オンエア
今から14年前、京都の国道で制限速度50キロの道を89キロで走るスピード違反のバイクがいた。
この事件を解決すべく依頼されたのが…当時、京都府警の科学捜査研究所、通称『科捜研』にいた矢山和宏。
『科捜研』といえば、沢口靖子演じる研究員が様々な難事件を解決していく『科捜研の女』を思い浮かべる人も多いだろうが、実は退職後にこのドラマで科学捜査監修を務めたのが矢山なのだ。
白骨死体、毛髪、DNA型、顔画像など、あらゆる鑑定のスペシャリスト!
まさに、『科捜研の女』ならぬ、『科捜研の男』である!
そんな矢山の元にきたのがスピード違反者の『顔の特定』だった。
しかし、バイクは車と違い犯人を特定するのは困難である。
なぜなら…通常、スピード違反の取り締まりは、24時間、自動で速度違反を検知する装置『オービス』によって正面から写真が撮影される。
ナンバープレートや運転手の顔などから違反者を特定するのだが、バイクの場合、ナンバープレートは後方にしかついていない。
そのため、正面からしか撮影しないオービスには写らないのだ!
しかも、フルフェイスのヘルメットを装着していたため、写っていたのは目元だけだった!
最低でも眉毛の上あたりから鼻の下まで写っていないと、違反者を特定するのは、極めて困難だった。
犯人はこれまで90回以上スピード違反をしており、さらにオービスで撮影した写真の中にはガッツポーズをしたものもあり、明らかに警察を挑発していた。
だが、この話を聞いた矢山は「この犯人を捕まえられるかもしれない」と言ったのだ。
一体は矢山は何をしようというのか?
みなさん、分かりますか?
矢山は、違反した90枚のオービス写真を一枚一枚確認。
目元しか写っていない写真を何枚も切り貼りすることで、犯人の顔の範囲を広げていくという作戦に打って出たのだ。
この地道な分析を行なった結果、違反者の眉毛上から鼻下までの範囲が判明。
その結果、違反者を特定し、逮捕することができたのだ!
また、オービスは設置場所が周知されると取り締まり効果が薄れることがあるため、現在では固定式とは別に移動式オービスを不定期に違う場所に設置して違反を取りしまり、事故を未然に防いでいる。
元京都府警 科学捜査研究所 矢山和宏さんは、こう話してくれた。
「これが90回で止まらずに100回、120回と違反を重ねていくことによって、重大事故を起こすとかバイクの運転手自身も亡くなっていた可能性があったと考えると諦めなくて良かったなと思います」
今から24年前、京都で一人暮らしをしている鈴木茂夫(仮名・52歳)さんが、勤務先の工場を2日続けて無断欠勤した。 これまで無断欠勤は一度もなかったため、上司は彼の姉に連絡。 姉が家を訪れると、新聞受けには2日分が溜まっており、家に鈴木さんの姿はなく、さらに彼の車も無くなっていた。
何か手掛かりはないかと、鈴木さんの自宅にあった預金通帳をATMで記帳すると…無断欠勤の初日にキャッシュカードで312万円が数回に分けて引き出されていた。
相談を受けた警察が防犯カメラ映像を入手。
そこに映っていたのは、帽子とマスクを装着し、なぜか頭にタオルを巻いた明らかに怪しい人物が現金を引き出す様子だった。
姉にこの映像を確認してもらうと、鈴木さんではないことが確認された。
この直後、警察は姉と共に鈴木さんの自宅を確認したが、特に不審点はなく、その場を後にした。
1人残った姉は部屋の掃除を始めた。
そして、床のコタツ敷きにあったシミが気になり、コタツ敷きをめくってみると…そこには血が!
