あらすじ
<第7回> <第8回>

<第7回> 「じゃじゃ馬馴らし」
 阿地川盤嶽(役所広司)は托鉢の坊主(寺尾聰)から、女難、剣難の相が出ていると言われる。危険な方角を避けて、ある城下町に入った盤嶽だが、三人の覆面の刺客が、武士と商人を襲うところに遭遇した。盤嶽は刺客を追い払い、藩の筆頭家老・岩田修理(黒部進)の息子の兵庫(永野典勝)を助けた。
 藩内には新田開発をめぐる対立があった。修理は、藩の将来のために藩士の扶持米の四割を借り上げて資金を作り、開発を進める立場。次席家老の早坂玄蕃(中村梅之助)は反対の立場。盤嶽は修理に請われて、客分として滞在することになった。
 修理は裏では武蔵屋利兵衛(芝本正)という両替商と結託して、新田開発で私腹を肥やそうとしていた。それを知った玄蕃派の若侍たちが修理と利兵衛を襲ったのだ。
 そうとは知らない盤嶽は、利兵衛が長男の長太郎(池内万作)を使って、藩の重役たちに賄賂を配る用心棒を務めることになる。運ぶのは反物の包みということになっていて、盤嶽はそう信じている。長太郎は道楽息子で、小染(幡野真衣)という女郎に会うことばかり考えている。
 盤嶽と長太郎は行く先々で、玄蕃派の若侍たちに荷物の中味を見せろと言われるが、その度に盤嶽が追い散らす。ある時は、男装の女剣士まで加わった。なかなか強い。それが玄蕃の娘の環(中原果南)だった。立ち回りのさなかに長太郎が、反物の中に小判が百両も入っているのに気がついた。「旦那、賄賂です」と、道楽息子なりに親の悪行には批判的な長太郎が盤嶽に言う。
 盤嶽は一言、「騙された」と叫んで、環とともに早坂玄蕃の屋敷に行った。玄蕃に会った盤嶽は素直に詫びた。こうして盤嶽は玄蕃派となる。それにしても環は大変なじゃじゃ馬娘だった。幼いころに母親を亡くし男手だけで育てたこともあった。しかし、もちろん盤嶽にはかなわない。
 初めて娘よりも強い男を見た玄蕃は、「自分は今度の騒動で腹を切ることになるかもしれない。残された娘を守るため、環を貰ってはくれまいか」と盤嶽に頼む。急な話にとまどいながら、ふと心が動く盤嶽である。
 盤嶽と一緒に玄蕃の屋敷に来た長太郎は、父親が賄賂の届け先と金額を書いた帳面をつけていて、帳面が入っている父の部屋の箪笥の合鍵を持っていると言った。長太郎は、小染を連れてきてくれれば合鍵を渡すと環に言う。
 環は四人の若侍を引き連れて武蔵屋に押し込み、合鍵で帳面を奪う。しかし、若侍の一人の杉原数馬(井上肇)は修理に通じていて、帰り道に修理の手勢に襲われる。激しい斬り合いの中、追ってきた盤嶽が身を挺して環を助ける。じゃじゃ馬の環も初めて盤嶽に礼を言い、女らしい表情も見せた。
 帳面が奪われては修理も必死だ。兵庫が率いる一隊が玄蕃の屋敷を襲い、まるで合戦のようだ。守る玄蕃の側に、なかなか腕の立つ若い侍がいた。諸積乙也(赤羽秀之)で、修理の不正を暴くために放っていた間者だった。盤嶽の剣も冴え、戦いは玄蕃の勝ちになった。不正の記録である帳面は、ちょうど江戸から帰った藩主が見ることになり、修理と兵庫父子は切腹になった。
 一件落着。玄蕃は盤嶽に感謝しながらも、「環の婿は秀才の諸積しかいない。諸積に次席家老を譲る」と言う。そう言われれば、黙ってまた旅に出るしかない盤嶽である。また騙された。盤嶽がいなくなったことを知って環は泣く。その環に玄蕃は、「家老になるには、盤嶽殿の心根は立派すぎる」と言った。

