<第1回> <第2回> <第3回>
<第1回>
御家人松平斬九郎(渡辺 謙)の貧乏暮らしは相変わらず続いている。婚約者だった須美は煮え切らない斬九郎に愛想をつかして他家に嫁ぎ、子を儲けた。斬九郎自身は、それで良かったと思っているが、母親の麻佐女(岸田今日子)は、ますます甲斐性のない息子だ思っている。 斬九郎と親しい同心の西尾伝三郎(益岡 徹)と妻のるい(唐沢潤)の間に可愛い娘のゆき江(岸 由紀子)が産まれて、和やかな家族の様子を見せられることも、麻佐女には辛い。だが、このところ、押し込み強盗が続いていて、伝三郎は忙しかった。
斬九郎の行きつけの居酒屋東八も、亭主が田舎に引っ込み、店は閉まっている。そんな斬九郎だが、芸者の蔦吉(若村麻由美)との、喧嘩したり、親しくなったりの仲は続いている。
東八を旅装束の女おりく(中村玉緒)が訪ねて来る。京の女であるが、ここで息子の仙松(角田英介)と待ち合わせているのだと、たまたま東八に来ていた斬九郎や岡っ引きの佐次(塩見三省)に言うのだが、どうも話がおかしい。
りくの息子は日本橋の呉服屋、京屋に奉公していたのだが、年季は一年前に終わっているのに京へは帰って来ない。そして、この日、深川の東八という酒場で待っている、という手紙が来たのだ。
りくは無理を言って無人の東八で待った。夜に入って佐次がやって来て、昨夜あった押し込み強盗では、家人皆殺しのはずが、住み込みの手代と女中の死体が見当たらないと言った。恐らく引き込み役だろう。
りくの息子は現れなかった。りくは待ち続ける気で、東八で働き出した。酒の肴を作ると結構うまい。全く金のない斬九郎も店で酒を運ぶなどした。松平の姓を持つ御家人がすることではないが、背に腹は変えられない。
佐次から、京屋に押し込み強盗が入って家人、奉公人が殺されたとの報告があった。しかし、仙松と下働きの女の死体はなかったという。
りくの母心に打たれて、斬九郎、蔦吉らは、何とか仙松を探そうと試みた。斬九郎は事件前に京屋にいた元番頭に話を聞き、住み込んでいた若い男の顔を絵描きに書かせた。りくに見せると、仙松の顔だった。その似顔絵を持って最近押し込みに入られた店に持って行くと、事件の直前に雇われ、直後に姿を消した男だと言った。
仙松は盗賊一味の引き込み役をやっていた。残酷な現場に嫌気がさして逃げるつもりで母に手紙を書いたのだが、逃げられなかったのだ。そのことを知ったりくは包丁をつかんで死のうとした。
斬九郎は佐次から、捜査の情報を密かに聞き出した。伝三郎は、「口入れ屋」を通じて、これから奉公人を雇おうとしている店に網を張っていた。やがて米問屋の上総屋が怪しいと当たりをつけた。
夜、仙松は上総屋の裏木戸を開ける。その時、斬九郎は「仙松か」と声をかけた。具合の悪いことに仙松は逃げた。斬九郎は「東八でおっかさんが待っている」と言った。盗賊一味と斬九郎の斬り合いとなった。裏切り者として仙松も一味に追われる。りくと仙松はやっと会えた。だがその瞬間、一味の刀が仙松を斬った。そこへ斬九郎。遅かった。りくの膝に抱かれて仙松は息絶えた。
りくは麻佐女と斬九郎の好意に感謝して江戸を去った。
<第2回>
貧乏御家人の松平斬九郎(渡辺 謙)は寺子屋で働いてが、手習いを教えることよりも、子供たちと相撲を取ることに熱中する有り様で、ついにクビになってしまう。毎度の失敗にため息をつく麻佐女(岸田今日子)である。
