<第7回> <第8回> <第9回>


<第7回>
 伊三次(中村橋之助)の弟分の弥八(山田純大)に初恋が訪れた。相手は芸者の文吉(涼風真世)の家に通いで働くおみつ(及森玲子)である。そのおみつが突然、神隠しにあったように行方不明になった。
 そのころ、おみつと同じ下谷に住む、まだ十代の町の娘が次々と姿を消していた。不破友之進(村上弘明)ら北町奉行所の同心たちが集まって対策を協議したが、ある大名屋敷が怪しいということになり、一同当惑した。相手が大名となれば、町方の権限を越えるからだ。
 だが、不破と岡っ引きの留蔵(平泉成)はあえて調べを続けた。植草藩三万石。当主は三十歳そこそこで、小藩ながら将軍の覚え目出たく、将来を嘱望されているという。
 弥八はいてもたってもいられない。植草藩邸に入ろうとして門番に殴られた。奉行所与力の片岡(伊藤敏八)がようやく腰を上げて、幕府の大目付に報告した。そして事態は一挙に解決に向かう。娘たちを連れ去ったのは、やはり藩邸の用人だった。大目付が動いたことで、娘たちは着物と十両の迷惑料を与えられ、親元に帰された。誘拐ではなく、「短期の女中奉公」というのが藩の公式見解である。
 家に帰れたものの、おみつはふさぎ込んだままだ。しばらくして文吉がおみつの実家を訪ねると、おみつは江戸郊外の村の遠い親戚の家で暮らすようになった後だった。近所で「殿様の慰みものになり、十両貰った」という噂がたっているためだ。やがてはその家の、妻を亡くして子供が三人いる四十男の後妻にでも、ということだった。
 うやむやの解決に腹を立てた不破は、十手と刀を置いて、単身植草藩邸に乗り込み、藩主植草忠之(筧 利夫)に、「権力あるものは何をしてもいいのか」と談判した。忠之は、「かって、愛する女との仲をお家の事情で引き裂かれてから心が狂った。今は若い娘に美しい着物を着せ、遊んでいるのを見るのが楽しい」と言う。不破は「そんなことは大名の寝言だ」と怒りを爆発させる。藩士が刀に手をかけたが、忠之は黙って帰した。夫の死をも覚悟していたいなみ(伊藤かずえ)は、微笑して不破を迎えた。
 弥八はやけ酒を飲む毎日だ。その姿を見かねて伊三次は「おみつを迎えに行け」と怒鳴りつけた。弥八は村に行き、「おめえと一緒になりてえ」と胸の内を告白した。とは言え、すぐには帰れないおみつである。
 植草忠之が隠居届けを出した。理由は乱心ということだった。
 江戸に初鰹売りの声が聞こえる頃、おみつが帰ってきて、また文吉の家で働くようになった。うれしい弥八である。

<第8回>
 伊三次(中村橋之助)と良い仲の芸者文吉(涼風真世)に、富裕な商人の伊勢屋忠兵衛(石橋蓮司)が「色恋抜きで世話をしたい」と言ってきた。金に困っている文吉は悩んだ末、忠兵衛の言葉を信じることにした。自分に甲斐性がないためとはいえ、伊三次は面白くなく、売り言葉に買い言葉。二人は喧嘩別れになった。
 同じ頃、伊三次はむかでの長五郎(丸尾好広)という岡っ引きが、西明寺の墓の前で殺された事件を調べていた。長五郎の手下の峰吉(谷口高史)が、増次(本田博太郎)という男の足取りを追っていた。増次は十五年前に罪を犯して島送りとなったが、最近赦免となり、昔住んでいた長屋に立ち寄った。
 女房も娘も、罪人の家族という世間の冷たい目の中で、貧困のうちに死んでいた。増次の妻子の墓は西明寺だった。伊三次の願いで不破友之進(村上弘明)が奉行所に残る古い記録を調べた。十五年前、増次は伊勢屋に奉公していて、店の金を使い込んだ罪で島送りになっていた。当時の番頭は忠兵衛。増次を捕らえたのが長五郎。増次が博打の借金をそろえて返した、と証言したのが仁助という男だった。
 忠兵衛の娘おいち(小路佳奈)が行方不明になった。やがて身代金五百両を要求する手紙が伊勢屋に届いた。深川八幡門前に五百両。金は女に持ってこさせろと書いてあった。女とは文吉を指す。伊三次の胸が騒いだ。
 深川八幡の前。文吉が持っている金を引ったくって逃げる男が捕まったが増次ではない。その騒ぎの隙に文吉の背後から鉈(なた)を振り下そうとする男がいた。気づいた伊三次が必死で組み伏せる。増次だった。
 増次の取り調べを、忠兵衛と文吉も聞かされる。異例のことだが不破の意向である。増次は、長五郎を殺したのは自分だが、十五年前の使い込みは濡れ衣だ、と言った。当時忠兵衛は、先代の伊勢屋の娘との縁談を控え、別の女と別れる手切れ金が必要だった。忠兵衛は店の金に手をつけ、長五郎と仁助を買収して増次に罪を着せた。その後、仁助も口封じのため島送りにされ、同じ島で増次は真相を知ったのだという。
 江戸に戻った増次は妻子の非業の死を知り、まず長五郎を殺し、続いて忠兵衛に愛する女と子供の死の辛さを味わせようとしたのだ。だが証人となる仁助は島で死んでいた。忠兵衛は増次の話を全面否定した。
 増次は、おいちは生きているがこのまま放っておけば餓死する。十五年前のことを認めれば居場所を言う。娘を救うか自分を守るかと忠兵衛に迫った。忠兵衛は容疑を再び否認した。娘を見殺しにするのを見て文吉は愕然とした。
 そこに伊三次が峰吉を連れて現れた。峰吉は忠兵衛から多額の口止め料を貰って江戸から逃げるところだった。これが動かぬ証拠だった。増次も忠兵衛も死罪になるが、増次の表情は安らかだった。

