<第4回> <第5回> <第6回>


<第4回>
 北町奉行所同心不破友之進(村上弘明)のところに、同僚の村雨弥十郎(蛍雪次朗)か心配顔で相談に来た。まじめ一方で、不破とは対照的な男だ。
 村雨は、最近多発している付け火と思われる火事が、妻ゆき(国生さゆり)の仕業ではないかと言う。事実ならゆきは死罪。役目柄、村雨家が断絶になるのは確実だった。
 村雨は一日中役所で犯罪の記録を取ったりする係で、家でもよく書き物をする。その時出る反故紙をゆきはよく庭で燃やした。
 炎に見入るゆきの目は陶然として、その姿には鬼気迫るものがあった。伊三次(中村橋之助)も、火事現場で炎に見入るゆきを見たことがある。美人だけに凄味があった。不破は伊三次に、ゆきの身辺を調べるように頼んだ。
 村雨家には舅、姑、それに男三人、女三人の子供がいた。ゆきは町医者の娘だった。身分違いの縁談がまとまったのはゆきが美しかったからだが、村雨家のなかでのゆきの立場は低かった。上の二人の息子には舅が学問を教え、三人の娘は姑が躾けていた。ゆきになついているのは末っ子の多聞(及川綾)だけだったが、その多聞も、男の子がいない実家の兄夫婦に養子にやることが決まっていた。ゆきは孤独だった。
 伊三次の弟分の弥八(山田純大)がゆきの日常を調べた。「火付けしても驚かない」というのが弥八の結論だった。ゆきの境遇を聞いた芸者の文吉(涼風真世)も、「はたから見れば立派な家でも、女の身にはたまらない。可哀想」と言った。
 報告を受けた不破は、村雨の家を訪ねる。そしてちょうどいたゆきに、「火付けの下手人の探索はしない。やりたければ村雨が自分でやるように」と言った。夫が不破にそんな依頼をしていたことを知ってゆきは愕然とした。
 ゆきは不破の妻いなみ(伊藤かずえ)を訪ね、「村雨の家には自分の居場所がない」と胸のうちを語った。そして、武家の出で武芸のたしなみもあるいなみをうらやんだ。その上で、飲んだくれで役所の評判が良いとは言えない不破に尽くすいなみを褒めた。
 いなみは、「夫婦は、たった一つだけ繋がるものがあればいい」と言った。そして、突然身の上話を始めた。いなみはかって、吉原づとめをしていたことがあると・・・。 いなみの父深見平五(下元年世)は町道場を開いていた。上には菊野(松本智恵)という姉がいて、その縁談も決まり、一家は幸せだった。ところが相手の男、日向伝左衛門に、大名家の姪との縁談が持ち上がり、出世のために日向は菊野を裏切った。菊野は悲しみのあまり首を吊って死んだ。
 平五は日向を討とうとするが、相手は大勢で返り討ちに合う。残された母も心労で死亡。一人になったいなみはついに吉原に身を売る。そんないなみを身請けしてくれた侍がいた。父の弟子だった不破である。
 二十八両もの金をどうしたのか。一瞬、不吉な考えがいなみの頭の中をよぎったが、いなみはこう考えた。もしそれが盗んだ金で、不破が死罪になるのなら、自分も死ねば良いのだと。「一緒に死ねる」。そう考えたことで、二人で生きる決心がついた。この話を、ゆきは感動して聞いていた。
 また火事があった。日向の屋敷だった。日向は重症の火傷を負った。火を付けたのはゆきだった。いなみのために昔の敵を討ってくれたのだ。次の火事は村雨の家だった。不破、伊三次らが駆けつけたがすでに手遅れ。舅、姑と五人の子供は逃げ、火の中にいるのは村雨とゆきに多聞だった。危険を冒して不破、伊三次が飛び込む。村雨は多聞を伊三次に託した。そして不破にこう言った。
 「ゆきを狂わしたのは自分の不甲斐なさだった。どうせ死罪なら、自分と一緒に死のう。そう言うと、ゆきは嬉しそうに笑った。ゆきを斬った。ゆきは美しかった」と話して、村雨は炎の中に飛び込んだ・・・。
