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異常気象の新常識SP 〜雷編〜

自然界の通り魔!その脅威とは!?

続いての異常気象は、今から13年前の8月。
山登りが趣味の越中美津雄さんは、この日、長野県の槍ヶ岳山頂を目指し、午前4時から登山を開始。 当初は晴れていたものの…11時頃から雨が降りだした。

雨宿りのため、一先ず山小屋を目指すことに。 しかし!突如、越中さんは意識を失った。
その原因は…
周りに高い木や岩がない、開けた場所に出た瞬間に雷が直撃したのだ。

その10分後…奇跡的に意識が戻った。 その後、県警の救助ヘリで病院へと搬送されたが、命に別条はなかった。
越中さん「私は多分10分くらい意識が朦朧としていたけど、戻ってきたんだよね。体が動かない、下半身が痺れて全然動かない。しばらく経って『足が動いたぞ』ということで、回復してきたので『これは死なないな』と思った」

雷の電流は心臓や内臓などを通り人体にダメージを与えるため、通常、落雷を受けた場合の死亡率は、およそ80%と言われている。 越中さんは、なぜ助かったのか?
越中さん「私の場合、左の側頭部から入って、髪の毛をチリチリにして、左の耳の中をぐちゃぐちゃにして、首の後ろから背中の辺りからザックの方に大きい電流が抜けて、腰から電流が入って、それが両足の方に分かれてから靴を突き破って大地へいった。」

落雷時、越中さんが背負っていたザックを見てみると…確かに首元と腰の辺りに、電流が通った穴が開いている。 また、靴にも電流が地面に流れた際の穴が開いている。
スタッフ「今は後遺症的なものはどうですか?」
越中さん「今は後遺症はないです。それが非常に奇跡というか運が良いというか、そういうことだと思うんですけども」

関東地方の7月から8月の落雷数は、2019年から2023年の5年間平均では、およそ4万6千回だったのだが、昨年はその2.3倍のおよそ10万6千回に増加。 単純計算で1分間に1回以上、落雷が発生していることになる。
特に都市部では、ヒートアイランド現象により…地表の暖かい空気が上空で冷やされることで形成される積乱雲ができやすくなるため、落雷件数が顕著に増加している。

実は、今と昔では『雷の常識』が大きく変わってきているというのだ。 ここからは、今までの常識が通用しない、雷の恐るべき新常識をご紹介しよう。
越中さんは、山小屋に向かう途中に落雷に遭った。 もう少し早く、屋根がある場所に逃げることができていたら大丈夫だったのか…? いえ、それでも危険です!

ハイキング中に落雷!

今から33年前の11月。 標高およそ1252メートルの神奈川県、大山ハイキング・コースには、多くのハイカーが繰り出していた。
午前中は晴天だったものの…午後1時半頃、天気が急変し、大雨に。 ハイカーたちは、雷を避けるため、続々と見晴台の東屋に避難。 その数は、25人となった。

しかし、その直後…! 東屋の屋根に落雷。 その瞬間、中にいたハイカーたちが、一斉に倒れたのだ。
その後、救急隊が駆けつけたが、10人が重軽傷を負い、男性一人が亡くなった。

しかし、屋根のある東屋で、なぜ これほどの被害が出たのか?
その後の調査で、落ちた雷は屋根の上で分散。 いくつかは屋根を突き抜けたと考えられた。 その一部が二人に直撃し、一人が重傷を負い、一人が死亡。

一部は地面に落ちたが、その近くにいた人々が感電、軽傷を負った。 また、重傷を負った一人は、軒下にあった銅板の水切りを通って集積した雷が落ちたと考えられた。
専門家によると、生死の境目は、電流の流れ方によるため、『運』としか言いようがないとのこと。

『雷が鳴ったら屋根のある建物に避難すれば安全』、多くの人がそう思い込んでいるかもしれないが…雷を研究している中部大学工学部の山本教授は、こう語る。
山本教授「木造の建物は100%雷から命を守ってくれる建物ではないので、気をつけたほうが良い。屋根に落ちた雷は土の中に逃げようとする。木は絶縁体なんです。電気を通しにくい材料なので、木造の柱を通るよりも たくさん水分を含んでいる人の表面を通る方が楽だと判断するので、人に電流が流れやすい。」
この痛ましい事故を受け、最近は避雷針を設け、安全に雷を地中に逃がす対策を施した東屋や山小屋が増えているという。

しかし、木造でも、一般的な住宅であれば、大丈夫だろうと思う方は多いだろうが…そうとも限らないのだ。
家に雷が落ちることは、もちろんある。 その時、ある恐ろしい異変に見舞われる事が!

