<第4回> <第5回> <第6回>


<第4回>
 浅草名物の米まんじゅうを売る菓子店、大黒屋の若旦那幸兵衛(梨本謙次郎)は、道楽息子である。その幸兵衛が嫁を迎える日(と言っても三度目の嫁だが)、松平斬九郎(渡辺謙)と蔦吉(若村麻由美)は大黒屋に居合わせた。この春亡くなった先代が決めた相手で、東海道は掛川宿の団子屋の娘で、もう三十を過ぎた出戻りという。
 まるで期待しなかった幸兵衛だが、店についたお玉(平淑恵)の顔を見て幸兵衛は息を飲んだ。美しい。斬九郎までボーッとして立っている。大黒屋に来たのは、母麻佐女(岸田今日子)から米まんじゅうを買って来るよう言われたためだが、すっかり遅くなってしまった。お玉には小平次(堀内正美)という兄が付き添ってきた。
 腹を立てる麻佐女に斬九郎は、お玉という女がもう二十年も昔に近所に住んでいた旗本の娘操にそっくりだったので、つい見とれてしまった、と言った。それを聞いて麻佐女は「そうであったか」とうなずいた。
 操は、斬九郎の初恋の人だった。十二歳の時、恋文を渡そうとして屋敷に忍び込み、中間に見つかって大目玉を食らったこともある。しばらくして、操は不破総十郎という旗本のところに嫁に行ってしまった。
 幸兵衛の女房になったお玉はおかしな女である。自分と将棋をして勝たなければ、体を許さないというのだ。幸兵衛はどうしても勝てない。斬九郎は将棋指南役ということで大黒屋に泊まり込む。稼ぎにはなるし、お玉もいる。久々に良い片手業だ。
 面白くないのは蔦吉である。だいたいお玉はあか抜けしていて、田舎から来た女には見えない。蔦吉は岡っ引きの佐次(塩見三省)に、お玉の身元調べを頼んだ。佐次はまず不破総十郎を訪ねるが、そこにいた侍が、不破は十年前に、公金を使い込み、夫婦で行方をくらませたことが分かった。
 亡くなった先代の法事があり、お玉、小平次、幸兵衛、それに斬九郎も墓参りをした。そこに三人の浪人が現れ、斬九郎を斬ろうとする。たちまち返り討ちにする斬九郎だ。
 意外なことに浪人を雇ったのはお玉と小平次だった。二人の正体は盗賊である。掛川のお玉になりすまして大黒屋に入り、金蔵の五千両を狙っていたのだ。だが斬九郎がいては盗みが出来ない。
 力で駄目なら色で。自分が初恋の女に似ていると知ったお玉は、斬九郎を誘惑する。
 その上で不義密通と騒いで追放しようという作戦だ。だが斬九郎は美しい思い出を汚したくない、と乗らない。
 もとはと言えば蔦吉のやきもちから始まったお玉の身元調べて、奉行所隠密廻りまで動いた。その結果、不破総十郎と操はその後身を盗賊に落とし、東海道で悪行を続けていることが分かった。麻佐女が客として大黒屋に行ってお玉の顔を見て、昔自分が華道を教えていた操に違いない、と言った。斬九郎は寂しく大国屋を去った。
 その夜、大国屋で捕り物があった。斬九郎が去るや、お玉と小平次が手下を引き入れたが、奉行所もそれを予想していたのだ。金は奪えずにお玉と小平次は逃げた。後から駆けつけた斬九郎は、逃げるお玉の手を取り材木の陰に隠れた。そして「これでやり直して」と、自分の財布と、二十年前の恋文を渡した。「もっと早く知り合っていれば・・・」と言いながら逃げるお玉であった。
 その後奉行所から、総十郎がお縄になったこと、操は三年前に病没していて、お玉は別人だった、との知らせが斬九郎に入った。呆然とする斬九郎である。
