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ミステリアス ラブ ストーリー

今から13年前。 ハワイ出身の大学生であったマンタイ・テオは…全米から注目されるアメリカンフットボールの選手だった。 アメフトの名門、インディアナ州にあるノートルダム大学で…大学4年生になると、チームの大黒柱、ディフェンスの司令塔として活躍し…アメフトのプロリーグNFLのドラフト1位候補として、将来が嘱望される選手だったからだ。

しかし、その秋、マンタイを予期せぬ事態が襲う。
大好きな祖母がガンで亡くなったのだ。

さらに、その悲しみも癒えぬ、わずか6時間後…交際中の恋人の兄から恋人が亡くなったと連絡がきたのだ。 マンタイは、カリフォルニア州のスタンフォード大学に通う、リネイ・ケクーアという女性と交際していたのだが、彼女がこの日、白血病で亡くなったというのだ。
のちに、その時の心境をマンタイはこう語っている。
「わずか6時間の間に祖母と、人生で最も愛した人が亡くなるなんて。本当に暗闇の中にいるような気持ちでした。時々、考えることがあります。彼女がもし今も生きていてくれていたら、どんなことを話し、どんな夜を過ごしていたのだろうかと」

同じ日に祖母と恋人、大切な2人を失ったマンタイ。 精神状態を心配した監督は、練習を休むよう言ったが…マンタイはそれを拒否。
そして3日後には、因縁のライバル、ミシガン州立大学との試合に出場。 すると彼は…天国にいる恋人や…祖母に勝利を捧げるべく躍動。 チームを見事勝利へと導いた。

この試合以降も、マンタイの活躍に引っ張られるように、チームは連戦連勝。 メディアはこぞって、悲劇を乗り越えて戦うマンタイの活躍を讃えた。
こうして彼は、全米から注目される国民的ヒーローとなった。 そして、その年、大学フットボール界で最も活躍した選手に送られる、ハイズマン賞にもノミネートされるまでに。

しかし、スポーツメディアの記者の間では…
記者A「確かにマンタイは優秀な選手だけど、受賞するかどうかというと、正直、微妙なラインだよな」
記者B「でも、あれだけの悲劇を乗り越え活躍したインパクトは大きい。俺は、マンタイが獲ると思うぜ」
意見が割れていた。

ハイズマン賞は、NFLのチームとの高額な年俸の契約に繋がるため、決して裕福とは言えないマンタイの家族にとって、何としても獲得して欲しいものだった。
だが結局、その望みは叶わず、最終的に彼は次点となり、トロフィーを手にすることは出来なかった。

そんな矢先のこと…アメリカのスポーツウェブサイト、『デッドスピン』が、衝撃のニュースを報じる。 その内容は、マンタイ・テオが語った、恋人が亡くなったという話は…『真っ赤な嘘』というもの。
その根拠として、記事にはこう記されている。
マンタイによれば、恋人であるリネイ・ケクーアは、スタンフォード大学に通っているとのことだったが…記者が調査した結果、スタンフォードの在校生にそのような名前の学生は存在しないことが判明。 その上、アメリカの社会保障局に取材したところ…彼女が亡くなったとされる9月、そして、それ以降もリネイ・ケクーアという名の人物の死亡記録は確認できなかったのだという。

つまり…「わずか6時間の間に祖母と、人生で最も愛した人が亡くなるなんて。本当に暗闇の中にいるような気持ちでした」
あの時のマンタイの言葉は嘘。
彼はカメラの前で堂々と恋人が亡くなったと語り、市民を騙していたというのだ。 涙を誘ったマンタイの言動が嘘だと分かり、国民は激怒。
そして、現アメリカ大統領ドナルド・トランプも、自らのSNSで『デッドスピン』に対しこう投稿した。
「おめでとう。デッドスピン。マンタイ・テオの大失態を暴いてくれて」

悲劇のヒーローから一転、全米を欺いた男として世間の怒りを買ったマンタイは…マスコミの格好の餌食に。
恋人を亡くしながらも必死に戦う姿をアピールし、ハイズマン賞を手にすることで…NFLのチームと高額な年俸で契約できる…マンタイはそう考えたのではないか? アメリカ国民の中には、そんな見方をする人も多くいた。
実際…ドナルド・トランプもSNSに、こう投稿している。
「マンタイ・テオは、ハイズマン・トロフィーを手に入れるために同情を引くデマに関与していた」

