オンエア
今から15年前の1月、あるニュースが世間を震撼させた。
東京目黒区で80代の夫婦が自宅の玄関で男に刃物で刺され、87歳の男性が死亡した。
当初は怨恨の可能性が高いとみられ、捜査が行われたが…被害者とは面識のない人物、つまりどこの誰か全く分からない難事件だった。
だが、犯人はわずか4週間後に逮捕されたのだ!
実はこの逮捕劇には、あるチームの活躍があった。
それが…『捜査支援分析センター・SSBC』。
この部署は、目黒区の事件の2年前、警視庁に作られ、通信機器や防犯カメラ映像を解析し、逃亡する犯人を追い詰めるスペシャリスト集団!
ニュースで最近よく耳にする『防犯カメラリレー捜査』が、まさにそれである。
そして、この目黒区の事件は、SSBCが脚光を浴びることになった最初の事件。
その捜査内容は、まさにアンビリバボーな連続だった!
事件の始まりは2011年 1月10日、午後4時40分。 元会社役員で資産家、立花 秀俊(仮名)さんの自宅に、配達員を装った犯人がやって来た。 配達だと思った立花さんが玄関を開けると、男がナイフで襲いかかってきた!
異変を感じた奥さんが玄関にやって来て、刺されている立花さんをみて、悲鳴をあげた。 悲鳴を聞いた通行人が駆けつけると、犯人は玄関先に置いたボストンバックを持って逃走! 通行人がすぐさま後を追いかけたが、途中で見失ってしまった。
立花さんは、病院に搬送される際はまだ意識があり、「知らない男だった」と証言。
その後、彼は胸など数箇所を刺されていたため、出血性ショックで息を引き取った。
通報を受けたまさにその瞬間から、SSBCは動き出した。
実はこの部署では、警視庁が設置した防犯カメラの映像を常に見られるようになっている。
しかも、全てのデータが30日間保存されており、いつでも映像を遡る事ができる。
しかし、その台数は限られているため、これだけでは犯人を追跡するのも限界があった。
現場に到着した捜査一課の刑事たちは、周辺に犯人に結びつく痕跡が残っていないかを捜査。
すると…犯行に使われたと思われる血のついたナイフを発見。
ナイフが落ちていた場所は、中目黒駅まで真っ直ぐ繋がっている道だった。
これによりSSBCチームは、凶器を発見した地点から中目黒駅までの防犯カメラを重点的に調べることになった。
駅周辺の防犯カメラのある建物に、一箇所ずつ足を運び、映像を提供してもらえないかお願いして回るところから始まる。 次に行うのは、持ち帰った多くの映像に犯人の姿が映っていないか、一つずつ確認していく作業。 無論、捜査員の目でだ。
だが、防犯カメラの映像は画質が粗いもの、人が遠くに映っているもの、横顔や後ろ姿しか映っておらず、顔がハッキリ映らないものも多い。 そのため、服装や所持品、歩き方など、犯人の特徴を記憶した上で確認しないといけないのだ。
この事件では、目撃情報から黒のジャンパー、グレーのズボン、ボストンバックを所持という犯人の特徴を元に確認していくことに。
犯行時刻からおよそ10分後、商店街の防犯カメラにボストンバックを持った黒いジャンパー姿の男を発見。
目撃情報と一致したため、容疑者と判断。
さらに、犯行から20分後の午後5時ごろ、ボストンバックを持った男が地下鉄・中目黒駅に入っていく映像を発見。
だが…何時間分もの映像を確認したが、中目黒駅のホームで犯人の男の姿を発見することができなかった。
後に分かったことだが、犯人は駅のトイレの個室に入り、服を着替えた。
そして、なんと3時間もトイレに居続けた。
その後、駅を出て、タクシーに乗って立ち去ったのだ。
犯人の男は、被害者夫婦と面識のない人物。
凶器から指紋が検出されたのだが、前科前歴のデータベースではヒットしなかった。
しかし、捜査陣にはもう一つ、犯人を特定できる手段が残されていた。
犯人の事件前の足取りを『前足』、事件後に逃げた足取りを『後足』と呼ぶ。
どこへ逃げたのか分からない場合は、どこから来たのか、前足を遡るのが捜査の鉄則と言われている。
これにより、犯人の自宅などを突き止める事ができるのだ。
こうしてSSBCは、集めた防犯カメラ映像の時間を遡って操作することに。
すると、男は犯行の40分前、中目黒の改札を出て住宅街を通り、被害者宅へ向かったことが判明。
そして、駅構内にいる姿も発見。
だが、電車から降車する姿は見つける事ができなかった。
駅のホームにはいくつかカメラが設置されているが、乗降客が密集している場合など、他の乗客と重なってしまい見えない場合がある。
そこでSSBCは次の手に出る。
中目黒駅に停車する路線の他の駅の防犯カメラの映像を確認することに。
犯人の男はどこから中目黒駅にやって来たのか?
