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希望に満ちた男性教師を襲う悲劇とは…!?

桜の季節、大いなる希望を胸に校門をくぐるのは新入生だけではない…新人の教師たちだ。
少年時代から数学の教師に憧れていた木下明(仮名)さんは、関東地方のとある中学校に赴任、充実した日々を送っていた。 そして2年目には3年生のクラス担任に。 生徒たちの間では口うるさい教師として知られていた。

そんな彼を2学期の終業式の日、悲劇が襲う。
同僚との忘年会を終えた木下さんは、学校に財布を置き忘れてきたため、取りに戻ろうと、学校方面に向かう路線バスに乗った。 その途中、同僚からメールが届く。

メールを返信した直後、女子高生から注意を受けた。 忘年会の直後だったため、『吐く息が酒臭かったのかな?』と思い、謝った。 すると、バスを降りるように促され、「痴漢しましたよね?」と詰め寄られた。 否定したものの、女子高生は次に来たバスの運転手に痴漢をされたと訴え、ほどなく通報を受けてやってきた警察官に木下さんは痴漢の罪で逮捕された。

翌日、取り調べが行われたのだが…バスの車載カメラに痴漢をしたところが映っていると言われ、木下さんの話は全く聞いてもらえなかった。 木下さんは独身だったため、逮捕の事実は警察によって離れて暮らす両親に伝えられた。
そして、両親が弁護を依頼したのが、池末彰郎弁護士。 池末弁護士は木下さんの主張を確認、木下さんは無実を訴えた。

依頼を引き受ける一方で、池末弁護士は木下さんが置かれている深刻な状況を伝えることも忘れなかった。
日本の刑事裁判では起訴されると有罪率は99.9%と言われている。 これは痴漢も同様であり、無罪になる確率は、0.1%、1000件のうち1件しかない。

しかし、頭では分かっていても否認を貫くことは困難を極めた。
取り調べて威圧的に接してくる検事たち。 しかも検事は決定的証拠である車載カメラの映像を見せてはくれなかった。

さらに、検事もまた否認を続ける木下さんにあの手この手で揺さぶりをかける。
検事はバスが揺れた時に女の子に手が当たったことはないのかと聞いてきた。 木下さんが否定すると、可能性もないのかと聞いてきたため、木下さんは「可能性は否定できませんが」と答えた。 すると、検事は不適な笑みを浮かべた。

なぜ検事は不適な笑みを浮かべたのか? そして、供述調書が出来上がったのだが…調書にはこう記されていた。
『女の子に触ってしまったことは否定できません』
この時、木下さんは検事が笑った理由に気づいたのだという。
供述調書にサインすることを求められたが、木下さんはこれを拒否。 署名を拒否すると、裁判でこの調書が証拠として採用されることはない。

すると検事は「認めないなら留置所から出すことはできない」と言ってきた。
痴漢で逮捕された場合、罪を認めれば略式起訴となり、罰金刑で済むため、通常の裁判は行われず釈放となる。 しかし、勾留中に起訴されると保釈が認められるまで釈放されない。 池末弁護士によれば、釈放されたいがためにやっていない罪を認めてしまうケースもあるという。 しかも裁判になれば、有罪になる確率は99.9%…果たして木下さんの決断は!?

木下さんは否認した。 そこには強い思いがあった。
木下さんが教師を志したのは小学生の頃に遡る。
木下「小学校の頃の放課後、友達に算数を教えている時に算数がわかってくれた瞬間の友達の笑顔が心に残っていて、それが原点だと思います」

少年時代の夢を叶え、教師の道を歩み始めて2年目、3年生の担任となり、進路指導にも熱心に取り組んでいたという。 だが、生徒たちに対しては決して甘くはなかった。 どんな時も生徒のことを第一に考えてきた。
だからこそ…『僕がここで認めてしまったら、生徒たちは犯罪者の教え子になってしまう』
泣き寝入りする選択肢はなかった。

しかし、その代償は大きく、逮捕から6日目、痴漢の容疑で逮捕されたことが新聞やテレビによって実名で報じられた。
事件の社会的影響や犯罪の悪質性など様々な面を総合的に考慮し、各報道機関が慎重に判断するが、逮捕の時点で実名で報道されることは少なくない。 この時はちょうど冬休みの時期、ほとんどの生徒がそのニュースを目にしていた。 他の教師や学校関係者が逮捕の事実を知ったのも報道を通じてだったという。