こうして、多くのアメリカ国民から、嘘つき呼ばわりされ、大バッシングを受けることになったマンタイ。 だが事実は、全く違っていたのだ! マンタイにとって、リネイはでっち上げなどではなく…本当に実在する恋人だったのだ!
それは、騒動の3年前に遡る。 マンタイのSNSに友達申請が来たことから始まった。 彼女の美しいプロフィール写真にマンタイは魅かれた。

カリフォルニア州に住み、大学に通っているリネイ。 そして…インディアナ州に住む、同じく大学生のマンタイ。 およそ3500キロ離れたところに住む2人ではあったのだが…メッセージのやりとりを始めると、すぐに意気投合。
やがて2人の関係は、交際に発展した。

さらに付き合って1ヶ月が経った頃には…リネイのいとこの兄妹の妹の方がマンタイのファンということで、会って欲しいと頼まれた。 試合後、マンタイは…リネイのいとこの少女とハグ。 その兄とも、ハグを交わした。
こうして、リネイの親戚とも親交を深めていったマンタイ。 将来は彼女と一緒になる、そんな幸せな未来を思い描いていた。

だが、あの日…祖母の訃報を聞いた6時間後に…彼女の兄から突如、リネイが白血病でこの世を去ったとの連絡を受けた。
そう、マンタイは何一つ、嘘など言っていなかったのだ。 実際、恋人の死の直後、取材に対して彼は、葬儀の際、自宅に白い薔薇を贈ったことも語っている。

だが…リネイが亡くなってから、およそ3ヵ月後。 『デッドスピン』がスクープを報じる少し前、マンタイ自身も予想だにしなかったことが起きる…!
なんと、3ヵ月前に亡くなったはずの恋人・リネイから電話がかかってきたのだ!
そして「ごめんなさい。実はちょっとしたことから悪い人に追われていて、死んだことにする必要があったの」と言うのだ。 にわかには信じられなかったマンタイは、撮影した日付をいれて、マンタイが指示したポーズをとるように言った。

それからほどなく、メールが届いた。 そこにあったのは…3ヵ月前に亡くなったはずのリネイが…その日の日付を書いた紙を持ち…マンタイが指示したポーズをした姿の写真だった。
リネイが生きている…それはマンタイにとって、何ものにも代え難い喜びだった。

しかし、同時に…このあとどうするべきか、マンタイは悩むことになる。
なぜなら「実はリネイは生きていた」と、メディアに公表したとしても…「アメリカ国民の同情を買うために嘘をついたのか」など、世間からバッシングされる可能性が高い。 さらに、自分だけではなく…ウソをついた彼女に非難の矛先が向く可能性もある。 それは、絶対に避けなければならない。 どうすれば良いか、考えても結論が出せなかった。
まさに、そんな最中に…あのスクープが報じられたのだ。 しかも記事には、マンタイも驚くことに、リネイ・ケクーアという名の女性は実在しないと書かれていた。

当時、デッドスピンで編集長をしていたクラーグス氏はこう語る。
「私たちがスタンフォード大学に問い合わせをしたところ、リネイ・ケクーアという人物が在籍していたという記録はありませんでした。他の読み方やスペル違いについても調べましたが、結果は同じで記録は見つかりませんでした。他にも、彼女が死亡したとされるカリフォルニア州カーソンで、そのような名前の女性の葬儀が行われた記録が残っていないか確認しましたが、それもありませんでした。こうした徹底した裏付け取材を経て、我々はあの記事を出したのです」
しかし、マンタイにしてみれば…リネイと話し、写真まで送られてきている。 一体…何が真実なのか!?

デッドスピンのスクープ記事から5日後、アメリカの報道番組に一人の女性が出演。 それはマンタイの恋人、その人だった。 そして彼女は…カメラの前で、静かに話し始めた。
彼女の名はリネイではなく、『ダイアン・オメーラ』だという。
一体、どういうことなのか?

