オンエア
勝手気ままな男が…ひょんなことから、ギャングの一員へ。
だが…その結果、想像もしなかった、アンビリバボーな体験をすることになる…!
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州。 今から6年前の11月、その物語の幕は上がった。 この男の名は…クレイグ、当時49歳。 窃盗や詐欺などの前科がある、札付きの悪党だった彼は、そのとき、家族もなく、友人もほとんどおらず、孤独な日々を送っていた。 職を転々としていた彼が一人で酒を飲んでいる時だった。 ニックという男性に声をかけられ、用心棒としてギャングの手伝いをすることに。
そして、いつしか、完全にその一味に加わることとなった。 それまで孤独だったクレイグにとって、この組織の仲間たちが、最も信頼できる存在となっていった。
そして、ギャングの仕事を始めて7ヵ月が経った頃だった。
組織のボスであるミスター・ビッグに紹介された。
そして、組織の会合で、昔の強盗事件に関して、組織のメンバーであるダニエルが警察に疑われているという情報が、警察内部の内通者からよせられたと報告があった。
ミスター・ビッグは、ダニエルに正直に話せば、罪をもみ消すと約束。
ダニエルは強盗の犯人は自分だと告白した。
数日後、クレイグがニックにダニエルの強盗事件のその後のことを聞いてみると…すでにミスター・ビッグがもみ消したというのだ。
そして、やることができたと言われ、ニックに連れられ向かった場所で…仲間のトムが拘束されていた。 トムは組織の金を横領していたのだという! そして、その場でトムは粛清されたのだ。
そして、ギャングの仕事を始めて9ヵ月が経った、この日…
警察の内通者によると、ある事件でクレイグの名前が出ているという。
クレイグには思い当たることがあった。
それは、この時から21年前のこと。
1999年3月2日、ニューサウスウェールズ州にある街、ガルゴン郊外の草むらの中で…2日前の夜から行方不明だった、ミシェルという地元の高校に通う17歳の少女の遺体が発見された。
何者かに口と鼻を抑えられたことによる、窒息死であり…司法解剖の結果、失踪直後、深夜0時半から2時の間に亡くなったと推測された。
しかし、遺体発見現場から、犯人の指紋や足跡などは見つからず。
また、性被害に遭った痕跡もなかったため…DNAなど犯人に繋がる証拠は、一切検出されなかった。
そこで警察は、ミシェルの元交際相手や、彼女に好意を寄せていた男、暴行やストーカー行為で逮捕歴がある男など、疑わしい人物14人から話を聞くことに。
その中の一人が…当時28歳のクレイグだったのだ。
だが警察は、その14人の誰からも、犯人だとする決定的な証拠を見つけ出すことができず…事件から1年後、犯人逮捕につながる情報に対して、10万ドルを支払うことを発表。
さらに11年後には、オーストラリアの過去最高額にあたる、50万ドルに引き上げると発表し、情報提供を呼びかけた。
それでも、犯人に結び付く手がかりはなく…21年が経過していた。
ニックに「今 警察があなたを嗅ぎ回っているということは…あなたを犯人と思っているとか?」と言われ… クレイグは、事件当時、深夜3時までヴィクターという友人の家で飲んでいたというアリバイがあるため、自分は犯人でないと主張した。
それから数日後のことだった。
事件から20年以上が経ったこの日…警察は、ミシェル事件の報奨金を異例の100万ドルに増額すると発表し、それがテレビのニュースでも報じられたのだ。
しかも、新情報として、赤いステーションワゴンに乗っていた人物が、事件と関連している可能性があると公表したのだが…事件当時、クレイグが乗っていた車も、赤いステーションワゴンに他ならなかったのだ。
クレイグはミスタービックに呼び出さ「ファミリーの間で…隠し事など、あってはならないんだよ」と言われた。
クレイグのアリバイを証明していたヴィクターが、警察にアリバイについてクレイグと口裏を合わせていたと証言したという。
ミスタービックは、正直に告白すれば、罪を揉み消してくれるという。
ダニエルの強盗事件もミスタービックがもみ消していた…さらに、嘘や裏切りがバレれば、容赦無く粛清される。
クレイグは、正直に告白を始めた。
アリバイは嘘で、ヴィクターの家を出たのは 午後11時頃だった。
車に乗り、街に出てどこかの店で飲み直そうと考えていた。
だいぶ酔っていたため、記憶が曖昧だが、後ろから足音が迫ってきて、それが耳障りで…振り返り、殴打した。
そうしたら、女性が意識を失って倒れていて…慌てて車に押し込んで移動。
車は翌日に燃やして破棄したという。
女性をどうしたのか、酔っていて覚えていないというクレイグに、組織の仲間たちは、警察に対応するためにも事実を知っておきたいという。
そして、死体が見つかった場所に行けば何か思い出すかもしれないということになった。
ニックは、別件があり、ここでクレイグたちとは別行動することになった。
そして、一行はミシェルが遺棄されていた現場へ。
すると、クレイグは、口封じのためにここで殺したことを思い出した。
死体は草むらに隠したという。
そして、こう呟いた…
「引きずっている時…女の下着の金具が引っかかって壊れたっけなぁ」と。
クレイグは、しばらく身を隠すことになった。
その手配もミスタービックが行ってくれた。
だが、空港でクレイグは警察に囲まれ、逮捕された。
そして、その警察官の中に、組織の仲間のニックや殺されたはずのトムがいたのだ!
そう、このギャングたちの正体は捜査官で、全てが彼らによる『演技』だったのだ!
実は、クレイグ逮捕の1年前…警察は、ミシェル事件に対して、新たな捜査チームを立ち上げた。
事件発生時、容疑者は14人いたのだが、20年の間にアリバイなどが確認された者もおり、最終的に残ったのが…クレイグだったのだ。
しかし、決定的な証拠は1つもない。
そこで…『スター・ビッグ作戦』が決行されることになった。
ロイヤルメルボルン工科大学 司法・法学部 副学部長 ミッシェル・ライターズ博士は、こう話す。
「ミスター・ビッグ作戦は、1980年代後半にカナダの警察によって始められました。この手法は 警察が容疑者を特定したものの有罪に持ち込むための十分な証拠を得られていない場合に使用されます」
警察が偽の犯罪組織を作り、容疑者を仲間に取り込む。
そして、疑似ではあるが共に犯罪を行ったように思いこませ、信頼関係を築いていき、証言を引き出す作戦であった。
ミッシェル「容疑者を信じ込ませるため、宝石や麻薬は本物を用意する必要があります。そのため 非常に多くの費用がかかるのです。カナダで行われた初期の作戦では、400万ドル(約3億3千万円)の費用がかかったと報告されています」
なお、今回の事件にどのくらいの捜査費がかかったのかは、公表されていないが…億はくだらないと言われている。 さらに、新情報として公表された、赤い車に関してだが…実際には、事件発生当時、クレイグが乗っていた車の目撃情報はなかった。 だが、クレイグの心を揺さぶり、真実を話させるため、テレビ局も巻き込んで、あえて この情報を公表したのだ。
そして、事件現場に行かなかったニックが連絡係となり…
クレイグ「女の下着の金具が引っかかって 壊れたっけなぁ」
この犯人しか知り得ない証言を受け、逮捕状を請求。
空港での逮捕に至ったのだ。
その後、事件から24年を経て開かれた裁判で…クレイグには懲役32年の有罪判決が下った。
悲しみに暮れる遺族のため…アンビリバボーな作戦で陰の立役者として任務を果たした捜査官たち。
そんな彼らに対し、遺族はこう述べた。
「力を尽くしてくださった警察の皆さんには本当に感謝しきれません」