自宅でくつろいでいたら火災が発生!

今年4月、九州のある町。 女性が自宅でくつろいでいると…上の階から大きな音がした瞬間…電化製品の電源が落ちた。 落ちていたブレーカーを戻しても、電気は戻らない。
心配になり、大きな音がした2階へ。 他の部屋の電化製品も、付かなかった。

そして、1階の部屋へ戻ると…なんと、エアコンから火の手が上がっていたのだ! 瞬く間に壁などに燃え移り、拡大。 女性は、なす術もなく、外へと避難した。 通行人からの通報を受けた消防が駆けつけ、消化したが、鎮火までおよそ1時間40分もかかり、一棟が全焼する火災となった。

実は、この地域では朝から雷注意報が出ていた。 火災が起きた住宅は木造2階建で、その後の調査で家の2階の壁に落雷したことが原因と推測された。
専門家によれば、雷は屋根だけではなく、家の外壁に落ちることもあるのだという。 家の壁を雷の電流が流れ、さらには、コンセントに繋がった電化製品まで到達。 これにより、配線がショートし、火災が起きたと考えられた。

自宅に落雷…それにより起きた悲劇とは!?

今から5年前、インドネシアでは、住宅に落雷。
室内で充電中の携帯電話で遊んでいた少女が、感電死するという痛ましい事故が発生している。

このような悲劇を繰り返さないため、建物に雷の電流が流れた際、被害を受けない対策はあるのか? 専門家によると、基本的に電流は壁を通るため、天井や壁…さらに、コンセントと繋がった電化製品からも、1メートル以上離れることが重要とのこと。
ちなみに、鉄筋コンクリートで出来た建物に落雷した場合は、コンクリートの中の鉄筋を通して電流が地面に流れるため、中にいる人に被害が及ぶ可能性は、まずないと考えられるという。

留守の自宅で起きたあり得ない事態とは!?

ここまで紹介したのは、東屋や住宅を雷が直撃した事例。 つまり、建物や住宅自体に雷が落ちなければ安全…という考え、キケンです!
今から6年前、東京都多摩地域の閑静な住宅街にある大月さん(仮名)一家が住む一軒家で、悲劇は起こった。 この日は、朝から雨。 大月さん一家は、予定があったため外出し…家には誰もいない状態に。

用を済ませ、帰宅すると…留守中の自宅で恐るべきことが起きていた。 それは…火災
火元は、1階のダイニングと洗面所を隔てる間仕切り壁の部分。 最終的に、室内のおよそ45平方メートルが焼失した。

その後の調査で、火災の原因は『雷』だと判明。 ところが、家自体に雷が落ちたわけではなかったのだ。 では、一体なぜ、大月さん宅は火災に見舞われたのか?
その理由が…誘導雷
建物や鉄塔、樹木に直接落ちる雷を『直撃雷』というのに対し、建物や樹木などに雷が落ち、雷の電流に影響を受け、その周辺にある電線や通信ケーブルなどに大きな電流が生まれ、伝っていくものを『誘導雷』という。

そして、火災後に大月さん宅を調査した結果、このような推測が立てられた。
まず、雷が落ちたのは…大月さん宅から15メートル離れた場所にある電信柱だと判明。 その時、落雷を受けた電信柱とは直接繋がっていない。 大月さん宅と繋がる電線にも、落雷の影響で一瞬にして大きな電流が生まれるのだ。 その電流が、大月さん宅に侵入。