それは、あのスクープ記事が出る直前に遡る。
デッドスピンの記者の元に…一件のタレコミメールが入った。 そこには、こう記されていた。
『マンタイ・テオは、全米から愛されているヒーローだが、彼は詐欺師でもある。彼のガールフレンドが死んだという話は、完全にでっち上げだ』と。
ジャーナリストの勘で、このメールが気になった彼は早速、調査を開始。 まずは手始めに…マンタイの亡くなった恋人、リネイのSNSに上がっている写真を、一枚ずつ画像検索にかけていく。

すると…驚くべき事実が判明する。 それらの写真は全て、リネイではない別の人物が自分のSNSに載せている写真だったのだ。
そう、それがこの写真の女性…番組に出演した、ダイアン・オメーラ。 彼女はスタンフォード大学の学生ではなく、とある企業に勤めるキャリアウーマンだった。

そこで記者は、ダイアンのSNSを通じて彼女に接触。 写真がリネイのSNSで使用されていることを伝えた。
実はこの時…ダイアンは自らの写真が全くの別人、リネイ・ケクーアとしてSNSで使われていることに、気付いていなかった。 また、マンタイが恋人の死を公表して以来、メディアもリネイのSNSの写真を使用していたが、彼女はそれも知らなかったのだ!

こうして、衝撃の事実を知ったダイアンは…真実を伝えるために、カメラの前に立ったのだ。
『リネイ』として使われていた写真は、自分であることを明らかにし、何者かがリネイになりすましていたのだと証言。
しかも、ダイアンは…『デッドスピン』の記者から事の詳細を聞いたことで…ある出来事を思い出し…リネイになりすましていた、この大騒動の黒幕は、自分がよく知る人物だと気付いたというのだ!

その人物が…ダイアンの高校時代の同級生、ロナイア。
ではなぜ、ダイアンは、リネイになりすましていた人物が、ロナイアであることに気付いたのか?
きっかけは、デッドスピンの記者から連絡が入る、ひと月半ほど前に遡る。 彼女の元に…一通のメッセージが送られてきた。 その送り主が…ロナイアだった。

ロナイアに、親戚が病気で入院中のため、励ましのために写真を送って欲しいとお願いされた。 さらにロナイアは、送ってもらう写真に細かい注文をつけてきたのだという。
そして後日、ダイアンがロナイアに送ったのが…マンタイが受け取った『あの写真』! それは、ロナイアが写真を悪用し、リネイになりましていたことを示す、紛れもない証拠だった。 この経緯の全てを報道番組で語ったダイアン。

マスコミは騒動の黒幕ともくされるロナイアを直撃! 一日中、彼の姿を追い続けた。 そして、ロナイアはついに、メディアの取材を受けることを決意、その重い口を開いた。
高校時代まで、アメフトに情熱を注ぐスポーツマンだったロナイア。 そんな彼の生活に変化が起きたのは…高校を卒業した翌年、2009年のことだった。 この日、偶然、高校の同級生だったダイアンのSNSを発見。 そこにアップされていた写真を保存すると…別のSNSで架空の女性『リネイ・ケクーア』のアカウントを作成。 そして、『リネイ』として、ダイアンの写真を載せた。

その後、アメフトで活躍している当時大学1年目の…マンタイとメッセージでのやり取りするようになり、彼から交際を申し込まれた。
しかし、ここで大きな疑問が生じる。 マンタイとリネイがデートしているなら、写真とは全く違うロナイアと会っているはず。 なぜその時、マンタイは疑問を持たなかったのか?

実は…ロナイアは、マンタイが直接会いたいというと…その都度、何かと理由をつけて断っていた。 そのため、SNSで出会ってから…マンタイは、恋人・リネイと一度も会っていなかったのだ。
二人は電話で頻繁に会話をしていたが、それでもマンタイは、ロナイアが男性だと気付かなかったというのだ。 その理由について、ロナイアはメディアにこう語った…マンタイと直接話す時は、ただ高い声を出して女性を装っていたのだと。

