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<第7回>
 このところ松平斬九郎(渡辺謙)の様子が少しおかしい。飲んだくれの生活をやめて、早朝から庭で木刀をふるう。母親麻佐女(岸田今日子)に大金を渡し、その上、感謝の言葉を言う。あまりの変化に麻佐女は下男の喜助(牧冬吉)に、斬九郎の身辺を探るように命じる。
 真相は、斬九郎が道場破りを始めたことにあった。江戸市中の道場を片っ端から訪ね、師範代と木刀を交える。斬九郎が勝つ。そこで道場主に手合わせを申し込むと、十両なりの金を持ってきて「これでお引き取りを」となる。ある道場で名前を問われた斬九郎は「松田半九郎」と答えた。
 喜助の報告でそのことを知った麻佐女は、一度は怒ったものの、結局は「道場破りも剣術修業には違いない」と言った。やはり斬九郎が稼ぐ金が魅力なのだ。
 「松田半九郎」の名前は、江戸の道場主の間で広まった。蔦吉(若村麻由美)が出る「船久」の座敷でも、客の道場主藤井左馬之助(内田勝正)がその名をあげる。蔦吉はとっさに、それが最近やたらと金回りが良い斬九郎の偽名だと思った。
 その時、斬九郎は「船久」に来ていて、蔦吉の追求にあっさりそのことを認めた。最初は金に困ってしたことだが、だんだん道場破りが面白くなってきたという。その話を藤井とその連れが廊下で立ち聞きをしていた。藤井は斬九郎がいる座敷に踏み込み、二人の間に火花が散る。藤井は花川戸の梶派一刀流の道場を訪ねよ、と言い捨てて去った。
 翌日、斬九郎は「梶派一刀流剣術指南所」と書かれたさびれた道場へ行く。冴えない男の師範代、中山小四郎(池内万作)が取り次いだ道場主は門倉十太夫(江藤潤)という男だった。町内に梶派一刀流が二つあるのだ。もともと門倉の父親が道場を栄えさせたのだが、高弟の藤井が新たに道場を開き、門倉の所から弟子を引き抜いて、今では立場が逆転していた。
 しかし斬九郎には関係のない話。ところが門倉の妹の美しい奈々江(谷川清美)が斬九郎を引き止めて酒を出し、翌日は松平家に訪ねて来て、兄の道場再興に力を貸してくれるように懇願した。奈々江は気だても良く、麻佐女はすっかり奈々江が気に入り、斬九郎の嫁にと考えた。
 これを知って面白くないのが蔦吉である。一方斬九郎は、門弟のいない門倉道場に、親から勘当寸前の商家の道楽息子を集めて剣術を教えている。そこへ乗り込む蔦吉。だが結局、元は武士の娘だった蔦吉も稽古を付けることになり、美人芸者の道場として門倉道場の人気が上がる。 藤井の元へ去って行った門弟も二人帰って来た。
 この弟子を藤井が力づくで取り戻した。そのうえ、門倉に果たし状を送りつけて来た。ついに斬九郎も助太刀して、壮絶な斬り合いの末、斬九郎が藤井に傷を負わせ、門倉がそれに乗じて藤井を斬った。
 当時、正式な決闘には、お上からのお咎めはなかった。だが、なぜか斬九郎だけが捕らえられる。しかも門倉は、これはただの喧嘩で、自分は斬九郎から助けを求められただけだ、と嘘をつく。この決闘は、藤井を倒すために、藤井の高弟を抱き込んで門倉が仕組んだものだった。門倉は藤井に決まっていた仕官の口も自分のものにした。
 与力西尾伝三郎(益岡徹)の計らいで釈放された斬九郎は、門倉に詰め寄るが、証拠があるか、と居直られる。その時、奈々江と門倉の師範代の中山が、門倉のあまりのあくどさに愛想が尽きて、お上に本当のことを話すと言った。斬九郎の潔白が証明される。
 一件落着。麻佐女は、事件とは関係なく奈々江を嫁に、と言った。その時、奈々江が「私には資格がありません」と言った。黙っていたが中山と奈々江は夫婦だったのだ。驚く斬九郎、がっかりする麻佐女だった。

