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私はだれ? 全否定された少女の逆転劇

その少女は、幼稚園の頃から一風変わっていた。
ほかの園児が制服で登園する中、毎日、プリンセスの格好をして登園していた。 美容部員の母と実家が大きなドラッグストアを経営する父、両親は彼女を溺愛した。 欲しいと思ったものは手に入り、なんでも挑戦できる環境。

だが、幼稚園で花火の絵を描いていると、友達に「変なの それ花火じゃなくて渦巻きだよ」と言われてしまった。 さらに先生にまで「ぐるぐるは花火じゃないです。間違っていますよ」と否定されてしまった。

小学校に上がると、周りと同じでないだけで、浮いてしまうように。 そのため、少女はプリンセスドレスを捨て、目立たない服を着るようになった。
さらに、運動も勉強も苦手でどんどんクラスで浮いた存在になっていった。

だが、少女には友達がたくさんいた。 それは、画面の向こうにいるネット上の友達。
少女は通信のできるゲーム機でイラストを描き、音楽をつけ、時に自分の歌を載せたオリジナルの短編アニメを投稿。

すると…
『絵がとても上手ですね』
『あなたの作品もっとみたいな』
など、好意的なコメントが寄せられた!
彼女の服装も勉強ができないことも、運動オンチなことも、ネット上では誰も笑わず、純粋に彼女が作ったものだけを評価してくれる。 少女は自由で自分らしくいられた。

そんなある日。 クラスの男子から絵を描いてほしいと頼まれた。
嬉しかった少女は、頑張ってイラストを描いた。

だが…少女たちが描いたイラストがゴミ箱に捨てられていた。 女子を馬鹿にするために仕掛けた男子の意地悪だった。
少女は「上手だったら捨てられないよね…そっか わたしの絵って下手だったんだ」と思った。 後に彼女は、自身の書籍でこう語っている。
『私はアルマジロのように硬い甲羅で心を覆って生きようとぼんやり考えていた』

中学では孤独感をより一層深め、不登校になった。
プリンセスを手放し、イラストを手放し、今度は学校生活までをも手放そうとしていた。 そんな中、少女が一つだけ手放さなかったものがある。 それは…だった。

小学1年生のとき、パソコンの中で流れる音楽をいとこから教わると、それ以来 自分でもパソコンの使い方を覚えずっと聴き続けていた。
不登校になる少し前には…同級生たちの好みとは合わず、少女がその音楽の魅力を説明しても… 少女がハマったそのジャンルは、当時 マイナーだったため、返ってくる反応は小馬鹿にしたものばかりだった。

それでも少女は、みようみまねで歌い、投稿し始めるほどに。
すると… 『メチャクチャかっこいい!!最高!!』 『もっと聞かせて』
少女と同じ音楽を愛する人たちが、嬉しい声を次々と寄せてくれるようになった。

それだけではない。 協力者が現れたのだ。 皆、プロではなく、歌を応援してくれるアマチュアの人たち。 彼らは 少女の歌の魅力だけで繋がっていた。

その喜びはやがて大きな夢となり…
『いつかプロとしてデビューしたい。それで私の好きなこの音楽をもっと世界に広めたい』
こう思うようになった。

その後、通信制高校で学ぶことを選んだ少女は、同時にミュージシャンを養成するスクールに通いはじめた。
ところが、少女の歌を真っ向から否定したのは、理解者であるはずの父親だった。 かつて優しかった父はもうどこにもいなかった。

実はこの頃、父の事業がうまくいかなくなっていたため、父と母の折り合いが悪く、喧嘩の絶えない日々が続いていた。
昔 バンドマンを目指していた父は、自分の感性と真逆の少女の歌を否定した。

さらに…当時、スクールが推しているのは『売れ筋』と思われていた流行りの歌手。 少女が愛する音楽は『売れるわけがない』とバカにされていた。 大人たちにことごとく否定され続けてきた少女の心は折れそうだった。