その頃、芸者の蔦吉(若村麻由美)が屋形船の中から、川べりの小舟の中で、気を失って倒れている若い男(上杉祥三)を発見した。裸同然で、侍らしいが自分が誰であるかの記憶を失っていた。蔦吉は男に、斬九郎がクビになった寺子屋でしばらく働いては、とすすめた。奉行所の西尾伝三郎(益岡 徹)が、川上から流されて来たのだから、川上春太郎ではどうかと、いい加減な名前をつけたが、男は喜んだ。
春太郎の寺子屋の師匠ぶりはなかなかのものだった。蔦吉は春太郎に好意を持ち、彼のために着物を縫い始めた。
斬九郎の方は、今度は大道でガマの油売りである。その時、暴れ馬が来て、蹴られそうになった幼児を助けた初老の武士がいた。足にけがをした武士を斬九郎は船久に運んだ。鳥居信左右衛門(奥村公延)という名で、常陸の国から江戸へ来たという。
居酒屋の東八で働くようになったりよ(日下由美)が、娘の八重(山本奈々)を春太郎の寺子屋に入れることにした。寺の和尚(宮野琢磨)との会話で、八重が常陸の国、真壁藩領内にいたことを聞いて、春太郎の表情が変わった。りよも春太郎の顔をどこかで見たことがあると思っていた。
春太郎は夢を見た。川に沿った山道で刺客たちに襲われる、追い詰められて崖から濁流に落ちる春太郎。うなされて目を覚ました春太郎はかすかな物音を聞き、刀を引き寄せた。二人の刺客が春太郎を襲ったが、春太郎が斬り捨てた。驚くべき腕である。
療養を続ける信左右衛門が、斬九郎に息子の話をした。長子に家督を譲ったが、実はその下にもう一人息子がいて、三歳の時に子供がいない真壁藩の重役黒田源太夫(原口 剛)のところに養子に出した。源兵衛という名を貰ったが、良い青年には育たなかった。
幼少の頃はやさしい子だったが、内気で軟弱と見られた。それを怒った源太夫に厳しく気合を入れられたのが裏目に出た。「悔しかったら強くなってみよ」という源太夫の言葉どうり、剣は強くなったが性格がひねくれた。ひどい行状が続き、源兵衛はついに国にいられなくなった。 信左右衛門は、それで江戸まで探しに来たという。斬九郎は源兵衛を探すことにし、伝三郎にも助力を頼んだ。
東八で斬九郎と伝三郎が源兵衛のことを話しているのを聞いたりよが、真壁藩の大目付黒田源太夫の息子と春太郎が瓜二つだと言った。
二人は同一人物だった。しかも、源兵衛は養父源太夫を斬殺していた。愛想をつかした源太夫が、源兵衛を勘当し、新しい養子を迎えようとしたからだ。逃げる源兵衛を藩の刺客が追った。春太郎つまり源兵衛が見た夢は事実だったのだ。
船久で斬九郎が蔦吉に、春太郎の本名を言う。蔦吉は、裸で発見された時、春太郎という新しい人間が生まれた、過去は聞きたくないと言う。その話を障子の陰で聞いていた信左右衛門が姿を消した。
信左右衛門は寺子屋へ行き、源兵衛と対面する。一緒に腹を切ろう、と親心を見せる信左右衛門を源兵衛は斬った。縫いあがった着物を届けにきた蔦吉まで斬ろうとした。蔦吉が好意を持ったのは春太郎という好青年だった。幼児期のやさしさのままに育ったら、こうなっていたのかもしれない。しかしその心に凶暴な源兵衛が取りつき、今や息を吹き替えし、記憶も戻ったのだ。
そこに斬九郎が来た。「体面に縛られ、意気地がない、卑しいとさげすまれて育った私たちの気持ちが分かるか」と言いながら斬りかかる源兵衛。激しい斬りあいの末、斬九郎が源兵衛を倒した。
寺に建てられて二つの白木の墓標。一つは鳥居信左右衛門と書かれ、もう一つは川上春太郎になっていた。
