<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 文京大学水産学部海洋生物学科教授、じんべえこと高梨陣平(田村正和)は、クジラを愛し、自然との共存を理想とし、およそ世俗的なこととは無縁なところで生きることを好んできた一見変わり者の学者である。
 15年前妻を亡くしてから一人娘・美久(松たか子)を男手ひとつで育ててきたというのもそんな彼の性格を推し量れば容易に納得もできた。
とはいうもの陣平にも人並みに悩み事はあった。いや、並以上かもしれない。それは、まもなく二十歳になる美久のことだった。
 実は美久は陣平の本当の娘ではなく、亡くなった妻・理加子の連れ子だった。理加子は死ぬ間際、美久が二十歳になった暁に、真実を打ち明けて欲しいと娘を託したのだ。そして、今日がその約束の日だった。
 朝から下着ドロボーに5200円もしたパンツを盗まれた!と騒々しい美久を苦笑しつつ見やりながら「今晩6時」とレストランでの食事の約束を確認して、陣平はひとまず大学へと向った。
 今日は、陣平の高梨研究室に新しい助手がやってくる日でもあった。
すでにいるもう一人の助手・石塚(宇梶剛士)も“新人“を待ちわびている。そこへ新任の助手・辻真理子(高島礼子)は息を切らして駆け込んで来た。
 想像を絶する妖艶な美女であることに驚く石塚と、陣平の旧友にして悪友の英米文学部教授・三田村(森本レオ)。
 だが、陣平はそれどころではなかった。今夜の美久とのことで頭が一杯で…。 三田村は、陣平の胸中を察したが、「ウソは突き通せば真実になる。お前も美久ちゃんもその方がいいんじゃないか?」というのだった。
 その夜、約束のレストランで陣平は時計を気にしつつ美久を待っていた。
 レストランに行く直前、美久は下着泥棒を捕まえ、警察に突き出していた。陣平は待ちくたびれて電話へ向おうとしていた、その時美久はやって来た。15年前の理加子が着ていたのと同じワンピースを着て。
その姿を見て一瞬ドキリとする陣平。
 理加子にプロポーズした思い出の店で、母さんがよく弾いてていたという思い出の曲を聴きながら、陣平は、とうとう理加子と約束したことを美久に打ち明けたのだった。  「よくできたおとぎ話しみたい……。で、これから先はどうなるの?」。美久の問い掛けに陣平は「どうにもならない。今までと同じさ」と言い、「ただ美久が嫌なら僕のことをお父さんと思わなくていいから」とそっと言うのだった。
 その後、何を話すともなく家に帰った二人を玄関で待ち受けている男が居た。「あ、ヘンタイ!」と叫ぶ美久。何とその男は美久がついさっき警察に突き出した下着泥棒だったのだ。
 しかし、その男は陣平の論文にいたく感動し、研究室で勉強させて欲しいと依願にきた京都大学の学生・寺西真(草なぎ剛)だった。
 今日のところは帰って欲しいという陣平に寺西は、これだけは言いたいからと、陣平が以前寄稿した白いマッコウクジラのことを話し始めた。そしてある雑誌で、その白いクジラが確認されたことを読んだということも…。
 これには、キラリン!と陣平の目が輝いた。そして、あろうことか今夜のシリアスな一件のこと忘れ、陣平はそそくさと荷物をまとめ、クジラを追い求めるためマッシグラ!翌日旅立ってしまったのだ。
 ところが同行するはずだった寺西は、パスポート期限切れのため同行できず、高梨家に戻ってくることになったが……。
 その夜、美久は寺西に酒の相手をしてもらい、夕べ陣平から話をされたことなどを話した。
 「そんなことがあった夜に僕は来て、もしかして凄くショック受けてたりして……」。申し訳なさそうにいう寺西に、美久は少し寂しげに笑いながらいうのだった。「あなたもじんべえとおんなじね。じんべえはクジラのことはよく知ってるけど人の心はわかんないの」。
 本当のところ美久は知っていたのだ。じんべえが実の父ではないことを……。 美久はもうこの家に居られない自分を感じはじめていた。

