<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 廻り髪結いの伊三次(中村橋之助)は、十二歳で両親に死に別れ、世間の荒波にもまれながら生きてきた。髪結いの腕は抜群で、いまでは八丁堀の同心不破友之進(村上弘明)はじめ、ひいきの客も大勢いた。しかしまだ、貧しい長屋暮らしである。売れっ子辰巳芸者の文吉(涼風真世)とは恋仲だが、時に小遣いを貰ったりしていている。
 そんな伊三次だが、夢がある。髪結床の株を買って店を持ち、文吉と所帯を持つことだった。そのために爪に灯をともすような暮らしをして金を貯めていた。長屋には三十両もの金が古畳の下に隠してあり、年を越したら、両親の菩提寺や姉のところに預けてある金と合わせた約百両で株を買うつもりだった。
 大晦日である。文吉を訪ねて夢を打ち明け、「所帯を持とう」と言った伊三次は、長屋に帰って異変に気づいた。古畳をはがすと、三十両の金と、晴れて店を構えた日のために新調した紋付きが盗まれていた。がっくりと肩を落とす伊三次。除夜の鐘が鳴りだした。 伊三次は元日に不破の屋敷に行く約束をしていたが、とてもそんな気にならず、長屋で布団をかぶっていた。翌日、不破の下男の作蔵(笹野高史)が迎えに来た。不破は伊三次の死人のような顔色を見て、何があったのかを問い詰めた。不破の妻のいなみ(伊藤かずえ)も心配そうだった。話を聞いた不破は、何としても金を取り戻さなければ、と言った。伊三次は不破の御用を務める岡っ引きの留蔵(平泉成)に相談した。
 下手人が紋付きを古着屋に持って行ったことから、名前が割れた。弥八(山田純大)という伊三次も良く知り、弟のように思っている若者だ。だから金の場所まで知っていたのだ。弥八は博打で借金を作り、こともあろうに姉のお美代(佐藤友紀)まで賭けたのだ。金が出来ないと、姉は岡場所に売られてしまう。思い余っての犯行ではあった。
 留蔵から弥八の名を聞いた伊三次は血相を変えて弥八を探し、ついに弥八がやくざに三十両を返した場所にたどり着いた。すでに証文は弥八の手に渡っている。伊三次が弥八に迫り、それからやくざとの乱闘になった。伊佐次の手には匕首が光っている。だが多勢に無勢。そこに不破と留蔵がかけつけ、やくざは逃げ、弥八は捕らえられた。
 当時、十両盗めば人の首が飛ぶ時代だった。不破はまだ十七歳の弥八をあわれんで、盗まれた金は十両未満と調べには書きたい、と言った。納得出来ない伊三次だが、いなみが「もし弥八が獄門になれば、姉のお美代も後を追う。金を諦めれば、二つの命が助かる」と涙ながらに説得した。そこにお美代と弥八が来た。「俺ア何も盗られちゃいねえ」と言う伊三次。また廻り髪結いの暮らしが始まるのだ。

<第2回>
 富裕な商人成田屋庄兵衛(立川三貴)の幼い娘お鈴(前田萠絵)が誘拐された。成田屋は密かに身代金百両を金を払い、娘は無事帰された。奉行所に届けたのは五日後。八丁堀同心不破友之進(村上弘明)はそれが不愉快だったが、調べを始めた。岡っ引きの留蔵(平泉成)の下っ引きを務める廻り髪結いの伊三次(中村橋之助)も聞き込みに走った。
 伊三次といい仲の深川の芸者文吉(涼風真世)が、幇間(たいこもち)の彦太郎(上杉祥三)の金遣いが急に荒くなったと教えてくれた。 彦太郎はほれぼれするような美声で新内、小唄、都云逸と何でもござれだが、性格はひねくれている男だという。
 身辺を調べると、たった二日で博打に三十両も使っていた。彦太郎は捕らえられたが、その直後に「成田屋の事件は自分が一人でやった」と、おしの(荻野目慶子)という女が名乗り出て、不破と留蔵をあわてさせた。おしのは駒吉の名で深川で芸者をしている。
 深川では下っ端芸者だが、彦太郎に入れあげていたおしのは奉行所の調べにも、「一人でやった」と答え、調書に判も押した。しかも七十両の金を持っていた。実際には、彦太郎にだまされて、お鈴を成田屋から連れだす役をさせられただけ。金は彦太郎から預けられたのだが、これでは死罪は決まったようなものだ。しかし、いくら惚れた男のためでも解せないところが多い。
 不破は不機嫌で、伊三次の聞き込みが不足だと言って怒った。伊三次は不服である。
 伊三次が下っ引きをするのには理由があった。五年前、義理の兄で有力な髪床親方の十兵衛(木村元)と大喧嘩をし、もぐりの髪結いを余儀なくされた時、本来は摘発する側の不破が伊三次の腕を気に入って、ひいきにしてくれた恩があるのだ。
 その夜、不破の妻のいなみ(伊藤かずえ)が、伊三次の好物の饅頭を持って「これからもよろしく」と頼みに来た。またやる気を出す伊三次である。
 牢内の彦太郎が歌っている。囚人も牢番も惚れ惚れする声である。良く通るその声を、女牢のおしのも泣きながら聞いていた。
 伊三次が小さな八百屋を開いているおしのの兄与助(光石研)を訪ね、おしのの身の上話を聞いた。おしのと彦太郎は幼なじみだった。与助とおしのは早くに母親を亡くした。良い喉が自慢だった父親は、八百屋の仕事を嫌い、芸人になる、と言って家を出た。幼いおしのは父親について行った。父親はおしのの手を引いて流しをしていたが、おしのが十三歳の時に死んだ。
 与助のところに帰ってきたおしのだが、十五歳の時、芸者になりたいと言いだした。芸者になってはみたものの売れない。それでも、彦太郎を座敷に呼んで、その喉を聞くのを楽しみにするという変わった芸者だった。
 おしのが明日死罪を言い渡されることが決まった。彦太郎の方は娑婆に戻る。あまりにも理不尽なことだが、おしのが「一人でやった」と言い張る以上仕方ない。伊三次は不破の命で、最後に髪を結いたいと願ったおしののところに行く。
 その前に不破がおかしなことを言った。「明日の白州におしのが出られなければ、申し渡しはお流れになり、彦太郎を叩ける」。そして、「剃刀を忘れてくるんじゃねえぞ」と牢に向かう伊三次に言った。
 おしのの髪を結いながら、伊三次は彦太郎とのことを聞く。「あたしが惚れたのはあいつの声だ」とおしのは言った。自分を育て、一緒に流しをした父親の声にそっくりだったのだ。芸者になればその声を近くで聞けた。そして「あの声だけは殺したくない」とも言った。それが彦太郎をかばう理由だったのだ。
 おしのは伊三次が置いた剃刀を膝の下に隠した。気がついた伊三次だが、黙って外へ出た。明け方、おしのは剃刀で自害した。
 三月後。捕らえられた彦太郎に死罪が言い渡され、市中を引き回された。伊三次と文吉もそれを見ていた。

