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科捜研の男 〜ポリグラフ検査で暴け〜

今から22年前の10月下旬、この日の深夜、静岡県内は記録的豪雨に見舞われた。
その翌朝、男性の遺体が見つかった。 捜査の結果、およそ1ヶ月前に何者かによって埋められた遺体が大雨によってあらわになり、殺人事件と断定。

その後、この遺体は行方不明として捜索願いが出ていたスーパーマーケット勤務の藤井 豊(仮名)さんと判明した。
警察が同僚から話を聞いても事件と結びつく情報は出てこなかった。

遺体発見から半月後、念の為、隣町にある系列店の従業員にも話を聞くことに…。
その時、村田(仮名)という男に警察は違和感を持った。 彼は遺体発見現場近くの出身なのにも関わらず、「初めて聞く地名でした」と答えていたのだ。 さらに、11月にも関わらず首に汗をかいていた。

これにより警察は、村田と被害者の藤井さんの関係性を調べたが、村田と藤井さんは同期入社で知らない仲ではなかったものの、2人が連絡を取っていた形跡はなく、トラブルも見つからなかった。 その後の捜査でも村田の犯行を裏付ける証拠は何一つ出てこなかった。
他に目ぼしい容疑者も見つからず、人員は減り、捜査は完全に行き詰まっていた。

そんな中、遺体発見から1年が経った頃、静岡県内で女性の遺体がバラバラになった状態で発見される。 その女性の夫の車を調べたところ…車内から彼女の血痕を発見。

夫を任意で事情聴取すると、殺害を自供したため、逮捕した。
その夫こそ…村田だった!

離婚を切り出されたことを不服に思い、首を絞め殺害したと自供。
この供述を受け、刑事たちの中では、やはり藤井さん殺害も村田の犯行なのではと、疑惑が深まった。 しかし、藤井さん殺害に関しては、証拠は一切なく、殺害動機も見当たらない。

そこで警察はある『秘策』を試みることに。 それは、村田を妻殺害の事件で検察に送検する3日前、捜査本部に1人の男が呼ばれた。 静岡県警 科学捜査研究所の中山 誠。 実は彼、30年近く『ポリグラフ検査』一筋。 警察庁長官の表彰を受けた実績を持つ、その道の第一人者なのだ。
『ポリグラフ検査』とは、疑わしい人物に計器を装着した上で、事件に関する質問をし動揺を計測する捜査手法。 その精度は90%に近いと言われている。

この時、すでに妻殺害に関する取り調べは終わっていたため、捜査一課は余罪の下調べという理由で藤井さんの事件について事情を聞くことにしたのだ。 そこで、ポリグラフ検査を行いたいと考えていたのだが…村田のポリグラフ検査は2度目になる。
実は、中山は妻を殺害した疑いで任意同行された直後の村田に、妻殺害に関するポリグラフ検査を行い『クロ』と判定していた。 そのため、検査を恐れ、断られる可能性も高かった。 ポリグラフ検査はあくまでも任意、被験者の承諾なしで行うと黙秘権の侵害に当たるためである。 果たして村田の判断は?

村田はポリグラフ検査を拒否しなかった!
検査を断ると、より怪しまれるかもしれない…村田はそう思い、2度目にも関わらず、承諾したのかもしれない。
証拠のない、藤井さん殺害のポリグラフ検査が始まる。

中山はポリグラフ検査に関してこう語る。
「昔は『あなたが被害者を殺しましたか?』と直接的な質問をしていた事もありました。しかしそれでは無実の人でもきつい聞き方をされるとドキドキして反応が出てしまう事がある。という事で今は直接的な質問はしません。もっと間接的に聞くやり方に変えました」

では、現在ではどのように行うのか?
まず、村田の体の様々な部分にセンサーを取り付ける。 これにより、心拍数の変化、呼吸の数と深さ、汗の量などをリアルタイムで計測できる。

そして中山は、事前に5枚の写真を用意。 4枚は今回と無関係の事件現場写真。 1枚は藤井さんの遺体発見場所の写真である。
その5枚を順番に見せていくのだが、このような場合でも以前は『遺体を埋めたのはここですか?』と直接的な聞き方をしていたが、これだと無実だったとしも、『自分が埋めたと疑われている』と動揺し、反応が出てしまう可能性があった。

そこで現在では『遺体が発見された場所はここですか?』というように間接的な聞き方をしている。
写真の順番を入れ替え、これを5回繰り返すという。 中山はポリグラフ検査は嘘を発見する検査ではなく、『記憶の検査』だと語る。
中山「Concealed Information Test (隠匿情報検査)、CITと我々は呼んでいます。犯人なら正解が確実に分かる。無実の人なら正解が分からない。だからどれにも反応しない。そのような質問をする」

つまり、もし村田が無実であれば、5枚の写真のうちどれが遺体発見場所か分からないため、全ての写真で同じ反応が出るはずということだ。
検査終了後、中山はデータの解析を行う。

一方、刑事たちは村田の事情聴取を始めた。 村田は、藤井さん殺害に関しては一貫して否認。
すると、取り調べ後の捜査会議で、『村田はやってないかもしれない』という意見が出た。 村田を取り調べた刑事たちは、藤井さん殺害に関しては『シロ』だと感じていた。
そこに、ポリグラフ検査の結果を持って中山がやって来た。 果たして、検査の結果は!?