<第8回>
 武家の若い妻美津(伊藤 蘭)は四歳になる一子竹丸(横山彰人)を連れて実家の墓参りに行くと、かって愛したことのある土岐仙之助(籐堂新二)が待ち伏せていた。仙之助は美津に復縁を迫った。美津が断ると、仙之助は竹丸をさらって逃げた。
 松平斬九郎(渡辺 謙)のところに、奉行所の与力西尾伝三郎(益岡徹)の妻るい(唐沢 潤)からかたて業の依頼が入る。旗本五百五十石田所采女(岡本富士太)の一子竹丸が誘拐されたので、何としても探し出して欲しいということだ。るいは美津と知り合いだった。 田所の屋敷で犯人からの脅迫状を見た斬九郎は、「明日の暮六ツ、奥方ただ一人で二百両持って宗龍寺裏の空き地へ」と書いてあるのに疑念を持った。 采女も同じだった。金目当ての誘拐ならば、誰が行っても良いはずだった。指定の場所には、美津の娘時代からの女中のきく(井出みな子)が行くことになった。その時の美津の表情を斬九郎はじっと見ていた。采女と美津は歳が二回りも違っていた。
 翌日の夕、「美津どの」と言う男の顔を見たきくは驚いた。仙之助も驚いて逃げた。その時、別の頬かむりの男が現れ、きくが持っていた金の包みを奪ったが、斬九郎と佐次(塩見三省)が男を捕らえた。捨吉(犬塚 弘)というチンピラだった。
 この騒ぎで斬九郎は犯人を逃がしはしたが、きくと犯人には面識があり、犯人の狙いは金よりも美津にあることが分かった。雇われただけの捨吉は仙之助の名前と隠れ家を吐いた。食いつめた浪人たちがたむろしている場所のようだ。
 美津が田所の屋敷から姿を消した。行き先は仙之助の隠れ家だ。四年前、美津と仙之助はその場所で結ばれ、仙之助は今もそこに住んでいることを、墓地で美津に話していた。 隠れ家には武田源之進(甲斐道夫)ら悪い浪人が何人もいた。竹丸もいた。わが子の姿を見た美津は、突然懐剣を抜いて浪人たちに斬りかかった。勝てる状況ではない。家の裏手から中をのぞいていた斬九郎が浪人たちを斬った。しかし何人かが竹丸を連れて逃げていた。斬九郎はわざと美津の首筋に刀をあて、「女は預かる。欲しけりゃ子供と引換えだ」と言って去った。仙之助が「美津どの」と言って青ざめた。
 斬九郎は美津から話を聞いた。四年前、美津は親が決めた話で田所に嫁いだ。実家の家計が切迫し、経済的に世話になっている田所の申し出を断れなかったのだ。その時、美津と貧しいが純情な侍だった仙之助と愛し合っていた。嫁ぐ前、美津は生涯の思い出に、と仙之助に体を許した。
 嫁いでみると、田所は心の広い男だった。一方仙之助は身を持ち崩し、浪人となり、ついに今度の事件を起こしたのだった。
 斬九郎が、仙之助に呼び出し状を出した。美津と竹丸との交換である。この時、美津にこだわる仙之助と、金だけが欲しい武田らとの間には深い溝が出来ていた。
 呼び出した場所は夜の森。敵はどこから来るか分からない。提灯を持って木の下に一人立つ美津に、酔ったふりをした芸者の蔦吉(若村麻由美)が近づき、からむ。イライラした仙之助側の浪人が木立から飛びだした。これで相手の場所が分かった。
 斬九郎が斬り込み、すべてがうまくゆくはずだった。ところが縄を解かれた竹丸が「母上」と一人走り出した。仙之助が竹丸を抱きとり、喉元に白刃を突きつける。
 その時、「殺しなさい」と美津が叫んだ。「その子はあなたの子です」。美津の予想外な言葉に仙之助がたじろいだ。その時、深手を負っていた武田が「失敗したのは貴様のせいだ」と言って背中から仙之助を刺した。竹丸は美津の胸に戻った。