<第3回>
 日本橋の塩魚(しおうお)問屋「魚花」の旦那芳蔵(中丸新将)が水死体で発見された。前夜、芳蔵は芸者をあげて大騒ぎ。伊三次(中村橋之助)と恋仲の辰巳芸者文吉(涼風真世)もその座敷に出ていた。良い気分で猪牙舟(ちょきぶね)に乗り込んで家に向かうところまでは、芸者たちが見ている。
 酔って水に落ちた可能性もあるが、八丁堀同心の不破友之進(村上弘明)は、芳蔵の女房おすみ(土田早苗)が、葬式の翌日からてきぱきと店を切り盛りしているのが気になった。おすみは元辰巳芸者で文吉の姉さん株だった。
 その文吉には悩みがあった。芸者置屋の宝来屋の女将おなみ(浅利香津代)が勧める商家の若旦那の囲い者にならないか、という話である。 もともと文吉には旦那がいた。その男に今住んでいる家も貰ったのだが、旦那が死んで自由の身になり、以後は芸だけを売って生きてきたのだ。
 ところが、死んだ旦那の息子が文吉を前から好きで、今度は自分の女にならないかと、おなみを通じて申し込んできた。親子二代の囲い者というだけでも嫌なうえに、今は伊三次がいる。だが、断るとおなみは、今の家を追い出すようなことを言っておどかすのだ。 文吉はおすみの家に弔問に行く。線香をあげると文吉は悩みをおすみに打ち明けた。その帰り、文吉は不破に呼び止められた。伊三次も不破と一緒だった。めし屋で酒を飲みながら、不破はおすみに対する疑惑を打ち明け、文吉に調べに協力しておすみの身辺を洗うように依頼した。文吉は断った。伊三次と二人きりになって、文吉の怒りが爆発した。
 おすみの生き方は、文吉の理想だった。売れているうちに足を洗って、惚れた男と一緒になって商いを盛りたてる。文吉も伊三次と所帯を持って、髪床の女房になる気だった。ところが伊三次とは、いつまでたっても恋仲の関係だ。家に行ったこともない。そのうえ、伊三次は不破の下っ引きまでさせられている。酒の飲めない伊三次が、不破の杯を受けていたのも不愉快だった。文吉は伊三次に、「このままではもう嫌だ」と言う。
 文吉の求めで伊三次は自分の長屋に文吉を連れて行く。その貧しさに息を飲む文吉である。文吉は伊三次に自分の気持ちをぶちまける。もう捕り物はしない、と言って文吉を抱くことしか伊三次には出来ない。
 おすみは宝来屋を訪ねて、おなみに文吉をいじめるな、とクギを刺した。
 芳蔵が死亡した事件は意外な展開を見せた。吾作(細川純一)という、芳蔵お抱えの船頭が急に金回りが良くなった。それを知った文吉の下にいる鶴吉(井上ユカリ)という芸者が「何か裏がある」と言った。文吉がそれを岡っ引きの留蔵(平泉成)に伝えた。
 やがて、おすみが芳蔵殺しの下手人として捕らえられた。先に捕まった吾作が白状するには、芳蔵が死んだ夜の船頭役は、金を積まれて別の男に代わったという。平助(本城丸裕)というゴロツキで、おすみに頼まれて、酔った芳蔵を川に突き落として溺死させたのが事件の真相だった。
 文吉が留蔵に吾作のことを話したのは、おすみへの疑いを晴らしたかったためだが、それが裏目に出てしまったことになる。犯行の動機は、好いて一緒になったはずの芳蔵の心変わりだった。
 おすみが文吉に会いたいという。番屋の薄暗い調べ室でおすみは、幸せ一杯で店を繁盛させるために働いたこと。やがて若い鶴吉に心が移り、芳蔵が冷たくなったことなどを話した。鶴吉に自分の子供を生ませようと考えていたことも・・・。伊三次もその話を聞いていた。最後におすみは文吉に「幸せになるんだよ」と言った。


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