中山は、ポリグラフ検査の結果、村田は『クロ』と分析。
それは、3枚目の写真を見せた時だった…これは藤井さんの遺体が発見された場所の写真であり、中山自ら現場に赴き、撮影したもの。 詳しい遺体発見場所は報道されていない。
つまり、犯人しか知り得ないのだが、この写真を見た時の村田の反応は…知っていることを示した

中山「正解の写真を見て『これだ』と正解を識別した時にでてくるのが『皮膚コンダクタンス反応』、もう一つが正解を識別した事を知られないように、一生懸命反応を抑制しようとする、抑え込もうとする行動によって呼吸の振幅が小さくなったり、心拍数が下がったりという反応が出てくる」

取り調べをしたことによって『シロ』と感じていた刑事たちと、ポリグラフ検査の結果『クロ』と判断した中山とで、意見が真っ二つに割れた。
さらに中山には、村田を怪しく思う『もう一つの理由』があった。 ポリグラフ検査を始める前に村田が突然こう言い出したのだ。
「藤井さんといえば、一回だけ仕事中に僕の車に乗せたことがあるんだけど、その時に藤井さんが鼻血を大量に出しちゃって大変でしたよ。それで僕が拭いてあげたんです。すごい量だったなぁ」

今まで、村田と藤井さんの接点は見つかっていない、それなのになぜそんな話をしたのか? 村田は藤井さんの件で再び車を調べられると思い、血痕が出てきた時の言い訳のために、こんな話をしたのではないか?
しかし…すぐに村田の車を調べ直したが、藤井さんの血痕は見つからなかった。

取り調べをした刑事たちの判断は『シロ』。 中山が行ったポリグラフ検査の結果は『クロ』。 捜査チームの最終的な決断は…!?
証拠がないままポリグラフ検査の結果のみで起訴しては、警察に批判が集まる。 そこで、藤井さん事件の捜査を打ち切り、村田を妻の殺人容疑のみで起訴することになった。
村田「(刑事たちが)殺人の疑いが生じないというので(打ち切りは)やむ得ない事だと思いました」

しかし半年後、事態は急変する。
人事異動があり、捜査一課の幹部が刷新された。 新しい捜査幹部は、中山のポリグラフ検査を高く評価していた。 ポリグラフ検査で犯人しか知り得ない情報にことごとく生理反応が出ていることから、彼も村田は『クロ』だと感じた。

証拠が何もないのだが、中山は村田がポリグラフ検査の前に話した藤井さんの鼻血の件が引っかかっていた。 無実の人間がそんな話をしてくるとは思えなかったのだ。
中山の話を聞いた新しい捜査幹部は、村田は藤井さんの血痕が車から出てくるのを恐れているのではないかと考え、もう一度、村田の車を調べることにしたのだ。

こうして、異例の再捜査が始まった。
捜査が打ち切りになって、すでに半年が経過。 村田の車の行方は簡単には分からなかったが…車が見つかった! 村田の車は、妻殺害の件で起訴した後、村田の身内が車の所有権を引き継ぎ、業者に処分を委ねていたと考えられるが、奇跡的にまだ残っていたのだ!

すぐに回収し、血液を示す『ルミノール反応』を調べた。 しかし、『ルミノール反応』も妻の血痕意外見つからなかった。
それでも、刑事たちは何時間にもわたって車を調べた。 ポリグラフ検査がもたらした結果を信じて。

そして…ごく稀なケースを想定し、シートを切って調べたところ、血痕を発見! それは、明らかに鼻血とは言えないほどの量だった。
そして、DNA鑑定の結果、藤井さんのものと一致。 ついに、村田の犯行を裏付ける証拠を見つけたのだ。

この証拠を突きつけられた村田は、藤井さんの殺害を認めた。
実は、村田が犯した藤井さん殺害と妻殺害は、一連の犯行だったのだ。

村田は長年、ある女性と不倫関係にあった。 それを知った女性の知人男性が村田の職場にやって来たのだが、その男性こそ、藤井さんだった。
そして、村田の車の中で話すことに…その際、不倫を非難されたことに腹を立て、殺害。 翌朝、遺体を埋めたと自供した。

さらに、妻を殺害した理由も…その女性との不倫がバレ、妻に責められたため殺害したと、改めて供述。
妻殺害で逮捕された際に、不倫が原因だと話すと、藤井さん殺害も明るみに出ると思い、黙っていたのだった。

そして、藤井さんの遺体発見から7年後、村田の死刑が確定。
現在も拘置所に収容されている。

中山「私が検査したポリグラフ鑑定の結果が一つのきっかけとなり、執念深く車の中から証拠を見つけ出した鑑識と刑事が容疑者を割り出した。非常に誇らしい結果に繋がったと思います」