シーンをやっておりまして、『コードブルー』は救命救急だったので、ICUのベッドとかが多かったですね。医療ドラマの現場では針の一本から安全管理が徹底していまして、役者さんが怪我しないようにとか、借用品がとても多いのでスタッフは非常に気を遣ってやってます。あと科捜研のドラマでは、机が顕微鏡だったり、かなり高度な機器をお借りしています。

内田アナ医療ドラマだと、気を遣うところが普段以上に多くなる感じですね、色々とうかがって勉強になりました。

内田アナここで一つ質問なんですが、かつては美術で女性スタッフといえば、メイクや衣裳さんが中心でしたが、今はあらゆる分野で女性スタッフが多くなってきた印象を持っています。どのくらいの割合なんでしょうか、増えてる、減ってるなど皆さんの会社はいかがですか?

山本ウチはここ20数年で逆転して、現在8割は女性です。毎年4、5人程度入ってもらうのですが、最近では男性の応募者は3年で1人くらいですかね。9割は女性で、たまに入ってくる男性も長続きしないというか・・・。女性の方がしっかりと考えを持って、仕事にも愛着をもって頑張ってくれています。

内田アナ女性の方が向いているっていうことはありますか?

山本衣裳に準ずるところが多いので、体力勝負って面もあるのですが、女性の細やかさをという制作からの要望もあります。今の女性はハッキリとモノを伝えることができますので、モジモジすることもなく現場で重宝されていると思います。

伊藤うちも新卒募集はすべて女性でした。今は会社の2割強が女性です。昔は、現場は力仕事という面もあるので男性社会って意識が強かったのですが、逆に昔でも女性が飾った方がいいよねっていう会話がすごく多かったんですね。そういう設定の部屋を飾るときは、おじさんがやるより女の子の方がいいよって意見ですが、当時はいなかったんですね。最近は女性がどんどん入って来まして、そういうのは女性がやった方が説得力があるし、この4月の『ランジェリーハウス』ってドラマも、いや『ラジエーションハウス』でした。すみません。

内田アナ(爆笑)。『ラジエーションハウス』ですね。

伊藤:『ラジエーションハウス』は弊社で初めて女性チーフが担当なんですが、期待しています。

若林もう、お二人が言ってくれたので何も言うことはありませんが(笑)。ウチの会社は4割が女性なんですよ。女性がいいっていう部分は確かにあるんですよね。それより男がどこへいっちゃったんでしょうね。最近入ってくる男子はほとんど見ませんね。女性しか面接したことないです。4年前に1人いたんですが、そのくらいの割合ですね。

内田アナ男性も是非、どんどん応募してもらいたいなってことですか?

若林そうですね。

内田アナこういったタイプの人柄が向いているっていうのはありますか?

若林えーっと、我慢強い人。いろいろな意味で、ですけど。まあ、一番はこの世界が好きな人が長続きしますよね。

内田アナ是非、テレビや映画など、こういう世界が好きだという方は、参考にしていただけたらと思います。今日は様々なお話をうかがうことができました。皆様ありがとうございました。

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