あらすじ
<第10回> <第11回> <第12回>

<第10回> 「最終章」
 「なんだか、まだピンとこなくて」。友也(坂口憲二)は戸惑いながら雑誌のインタビューに答えていた。法子(秋本奈緒美)の事務所から新鋭アーティストとしてデビューすることになったのだ。記者からフリーダイビングの過去を聞かれて、友也の表情が変わった。友也が日本新記録をだしながら、審判の疑惑の判定で涙をのんだことになっていた。記者が帰ると、友也は法子にくってかかった。「使えるものは使う。勝ちたいなら半端なこだわりは捨てなさい。これからあなたはあなた自身になれるのよ」。風来坊のような生活を続けてきた友也は、法子の言葉に何も言い返すことはできなかった。
 美冬(小雪)は恭一(伊藤英明)をジュピターに呼び出した。「このままじゃ、2人とも前に進めない気がする。別れよう」「そうか」。恭一は微かにうなずいた。
 「悪いな。約束守れなかった」。恭一は美冬と別れたことを打ち明けると、さびた腕時計を友也にさし出した。大学最後の夏合宿、恭一が美冬を幸せにすると誓った思い出の品。だから友也は諦らめたのだ。「本当にそれでいいのか?」「俺も美冬も、ただ相手にしがみついているより、お互い尊敬できる男と女でいたい」。
 聡美(田畑智子)は夫・山瀬(田中哲司)に離婚を切り出した。しかし山瀬は聡美の言葉に耳を貸そうとはしなかった。「君の勝手にはさせない」。それが山瀬の返事だった。
 タケシは、松原(松重豊)から決断を迫られていた。松原はコンピューター犯罪が発覚した時の保険として、タケシを新会社の社長に据えてきたのだ。「生まれてくる子供を犯罪者の子供にしてもいいのですか?」。松原は有里の妊娠を知っていた。「裏切りは許さない。今後もいい関係を続けるのがみんなの幸せではないですか?」。タケシは怒りを押し殺した。
 恭一が店でてるみの手伝いをしていると、意外な人物がやって来た。マーキュリーの上司、雨宮(浅野和之)だった。小さい会社はいつも大企業の犠牲になる。
 「ならば中小企業同士がギルドを結成して互いに支えあえばいい。これから実現に向けて動きだす」。雨宮のそんな考えを恭一は知らなかった。そして雨宮も恭一と同じく、弱者切り捨ての論理にジレンマをいだいてきたことを。「お前の有休はあと3日だ」「えっ?」。恭一は雨宮の温情に気づいた。
 友也のイラストが大手銀行のキャンペーンに採用された。「俺の絵が!」「それとあなた自身の物語が。日本人はこういう美談に弱いのよね」。法子の言葉に友也の笑顔は凍りついた。
 「疑惑の判定なんて嘘なんです」。しかし法子は友也をさえぎった。「認められるためには、あえて泥水をすすらなきゃいけないこともある。それが現実なのよ」。ビジネスに徹した法子に迷いはなかった。
 その夜、ジュピターに着いた時も友也の心境は複雑だった。タケシと有里以外の全員が顔をそろえていた。みんな自分のことのように喜んでくれた。美冬は友也のインタビューの掲載された雑誌を手にしていた。「知らなかった。フリーダイビングでこんなつらいことがあったなんて」。仲間から口々に同情されて友也は黙っていられなくなった。「もし本当は俺が反則していたら?」。仲間たちが息をひそめた。「そんなわきゃねえだろ」。友也は冗談にまぎらわせてしまった。
 しかし嘘をつき通すことはできなかった。帰り道、恭一と美冬に友也は真実を告白した。
 「俺は絵の世界で成功したい。何者でもない俺から卒業したい。美冬、・・・おれを見てくれないか」「見てるよ、いつだって・・・」。思わず友也は叫んだ。「ふざけんな!いつだって恭一を選んできたじゃねえか!おれがどれだけ美冬を思っても」。友也は初めて胸に秘めていたうっ屈を美冬にぶつけた。