 不破は、火事の原因を失火とした。村雨はゆきを助けようとして死んだことにした。村雨家は断絶を免れた。それにしても悲しい結末だった。

<第5回>
 幼い時に両親を亡くした伊三次(中村橋之助)は、姉のお園(岡まゆみ)と肩を寄せ合うようにして育った。お園は髪結い「梅床」の主人十兵衛(木村元)の後妻になっているが、ある日、夫婦喧嘩して家を飛びだした。
 十兵衛はけちで横柄な男で、伊三次とも気が合わない。お園が家を出るにはよほどのことがあったのだろうと、話を聞いた不破友之進(村上弘明)と妻のいなみ(伊藤かずえ)は思った。伊三次は姉が身を寄せるであろう場所には心当たりがあった。
 畳表織りの職人おせい(杉山とく子)の家である。腕の良い大工だった伊三次の父親が、おせいのために織り機を作った縁もあって、みなし児となった伊三次とお園に時々食事をさせてくれたり、おせいの実の子の喜八(火野正平)と分けへだてなく可愛がってくれた家だ。いわば「わが家」のような場所だ。
 予想どうりお園は、おせいの家にいた。訪ねた伊三次と三人でしばらく昔話に花が咲いた。備後産のいぐさでおせいが織った上質の畳表は、旗本、大名の屋敷から、江戸城の中でも使われていた。一度でいいから、そういう場所で使われている自分が作った畳が見たい、というのがおせいの夢だった。
 喜八も畳職人だが、おせいのような腕はない。畳問屋の「ての字屋」の利助(柴田善行)に客を奪われたりして、二人は犬猿の仲だ。そんなある日、喜八と利助が大喧嘩をし、喜八が立ち去った後、利助が死んでいるのを一緒にいた「ての字屋」の己之吉(遠藤憲一)が見つけた。畳を張る針で喉を突かれたのが死因だった。針は喜八の物で、彼に疑いがかかった。しかし喜八は、自分は絶対殺していない、と伊三次に誓う。
 利助は「ての字屋」の主人庄兵衛(石山律雄)の娘お君(舟木幸)の婿になり、店を継ぐことになっていた。失意のお君をなぐさめているのが奉公人の己之吉だった。伊三次はその己之吉が臭いと見た。弥八(山田純大)が己之吉に張りつき、彼がゴロツキと付き合い、借金も多いこと、しかも最近「勝負に出て、運が向いてきた」と言っていることをつかんだ。
 伊三次は一計を案じて、お君からの付け文を書き、人気のない原っぱに己之吉を呼び出した。話を聞いていたお君は、現れた己之吉を非難する。表情が強張った己之吉の前に伊三次と弥八が出てくる。匕首を抜く己之吉。これを叩き落とす伊三次。庄兵衛、そして不破も現れて、己之吉はがっくりと膝を落とした。己之吉は、喜八と利助の喧嘩で、気を失った利助が残されたのをいいことに、畳針で利助を殺し、「ての字屋」の婿養子に納まろうとしていたのだ。喜八への濡れ衣は晴れた。
 一件落着である。が、不破が味なことをしてくれた。「ての字屋」から大福帳を持って来て伊三次に見せた。おせいが織った畳表がどこに納められているかがこれで分かる。しかも酒井雅楽頭の屋敷では近いうちに座敷の畳替えがあることまで教えてくれた。
 伊三次はおせいを喜ばせてやろうと考えた。畳替えには「ての字屋」の職人が行く。喜八も一緒だ。そのなかに、掃除の役ということで伊三次とおせいが加わった。広大な敷地の美しい御殿に、おせいが織った畳が敷かれていた。見とがめられれば手討ちものだが、危険をおかして伊三次はおせいを座敷まで連れて行った。涙ぐむおせい。伊三次の「親孝行」だった。
 十兵衛とお園夫婦は、先妻の子供を入れて五人の子を育てていた。お園が出て行って、その負担はすべて十兵衛が負った。ついに根を上げた十兵衛があやまり、お園は家に帰ることになった。こちらも一件落着である。

<第6回>