その捜査は予想以上に困難な道だった。
中目黒駅には、地下鉄の日比谷線と東急東横線が通る。 そこで中目黒駅の隣の駅から順に、この2路線の各駅の映像を確認したのだが…日比谷線は中目黒駅が終着駅のため、北千住駅までの20駅。 さらに当時は、東武伊勢崎線の東武動物公園駅まで直通運転していたため、計41駅!
東横線は20駅あるが、当時横浜駅はみなとみらい線の元町・中華街駅まで直通で運転したため計25駅。 これら66駅、すべてのカメラの映像をチェックし、どの駅で乗車し、中目黒駅に来たのかを探らなくてはいけないのだ。
無論、そのほとんどが無関係な映像である。
それでも、犯人がどこから来たのか分からない以上、全てを確認しなくてはならない。
それは気の遠くなるような作業だが、事件解決のため、一瞬たりとも見逃さないよう集中する捜査員たち。
交代しながら、24時間体制で、来る日も来る日も犯人の前足を追い続けた。
地下鉄日比谷線 中目黒駅から銀座方面へ4つ目、神谷町駅の映像で犯人らしき男を発見。
ホームのカメラが停車中の電車内にいた犯人の姿を捉えていた。
そこで、日比谷線の神谷町より前の駅を徹底的に調べることになった。
すると…日比谷線で電車内にいる姿を発見した神谷町から2つ前の日比谷駅から乗車したことが判明。
次は、どこから日比谷駅に来たかを探ることに。
日比谷駅には、日比谷線に加え、19駅ある地下鉄千代田線、さらに改札を出て26駅ある都営地下鉄三田線がある。
しかも千代田線は、小田急線と直通運転を行なっており、小田急線は36駅ある。
それらの駅に設置されているカメラ、全てを回収し、また一つずつ、調べていくと…地下鉄日比谷線・日比谷駅からおよそ5分のところにある、山手線と京浜東北線が通るJR有楽町駅でその姿を発見!
さらに、有楽町駅構内の映像を調べると、山手線に乗って有楽町へ来た事が判明。
どこから山手線に乗ったのか遡った結果…犯人は、有楽町駅の隣、東京駅から乗っている事が判明した!
さらに駅構内を歩く 男の姿も発見した。
次はどうやって東京駅にやって来たかを探るのだが、この駅は言わずと知れた日本最大のターミナル駅。 当時は在来線、新幹線を合わせ、全部で13路線を乗り入れ、なんと14本ものホームが存在! さらに、地上へ出ず、地下鉄丸の内線とも繋がっている。
そこでSSBCの捜査員は、その全てのホームと改札口付近のカメラで撮影された映像を回収し、ボストンバックの男を探し続けたが、男を発見できなかった。
事件発生から10日以上が経過、日本最大のターミナル駅で犯人の足跡が途絶えてしまう。
一方、被害者に恨むを持つものが間接的に関わっている可能性もあると考え、刑事の一部は交友関係を調べていたが、犯人と被害者の接点は見つからなかった。
資産家ということもあり、物盗りの線が濃厚になった。
だがその後も、目撃情報や犯人につながる証拠は掴めず、有力なものは何一つ出てこなかった。
SSBC、捜査一課ともに捜査は暗礁に乗り上げてしまった。
それでもSSBC捜査員たちの目は止まることはなかった。
実は『あるもの』を探し続けていたのだ。
それは駅構内ではなく、外!
そう、SSBCは東京駅のホームや改札口から出て、駅構外のカメラもチェックしていたのだ!
JR東京駅は丸の内側と八重洲側に分かれており、八重洲側の端の方にある日本橋口から駅に入って行く犯人の姿を発見!
犯人はどうやって東京駅までやって来たのか?