 ホテルの銀行キャンペーンの発表会場。緊張した友也の顔が控室にあった。まだ友也は迷っていた。疑惑の判定の真相を打ち明けるべきか。「あなたの絵を売り出すためにどれだけの人間とお金が動いているか知ってるの?」。念押しする法子と入れ替わるように、美冬が姿を現わした。「友也は友也だよ。何があったって・・・」。
 記者発表が始まった。司会者が友也のプロフィールを読み始めた。突然、友也は壇上に駆け上がるとマイクを取った。会場の後ろで見ていた美冬と恭一が息をのんだ。「雑誌にも載りましたが、あれは・・・」。続いて発した言葉に2人はぼう然となった──。

<第11回> 「友の死」
 タケシ(オダギリジョー)は松原(松重豊)のインサイダー取引の証拠をMOに収めた。
 MOはある場所に隠し、タケシが警察に出頭する。つまり松原の犯罪を背負う訳だ。  条件は「有里(小西真奈美)と生まれてくる子供の安全を約束してほしい」ことだけ。「なるほど、私の負けのようですね。あなたの彼女への愛に打たれた。そういう事にしておきましょう」。
 法子(秋本奈緒美)はマーケティングデータをもとに絵を描く事を友也(坂口憲二)に要求した。納得がいかない様子の友也に「これは、芸術じゃないのよ。商品なの」。
 友也の気持ちは分かりながらも、法子はビジネスに徹していた。
 「赤ちゃんの心臓の音ですよ。順調ですね。」愛しそうにお腹をなでる有里につきそって、病院に聡美がついて来ていた。「有里がうらやましい。結婚って形に頼らなくても、心が通じあってる」「聡美はどうするの?」「離婚する。誰かに幸せにしてもらおうって、ずっと思ってたの。これからは、自分で自分を幸せにする。」
 恭一(伊藤英明)は、中小企業同士が互いに支えあうプロジェクトに取り組む事に決めた。
 だが、そのプロジェクトへの参加者である中小企業の経営者達は、恭一を疑い深い目で睨み付けていた。「俺達、若造の夢物語聞いてる暇はないんだよ。」参加者が皆帰ったあと、上司の雨宮(浅野和之)に恭一は言われた。「1カ月で、全員連れ戻せ。」
 ジュピターに恭一、友也、タケシがそろった。この3人だけで集まるのは久しぶりだ。
 大学時代のようにたわいもない話題で大いに盛り上がった。だが、タケシの様子に普通でないものを恭一は感じていた。
 「タケシ、おまえ――」だが、タケシは何も言わず、去って行った。
 美冬(小雪)は教員採用試験に合格した。予備校に退職の挨拶をすませた美冬をアリス(上原美佐)が待っていた。「会ってほしい人がいるんです」。それは7歳になる娘がいる夫妻。
 娘は、ある日突然学校に行かなくなり固く心を閉ざしてしまった。「ところがあなたの絵本だけは繰り返し読むようになったんです」。友也がアリスたちと露店で売っていた絵本。
 もちろんイラストは友也、そして詩は美冬だった。
 早速、美冬は友也の部屋を訪ねた。「知らなかった。私の詩に絵をつけてくれていたなんて」。
 しかし、友也の反応はよそよそしかった。
 「時間つくれないかな?」「・・・悪いけどそんな暇ねえんだ」「・・・友也、今の生活、本当に友也が望んだものなの?」「ああ、そうだよ」。友也の返事はどこか投げやりに聞こえた。
 「ぼくのどこが愛せるっていうんだ。」。夫、山瀬(田中哲司)の言葉はあくまで冷たかった。
 聡美(田畑智子)は離婚の決心をした。1人で暮らしていくには経済的に自立しなければならない。
 涼風ホームの寮母長に相談すると、前橋の老人ホームが介護士を求人しているという。
 前橋は遠いが、今の聡美にためらいはなかった。
 「おめでとう」。美冬の試験合格を祝って、ジュピターに恭一、有里、健太、聡美、七重(長谷川京子)が集まった。友也とタケシの顔はない。
