オンエア

平和なはずの職場で起こる異変!

事件が起きたのは今から8年前。 舞台となった関東近郊にあるこの老人ホームでは、60歳以上の入居者たちが、穏やかな日々を送っていた。
その日常を支えていたのは、ホームで働く職員たち。 彼らの献身が、この施設に安心と平穏をもたらしていた。
だが、実はこの頃すでに…災いは忍び寄っていたのである。

ホームで唯一准看護師の資格を持つ職員、71歳、ベテランの由美子は、入居者の健康面での相談役として、周囲からの信頼も厚かった。
職員の一人である英子が人手不足の施設のために、知り合いの正看護師の資格を持ってる人を紹介することになっていた。

翌日、異変は前触れもなく訪れた。
仕事中、英子が体調不良を起こしてしまったのだ。 英子は呂律が回っていなかった。

英子を事務所に運んだ職員たちは、この後世にも恐ろしい光景を目の当たりにする。
英子が突然「ドライブ行きてぇ!パフェ食いてぇ」と言ったかと思うと意識を失った。 それは何かに取り憑かれたかのような、普段の彼女とはあまりにかけ離れた言動だった。

それから2時間ほど経った頃…英子は早退していた。 施設長は彼女のあの普通ではない言動が気になっていた。
その予感は最悪の形で的中する。 英子は車で自宅に向かう帰り道、対向車と正面衝突、帰らぬ人となってしまったのだ。

翌日、警察が事情を聞きに来た。 英子は、ちょうどその頃、同じ職場で働く息子が病気で欠勤した穴を埋めるため、長時間の勤務をこなしていたこともあり、結局、事故は彼女の居眠り運転が原因として処理された。
英子の事故死を受け、息子の知り合いの正看護師が施設で働くことをためらったようで、この話は立ち消えとなり、ホームは日常に戻って行った。 だが、この時、目に見えない不吉な何かが、施設に再び襲い掛かろうとしていたのである。

入居者や職員から事故の記憶薄れつつあったそんな時…突然、静江は、意識が朦朧として、立っていられなくなった。 その時は、誰もが『ただの疲れ』だと思っていた。 しかしその後、彼女は何度も施設内で体調に異変をきたした。

だが…体調不良が続いていた彼女は心配になり、病院で検査を受けたが異常は見つからなかった。
体調が悪くなるのは施設に行っている時だけだという静江に医師は、施設の水やガス、空調などに原因があるかもしれないと言った。

『施設に何か原因があるのかもしれない』、静江からそのことを聞いた施設長は、不安に駆られた。 水が原因なのか、食中毒や感染症かもしれないとも思ったが、体調を崩しているのは職員だけ。 入居者は誰一人、体調不良を訴えていなかった。 不可解な現象が多発するため、ホームの職員は玄関に盛り塩を置いたという。

そんな中施設には…新たな女性職員、麻里が加わっていた。
そして英子の死から、およそ3ヶ月が経ったころ、しばらく前から静江を心配し、彼女の送り迎えをするようになっていた夫が、この日から施設の手伝いをすることになった。

その日の午後2時ごろのこと…静江が倒れたのだ。 さらに、静江の夫まで急に倒れてしまったのだ! 夫婦がそろって体調を崩すという異常事態が起こった。

それから数時間後…大事をとって2人は早退することになり、夫が車を運転し、帰宅した。 そして…午後6時すぎ、またしても交通事故だった。
車での帰宅途中、夫がハンドル操作を誤り対向車線に侵入、衝突事故を起こしたのだ。 静江は全治1か月の重傷、夫は全身打撲でしばらく昏睡状態に陥ったのものの、一命を取り留めた。
職員にのみ起こるナゾの体調不良、実は…のちに施設自体には何の問題もなかったことが明らかとなっている。 では、その原因は…?

3ヶ月前に職員となった麻里は持ち前の明るさと気配りで、たちまち入居者たちの人気者になっていた。
だが…その笑顔が消える日は、ほどなくやってきた。 今度は麻里が突然の体調不良に見舞われたのだ。

彼女は、小さな子どもを育てる母親。 毎朝、息子を車で保育園へ送ってから、施設へ向かう忙しい日々…そんな中、麻里はその後も体調不良で早退することが増え、時には帰宅するなり、そのまま寝込んでしまうこともあったという。

真犯人発覚のきっかけは、英子の死から4ヶ月が経ったころに起こったある出来事だった。
麻里が銀行に出かけた際に、彼女のコーヒーに何かを入れている人物がいたのを施設長が見ていた。 そして、銀行から戻って来た麻里に周りに気が付かれないようにそのことを確認すると…麻里は心当たりがないという。

施設長はスケジュールを確認するため、別室に麻里を呼び出した。 すると麻里が体調不良になった日と、ある人物の出勤日が完全に一致していたのだ。
この瞬間、施設長は確信した。 ある人物が飲み物などに混入した薬物が、これまで起こった職員たちの体調不良の原因であると。

2日後。
麻里は、スマホの充電が切れていたため、充電器に設置したまま、郵便局に行くために外出。
15分後…戻って来た麻里はスマホを確認。 そのまま、施設長にスマホを見せに行った。

実はあの時…彼女は充電するふりをしてカメラを起動、わざとコーヒーを置きっぱなしにし、席を離れていたのだ。
そこには衝撃的な犯行の一部始終が記録されていた。

机の上に置かれたコーヒー。 そこへ…1人の人物が近づき、透明の容器に入った白い液体を入れた。 その人物は、施設のベテランで准看護師の資格を持つ由美子だった。
一旦、その場を離れた彼女は再び戻ってくると。 薬物が溶けるように容器をまわし…また立ち去った。
施設長は、コーヒーとこの映像を警察に提出。 するとコーヒーからは睡眠導入剤の成分が検出された。

こうして准看護師、由美子は、殺人や殺人未遂の容疑で逮捕された。 以下は、その後の報道や裁判などで明らかになった、犯行の手口と、その驚くべき動機である。
全てはあの日から始まった。 英子が正看護師の資格を持っている人物を紹介することになった。 自身は准看護師、正看護師の資格を持つ若い職員が入れば、70歳を超えた自分はじきにきっと排除される…彼女はそう考えたのだ。

そこで、英子の飲み物に睡眠導入剤を混入し、それを飲ませると…眠ってしまった彼女を無理やり起こし、車で帰らせた。 体調不良で施設をやめるならそれでいいのだが、たとえ事故を起こし死んだとしても構わない…そう思って。
だが、その後も彼女の不安は消えなかった。

2人目の標的、静江は生活指導員の資格を持っていたため、入居者の信頼が厚かった。 さらに、夫まで施設で働き始めた。 このままでは近い将来、自分の立場が危うくなるかもしれない、由美子はそう思い込んだ。 そこで、英子の時と同じように飲み物に睡眠薬を入れたあと、深い眠りについていた静江夫妻を無理やり起こし、再び、自分にとって脅威となる人間を排除する目的で車で帰らせたのだ。

さらに…自分よりずっと若く、あっという間に入居者に慕われるようになった麻里。 彼女の存在は高齢の自分がお払い箱になる十分な原因となる。 不安にさいなまれた由美子は犯行を繰り返した。
裁判所は一連の犯行に殺意があったと判断し、直接は関与していないにも関わらず、異例の殺人および殺人未遂罪の適用を認めた。 そして、由美子には懲役24年の実刑判決が言い渡された。