あらすじ
<第10回> <第11回>

<第10回> 
ハル(ユースケ・サンタマリア)は論文を完成させた。これで手術によってハルの知能に何が起こったかわかる。「役に立ちますよね」「もちろんだ」。ハルは建部教授(益岡 徹)に論文を手渡した。「すごいね」。徳永(田口浩正)と留美子(石橋けい)はうなずきあったが、ハルのつぶやきに打ちのめされた。「自分で書いたことが半分も理解できないんです」。ハルの知能低下はそこまで進んでいたのだ。
 授業を終えたエリナが桜井パンの前を通りかかると、男の泣き声が聞こえてきた。「ハル君?」。素手で地面の土を掘るハルのそばにはアルジャーノンのなきがらがあった。「アルジャーノンが死んだ。友達だったのに」。エリナは悲しみより恐怖を感じた。知能低下の果てに同じ運命がハルにも待っているのではないか。
 ハルは高岡(吉沢 悠)からエリナと別れたことを聞かされた。ハルは自分が原因であると察した。「エリナ先生を幸せにしてあげて」「これは俺とエリナの問題なんだ」。しかし2人は以前のように言い争うことはなかった。「お前、なんか頭柔らかくなったな」「知能が低下したからかな」。ハルの口からはそんなジョークも飛び出した。その夜、ハルは経過報告のリポートにこう記した。誰かといると気持ちがきれいになっていく気がする、と。
 ハルは久しぶりに障害者学級に顔を出した。「ハル、ズル休みばかりしやがって」。仲間たちは大喜び。ミキ(榎本加奈子)もうれしそうだ。皆と楽しそうに遊んでいるハルを見ていると、エリナの脳裏にはこれまでのさまざまなシーンがよみがえってきた。ハルはエリナに言ってくれた。手術を受けて本当に良かったと。何かを知ることは素晴らしい。それを経験できたのだから。「僕の大好きなエリナ先生でいてください」。エリナは必死に涙をこらえて笑顔でうなずいた。
 「そう、ハルらしいね」。エリナは恭子(中島知子)にハルの近況を、知能低下のことも包み隠さずに伝えた。「ちょっと、ここ頼んでいい?」。恭子はエリナに店番を頼むと飛びだした。向かったのはハルの暮らす大学。「失礼します」。ちょうどハルは研究室で知能検査を受けていた。「ちょっと話せないかな?」。恭子はハルを引っ張りだした。「戻っておいでよ、またうちで働けばいいじゃん」「ありがとう」。ハルは何度も何度もうなずいた。
 ハルは桜井パンに復帰して驚いた。ミキが売り場で頑張っていた。以前はバカにしていた和歌子(牛尾田恭代)や知子(田中景花)がちゃんとサポートしている。「すごいね、ミキちゃん」「はい、すばらしい」。ハルの暮らしていた部屋はそのままだった。「あんたが戻ってくるって思ってたわけじゃないわよ」。さりげない言い方に恭子なりの愛情がこもっていた。
 1人きりになるとハルは思い出にふけった。窓から外を見ていると、気持ちが押さえきれなくなった。「お母さんに会ってきます」。ちょうど店にやって来たエリナにそう言い残すと、ハルは飛びだしていった。
 ハルは蓮見家のチャイムを押した。「お母さん、一度だけでいいんです。ここを開けてください」。玄関のドアが開くと佐智代(いしだあゆみ)が立っていた・・・。

<第11回>
 ハル(ユースケ・サンタマリア)の知能低下がついに止まった。ただし手術前よりも低い水準で。「運動能力や言語障害には至らなかったようだ」。建部教授(益岡 徹)の言葉にエリナ(菅野美穂)や徳永(田口浩正)、留美子(石橋けい)が沈痛な表情をのぞかせると、ハルがおどけて見せた。「こら、ハル君!」。ハルの周囲にはしぜんと笑い声がおきる。手術前と変わらずに。
 ハルはエリナに連れられて桜井パンに帰ってきた。「お帰り、ハル」。恭子(中島知子)やミキ(榎本加奈子)はもちろん、従業員たちも全員笑顔で出迎えてくれた。恭子はエリナと2人きりになると、高岡(吉沢 悠)のことを心配してくれた。「自分を犠牲にして誰かのためなんて思い上がりだよ。ハルに失礼だよ。それにあんな格好いい男、もったいないよ」。冗談めかした恭子の言葉にエリナは少し気持ちが楽になった。
 ハルは再びパン工場で働きはじめた。早速以前のように失敗の連続。「また、これが始まるのか」。しかしもう誰もからかったり、いじめたりしなかった。ハルがそこにいるだけで穏やかな空気が生まれた。「どうしてハル君は頭よかったのにバカになっちゃったんですか?」。ミキにはハルの変化が理解できなかったが、2人は仲良く障害者学級に通い始めた。「こんにちは」「はい、じゃ授業を始めます」。ハルにもエリナにも以前と変わらぬ日常が戻ってきた。
 高岡がハルを訪ねてやって来た。「ハル、わかんなくてもいいから聞いてくれ」。呆気にとられるハルにおかまいなく高岡は一方的にしゃべった。「俺、やっぱりエリナが好きだ。もう一度、あいつにプロポーズしてみる。いいよな、ハル」。涙ぐむ高岡を不思議そうに見ていたハルはつぶやいた。「エリナ先生が笑うとボクもうれしいです」。2人のやりとりを物陰からうかがっていたエリナはそっとその場を離れた。
 エリナは建部教授からハルが最後までつけていた経過報告のリポートを手渡された。「読むのは辛いかもしれない。でもこの中にはあなたへのメッセージがたくさんつまっています」。エリナは公園のベンチでリポートを読んだ。ハルは自分の運命を恨んでいなかった。むしろ手術によって新しい世界を知ったことを感謝していた。そして最後まで周囲の人々の幸せを願っていた。とりわけエリナの幸せを。「ハル君、ありがとう」。エリナはこらえきれずに泣いた。
 エリナは佐智代(いしだあゆみ)と出会った。「ハルは元気でやってるんでしょうか」「ええ」。ハルが外国へ行ったと信じているのだ。「私ずっとおびえていたの。なんでひどい目にあわないんだろうって」。エリナはハルが一度たりとも佐智代を憎んだりしなかったことを知っている。もう嘘はつき通せなかった。「ハル君は今─」。エリナはすべてを告白した・・・。


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