オンエア
今から10年前の4月、カナダ・アルバータ州に暮らすブレントは一目で恋に落ちた。
相手は、1973年型のアメリカのクラシックカーだ。
エンジン系統はかなり傷んではいたが、彼は迷わず購入。
車好きの彼は、あらゆるパーツを入れ替え、自分の手で整備した。
2年の歳月をかけ、新品同然に生まれ変わった車で、家族4人ドライブを楽しんだ。
そして、いずれ息子が大きくなったらこの車をプレゼントするという夢を持っていた。
車は一家にとっての幸せの象徴とも言えるものだった。
ある日、夫婦は、子供たちを預け、久し振りにツーリングに出掛けたのだが…そこで事故に遭ってしまった。 すぐに病院に運ばれたが、残念ながら二人は帰らぬ人となった。 後には、6歳のアリエルと、3歳になったばかりのリーアムが残された。
子供達はブレントの父親夫婦に引き取られたのだが…老夫婦にはある不安が。
彼らはすでに定年退職し年金生活、夫婦2人がギリギリ暮らせるほどの蓄えしかなかったのだ。
アリエルとリーアムには生まれつき聴覚障害があり、定期的に150キロ離れた、病院で検査を受けなければならない。
さらに、二人が大人になるための養育費も含めると、かなりの資金が不可欠になる。
どうにか養育費を補う方法がないか色々と考えたベンは、あるつらい決断をする。
ベンが電話をかけた先、それは…クラシックカー専門のオークション会社だった。
コレクターなら、きっとある程度の値段で買ってくれるだろうと考えたのだ。
ベン「本当は孫に渡してやりたかったんですが…」
ベンは思わず、苦しい胸の内を担当者に明かしていた。
7年前の9月8日。
ブレントの車が、オーシクョンに出される日がやってきた。
そして、いよいよブレントの車の番に。
すると、司会者が異例の行動に出る。
通常なら車のスペックが発表されると、すぐに入札が始まるのだが、この時は違った。
司会者がベン夫婦と幼い子供たちをステージに招いたのだ。
実は、ベンの事情を知ったオークションの責任者は、ベンから売買手数料はとらないことに決め、少しでも高値がつくよう最優先で扱うことを決めていた。
司会者は、亡くなったブレントが家族のために2年かけて自ら修理し、息子のリーアムが免許を取ったら、この車を譲る夢をもっていた事を紹介した。
そしてオークションが始まった。
希望落価格は1万5000カナダドル、入札は1万カナダドルからスタート。
司会者は1000ドル単位に価格を上げそれに応じる買い手が次々と手を上げていく。
落札価格はなんと2万9000カナダドル。
希望していた価格の倍近い金額である。
これで一件落着…と思いきや。
車を落札した買い手が、スタッフに何かを耳打ちした。
そして…「落札者が車を寄付しました。もう一度競売にかけられます!」
これはつい先ほどの落札金がベンに渡されるだけではなく、さらにもう一度車がオークションにかけられ、その落札金もまたベンのものになることを意味していた!
思いがけない落札者の申し出に、歓声が上がり、拍手がやまない。
大きな盛り上がりの中、オークションが再び始まった。
二回目は2万カナダドルからスタート。
金額は千ドル単位でどんどん上がっていく。
なんと一回目を上回る、3万ドルで落札されたのである。
だが、優しさの連鎖はまだ終わりではなかった!
二回目の落札者もまた車を戻し、もう一度オークションにかけてほしいと申し出たのだ。
これはまさに異例の事態だった。
興奮に包まれるなか3回目のオークションが始まった。
3回目は2万カナダドル(170万円)で落札。
驚きに包まれたオークションが終わった。
さらに、3回目の落札者は、車をベンにプレゼントをしたいと申し出てくれた。
3度のオークションで総額約680万円、希望の5倍以上の金額を受け取ったのみならず、売るはずだった車まで一転!家族のもとに帰ってきたのである。
さらに、このことが報じられると、一家のことを知った人たちから寄付も寄せられ、最終的には、オークションと合わせて870万円以上もの資金が集まったのだという。
あのオークションから7年。
車は今も家族のもとにあり、来年、姉アリエルさんは運転可能な年齢に!
さらに、弟のリーアムさんも4年後には運転免許書を取る予定だと言う。
リーアム「大きくなったら父の車を運転したいです」