あらすじ
<第4回> <第5回> <第6回>

<第4回> 「みちづれ」
  今日も旅から旅の阿地川盤嶽(役所広司)は、山の中で二人の男が喧嘩しているのに出会う。盤嶽らしく弱いほうを助け、喜三郎(渡辺いっけい)という、土地のやくざ伝兵衛(六平直政)の子分にケガをさせる。もう一人は伝兵衛のもとに身を寄せている流れ者の源太(升毅)。源太は、伝兵衛が惚れている茶屋の女お夏(南野陽子)と良い仲になり、お夏と逃げた。喜三郎はそれを追っていたのだ。
 喜三郎を送った伝兵衛の家で食事をふるまわれ、そんな事情を聞いた盤嶽は、自分が余計なことをしたらしいと分かり、喜三郎にわびる。すると喜三郎は、「飯を食べたなら、一宿一飯の恩義で親分のためにお夏を取り戻せ」という。よく分からない理屈ながら、盤嶽は喜三郎と手分けしてお夏を探すことになる。
 喜三郎は間道を行き、盤嶽は本道を行く。盤嶽が乗った渡し舟の中にお夏もいた。もちろん盤嶽は顔を知らない。お夏がスリに狙われたのを助けた盤嶽は、お夏と道中を共にする。盤嶽は、「お夏という女を捜している」と言う。ハッとしたお夏だが、「自分はお冬といい、江戸で一人暮らしをしている母の病気見舞いに行く」と言って、宿場の旅籠の前で別れた。
 それを物陰から見ていたのが、別の旅籠で待ち合わせる約束になっていた源太。事情を聞いた源太は、伝兵衛の勢力範囲を抜けるまで盤嶽と一緒にいた方が安全だという。
 おかしな道中となった。「どこも満員で」と言って盤嶽の部屋に押しかけたお夏は、酒を注文し陽気に歌い、盤嶽を誘惑する。しかしそこは盤嶽。部屋の真ん中に紐を張ってゴザなどを吊るし、部屋を二つに分けてさっさと寝てしまった。
 お夏と源太との待ち合わせの宿場が近い。お夏は、「お礼に抱いて。どうせ茶屋勤め」と言うが、盤嶽は、「お礼をしたければ、純な心で江戸の母に会え」と言うのだ。
 二人は別れ、お夏は源太と会う。ところが、源太はお夏をだましていた。色男の源太の策略は、お夏を連れ出したた後、伝兵衛と敵対する今天狗の親分陣営の人質にして、両派の抗争を有利にしようというものだった。それで金をもらい、さらに今天狗陣営で一旗上げようという魂胆だった。
 だが、今天狗一味に捕らわれたお夏はすきを見て逃げ出す。恋した男に裏切られたお夏は川へ飛び込もうとする。そこに通りかかった喜三郎がお夏をとめる。死ぬこともできないお夏は、あきらめの心境で伝兵衛の元へ戻る気になる。そして途中で盤嶽と出会う。お冬が、実は探していたお夏だと知って盤嶽は驚く。だが、江戸の母親の話だけは本当だと知って救われた思いがした。
 待ち伏せていた今天狗一味を苦もなく片付けた盤嶽は、お夏、喜三郎とともに伝兵衛の家に戻った。盤嶽は伝兵衛からの礼金を返し、「一宿一飯の恩は返した」と言う。そして追いすがる伝兵衛の手下を簡単に片付けて街道に出る。「達者でな」と盤嶽。お夏は江戸の母のところへと向かった。

<第5回> 「落としもの」
 阿地川盤嶽(役所広司)は旅の途中で、五百両も入った胴巻きを拾う。正直者の盤嶽は、「持ち主を探さなければ」と、通りかかった駕籠かきの金太(船越英一郎)と銀平(阿南健治)に言う。二人は、「では、落とし主がみつかるまでどうぞ」と、長屋に盤嶽を招く。もちろん魂胆があってのことだ。
 金太は、偽の落とし主をでっちあげて盤嶽に紹介し、胴巻きを巻き上げようとするが、見破られる。怒る盤嶽に金太が説明した。長屋の大家・幸兵衛(青木卓司)が知人の借金の保証人になり、二十両の借財を背負った。返さないと、幸兵衛の娘おぶん(中江有里)がやくざに売られてしまう。金太は美しいおぶんに惚れていた。
 落し主が見つかれば一割の礼金が入る。盤嶽はそれでおぶんを助けようと思った。「五百両の持ち主を探している」と書いた紙を駕籠に貼り付けて走るように、金太と銀平に言う。仲間の駕籠も手伝った。
 「金を落とした」という侍・磯部新十郎(山本竜ニ)が現れる。人相が悪く、金太と銀平が一割の謝礼を要求すると刀に手をかける始末だ。続いて北村十内(南條豊)という侍も、「金を落とした」とやって来た。
 金太が、胴巻きを持って、酒を飲みながら渡し舟を待っている磯辺を見つけ、盤嶽と北村は渡し場に急ぐ。盤嶽が磯辺を殴り倒したが、北村もまた礼金を払おうとしない。その時、平瀬の弥太郎(火野正平)に率いられた捕り方たちが盤嶽らを囲み、盤嶽、北村、磯辺は捕らえられる。どさくさに紛れて、金太が胴巻きを拾って消えた。
 弥太郎によると、磯辺と北村は盗賊で、十日前に丸田屋という質屋に押し入って五百両を盗んだが、仲間割れをして争っているうちに胴巻きを落とした。盤嶽への疑いは晴れたが、早く金太を探さないと、今度は彼が重罪人になる。丸太屋の主人・伝兵衛(田中邦衛)は、盗品売買から人殺しまでする裏稼業の元締めだった。
 金太はおぶんが売られた松葉屋という茶屋に駆け込み、あやうく土地の道楽者の慰みものになるところだったおぶんを、胴巻きの金で身請けして助け出した。
 しかし、伝兵衛の意を受けたやくざの甚吉(坂本朗)と、彼が連れた五人の殺し屋が金太とおぶんを見つけ出した。金太は刺されて倒れ、おぶんが連れ去られる寸前に、盤嶽と弥太郎、銀平が追いついた。殺し屋はことごとく倒され、胴巻きも取り戻した。
 五百両の金はおぶんの身請けで五十両減っている。だが伝兵衛には弥太郎がうまく話をつけ、一件落着にするという。盤嶽は金太と銀平に、「二人でおぶんさんを幸せに」と言い、すっきりした気持ちでまた旅に出た。
 弥太郎は食わせものだった。胴巻きは盤嶽が持ち逃げしたと伝兵衛に言って、自分のものにしてしまったのだ。いつも騙されてばかりの盤嶽である。