<第2回>
 陣平(田村正和)から本当の親子ではないことを聞かされた美久(松たか子)が、家を出ていってしまった。残されたじんべえは、翌朝、助手志願の寺西(草なぎ剛)が用意した朝食を食べ、研究室へ行ったが、気掛かりで何も手に付かず、ため息を連発するばかり。その様子を見て、信任の助手・真理子(高島礼子)は一体何があったのかと心配してくれる。三田村(森本レオ)は、「こういう時女は悪い罠にはまるんだ」と不吉なことをいい、じんべえの心配に拍車をかけてくれた。しかし、探すあてもないじんべえ……。
 その頃美久は、智子(黒坂真美)と真由美(西山繭子)の協力を得て、智子の兄の友達のヒロ(合田雅史)がやっている古着屋の2階を間借りすることになった。さらにヒロの好意で、1階の店でバイトもさせてもらえることにもなった。居たいだけいていいからと優しく言ってくれるヒロ。
 その夜、陣平は、寺西から美久が居場所を知らせてきたことを聞いた。何よりもそれを待っていた陣平に、寺西は、居場所を知らせる代わりに、助手として認めて欲しいと条件を出し、まんまと助手の座をゲットするのだった。
 翌日、陣平は古着屋に行ってみたが、ただ、一本のジーンズを買わされただけで美久には会わずじまいだった。
 一方美久も、こっそりと高梨家に戻ってきていた。“忘れ物”を取りにきたのだ。「本当に出ていっちゃうんですか」という寺西に、陣平が戻ってこないかと見張りをたのんで、2階に掛け上がる美久。
 だが、その時陣平が帰ってきたのだ。「必要なものがあるなら堂々と運べばいい」「どうしてキチンと連絡しないんだ」と思わず怒りを爆発させる陣平に、美久もやはり素直に話せず、またも言い争いの上別れる二人。
 数日後、相変わらず落ち込み続けている陣平を見兼ねた三田村は、もっと外に目を向けるべきと、勝手に真理子の歓迎会を企画。しかし、その店には、同じく強引に合コンに連れてこられた美久の姿も。三田村は、どうせなら一緒に、と美久たちと合流して飲むことに。しかも、ノリで、王様ゲームが始まってしまった。「11番が3番の頬にチューしてください」。
 心ここにあらずのじんべえと美久の手にも渡されてる番号。
「先生、3番じゃないですか−」の声にハッとなるじんべえ。そして、11番の相手を見て今度は『ドッキリ!』。その相手は美久!!

<第3回>
 ある日、高梨家に寺西(草なぎ剛)の家財道具がドッサリ運びこまれた。家政婦兼助手・寺西と陣平(田村正和)との本格的な共同生活が始まろうとしていた。寺西は母が送ってくれた奈良漬けを美久(松たか子)にもお裾分けするため、古着屋に行ってくるという。陣平は、ある物を寺西に託した。それは、美久名義の貯金通帳だった。しかし寺西は、ヒロ(合田雅吏)と親しげに話し、ドライブに誘われてる美久を見て、通帳だけを渡して帰ってきてしまうのだった。
 次の日の高梨研究室では、ちょっとした騒ぎがおこっていた。陣平に見合い話が持ち上がっていることが発覚したのだ。「相手は若いんだろうなぁ」と羨ましがる三田村(森本レオ)に、「あの先生が…」と意外に思う石塚(宇梶剛士)。しかし、その研究所内のやりとりを偶然美久は廊下で聞いてしまった。
 翌日、シャチの生態研究のために訪れた水族館で、陣平と真理子(高島礼子)は始めてゆっくり話しをしていた。
 真理子は離婚してバツイチであることを打ち明け、落ち込んでどうしようも無かった時、大学時代に聞いた陣平の講義を思い出した事、心機一転のつもりで陣平の研究室に来たことを話す。
 陣平にとっても昔、理加子との将来に迷う時があった。陣平は、偶然出会ったマッコウクジラの雄大さ荘厳さに感動し、背を押されて理加子との結婚に踏み切ったのだった。  数日後、陣平は美久を連れて理加子の墓参りに行った。その日はてっきり見合いだと思っていたのに…。
 迎えてくれたのは理加子の姉夫婦と理加子の母・貞子(千石規子)。80歳になったという貞子は、年のせいか二人を似合いの夫婦だと言い続け、美久を理加子と思いこんでいるようだった。確かに陣平にも秋祭りに行くからと着物を着た美久の姿は、理加子と見違えるほどに眩しく艶やかに映った。そして、美久も夜店でねだって買ってもらった、おもちゃの指輪は本物以上に宝物のように輝いて見えた。
 そんな二人が母の思い出を懐かしそうに語りながら帰る道。花緒を切らした美久は陣平の背中におんぶされることに。
 陣平の背に身をゆだねながら、美久はある思いを確信していた。
 それは、「だれか好きな人がいるの?」とヒロが問いただしてきたことの答えだった……。


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