<第9回>
 伊三次(中村橋之助)は芸者の文吉(涼風真世)との仲をどうしようか悩み、橋の上にぼんやりとたたずんでいた。そんな姿を見て、以前、伊三次をひいきにしてくれた小間物問屋糸惣の大旦那惣兵衛(織本順吉)が声をかけた。
 惣兵衛は商人として成功し、今は楽隠居の身だが、若い日の苦い思い出があった。奉公していた店から暖簾分けしてもらった頃、菊弥という芸者に惚れた。将来を誓い合い、駆け落ちの約束までしたが、当時の大旦那に説教されて諦めたのだった。
 六十年たっても心が痛むという惣兵衛は、「金など何だ。私の二の舞はいけないよ」と言って、文吉を選ぶように伊三次に言った。その一言で伊三次は心を決めた。
 その夜、惣兵衛が匕首で胸を突かれて殺された。南町奉行所の同心川浪新作(秋野太作)は伊三次を下手人として捕らえた。惣兵衛の身の回りの世話をする女中のおりき(栗田よう子)が、惣兵衛が息を引き取る前に伊三次の名前を言ったことが証拠とされた。惣兵衛の貯めた金が盗まれており、髪床を持つための金欲しさの犯行だと川浪は見た。
 身に覚えのないことだと否認する伊三次は拷問を受けた。この月は南町奉行所が月番で、北町奉行所の不破友之進(村上弘明)は手を出せないのが建前だ。しかし不破は留蔵(平泉成)や弥八(山田純大)とともに、伊三次への疑いを晴らすために動き出した。
 殺しの夜、伊三次の長屋には、紅屋という菓子屋の娘お紺(真瀬樹里)が訪ねて来ていた。お紺は以前から伊三次に思いを寄せていた。しかし伊三次は「自分には文吉だけだ」と言って、お紺を相手にしなかった。それを恨みに思ったお紺は、「伊三次のところになど行っていない」と言い、伊三次は決定的に不利になった。
 弥八は紅屋から伊三次の長屋までにある町木戸を全部当たり、その夜お紺によく似た女が、病気と偽って木戸を通っていることを突き止めた。
 女中のおりきには助松(坂東弥十郎)という遊び人の男がいた。事件はおりきの手引きで助松が惣兵衛の貯めた金を盗もうとし、気づかれて刺したものだった。おりきはその日、惣兵衛のところに来た伊三次の名前を言って、罪をなすりつけようとしたのだ。  伊三次を救おうと必死の文吉は、紅屋に行ってお紺が嘘をついているとなじり、二人は喧嘩になる。そこに不破が現れ、伊三次が死罪になった後でも、嘘が分かればお紺も死罪だと言った。たまらずにお紺は事実を語った。
 助松が捕らえられた。現場に残された凶器の匕首と、助松が糸惣の離れの裏手の藪に捨てた鞘がぴったり合った。不破は南町の川浪の面子を立てて、助松とおりきの身柄を渡し、手柄にするよう言った。
 牢から釈放された伊三次は迎えに来た文吉と二人きりで舟に乗り、船頭(中村勘九郎)の案内で菜の花がまっ盛りの岸辺を訪れ、もう二度と別れないと約束するのだった。


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