配電盤などを通り、火元となった壁を抜け、ガス管を固定するバンドへと飛んだのだが、その際、火花が発生。 そこにあったガス管が古く劣化したものだったこともあり、不運にも火花によって小さな穴が開き、ガスが漏れる。 結果、火花が漏れたガスに引火したのではないかと考えられている。

誘導雷によって起きた、住宅火災。 この時の誘導雷は、電気を通しやすい電線を伝っていったが…意外なモノに電流が流れる雷もあるのだ。
今から17年前、都内で樹木への落雷により、ガス管から火災が発生したのだが、この時、木に落ちた雷の電流が伝っていったのは…地面の土
これは落ちた樹木や建物から地面に流れる電流の一部が、ガス管に流れ込み、近くの金属の間に高電圧が発生する「逆流雷」と呼ばれるもので起きたと考えられている。

海にも落雷する? 衝撃の事実が明らかに!

今から20年前の4月。 九州地方の、とあるサーフィンの人気スポットで、この日も20人ほどのサーファーが波乗りを楽しんでいた。
しかし、午後5時30分頃…突如、スコールのような大雨が降り始めた。 さらに…雷鳴も聞こえたため、海にいたサーファーたちは、切り上げて、浜辺に戻り始めた。 その時、海に落雷!

実は、海にも雷は落ちるのだ。 九州で起きた事例は、岸からおよそ20メートル沖合の海面に落雷したとみられ、落雷した場所の近くにいた男女5人が被害に遭ったのだという。
山本教授(雷は)海の表面を流れやすいので、落ちた場所から海水の表面を伝って拡散します。線状に電流が流れているところから、(水面で)360度広がっていくので、電流の量としては数m離れるだけでも拡散します。でも人は数十mmアンペアでも気を失うので、そのレベルの電流はかなり広い範囲で危険がある。」

被害に遭った男性は、後にこう語っている。
「波の下に潜っていた時に全身がビリビリした。海面に顔を出したけど、体が硬直して呼吸がつらかった。」
浜辺に近い場所にいた男性二人と女性一人は、感電したものの、軽傷で済んだ。 浜辺から離れた海上にいた女性は、感電のショックで溺れるなどして重傷であったが、病院に搬送後、一命を取り留めた。 しかし、一番落雷場所の近くにいた男性は…残念ながら、多臓器不全で命を落とした。

サーファーの間では、海に雷が落ちることは知られており、この時も、雷鳴が聞こえたため、海から上がろうとしていたのだが…今回の事例は、最初の雷鳴から間を置かず、すぐに落雷。 そのため5人が逃げ遅れ、被害に遭ってしまったのだ。

もちろんこれは、サーファーに限った話ではない。 ただ海の中で遊んでいるだけでも被害に遭う可能性は十分にあるのだ。 では、このような被害から身を守るためには、どうすれば良いのか?
山本教授「危険度を表す情報が気象庁からの『雷ナウキャスト』などで公開されています。そういう情報を使って、『そろそろ雷が鳴る可能性がある』というのを見るのが良い」

マサカ地面にも落雷! その恐るべき被害とは!?

アメリカ・フロリダ州の防犯カメラの映像に地面に直接落ちた雷が映っていた。 車や、家・木など、高いものがあるにも関わらず…雷は直接、地面に落ちることもあるのだ。
さらに、別の映像では、犬の散歩中だった男性の足元に落雷! その瞬間、卒倒した。
そう、雷は必ず高いものに落ちるわけでももないし、直撃されなくても、落雷場所の近くにいると、地面を伝い感電するのだ。 男性は病院に搬送されたが、幸い命に別条はなかった。

近畿地方のゴルフ場で撮影された写真には…コースに落ちた雷の電流が、地面を伝った跡が写っていた! その恐ろしさが手に取るように分かる。
山本教授によると、街中にいる場合は、電線と電信柱が避雷針代わりになってくれるので、その近くにいると、雷の被害に遭いにくいという。 ただし、電信柱から地面に電流が流れる可能性もあるので、距離を取る必要はあるとのこと。
山本教授「電線があれば雷は電線に落ちて、電柱を介して大地に電流が逃げる。ただし、雷が落ちることによって、この電線が切れて下に垂れてしまうことがあるので、真下というよりも2〜3m離れてルートを見つけながら家まで帰るのが一番安全」

恐怖…最も予測できない落雷とは?