血痕を発見した姉は、警察に連絡。
これが鈴木さんの血液なのか鑑定をするため、矢山ら科捜研が駆り出された。
コタツ敷きの裏にあった血痕は、縦50センチ、横60センチほど広がっていた。
矢山らがDNA鑑定をした結果、鈴木さんの血液と判明。
血痕の形などから、何者かが鈴木さんの血を拭き取ったものの、上からコタツ敷きの下へ血が染み渡り、犯人はそれに気づかず、この場を去ったと推察された。
これにより、何者かが鈴木さんを暴行し、キャッシュカードを強奪。
暗証番号を聞き出し、現金を引き出しだ可能性が深まり、本格的な操作が始まった。
矢山の元に持ち込まれたのは、粘着シート 全部で100枚。
これに付着しているのは、鑑識が被害者の自宅で採取した『微物』。
その一つ一つを調べるのが矢山たちの役割だった。
まずは顕微鏡で粘着シートに付着した微物を確認。 そこには、毛髪や服の繊維、外出した際についたホコリや砂など、あらゆる物が付着している。 その一つ一つを鑑定するには、相当の時間と根気が必要となる。
そんな中、行方不明から20日後、被害者の車が発見された。
それは鈴木さんの自宅からおよそ20キロ離れた滋賀県の郊外だった。
矢山が車内を調べると、後部座席の背もたれやトランクで血痕が見つかったのだ!
DNA鑑定の結果、鈴木さんの血液であることが判明。
これにより、自宅で大量に出血するほど暴行を受け、車に乗せられたと推測された。
さらに、車内から4センチほどの人の助骨、筋肉の焼け残った物が発見され、DNA鑑定の結果、被害者である鈴木さんのものと一致した。
つまり鈴木さんは、車で運ばれ、焼かれた後に再度車に乗せられ、別の場所に遺棄された可能性がある。
だが、車の中から犯人につながる指紋などは発見されなかった。
それでも矢山は諦めることなく、鈴木さんの自宅、車の中から採取した微物をひたすら鑑定。
すると…ある物を発見し、違和感を覚える。
そして数日後、矢山は捜査本部の現場責任者にあることを報告。
すると、捜査本部会議に矢山も参加することになった。
刑事のみが出席する捜査本部会議に科捜研の人間が参加することはマレだったのだが、異例の招集となった。
すると、被害者と接点のある怪しい人物が見つかったという。
山本 隆、48歳、住宅改装会社を経営しており、4年前に工事で鈴木さんの自宅に入ったことがあった。
その際、工事が数週間に及ぶことから、合鍵を預かっていたことが判明。
さらに山本は、会社の経営不振から多額の借金を抱え、従業員への賃金の支払いも滞っていた。
ところが、鈴木さんが消息不明となり、ATMから312万円が引き出された後、従業員へ未払いの賃金を支払っていたのだ!
しかし、動機はあるものの、犯人だと特定できる証拠はなかった。
すると…矢山が山本のことを詳しく教えてほしいと捜査員に求めた。
山本がペットを飼っているという情報を聞いた矢山は、そのペットは毛足の長い茶色の犬であることを言い当てた。
実は、被害者の自宅で採取された微物の中に犬の毛があったのだ。
だが、被害者の家には犬を飼っている様子はなかった。
そこで、犯人は犬を飼っているのではないかと推測された。
捜査本部会議から数日後、被害者の自宅から採取した犬の毛と、山本が飼っている犬の毛をDNA鑑定したところ、一致したのだ。
犬の毛などはタンパク質からできており、もし4年前のものであれば、虫などに食われている形跡が残る。
だが、今回採取された毛には、虫に食われた形跡は見られず、新しい物だとわかる。
さらに、同じ犬の毛が被害者の車の中からも発見された。
その後、捜査員はさらに容疑を固めるため、山本をマークしていたのだが…ATMのカメラに写っていた犯人が着ていた物と色やポケットの位置や縫い目まで、特徴が全く同じベージュのダウンベストを山本がゴミとして出しているのを発見。 山本はすでに事件から半年が経過していたため、油断して捨てたと思われた。
事件発生から1年後、被害者の遺体が見つかることはなかったが、様々な状況証拠の積み重ねによって、山本を強盗殺人容疑で起訴。
山本は完全黙秘を続けたが、裁判では『状況証拠は単なる偶然とは言えず、被告が犯人と推認できる』とされ、今から18年前、無期懲役が確定した。
この事件で矢山は捜査員のべ1万3千人のなかから、わずか2名しか選ばれなかった本部長賞を受賞。
科捜研の鑑定員としては極めて異例のことだった。
矢山さんはこう話してくれた。
「(大事なのは)疑問に持つって事かな。言われたことだけを額面通りにやっていたら『何もありませんでした』で終わっていたと思う。犯人に結びつくものが何かないのかと考え続けたから逮捕に繋がったと思います。科学は嘘をつきません」