<第8回> 「男と女」
 阿地川盤嶽(役所広司)は、源助(梨本謙次郎)とおりん(広岡由里子)という宿場町の近くの農民夫婦と知り合いになる。空腹そうな盤嶽を見た夫婦が、畑での昼食に誘ったのがきっかけで、野良仕事を手伝うようになった。汗をかいて作物を作り、それを食べる。雨の日には寝転んで雨の音を聞く。そんな生活が盤嶽には理想に思えた。
 源助夫婦の家に滞在するうちに、お蝶(桃井かおり)という不思議な女が宿場やその周辺の農民たちから、「生き神様」とあがめられていることが分かってきた。お蝶の家には「正直庵」の額がかかり、悩みを持った住民が訪れる。久左衛門(國村隼)という、鼻の下にどじょうヒゲをたくわえた男が「お告げ」を伝えるとともに、お守りのお札を与えている。お札は一枚二百文する。
 お札を作るのはお蝶。「お告げ」の中味を久左衛門に耳打ちするのもお蝶である。源助とおりんは夫婦になって五年間子供が出来なかったが、お札を貰うようになってから子宝に恵まれた。それ以来、おりんはお蝶を神様のように思っている。
 源助が屋根から落ちて足と腰を痛めた。それを知ったお蝶が、怪我を治すというお札を売りにくる。盤嶽はそんなお蝶に、「人の弱みにつけこんでお札を売るとは」と言う。お蝶は、「盤嶽さんは強いからいいが、弱い人には神様との間を仲立ちする人が必要」と譲らない。
 生糸問屋の清兵衛(石橋蓮司)の娘・お糸(田中規子)は、身の上相談をきかっけに、久左衛門に夢中になっている。清兵衛はそこに目をつけて、お糸と久左衛門を一緒にさせて、お告げとお札の商売を自分で仕切り、街道筋の善男善女から金を巻き上げようとたくらんでいた。お蝶と久左衛門とは愛人関係にある。しかし久左衛門は、若いお糸と通じてからは、何でも自分に指図するお蝶がうとましくなっていた。
 源助はお札よりも薬で怪我を治そうと思い、盤嶽に膏薬を買ってきて欲しいと言う。薬屋の前で盤嶽を見たお蝶は、「源助さんは信心が足りないから治らない」と言う。そして盤嶽にも、「お札を貰えば仕官の道が開ける。近いうちに幸運が訪れる」と言うのだ。  その直後、盤嶽は道で百五十両もの大金を拾う。すぐに落とし主が出てきたが、岡部藩勘定方、花房寅之助(芦屋小雁)と名乗る武士は、「公用金を江戸に届ける途中だ。後日訪ねて来れば、この礼に仕官の世話をする」と言った。どこかでその言葉に期待してしまう盤嶽である。
 清兵衛が久左衛門に、お糸と一緒になって「お告げ商売」をするように持ち掛ける。ただしお蝶と別れるだけでは駄目で、「始末しないと」と言うのだ。久左衛門は応じた。
 「正直庵」に信者が集まっている。久左衛門が熱にうなされながら、「神のお告げだ」と言い、「この中に災いをもたらす者がいる」とお蝶のことをじっと見る。迷信というものは恐ろしい。これまでお蝶を神のように思っていた宿場や近在の人間が、お蝶に石を投げ、後を追いかける。その裏で、清兵衛たちがいろいろと画策してもいるが。  久左衛門がこれまで貯めた金を持って、お糸と姿をくらました。追い詰められたお蝶は初めて、自分が人をだましてきた報いが来たのだと悟る。それでも、「自分には久左衛門が必要、連れ戻してほしい」と盤嶽に頼むのだ。
 盤嶽が活躍して清兵衛一家の悪だくみは失敗する。不思議なことに、お蝶を殺そうとまでした久左衛門が、またお蝶と旅に出る。「男と女とは何だ」と考え込む盤嶽である。
 岡部藩主に花房寅之助を訪ねた盤嶽は、寅之助が公金を横領して逃亡中なことを知る。また騙されて、それでも旅を続ける盤嶽である。


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