 その頃、川船で斬九郎の手紙を読むお玉がいた。その目に涙が浮かんだ。お玉が川へ流した恋文が川面を流れ去った。

<第5回>
 松平斬九郎(渡辺謙)は旗本の斎藤勘解由(大出俊)から、名刀備前長船の試し斬りを頼まれる。幕府の有力者が、自分の息子の元服祝いに与える刀だという。貧乏御家人としては、子供に高価な名刀を、と腹がたつが、これも金のためである。
 船宿の船久で蔦吉(若村麻由美)やおえん(奈月ひろ子)と話をしていた斬九郎は不覚を取る。廊下で、鼻の脇に小豆粒ほどの黒子のある男に財布をすられ、さらに座敷に置いた長船の刀を盗まれてしまったのだ。
 勘解由の所には、明後日の昼に有力者の使いが刀を取りにくる。それまでに刀が戻っていないと、勘解由は腹を斬らねばならない。斬九郎は奉行所の西尾伝三郎(益岡徹)に相談する。岡っ引きの佐次(塩見三省)の見方では、相手の目的は名刀を盗むことだが、すりの癖で財布まですったのだという。そして、白魚の吉次(田中邦衛)という古手のすりに聞けば、黒子の男の見当もつくだろう、と言った。
 吉次は博打でつかまって牢にいた。黒子の男は、猫だましの又八(螢雪次朗)では、という。斬九郎が無理に伝三郎に頼み込み、吉次を二日間だけ牢から出して又八を探させた。これが外に漏れると、伝三郎が腹を切らねばならない。ところが吉次は、外へ出てほどなく姿をくらました。
 だが、吉次は約束を守る男だった。見事に又八を探し出し、飲み屋の東八に連れて来た。又八によると、岡江山城守の三男の清十郎(石原良純)という侍に、刀を盗むように金で頼まれたという。
 その話を聞いた勘解由は、清十郎は自分の甥だと、苦々しげに言った。勘解由には子供がいなかった。そこで本家の甥清十郎を養子に迎えて家督を継がせようとした。ところが清十郎はとんでもない博打好きで縁組は破棄され、清十郎は本家に戻った。どうしても家督を継ぎたい清十郎は、刀を盗んで叔父に腹を切らせ、自分が斎藤家を乗っ取ろうと考えたのだ。事件の筋は読めたが、どうやって刀を取り戻すかが大変だ。
 吉次が博打場で清十郎に近づく。相変わらず金に困っている。吉次は金まわりが良いように振る舞い、いい担保があれば百両くらいは貸す、などと言った。清十郎が話に乗り、自宅で問題の名刀を吉次に見せた。刀は鎧櫃に入り、鍵は清十郎の印籠の中にあった。
 翌朝、蔦吉が岡江家に清十郎を訪ね、百両を渡すからと、清十郎を屋敷の外に誘い出した。船久まで行く途中で吉次が印籠をすり取る計画だ。清十郎は悪い仲間を何人も連れている。厳しい状況の中で吉次が見事に印籠をすったが、鍵は入っていなかった。それを知った斬九郎は焦った。
 船久の近くで斬九郎は清十郎にわざと喧嘩を売り、取っ組みあいをする。吉次がとめるふりをして、清十郎が首からかけていた鍵を奪う。そこに佐次が来る。蔦吉が,悪いのは斬九郎だと言う。佐次は番屋に来い、と言って斬九郎と吉次を現場から連れ去った。
 もう時間はない。斎藤家では勘解由が切腹の準備をしていた。
 岡江家の清十郎の部屋に忍び込んだ斬九郎と吉次は、やっと長船の刀を手にした。必死で斎藤家へ走る二人。その向こうから、鍵を取られたことに気がついた清十郎とその仲間が走ってきた。清十郎は「こうでもしなければ、俺みたいな三男坊はのしあがれない」と言って、激しく斬九郎と斬り結ぶ。斬九郎は長船で清十郎とその仲間をことごとく斬った。歯こぼれ一つなかった。
 勘解由が切腹しようとする寸前、斬九郎が斎藤家に着いた。吉次も牢に戻ったが、五十叩きの刑で釈放された。