なんとか身の潔白を証明しなければならない、そう思った木下さんは、微物鑑定の結果を教えてほしいと訴えた。 実は逮捕された日、彼は警察署で手に女子高生の衣服の繊維が付着していないか調べる微物鑑定を行っていた。 もし本当に痴漢行為を行なっていたなら、スカートの繊維が手の平についているはず。 さらに車載カメラの映像を見せてもらえるように訴えた。
だが、微物鑑定の結果はまだ出ておらず、さらに車載カメラの映像を見せることはできないと言われた。 今回のような否認事件の場合、検事が手持ちの証拠を被疑者に見せることはまずないのだという。

そして、逮捕から21日後、木下さんは迷惑防止条例違反で起訴された。 そんな息子を心配し、勾留中、両親は何度も面会に訪れたという。
保釈が認められたのは、学校の冬休みも明けてしばらく経った1月18日。 身柄を拘束されていた期間は、実に28日間にもおよんだ。

最も辛かったのは、教壇に戻れないこと。
教員が刑事裁判で起訴されると教育委員会により休職を命じられるケースがほとんど。 そして、もし有罪になった場合、免職となり、復職できる可能性はほとんどないという。

突然の逮捕からおよそ1ヶ月半、ついに裁判が始まる。
被害を訴えた女子高生は未成年であることが考慮され、木下さんや傍聴席からは見えない場所で証言を行った。

事件当時、女子高生はバス後方で進行方向の左側を向いて立ち、被告人である木下さんは彼女の後ろに立っていた。 女子高生は、木下さんは左手で吊り革を掴んでいたが、右手でお尻を触ってきたと証言。 それは、断続的に複数回行われ、ついに耐えきれなくなり痴漢をしたことを問い詰めたという。
弁護側は、被告人のリュックが当たったのを被害者が痴漢と勘違いしたと主張、無罪を訴えた。

だが、公判が進むにつれ、目の前に有罪率99.9%の壁が立ちはだかっていることを改めて感じていた。 木下さんはもう一人弁護士を加えたいと池末弁護士に相談した。
その弁護士の名は、今村核弁護士。 残念なことに今から3年前に亡くなったが、刑事裁判でそれまでになんと15件の無罪を勝ち取るなど『冤罪弁護士』の異名をとる人物だった。
木下さんは無実を訴え、弁護をお願いしたところ、「まずは記録や資料を読ませてください。それからです」と言われた。 どんな案件も深く理解するまでは、決して弁護は引き受けない主義だった。 そして数日後、今村弁護士から弁護を引き受けるという連絡がきた。

後日、打ち合わせが行われた。 木下さんがわずか0.1%の無罪を勝ち取るには、無罪である証拠を示す必要があった。
実は、起訴されたのち、池末弁護士が何度も証拠の開示請求を行い、車載カメラの映像を入手。 だが、映像の画質は悪く、1秒間に5枚の静止画しかないものだった。 しかも夜間のため、車内は暗い上にカメラは前方に設置されていたため、後方にいた女子高生と木下さんはよく見えなかった。
今村弁護士は証拠はこれから用意するしかないといい、木下さんの無実を証明するには、新たな3つの鑑定が必要だという。

『冤罪弁護士』今村が考えた3つの証拠鑑定とは?
一つ目が『微物鑑定』
痴漢容疑で逮捕された当日、木下さんは警察署で手に女子高生の衣服の繊維が付着していないか検査を行っていた。 しかし、その鑑定結果は裁判に提出されていなかった。 実は、木下さんの手から繊維片は検出されていなかったのだ。

そこで弁護側は、女子高生の通っていた学校に事情を説明し、彼女が来ていたものと同じ制服を入手。 専門家立ち会いのもと、実際に触れた際に繊維が検出されないことはあるか実験を行った。 その結果、14回行われた実験の全てで、手のひらから目に見えないほど小さなウールの繊維片が検出されたのだ。

二つ目は『心理学鑑定』
弁護側は、被害者はリュックにお尻に当たったのを痴漢と勘違いしたと考えていた。 そこで実際に被害者が着ていた制服よりも薄手の衣服の複数の女性に、リュック、手の平、手の甲、指、4種類の刺激を後ろからランダムに与え、何が当たったかを答えてもらう検証実験を行った。 その数、150回以上!