<第6回> 「流れ者」
 旅を続ける阿地川盤嶽(役所広司)は、上州のとある橋のたもとで、血まみれで倒れている弥十(高嶋政宏)という男を見る。弥十は盤嶽に手を伸ばし、「自分はもう死ぬ。藤岡にいる女房のおりきに、世話になったと言ってくれ。待ち伏せされた」と苦しそうに言う。そして、もがいてのたうちまわるうちに川に落ちて急流に流された。
 藤岡の町で盤嶽はおりき(伊藤かずえ)を訪ねる。三味線の師匠をしている、美しいが気性の激しい女だ。盤嶽はおりきに自分が見たままのことを話した。帰ろうとするところに、縄手の久六(河原さぶ)という土地のやくざと子分たちが血相を変えて走って来た。
 久六は子分の弥十に、岩窪の親分という別のやくざの親分の還暦祝いとして二百両を持たせたのに、相手には届いていない。それで、弥十が持ち逃げしたと思ったのだ。盤嶽が事情を話すと、久六や勘助(遠藤憲一)らは、藤岡で久六と対立している助五郎(大川ひろし)一家のところへ走る。どこかで情報を得た助五郎一家が、弥十を殺して金を奪ったと思ったのだ。
 金のない盤嶽は藤岡の宿で、おりきの家にも近いある宿屋の下働きをしながら逗留している。それで、この騒動に巻き込まれてしまった。助五郎一家の仕業ではないと思った久六は、今度はおりきが亭主を殺したかもしれないと疑う。久六や勘助らがおりきの家探しを始めたのを近所の娘に知らされた盤嶽は、おりきの家に駆けつけて止めた。
 その夜、おりきは盤嶽への礼に夕食をもてなす。ぽつぽつと身の上話をしながら盤嶽に酒をつぐ。おりきは盤嶽の強さに惚れ、今夜は泊まっていただいても、と誘惑する。しかし堅物の盤嶽は帰る。
 それと入れ違いにおりきの家に入ってきたのが勘助だった。おりきに前から惚れていた勘助はおりきに迫り、のしかかる。その時、勘助が急にうめいた。見ると背中に匕首が突き立っている。死んだはずの弥十がそこにいた。
 読み書きも出来る弥十は、いつまでも田舎やくざの手下にいては芽が出ないと思い、二百両の使いを頼まれたのを機会に、金を持ち逃げしてやり直そうと思ったのだ。体に鶏の血を塗って橋のたもとで演技をし、盤嶽がそれにひっかかった。弥十が死んだと聞けば、誰も持ち逃げしたとは思わないという策略である。しかしおりきはそのことを知らず、本当に亭主が死んだと思っていた。
 おりきが盤嶽を訪ね、町を出るので一緒に行きたいと誘った。盤嶽のこれまでの宿代も払ってくれるという。おりきに少し心が動いている盤嶽は誘いに乗った。旅姿の二人を見て久六たちが行く手を阻むが、もとより盤嶽の敵ではない。しかし町はずれまで来ておりきは、「用事があるのでここで」と言う。少しがっかりする盤嶽だが、それ以上は追わないのが彼らしい。
 ところが一人になった盤嶽は、懐にわずかだおりきに返す金があるのに気がつき、後を追う。そこにはおりきを待っていた弥十がいる。弥十の口から、自分が最初から騙されていたことを知った盤嶽は怒る。盤嶽は弥十が持っていた二百両を取り、宿場に引き返す。もともとが、久六が博打などで集めた汚い金ではある。それを承知で、全額を久六の家に投げ込んで去る盤嶽。これが彼の流儀なのである。


戻る

バックナンバー
[第1-3回] [第4-6回] [第7-8回]