<第6回>
 貧乏御家人の松平斬九郎(渡辺謙)のところに、奉行所の西尾伝三郎(益岡徹)が、罪人の打ち首の仕事を持ってきた。気が進まないが、麻佐女(岸田今日子)に叱かられ、引受けさせられた。
 首を切る相手は般若の岩蔵(新井康弘)という盗人だ。若い同心を殺しているため、奉行所も即刻処刑したい相手だった。激しい雨の日の夜、その岩蔵が牢破りをした。追手を逃れて岩蔵がたどり着いたのが、船宿の「船久」である。岩蔵はおえん(奈月ひろ子)を人質にして店に立てこもった。翌日、戸を締め切った「船久」を不思議に思って訪ねた蔦吉(若村麻由美)まで、人質になってしまった。
 そうとは知らない斬九郎は内心ほっとするが、麻佐女が前金で貰った謝礼をすでに高級料亭で使ってしまったため、岩蔵探しに協力する。岩蔵にはお浜(山下智子)という女がいたことが分かる。斬九郎はお浜の妾宅に行くが、女はいない。待っていると編笠の侍が現れた。斬九郎は身を隠す。この侍が、奉行所の筆頭与力山上要之助(磯部勉)である。 斬九郎が尾行すると、出合い茶屋で女と会い、すぐ帰った。斬九郎は茶屋に残った女の部屋へ行く。女はお浜だった。追求されてお浜が涙ながらに語るには、何度もお縄になっては牢の出入りを繰り返す岩蔵を待ちきれずに、女心の弱さからか、お浜は自分にやさしくしてくれた山上にも体を許し、関係が続いていた。
 「船久」では気丈な蔦吉が岩蔵に、このままではやがてつかまる、と諭す。岩蔵は、お浜に一目会って死にたいと言う。蔦吉は自分が人質になって、岩蔵がお浜と会う向島の長命寺まで船で行く、と勇気あるところを見せた。
 二人を乗せた舟は、途中の水車小屋で夜明けを待つことになった。小屋の中で岩蔵は身の上話を始めた。お浜と所帯を持って最初は堅気に働いていたが、次第に悪の道へ入ってしまったこと。ところが、盗んだ品物を売る故売屋と、そこから目こぼし料を取る奉行所の役人が結託していることも分かった。それが与力の山上だった。ある日、故売屋が手入れを受ける。そこで若い同心を殺してしまった・・・・。
 おえんからの通報で奉行所は大動員をかける。水車小屋も調べられたが、岩蔵が蔦吉の首に包丁を当てていて手が出せない。その頃、出合い茶屋では山上がお浜に、岩蔵に会うように言っていた。
 水車小屋が包囲される。そこに山上とお浜が到着する。お浜が水車小屋に入り、蔦吉は解放された。小屋の中でお浜に抱きすがる岩蔵。その時、山上が戸を蹴破って入り、岩蔵を斬り、お浜の胸を包丁で刺した。斬九郎や伝三郎が駆けつけた時には、すべてが終わっていた。岩蔵がお浜を刺したので、斬った、というのが山上の説明だった。
 岩蔵に殺されたれた同心新井の遺品から、彼が故売屋と山上との関係をつかんでいたことが分かる。蔦吉の証言もこれを裏づけた。それに気づいた山上は、岩蔵が新井を殺すように故売屋の手入れをした。そして次には口封じのために岩蔵とお浜を殺したのだ。しかし、山上が筆頭与力である以上、事件はこれで終わることになる。斬九郎の全身に怒りがこみ上げた。
 ある夜。山上に迫る人影があった。斬九郎だった。岩蔵やお浜のことを言い、「地獄の入り口まで送る」と斬九郎。山上が刀を抜く。使い手ではあるが、やがて斬九郎の怒りの太刀が山上を斬り裂いた。


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