その結果、正答率はおよそ4分の1、当てずっぽうで答えのとほぼ同じ確率でしか正解しなかったのである。
実験を行った人間環境大学の厳島教授によれば…物理的な刺激などを受けると、反応する触覚細胞は指や舌に多く、逆にお尻や背中は触覚細胞が少ないため鈍感な部位にあたるのだという。

三つ目は『画像鑑定』
客観的に見て、車載カメラの映像が最も確実なものになり得る。 だが、車載カメラの画質は悪く、暗いため、証拠になりえなかったはず。
そこで今村弁護士が頼ったのは、法人類学者の橋本正次教授。 数多の刑事裁判で防犯カメラを分析してきた経験を持つ、画像鑑定のエキスパートだ。 この橋本教授の画像処理によって、暗くわかりにくかった女子高生と木下さんの動きが、わかりやすくなった。

これにより新たな事実が明らかとなる。
女子高生がその直前まで行われていた痴漢行為に耐えきれなくなり、振り返ったと証言した時刻、防犯カメラの記録によれば、21時34分26秒。 木下さんはこの直前、同僚にメールを送っていた。 女子高生の証言により、左手は吊り革に捕まっていることが明らかになっている。 だとすれば、携帯電話を操作するのは右手しかない。

そして、後日入手した通信履歴によって木下さんがメールを送信したのが、34分18秒だと判明。 さらに画像処理によって、この5秒後に携帯電話をポケットにしまっていることがわかった。 そこから女性が振り返るまでは、およそ3秒。
そのわずかな時間で痴漢をするのは不可能である。 こうして弁護側は、自分たちで行った3つの鑑定によって判明した事実を新たな証拠として裁判所に提出した。

逮捕されてから裁判にかかりきりで、気づけば半年が以上が経過。 数ヶ月前、すでに木下さんが学級担任として初めて受け持った生徒たちの卒業式も終わっていた。 その時、かたわらにいたのは自分ではなく、代理の教員。
木下「なんで彼らの側にいられないんだろう。どうして僕は彼らの晴れの日を見られないんだろう。何でこんな思いをしなければいけないんだろうなってその日一日はずっと何か涙が止まらなくて、苦しかったですね」

改めて裁判が開かれる。
弁護側は新たな証拠をもとに、木下さんの無実を訴えた。 突然の逮捕からおよそ1年半、裁判所が下した判決は…!?
弁護側の敗訴、木下さんに有罪判決が下されたのである。

その理由について、判決文には、こう記されている。
『被告人が右手で痴漢行為をすることができたのは、3秒程度しかなく、それは不可能というに近い』
と弁護側の主張を認めながらも…
『21時33分52秒ころから21時34分12秒頃までの間、被告人の左手がつり革をつかんでいることは車載カメラの映像によって確認できるものの、それ以外の時間帯の被告人の左手の状況は不明である』

裁判官は、34分12秒までおよそ20秒間、木下さんがつり革を掴んでいるのは確認できるものの、それ以外の時間帯については、左手の状況がはっきりとは見えないとして…
『右手で携帯電話を操作しながら、左手で痴漢行為をすることは容易とはいえないけれども、それが不可能とか著しく困難とまではいえない』
すなわち、左手での痴漢行為はありうるという見解を示したのだ。 どう考えても『疑わしきは罰せず』『推定無罪の原則』を無視したような判決だった。

しかも驚くべきことに、3つの鑑定のうち、微物鑑定と心理学鑑定の2つは、最終的に証拠能力を持たないとして裁判所が認められなかったのだ!
理由は『あくまで実験であり、当時の状況を完全に再現したわけではない』というものだった。
果たして、木下さんは無実の罪をはらすことができるのか!?

予想外の有罪判決を聞き、ショックを受けた木下さん。 後日、今度のことを相談しようと今村弁護士と池末弁護士に言われたのだが…
「僕の中ではもう答えは出ているんです」と言った。
その答えとは?