<第3回>
松平斬九郎(渡辺謙)は、ぜいたくな暮らしが忘れられない母親の麻佐女(岸田今日子)にうんざりしている。そんな時、たまたまやくざ風の男たちが寄ってたかって一人の男を斬っているのを見て、男を助ける。しかし男は、近くの稲荷にいる女を下総の下利根まで送ってくれと言い、胴巻を渡して息絶えた。
稲荷にいたのは、芸者の蔦吉(若村麻由美)に瓜二つのいい女である。お町(若村の二役)という。斬九郎は下利根までの旅に出た。お町は女中奉公が明けて郷里に帰り、惚れた男と一緒になる。その旅の用心棒という話である。お町は気が強い蔦吉と違ってしとやかで、時々涙を見せたりする。斬九郎にはそこがたまらない。
下利根に着いたとたん、二人は地元のやくざ飯岡の助五郎(松井範雄)の子分政吉(中西良太)の一味に囲まれるが、斬九郎が簡単に追い払う。だが、二人で水車小屋に雨宿りし、斬九郎が食べ物を探しに出ている間に、助五郎の子分、京蔵(桜木健一)にお町が連れ去られてしまう。
下利根一帯では、飯岡の助五郎と笹川の繁蔵(長森雅人)の二大やくざの集団が、激しい縄張り争いを続けていた。今は助五郎一家が優勢で、お上から十手を預かるまでになっていた。繁蔵は一家ばらばらになって逃げている状態だ。時には農家を襲って人を殺し、食べ物を奪うこともある。それでも、巻き返しの時期を窺っていた。お町は繁蔵の女で、江戸へ逃げたが、助五郎の子分に追われていたのだ。
一人になった斬九郎は、繁蔵の用心棒の平手造酒(近藤正臣)と知り合う。造酒は、今では胸の病も重いが、かっては江戸で鳴らした剣客だった。斬九郎は造酒から地元の様子を聞いた。斬九郎は造酒と行動を共にすることにした。
一方斬九郎の後を追って下利根まで来た佐次(塩見三省)は、ひょんなことで助五郎と知り合い、家に滞在することになる。
行方不明になったお町は助五郎の家にいると見た造酒は、斬九郎とともに助五郎の家に忍び込むが、見つかって捕らえられてしまう。しかし助五郎は、繁蔵一家が降伏してお縄につけば、繁蔵にお町を会わせても良い、と言う。造酒も縄を解かれた。だが、これには企みがあった。
京蔵が手土産の酒樽を持ち、お町と斬九郎の三人が山の中の繁蔵の隠れ家を訪ねた。かなりの数の子分がそろっている。繁蔵と会ったとたんに、しとやかだったお町の態度が一変、やくざの情人の口調になる。驚く斬九郎である。
佐次は政吉から、樽の酒には毒が入っていることを聞かされ、繁蔵の隠れ家に走る。 もとより繁蔵には降伏する気などない。助五郎一家と戦うことを宣言し、樽酒の酒に手を出した。佐次が息も荒く着いた時には、お町は湯のみに一杯飲んだ後だった。一方、少し口をつけた繁蔵は、お町を放ったまま水をがぶのみし、毒を吐く。そんな姿に「あたしのことなんか」と辛いお町。斬九郎は「お前さんはいい女だった」と言うのが精一杯だった。お町は絶命した。
繁蔵は京蔵を斬る。山を下りた繁蔵一家と助五郎一家の戦いが始まった。病をおして出掛ける造酒を、身の回りの世話をしているおふく(野呂瀬初美)がとめたがきかない。 斬九郎もやたらと斬りまくる。ついには繁蔵を斬る。喜ぶ助五郎に、二人とも斬ったらまたゴロツキがのさばる、お前が堅気の衆の暮らしを守れと、と言う斬九郎である。そして、繁蔵の仇と勝負を挑む造酒には、おふくと一緒になれ、と言う。佐次を連れ、大利根を後にする斬九郎だった。