なぜロナイアは、架空の女性を装いマンタイに近づき、彼を騙し続けたのか? 実はそこには、イタズラなどといった単純な理由でははなく、人々が想像だにしなかった真実が隠されていた!
ロナイアはトランスジェンダーであり、今は女性として暮らしている。
彼はのちの取材でこう語っている。
子供の頃から、アメフトに熱中する一方、自分は周りの人とは何か違うと感じていた。 それは、自分の中にある「女性としての意識」だった。 その思いは少しずつ膨らんでいき、1人の女性として、色々な経験をしてみたいと感じるようになっていった。
そして生み出したのが…架空であり、理想でもある女性『リネイ』だったのだ。

ダイアンのSNSを見つけたとき、彼が抱いたのは、男性としてではなく…女性としての憧れの感情だった。
しかも彼は、ダイアンのSNSをフォローしているうちに…趣味や好きな曲など、自分とダイアンが似ている部分が多いことに気付く。 その結果、いつしかロナイアは、ダイアンのようになりたい、そう思うようになっていた。

そこで、ダイアンの写真を使い、理想の女性をネットの中に作り上げ…軽い気持ちで数人の男性に近づいた。 そのうちの一人がマンタイだったのだ。
ところが…メールや電話を繰り返すうちに、ロナイアの心に一つの感情が芽生え始める…恋心だった。
その恋が成就するのは難しい。 それでも、女性として恋する気持ちを抑えられなくなっていた。

しかし、これ以上ごまかしきれないと感じたロナイアは、リネイの兄になりすまし、リネイを死んだことにしたのだ。 全てを終わらせるために。
ところが、ロナイアがなりすましたリネイと、マンタイの悲劇のラブストーリーは、全米で大きな話題となってしまった。
それでも、時が経てば…いずれ世間は全てを忘れてくれるはず。 そして、自分自身もマンタイのことを忘れるだろう…そう思っていた。

だが…ロナイアは、後に行われた取材でこう答えている。
マンタイとの関係や会話が恋しくなった。
どうしても手放したくないと思った
、と。
そして…マンタイと繋がっていたい…そんな思いから電話をかけ、写真も送った。 だが、そんな矢先…あの暴露記事が出てしまい…全米を巻き込む大スキャンダルへと発展してしまったのである。

自らが行ってきたことを、メディアで告白したロナイアは…『騙していたマンタイをはじめ 巻き込んだすべての人に謝りたい』と語った。
ロナイアは金銭をだまし取ったわけではないため、詐欺罪には問われず。 また、『精神的苦痛を与えられた』として、マンタイが訴えを起こせば、民事裁判になっていた可能性はあったが…マンタイがそうすることはなかった。

SNS上のなりすましとしては、全米史上類を見ない事態となった、今回の騒動。 マンタイが、世間からバッシングを受けるきっかけとなったのは…『デッドスピン』に送られてきた、一通のタレコミメールだった。
メールの差出人について、編集長のクラーグス氏は…
「タレコミをしてきた人物はメールの中で、マンタイと同じく、ハワイのオアフ島出身であると明かした上で、マンタイのガールフレンドの死はでっち上げだと書いていました。記事を公開した後、タレコミをした人物に、メールでお礼を伝えたんですが、『よくやった』とひとこと返信があっただけで、それっきりでした。ですから、その人物の素性や動機などについて私は何も分からないのです」
送り主は、マンタイの地元の知り合いや、昔からのファンなどと推測されたが、正体は今もわからないままである。

どんなに想いを募らせても、叶えることは難しい恋だということは、十分理解していた、ロナイア。 だからこそ、せめて一度だけでも…恋する人と見つめ合いたい…恋する人と触れ合いたい…たとえ相手を騙し、嘘をついてでも…。 そう、リネイのいとこ兄妹の兄としてマンタイのもとを訪れ…見つめ合い、抱きしめ合っていたのは…ロナイア本人だったのだ。

声色を変えて、愛しいマンタイとの会話を楽しんだ、ロナイア。 現在は、『ナヤ』と改名し、女性として生活している。
そんなロナイアに騙され、全米からバッシングを受けることになったマンタイは…騒動の3ヵ月後、ドラフトでNFLのチームに指名され、プロのアメフト選手に。 その後、8年間、3つのチームで活躍した。 今から5年前に引退したが、現役時代に出会った女性と結婚。 子供にも恵まれ、現在はNFL専門チャンネルの解説者として活躍している。