 不破友之進(村上弘明)の妻いなみ(伊藤かずえ)には武芸のたしなみがある。十歳になる息子の龍之介(岡田翔太)の剣術の腕も急速に上がり、最近道場で五人抜きをした。しかし、そんな喜びを吹き飛ばすようなことがいなみに起こった。憎んでも憎み切れない父と姉の仇、日向伝左衛門(中山仁)を町中で見たのだ。
 十二年前、いなみの姉菊野は日向と婚約していた。ところが日向に大名の姪との縁談が持ち上がり、菊野は捨てられた。傷心の菊野は自ら命を絶ち、父親深見平五は日向を討とうとしたが、相手が多く返り討ちとなった。その後の心労で母も死に、いなみはついに吉原に売られた。父の弟子だった不破に身請けされるまで、屈辱の日々を送ったのだ。
 日向が所要でしばらく江戸に滞在すると知って、いなみは敵討ちを決意した。しかし今は不破の妻である以上、敵討ちの名分はない。ただの私闘になってしまう。仮に日向を討っても、科は不破にまで及ぶ。いなみの心は揺れた。
 いなみには、幼い時に他家に養子に行った大沢崎十郎(緒形幹太)という弟がいた。たまたま、崎十郎が仕える藤井市郎兵衛は日向とは茶の仲間で、日向の予定をつかむことが出来た。崎十郎は、情報収集には協力するものの、姉と共に敵討ちをすることは断った。いなみが伊三次(中村橋之助)に髪を結ってほしいという。伊三次は仕事では女の髪は結わないが、どうしても、との頼みで引き受ける。結いながら、いなみの頭に心労のためと思われる小さなはげを見て伊三次は驚いた。
 いなみの様子がおかしいことには、不破家の下男作蔵(笹野高史)も気がついていた。作蔵の話から、いなみが敵討ちの準備をしていることは間違いなかった。伊三次は放っておけないと思った。
 不破配下の目明かしの留蔵(平泉成)、伊三次、伊三次の弟分の弥八(山田純大)、それに作蔵が王子の茶店に集まって対策を話し合った。留蔵の指示でそれぞれの分担も決まった。ところが皆が集まっている間に、島送りされる罪人の一団が護送中に集団脱走する事件が起こった。不破は留蔵たちを探したが、みつからない。事件の後、不破にたっぷりと油を絞られる伊三次たちである。もちろんいなみの敵討ちのことは不破には言えない。
 芸者の文吉(涼風真世)の家に、紙に書かれた留蔵や作蔵からの情報が集まってくる。それによると日向は近いうちに国元の下野に帰る。いなみは自宅で敵討ち装束を縫っていた。決行の日は近いようだ。文吉は伊三次に、今度いなみから髪を結うように頼まれたら気をつけた方が良いと忠告する。芸者でも、侍の奥方でも、いざ出陣の時には髪をきりっとするものだからだ。
 日向が吉原の大見世の主人たちに茶を教える日が分かった。いなみにとっては忘れられない吉原である。その日の朝、作蔵が伊三次の長屋に来た。いなみが髪を結ってほしいと言っていた。伊三次は番屋に寄るが、留蔵は弥八と千葉まで行っていない。作蔵も龍之介を道場に連れて行くという。伊三次一人しかいない。
 いなみの髪を結った伊三次は、いなみの後をつけた。それに気がついているいなみだが、もはや覚悟を決めているので気にしない。吉原の堤でいなみは日向と対決した。供の侍と斬り合い、小太刀の柄頭で突いて気絶させたいなみ。その腕を見ただけで日向は恐怖にかられ、手をついて命乞いする有り様だ。そんな日向を斬るかどうか迷ういなみだが、ついに決心して小太刀を振り下ろした。
 その瞬間、伊三次はいなみに体当たりした。流れた刃先が伊三次の腕を斬った。ぼうぜんとしたいなみは、小太刀を放り出すと激しく泣いた。日向は這うようにして逃げていった。「立派におやりなすった。これでいいんです」といなみに言う伊三次だった。


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