そんなとき…小さな音楽事務所から連絡をもらった。 スクールの規則で勝手に事務所に所属できないと返事をすると…
「仕事の話を抜きにしてお話ししませんか?何か少しでも役に立てる話ができるかもしれません」 という返事が返ってきた。
男性の経営する事務所の名前を調べてみると、少女が大好きだった深夜アニメ、そのエンディングテーマを担当したアーティストの名前があった。

一度、話だけは聞いてみることに。 業界人だからアルマーニのスーツを着て、グラサン姿のおじさんに違いない、そう思っていた。 声をかけてきたのはTシャツ、短パンの男性。 足元はビーチサンダル。

男性に「やりたいことはありますか?」と聞かれ、「高校生のうちにZepp divercityでLIVEがしたいです」と答えた。 ZEPPDiversityとは、収容人数2500人規模の会場で、プロのミュージシャンでも、かなりの人気がないと立てないステージだった。
実は少女はこの会場で 憧れの歌手のLIVEを見て心を激しく揺さぶられた。 そして、そのステージに立ちたいと思っていた。

すると、男性は自分が予約すると言い出した。 男性は少女の夢を手伝いたいと申し出てくれたのだ。
しかし、客が入らなければ800万円は赤字が出ると予想された。 男性は「そのときは800万赤字が出ましたって曲にしよう」と笑った。 少女は「もしかして…めちゃくちゃヤバい人かも」と思った。

しばらくして連絡が来た。 彼は少女のスクールにも話を通し、本当に会場を抑えたのだ。
男の名はタクヤ、当時35歳。 大手音楽事務所を退職し、一念発起! 個人事務所を設立したばかりだった。

だが、担当するミュージシャンはなかなか売れず、事務所の経営はすぐ火の車に。
そんなとき、ネット上で少女の歌を見つけ、衝動的にメールを送った。 そして、16歳の少女と35歳のタクヤは出会った。

出会いから数ヶ月がたった頃…新型コロナウィルスが日本に上陸。 感染症の蔓延で吹き荒れた自粛の嵐の中、有名アーティストのLIVEも次々と中止になっていた。 いつ開けるともわからない未曾有の事態、Zeppでのライブは中止となり、またひとつ夢は遠ざかっていった。

少女はライブができない代わりに、高校生のうちにメジャーデビューしたいと考えた。
少女は、自分を応援してくれた人に恩返しがしたいと思っていた。 今までずっと否定されてきた…そんな自分がメジャーデビューできれば、自分を応援してくれた人たちが間違っていなかった証明になると思った。

高校を卒業するまで、およそ1年。 まったく無名の少女が、メジャーデビューするなど無謀に思えた。
だが、タクヤは少女の夢を手伝うため、レコード会社を探すことに。 所属事務所については、自分の事務所に所属する必要はなく、少女の才能なら大手も含め、目指せる場所はひとつではないと伝えた。 数ヶ月後…少女が望んだのは、大手事務所ではなく、ただ一人、自分を信じてくれた人との契約だった。

だが、声をかけたレコード会社はほとんどがNGだった。
理由は、少女が掲げたデビューの条件。 決して譲れない、2つのこだわりだった。 それは少女がこれまでやってきた表現手法の継続。 その条件を飲んでくれるレコード会社はなかったのだ。
普通のアーティストとしてデビューすれば、それまで応援してきてくれた人たちを裏切ることになる。 応援してくれた姿のままデビューしなければ意味がないのだ。

それでも、タクヤの知り合いの大手レコード会社一社が手を挙げ、オーディションを受けられることになった。
実は少女が歌う姿を見るのはタクヤ自身も初めてだった。
そして、オーディションに見事合格! その後デビュー曲も決まり、メジャーデビューは目の前に迫っていた。