ここまで紹介したものは全て、雨が降っている中で起きている。 つまり、青空だったら落雷の心配はないと思うが…そうとは限らないのだ。
今から11年前の8月6日。 愛知県扶桑町にある誠信高校のグラウンドで野球部の練習試合が行われていた。
朝は晴れていたものの…試合が始まって少しすると、雨が降り始めたため、一旦、試合を中断。 監督や選手は、すぐさまベンチに避難。

しかし、およそ20分後、雨雲は去り、青空も見えてきたため…試合が再開されることになった。 なんと、雷がピッチャーを直撃!
そう、青空が広がっていたとしても…雷が落ちてくることがあるのだ。
当時、現場にいた、野球部の加藤方郁部長によると…
加藤部長「ピッチャーを通して、そのまま南の方を見ている状況の中で、向こうの方でバンと何かが落ちたなと思ったら、目の前の選手が倒れたという。雷の影響だろうなとは思ったんですけど、テレビでよく見るような、雷を人形に落とした映像みたいな、バチっと火花が出るような、そんな感じではなかったので、何が起きたのかはっきりとはわからなかったです」

雷の直撃を受けた当時高校2年生の男子生徒は、残念なことに、そのまま帰らぬ人となってしまった。
実は、誠信高校では、グラウンドのバックネットのポール12本に、避雷針を設置しており、雷対策には力を入れていた。 その高さは25メートル。
専門家によると、この高さだと、半径およそ20メートルの範囲を守ってくれるというのだが…内野手・外野手は、その範囲外となり、ピッチャーマウンドも数メートル外だったため、たまたまピッチャーの生徒に落ちたのではないかという。

さらに、最大の謎は…晴れていたにも関わらず、なぜ雷は落ちたのか? ということ。
山本教授「自分の真上に雷雲がなくても10〜20km離れた位置に積乱雲があると、その雲から雷が横方向に伸びて、自分のいる場所に落ちる可能性はあります。一般的には一番距離の近い真下方向に雷が落ちることは多いのですが、雲の中に溜まっている電気の関係などが複雑に絡み合って放電が伸びやすい方向が都度変わってくる。場合によっては真下よりも横方向に放電が伸びやすい環境がある」

多くの人が雷は、ほぼ真下に落ちると思っているが…実は、雲から四方八方に広がることもあるため、雷雲から遠く離れた場所へ落雷することもあるというのだ。 しかも、雷雲から、およそ20キロ離れた場所に落ちることもあるという。
ちなみに、東京タワーを中心に半径20キロの範囲だと、北は埼玉県の川口市、東は千葉県の市川市、南は神奈川県の川崎市など、他県にも及ぶ広範囲となる。

では、雷雲が去り、晴れ間が見えてからどのくらい経てば、安全と言えるのだろうか?
山本教授「雷雲が時速20kmで移動するとなると30分待てば10km離れる。30分間 雷が鳴らなかったら始めることを検討し始める。余裕を持って1時間とか(雷が)全く鳴らなくなるまで待った方が良い。(雷雲が)真上になくても見える範囲や音が聞こえている範囲にある場合は絶対にダメ」

誠信高校では、再び悲劇を繰り返さないため、雷対策を強化。
教頭「雷が発生することを検知してくれる機械。この地点から半径40キロまでの雷が発生する確率が非常に高くなりますと、赤い赤色灯が回ります。それを見て、直ちに活動をやめて、丈夫な建物・屋根のある建物の方へ待機する、というふうに指導しております」
また、雷雲の進路を、全教員のスマートフォンに知らせるアプリも導入した。
教頭「雷雲がどちらの方へ移動しているか、こういったことも瞬時に情報がキャッチできますので、学校の中の活動はもちろんですけれども、生徒の登下校の際にも活用できる」
『晴れていたら、雷が落ちるはずがない』…それは、思い込みに過ぎないことを肝に銘じなければならない。