話は事件発生から4ヶ月ほどたったころにさかのぼる。
保釈されて以来、木下さんは支援者と協力し、該当でビラを配るとともに署名運動を行なっていた。 そんな時だった! 現れたのは、中学を卒業し、高校生になった教え子たち。 そして、自分たちからビラを配り、署名をしてもらえるように訴えてくれた。

それにしても、なぜ生徒たちは駆けつけてくれたのか?
生徒たちは中学校にいた時から、木下さんの無実を信じていたのだ。
逮捕前、木下さんと同じ中学校に勤務していた女性はこう語る。
(木下さんは)『規則だから守れ』というタイプではない。『なぜ守らなきゃいけないか』という話をする方で頭ごなしに言うタイプではなかった。生徒たちとよく遊んでいたので関係性ができていたのかなと。保護者への学校の説明会の時にも『理由はわからないけど絶対にこの人やってない』と生徒も思ってくれたし、保護者も思ってくれていて『私たちでなにかお手伝いできることありませんか?」と言ってくれる保護者もたくさんいた」

そして、何より木下さんを励ましたのは、卒業前の生徒たちが送ってきた手紙だった。
『僕は木下先生のおかげで数学という教科の面白さに気づけたと思います』
『私が木下先生から学んできたものは絶対本物であると思うし、困っときに助けてくれたということも、私はしっかりと心に残っています』
『先生の授業をまた受けたいです。それが難しくてもまた先生に会いたいです。3Bのみんなで一緒に会いたいです。私たちの迷惑になってるなんて絶対に思わないでください。私たちは先生を信じているし待っています』

そんな彼らは、初公判の法廷に授業が終わった後、みんなで集まり、駆けつけてくれたのだ。
木下「びっくりしましたね。来るとはいうのは聞いていなかったので、中に入ったら最前列にいるので『おぉ来たのか』と思って、びっくりしました」

第一審の最終陳述で、木下さんは自らの思いを裁判官に訴えていた。
「私は痴漢など絶対にしていません。これまで無実を示すため必死に生きてきました。私が立ちたいのは裁判官の前ではなく、生徒の前なのです。私が必死になりたいのは裁判ではなく、教育なのです」
自分のためではなく、教え子たちのために…こうして、木下さんと弁護士たちは、ただちに控訴した。

早速、控訴審に対する対策が今村弁護士を中心に検討された。
一審で無罪を勝ち取れなかった理由は、左手で痴漢をした可能性までは否定できなかったからである。
裁判官が左手の状況を確認できるとした34分12秒から女子高生が振り返る34分26秒まで、このおよそ14秒の間、左手の動きが不明なため、痴漢の疑いが残ってしまったのだ。 控訴審で勝つためには、左手でも痴漢が行えないことを証明しなければならなかった。

今村弁護士が再び白羽の矢を立てたのが、画像鑑定のスペシャリスト橋本教授だった。
バスの車載カメラの映像は1秒間に5コマの静止画像で構成されている。
橋本教授は、14秒、70枚の静止画像全てで、左手の状況に合わせ、コントラストを変え、画像の鮮明化を試みた。

そして、突然の逮捕からおよそ2年後、控訴審が始まる。
弁護側はバスのつり革に着目。 つり革が進行方向と並行に垂れている場合、正面にある車載カメラには、つり革がドーナツ状に見えることはない。
そして、橋本教授が画像処理を行った結果、木下さんが左手で掴んでいたつり革の状況が明らかとなった。 そこには、確かにドーナツ状のつり革が映っていたのだ! バス後方でドーナツ状に見えるつり革は1つだけ。 木下さんが掴んでいたことは明らかだった。

そして弁護士たちは、一審で裁判官がつり革を掴んでいることが確認できるとした34分12秒から、女性が振り返る34分26秒までの空白の14秒間、左手がどんな動きをしたのか、その検証を試みた。
34分13秒、つり革はドーナツ状に見えている。

だが次の瞬間、バスが工事現場を避けるため迂回。 この時、車内では大きく揺れて、つり革が見えなくなってしまった。
しかし、女性が振り返るまでに吊り革の向きも不明で、左手がどこにあるのか分からない時間はわずか3秒ほどしかなかった。 これでは痴漢行為は不可能だ。

それからおよそ半年後、運命の日を迎えた。
果たして、下された判決は!?
逆転無罪!
2週間後、検察は上告を断念。 木下さんの無罪が正式に確定した。

なお、取り調べの際、警察から「目撃者がいる」と言われていたが、その点に関して裁判では言及されることはなかった。
おそらく、自白させるための脅しだったと考えられる。