一瞬たりとも気を抜かず、映像を見続ける捜査員たち。
東京駅、日本橋付近に設置された外の映像…その奥の方に黒いジャンパーを着てボストンバックを持つ、犯人の姿を見つけた!
群衆に紛れ、顔は米粒程度の大きさだったが、見事発見することができたのだ!
犯人がいる場所を良く見ると、高速バスターミナルの案内板が!
さらに、正午に高速バスターミナルでバスから降りてくる犯人の姿も確認できたのだ!
捜査の結果、福島県いわき市と東京駅を結ぶ高速バス『いわき号』に乗車していた事が判明。
男の前足はいわき市につながっていた。
そして、現地に飛んだ捜査本部の刑事は、バス会社から入手した車内の防犯カメラ映像をSSBCに届けた。
いわき号は、東京駅に到着するまでの間に数箇所の停留所に停車している。
そのいずれかから乗車したと推測。
男は、始発駅から5つ目の『いわき湯本インター』から乗車していたことが分かった。
ボストンバックを持った男が座った時点で座席が判明。
乗客リストと照合すると…浅川 健作(仮名)、いわき市に妻子と暮らす男だと判明した。
その人相の特徴も被害者の妻の証言と一致したため、浅川を容疑者と断定した。
事件当日の浅川の移動距離は、およそ200キロ。 その経路をSSBCは、防犯カメラのリレー捜査によって完全に解明したのだが…まだ逮捕するには早いという。 完全に起訴できるようにするためには、まだ捜査を続ける必要があるという。
いわき市では、捜査一課の刑事が容疑者・浅川が逃亡を図らないように常に尾行を行なっていた。
その期間にSSBCは、捜査一課が入手したいわき市内に設置された防犯カメラ映像を受け取り『あるもの』を探していた。
その映像は、浅川がある店に入る瞬間を捉えたもの。
その店で、刃物を購入していたのだ。
捜査一課は、凶器となった刃物は、事件直前に購入したと睨んでおり、SSBCはそれを確認していたのだ。
その後、この刃物は、犯行現場近くに落ちていた刃物と同じものだと判明。
浅川の犯行を裏付ける重要な証拠となった。
また、捜査一課の刑事たちは、浅川が降りた地下鉄・中目黒駅の容疑者が防犯カメラに映っていた時間帯に改札を通った全ての切符を回収。
その中の一枚から検出した指紋が浅川のものと一致した。
さらに浅川は事件の数ヶ月前、知人から多額の借金をしていたことも判明。
つまり、強盗目的で被害者を襲ったと推測された。
そして、事件発生から4週間、浅川が韓国に渡るという動きを察知した捜査一課は、浅川を殺人容疑で逮捕。
取り調べで、金目的で強盗に入ったと自供。
韓国にいる内縁の妻と子のための入院費用が必要だったという。
高級住宅街といえば、目黒や田園調布というイメージがあり、田園調布は行き方がわからなかったので目黒を選んだという。
被害者宅を選んだのは、たまたま目に入ったからだという。
そして、今から14年前、浅川の無期懲役が決定した。
当時の捜査関係者は、事件を振り返り『もし防犯カメラで前足を辿れなかったら、未だに捜査を続けていたかもしれない』と語った。
この事件をきっかけに、SSBCによる防犯カメラリレー捜査の重要性が認められ、昨今起った事件でもその実力が発揮された。
今から5年前、白金高輪駅で男性に硫酸をかけた容疑者が逃走した際は、およそ250台の防犯カメラを分析し、事件発生から86時間ほどで逮捕。
今から3年前、東京銀座の高級時計店で発生した強盗事件でも、防犯カメラの映像を解析し、なんとその日のうちに実行犯を逮捕。
いずれも短期間で犯人が逮捕されているが、それにはある驚愕の理由が!
目黒区の事件が起こった同年8月、新たに就任した警視総監が防犯カメラの設置を促進。
各警察署管内で、防犯カメラの設置場所を調査し、地図上にカメラがとらえている範囲を斜線で潰させた。
さらに、カメラに映っていない場所をなくすため、都庁や区役所・商店会にカメラ設置を要請するよう指示。
すると、7年後の2018年、東京都内23区内の繁華街では、防犯カメラの死角が解消されたことが確認できたという。
今、東京都内の繁華街で事件を起こせば、まず間違いなく逮捕されると言われているが、それはまさにSSBCの並々ならぬ努力と執念の賜物と言えるだろう!