 事件は解決したが、美津は大変な言葉を口にしてしまった。しかし田所は「子供を守るための嘘であろう」と取り合わなかった。心の広い男だった。

<第9回>
 御家人松平斬九郎(渡辺謙)の家の食事がソバばかりになった。ここ数年、飢饉続きで米の値段が上がった上に、豪商や米問屋がこれに便乗、買い占めや売り惜しみで、米が品不足になっているのだ。ぜいたく好きの麻佐女(岸田今日子)などは、白いご飯に飢えて気も狂わんばかりである。
 斬九郎が船久に行っても、蔦吉(若村麻由美)は米問屋などの宴席で忙しい。変わって来たのが、おしの(上野めぐみ)という若い芸者。上方から来て間もないという。そのおしのにも中座され、面白くない斬九郎は帰る。途中、船久の船付き場で、おしのと中年の大柄な侍が話をしているのを斬九郎は遠くから見た。男は追われているようだった。
 実は、男は大坂町奉行所の元与力、大塩平八郎(中村敦夫)。窮乏する庶民のために同志を集めて約三百人で兵を挙げ、買い占めをしている豪商らを襲ったが鎮圧された。世を騒がせた大塩平八郎の乱(天保八年、一八三七年)の首謀者である。
 おしのの父は、乱の時の農民代表で、大塩の身代わりになって命を捨てた。別れの時、江戸のおしのを訪ねるように言っていたのだ。おしのは大塩を若い蘭学者生田俊宗(西田健)のところへ案内した。大塩を追って大坂から平山助次郎(遠藤征慈)と吉見六右衛門(入鹿尊)の二人の同心が来ていた。二人は挙兵の計画を漏らした裏切り者である。
 二人は大坂の豪商鴻池の江戸の店に寄り、大塩の人相書をばらまき、浪人たちを集めて、江戸に潜んでいそうな大塩を探すように依頼した。斬九郎も、手付け金の一両を鴻池から貰って、大塩探しの仲間に入った。見つければ十両という。
 斬九郎の一両で久々に料理屋で鰻重を食べた麻佐女はその帰路、たちの悪い雲助にからまれる。その時助けてくれて、家まで送ってくれた侍がいた。平八郎だった。菅笠の下のその顔を見て、斬九郎はピンと来た。そそくさと松平家を立ち去った平八郎の後を追った斬九郎は、平八郎に人相書を見せ、十両の賞金がかかっていることを教える。
 刀に手をかける平八郎に斬九郎は、「お袋が受けた恩義、金には替えられねえ」と人相書を破いた。斬九郎が、おしののことを尋ねると、平八郎は歩みを止めた。二人は東八に入る。飲みながら平八郎は斬九郎に、乱を起こすに至った大坂の民の困窮ぶりを伝え、「民疲弊すれば国荒廃し、民豊かになれば国栄える」と持論の民富論を語った。感心する斬九郎であった。平八郎は「おしのを頼む」と言った。すでに死は覚悟した表情である。
 そのおしのが、お座敷の帰り道、鴻池屋の道楽息子清太郎(山口粧太)に襲われる。ちょうど通りかかった蘭医の生田がとめて、おしのは逃げるが、生田は清太郎に刺されて死ぬ。鴻池屋に居候をしている吉見はそれを知って悪知恵を働かせる。自らが目撃者と偽って、下手人は浪人風の大男と言う。出来上がった人相書は大塩のものだった。
 一刻も早く平八郎を江戸から逃がさねばと思った斬九郎は、平八郎が身を隠す生田の家へ急ぐ。事情を聞いた平八郎も旅装を整えて、急いで出発した。だが、行く手に吉見たちが待ち伏せをしていた。多くの刺客を従えている。奮戦し、平八郎も斬九郎も斬りまくった。しかし、大坂から来た平山が撃った短銃が平八郎に当たった。
 次は斬九郎が狙われる。その時、斬九郎は地を蹴って飛び上がり、平山を斬った。続いて吉見に「生田殺しの下手人は清太郎」との証文を書かせた上で、斬り捨てた。しかし平八郎は虫の息。やがて「民疲弊すれば・・国荒廃し・・・」とつぶやいて息絶えた。