 その頃、タケシは思い出のつまった天文台を、一人訪れていた。サジテリアスの大学時代の写真を一つ一つ見つめ、そして最後に、壁の端に新たに何かを書き込んだ。
 「乾杯!」。有里のケータイが鳴った。タケシだ。「こっちは始まっちゃったよ」。
 有里はケータイを仲間に回した。タケシはそれぞれに心のこもった言葉を伝えた。
 最後に再び有里が出た。
 「外に出られるか?」外に出た有里にタケシは言った。「星、きれいだろ。最近見てなかったと思ってさ。・・・有里、電話でごめんな。・・・愛してる」。
 有里は、なぜか、胸騒ぎを覚えた―――。

<第12回>「永遠」
 タケシ(オダギリジョー)の葬儀が営まれた。参列者の中に刑事の姿もあった。友也(坂口憲二)が食ってかかったが、捜査のためと言われては引き下がざるを得なかった。
 タケシの父親が有里(小西真奈美)に頭を下げた。「あなたはまだ若い。別の人生を歩んでも誰も責めない。世間的には犯罪者の子供です」「そんな風に言わないで下さい」。有里はそう答えるのがやっとだった。
 「あの夜タケシは何をしようとしてたんだろう」。パズルの最後の一片が見つからない。
 「探せばいいんだ、あきらめずに」。恭一(伊藤英明)は自分に言い聞かした。 恭一は松原(松重豊)を訪ねた。「タケシは利用されただけで、別に首謀者がいた可能性もあります」。ズバリ核心にきりこんだが、松原にかわされてしまった。
 美冬(小雪)は北海道から上京してきた向坂夫妻と、その娘みゆに会っていた。心をとざすみゆは美冬の“ココロの絵本”には強い関心を示していた。「ユウキって何?」。みゆの開いたページには“ただ信じる。それが一番の勇気”と書かれていた。答えられない美冬に、みゆは絵本を返した。自分には心を開いてくれるのではないかという美冬の期待はあっさりと打ち砕かれた。
 七重(長谷川京子)は自分を変えようと演劇セラピーに取り組んでいた。しかし稽古中、ふいにセリフが言えなくなった。「あなたはちゃんとやれると信じてますよ」。演出家は励ましてくれたが、思わず七重は言い返していた。「信じるって、もっと・・・もっと哀しいことだと思います」。
 聡美(田畑智子)は、夫の山瀬(田中哲司)と会い、前橋の介護センターに仕事が決まり、離れ離れになる事を告げていた。「知り合って始めての頃、私介護センターの洗濯当番で手が荒れてました。でもそんな手をきれいだって言ってくれました。そういう手の女性が好きだって言ってくれました。その一言が嬉しくって。つらいとき、いつもその言葉を思い出していました。」
 健太(山崎樹範)も苛立っていた。心臓に持病のある妹の琴美(岡田めぐみ)が遠方への転院を拒んだからだ。「離れ離れに暮らすんじゃ、家族なんて言えない」。健太は珍しく声を荒らげた。「お兄ちゃんの友達が死んだのに、お前は!」。
 タケシの初七日、ジュピターに仲間たちが顔をそろえた。「みんなで騒いで、送りだしてやりたかっただけなんだけど」。健太の声は沈んでいた。集まったのは美冬、聡美、七重だけ。
 その頃、友也はようやく仕上げた絵を法子(秋本奈緒美)に手渡していた。「自分を責めてはダメよ」。友也は苦しい胸の内を打ち明けた。「タケシのこと、100%信じれない。99%しか信じられない・・・」。「素敵ね。99%信じられる友情なんて、なかなかあるもんじゃない」友也はジュピターの仲間たちと合流すると、有里の部屋に押しかけた。重い空気をふっきるように、遺品から出てきたビデオを見ることになった。タケシの大好きだったアクション映画だ。
 ところが流れてきたものを観て、全員が息をのんだ―――。


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