控訴審の裁判官は被告側の主張を全面的に認め、一審の判決については…
『被害者供述の信用性を全面的に肯定した原判断は、証拠評価を誤ったものというほかなく、不合理である』と批判。

一方、司法の判断が下されたことで、思いもよらない問題が生じた。 無罪判決を新聞など様々なメディアが報じたのだが、それにより、被害者とされた女子高生をバッシングする書き込みがネットに溢れたのだ。
こうした事態について木下さんは…
「彼女は責められるべき人ではないと思っています。誰にだって勘違いはあることなので。事件として起訴されてしまえば、もう彼女の手は離れますし、勘違いをする権利は誰にでもありますし」

そんな木下さんが気にしていることがある。
あの日、女子高生に手を掴まれ、目的とは全く違う場所で無理矢理バスから降ろされた時、つい大きな声を出してしまったこと。 女子高生に怖い思いをさせたのではと、申し訳なく思っているという。

そして今回の事件を通じて、木下さんにはどうしても伝えたいことがあるという。
「僕の事件をきっかけに、本当に被害に遭っている場面で声を出すことをためらってほしくない。嫌な思いをしているのは事実なので勘違いであろうが何だろうが、その場面で嫌な思いをしていることは事実だと思うんです。そこで我慢をさせられるのは絶対に違う。苦しんでいる人であったり嫌な思いをしている人が素直にその思いを外に発して、それを周りが助けて、勘違いだったら『勘違いだったね』と周りがちゃんと正しく対応できれば苦しい思いをしている人はきっと減るはずなので、苦しんでいる人がこの事件をきっかけに声を我慢しなければいけないと思うのは絶対にあってはほしくないと思っています」

あれから14年、木下さんは別の学校に移動したが、今も中学校で教鞭をとっている。 今年3月には3年間担当した生徒たちを送り出し、4月からは新たな1年生の担任として日々奮闘している。
「伝わるかどうかわからないなと思いながら、やらなければいけないと思っていたことが『ちゃんと伝わるんだな』『ちゃんと信じてもらえるんだな』ということをあの当時の生徒には教えてもらいました。教えてもらったから、伝わるということがわかったから、この思いをまた新しく会う生徒たちにどれだけ伝えていけるか、次の世代にどれだけ伝えていけるかということが僕らの仕事なんだと思っています」

弁護をしてくれた2人や教え子たちなど、多くの人に支えられた木下さん。 実は誰よりも彼を信じ、支え続けたある人物がいた。 それは事件が起きたバスの中でメールを送った相手、その人は…当時同じ学校に勤務し、交際していた恋人・真美さん(仮名)。 さきほどインタビューに答えてくれていたのも、彼女だった。
実はあの夜、二人はデートする予定だったという。 しかし、木下さんが逮捕されたため、その約束が果たされることはなかった。

当時のことを真美さんは…
「待ち合わせしている時に電話が来て『今日行けなくなった』と、そこから完全音信不通になって、彼のお母さんの調子がずっと悪かったので、もしかしたらお母さんが倒れちゃったのかもしれない、本人がいきなり事故に遭っちゃったのかもしれないと思っていた」
そんな矢先、真美さんは木下さんの報道を目にすることに。 真美さんが真っ先に感じたのは痴漢で逮捕された衝撃ではなく、恋人が生きていたことへの安堵だったのだという。

さらにその時の心境を彼女は手紙の中でこう綴っている。
『私は木下先生を100%信じています。毎日毎日、12時間以上一緒に過ごしてきて、姿を見てきて、私は木下明という人を知っています。100%、絶対にやるわけがない。自分でもびっくりする位、かけらも疑わなかったです』

しかし、そんな彼女の支えも虚しく一審は敗訴。 そんな中、ちょうど控訴した頃、木下さんは真美さんと入籍した。
真美(痴漢を)やっちゃたかもしれないとか、そういうのは思わなかったから、そういうふうに思える相手はこの先現れないかなと思って(入籍した)

彼女は、今回の事件を通じて木下さんと共にあることを決めていたという。
それは…「睨まれたから、自分が悪いと思って『ごめん』と言って『あ やったんだな』と思われたのがスタートなんですけれども、だからといって『ごめん』というのをやめようというのは思わないでおこうと決めていて。ちゃんと『ごめんなさい』と言える世の中でありたいよねというのは(木下さんと)話しています」