 鴻池屋は父子ともども御用になり、米も出回るようになった。しかし、風まかせの日を生きているような斬九郎のまわりにも、時代の波が押し寄せていることを伝える事件だった。

<第10回>
 松平斬九郎(渡辺謙)が屋敷を追い出された。あまりの稼ぎの少なさに母親の麻佐女(岸田今日子)の、堪忍袋の緒が切れたのだ。そのことを芸者の蔦吉(若村麻由美)に愚痴っても、「お可哀相なのはお袋様ですよ」と言われて、同情されない。
 佐次(塩見三省)の家に行くと、布団の上で佐次がりよ(日下由美)を抱いている。ギクリとした斬九郎だが、風邪をひいたりよを佐次がかいがいしく看病しているのだった。 佐次とりよは一つ屋根の下に暮らしている。佐次がりよに惚れているのは明らかだし、八重(山本奈々)という幼い娘を抱えているりよも、佐次を頼りにしている。ならば二人を一緒に、と斬九郎も、そして佐次を使っている与力の伝三郎(益岡徹)も考えていた。 行くところのない斬九郎は、伝三郎の家の居候となった。その伝三郎が今抱えているのは、神田の扇屋「文扇堂」に、脅迫状の投げ文が続いている事件だった。
 「文扇堂」の主人は昨年死んで、後妻のお滝(杉田かおる)が店を仕切っていたが、問題もあった。三年前、番頭の清吉(世古陽丸)が店の金を使い込んで遠島になっていたが、この春に赦免となって江戸に戻っていた。その逆恨みの可能性もあった。
 「文扇堂」に四度目の投げ文があり、佐次と斬九郎が行く。斬九郎が四通の投げ文を見ると、最初の一通はお滝への恨み事だけが書かれていた。後の三通は金の要求で筆跡も違った。どうせ行く場所がない斬九郎は、「文扇堂」の用心棒となった。
 その頃麻佐女は何を考えたか、りよに「斬九郎の嫁に」と言い、りよ本人はもちろん斬九郎、佐次を困惑させていた。
 「文扇堂」には、音松(沢向要士)という勘当された跡取り息子がいたことが分かった。時々店に来ては二両、三両の金をせびってゆく。斬九郎がいる時にも姿を見せたが、お滝は音松に、やがては店を処分するので、その時にはそれなりの金を渡す、と言った。驚いた斬九郎は、音松に一杯飲ませる。すると、投げ文を書いたのは最初の一回だけだと白状した。お滝が昔、深川で芸者をしていたことも分かった。
 お滝が店を処分し、斬九郎は三両の金でお払い箱になった。蔦吉が、芸者時代のお滝が金に転ぶ女だったと教えてくれた。斬九郎と佐次は、お滝から目を離さないことにする。 お滝は音松を呼んで三百両を渡す。喜んだ音松は、お滝に勧められるままに酒を飲んだ。そしてその夜、音松は清吉に殺された。
 「文扇堂」から出て来た清吉は夜回りに来た佐次に追われ、佐次を刺して逃げた。佐次は痛みをこらえて店に入り、音松の遺体を発見した。 お滝の姿はなかった。二度目からの投げ文はお滝と清吉が仕組んだことで、計画的な音松殺しだった。だが、奉行所の手配でお滝と清吉はお縄になった。
 佐次のけがは重かったが、りよが徹夜で看護して、やっと快方に向かった。斬九郎と蔦吉は、佐次とりよに本当の夫婦になるように勧めた。だが佐次はこう言って断った。自分は、いつ命を落とすか分からない仕事。夫婦になって心配をかけたくない。そばにいて、りよ親子を見守っているだけで十分だ、と。男の思いがこもった一言だった。
 その夜、蔦吉は「おりよさんがうらやましい。男にあんなこと言われたことがない」と言った。「なんなら、俺が言ってやろうか?」と斬九郎。蔦吉は「ばかやろっ」と言って去っていった。この二人、好き合っていながらいつも難しい。


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