そんなとき、少女はレコード会社のスタジオでの収録を嫌がったのだ。
ずっと1人で歌ってきたため、大勢の人の目がある場所で歌えないと訴えた。

それでも デビュー曲のレコーディングは行われた。
タクヤは少女の願いを聞き入れ、レコード会社を説得していたのだ。 タクヤすらも立ち会わない異例のレコーディング。 17歳の少女、一人きりでのレコーディングが行われ、後に伝説となるその歌は生まれた。

そして18歳の誕生日前日、一人で録音した音源がほぼそのまま採用され、世界に向けてリリースされた。
その曲が…『うっせぇわ』
そう、この少女こそ、Adoである。

彼女が幼い頃に聞き、はまっていった音楽、それは『ボカロ』
以前から コンピューターで作られる音楽はあったが、ボカロことボーカロイドは、ボーカル+アンドロイド。 アンドロイドが人型のロボットを意味するように、コンピューターが歌声まで生み出すことができる音楽だ。

さらに、機械で作られたその歌声を逆に人間が歌う『歌い手』と呼ばれるアーティストたちが登場した。 彼女が ひとりで投稿していた歌は、この『歌い手のスタイル』そのものだった。
熱狂的なファンはいたものの、当時は まだネット上の『オタク文化』と見られており、同級生もスクールの講師にも理解はされず、父親からは正面から否定された。

彼女は『歌い手』のスタイルのままメジャーデビューし、自分が正しいことを証明したかったのだ。
そして、それを理解してくれたのがタクヤだった。

だからこそ『顔出しはしない』『歌った曲を自由にネットへ投稿できる』というデビューの条件にこだわったのだ。
MV公開から、わずか148日で再生回数は1億回を超えた。 そして デビューから1年半後、ZeppDiverCityでファーストライブを行った。 あの時の夢を果たしたのである。 そのわずか4か月後には、さいたまスーパーアリーナでセカンドライブを開催。

では、彼女の才能を見抜き、それにかけたあの男は何者なのか?
タクヤこと千木良卓也さんは、クラウドナインという音楽事務所を当時一人で経営していたのだが、実はAdoと出会った頃、事務所は火の車…Uber Eatsの配達をしながら活動資金を捻出し、この大逆転劇を生んだのだ。

そんなタクヤさんに話を伺った。
なぜ16歳の少女に全てをかけたのか?
「歌だったりとか、音楽に対してはものすごくこう 自信だったり、プライドだったり、いろんな強い想いを感じるんですけど、それ以外の部分 自信がないというか。自己評価が低いというか。こんだけの歌が歌えるんだから自信をつけさせてあげたいと思いましたし、とにかく歌は上手かったので、この子の歌声が、この子が歌った楽曲が世の中に広がっていくところを一緒に見てみたいなが最初でした」

では、Adoさんは、なぜ千木良さんを信じられたのか?
今回、Adoさん本人に話を伺うことができた!
「仕事の話を抜きにして、私がどんな人間なのか知ってみたい。『興味があります』って言葉は結構大きかった。私に商売抜きで興味を持ってくれる大人の方ってなかなかいなかったので、『今の夢ってなんですか?』って私自身のことを聞いてくれたりっていうのがすごく嬉しくて、『この人になら今の私の夢を明かしてもいいかな』となって。それも馬鹿にすることも一切無く。なんなら『僕が手伝いましょうか?』なんでこんな小娘のこと手伝ってくれるんだ!いろんな自分の固定概念観念を壊してくれたってことは、すごく私の今の信用にも結びつく所かなと思います」

確固たる信頼関係の中で2人は快進撃を続けてきた。 今振り返って、どう感じているのか?
Ado「周りの大人、友達、みんな、ネットの人。今の私を否定したとしても未来だけは絶対に誰にもわかんないぞ。それは私もそうだって。わかんないならじゃあいい方に考えてもいいじゃん。きっとなんとかなっているかもしれないと思って。なんかガムシャラに頑張っていましたね」

自分の信じる音楽に人生を賭けた男性と、ずっと孤独の中で大好きなボカロの世界の力を信じ、歌い続けていた少女。
2人の運命の出会いが奇跡の大逆転を生んだ。