オンエア
今から2年前、ある1人の女性が逮捕され、連日大きく報道されるなど、日本中を騒がせた。
その女性が最終的に罪に問われたのは、マッチングアプリなどで知り合った男性3人から、2年半近くの間におよそ1億5千万円もの大金を騙し取った詐欺。
彼女は男性に恋愛感情を抱かせ、金銭を振り込ませるまでの流れをマニュアル化していた。
そのマニュアルの名前は…『頂き女子の参考書~お金を頂くための設定と極秘会話法~』。
これを作成したのが「頂き女子りりちゃん」こと、渡邊真衣、当時25歳。
彼女は以前勤めていた夜の仕事の体験談などを赤裸々に語るyoutuberとしても活動、一部のファンから支持される存在であった。
そんな渡邊が作ったマニュアルには、どんなことが書かれていたのだろうか?
彼女がターゲットにしていたのは、「50代」「独身」「恋愛経験が少ない」男性たち。
そして彼らのことを、こう呼んでいる…『おぢ』と。
そんな『おぢ』に対し、「親と上手くいっていない」「男の人が苦手」など「助けてあげたくなる女の子」キャラを演じる。
そして、「おぢ」が自身に恋愛感情を持っていると感じた時点で、いよいよ金銭の相談をするのだが…まず『おぢ』からのメッセージに対し、返信をしない。 これにより「おぢ」は「彼女に何かあったのかも」と思い、心配してメッセージを送ってくるのだという。
それに対し、「お金の話なんか本当はしたくない」「だけど、私の全てを知って欲しい」という雰囲気を作り、架空のトラブル話を切り出す。
その時のやり取りの中で「お金」「助けて」「貸して欲しい」などという言葉を絶対に自分からは言わないのだという。
理由は「最初から金目的で近付いてきたのか?」と『おぢ』に思わせないためだという。
このようなテクニックにより「自分が助けてあげないと」という感情を自然に抱かせ、金銭を搾取していったのだ。
さらに渡邊は自身が作ったマニュアルを、1万円から2万円で販売。
その売上額、なんとおよそ2千万円!
そして、実際に購入した20歳の女子大生が、男性2人からおよそ1千万円を騙し取るという詐欺事件を起こし、逮捕される。
これにより渡邊も逮捕されることとなったのだが、具体的には彼女たちが行った行為のどの部分が犯罪に当たるのだろうか?
逮捕された女子大生は裁判でこのように話した。
「マニュアルに沿ったことをやっただけで、犯罪をしている実感は持っていませんでした」
しかし、実際には起きていない、虚偽のトラブル内容を伝え、金銭を搾取することは、詐欺行為となる。 だが現実には、女性側が「騙し取った」事を自ら認める、もしくは男性側が「騙された」と申し出ない限り、警察が詐欺行為を認知することは難しい。 つまり、男性側が恋愛感情を抱いたままであれば、「騙された」という考えに至らないのだ。 そのため、女性側も犯罪意識が薄かった可能性がある。
渡邊については、3人の男性が被害を訴えたため、詐欺罪に問われることになったのだ。
そして、彼女が作ったマニュアルに関してだが、それを販売したこと自体は、罪に問われることはないという。
だが、マニュアルを購入した女子大生が、その内容を実践し、男性から金銭を騙し取ったことにより、渡邊には詐欺ほう助罪も適用されることに。
さらに彼女は、直接行った詐欺行為でおよそ1億5千万円。 マニュアル販売でおよそ2千万円を手にしていたが、それらは収入とみなされ、所得税がかかる。 渡邊は、男性から金銭を搾取していたおよそ2年半の間、一度も収入として申告していなかったため、脱税の容疑でも逮捕され、それら全てで有罪判決を受けた。
こうして、3つの罪を犯した渡邊だが、彼女はそもそもなぜ詐欺行為を始めたのか?
渡邊は学生時代、アトピーによる肌荒れを理由に、いじめに遭い、次第に学校を休みがちになっていく。
さらに自宅でも、父親から虐待を受けていたのだという。
そのため、ずっと自分の居場所を探していたという渡邊。
そして20歳の時、出会ったのが、新宿・歌舞伎町のホストクラブであった。
渡邊は逮捕後、ある雑誌の記者に手紙を送っている。
そこに書かれていたのは…
『私はずっと、誰かに本当の自分を見つけてもらいたかった。私のことをみてほしかった。それをしてくれたのが、20歳のとき出会ったホストでした。私は救われました』
渡邊は「本音で話せるのはホストだけ」と語るほどのめり込み、一本数百万円する酒を何本も頼み、一晩でなんと2700万円を使うこともあったという。
巧みなテクニックで男性を意のままに操り、自分の欲望を満たしていった、『頂き女子りりちゃん』こと、渡邊真衣受刑者。
逮捕後、メディアで紹介された、彼女の動画によって、幼稚な人物だというイメージを持つ人が多いかもしれないが…今回我々は、彼女をよく知る人物から話を聞くことができた。
それが、トラブルを抱える若者たちを支援する活動を行っている、フォトグラファー、立花奈央子さん。
渡邊が逮捕される1ヵ月前、たまたま新宿・歌舞伎町で知り合ったという。
そして逮捕後も手紙のやり取りを行い、その数は100通以上。
渡邊が手紙の中で「プライベートな話ができる存在」と語るほど、心を許した人物である。
立花「彼女は別に素の自分を隠しているという意図は、そこまでなくて、相手が欲しいキャラクターで自然と接することができるのだと思います。だから、男性が望む可愛い女の子、自分が守ってあげなきゃいけないような弱い女の子を自然に出すことができるし、『頂き女子りりちゃん』のリスナーに対して、破天荒な破滅主義者の歌舞伎町の女の子を自然と出すことができるし、サービス精神旺盛な子だったのではと思っています」
しかし一方、立花さんら親しい人の前では、少し違った一面を見せていたという。
立花「すごく落ち着いて、自分の言葉で自分の意見を話す子という印象でしたね。(学校を休みがちで)学習の機会というのが、それほどなかったから、言葉とか表現とかをよく知らなくて、伝え方が拙くなるということはあったと思いますけど、頭は悪くない子だと思いましたね。メディア(ユーチューブ)に出ている声っていうのは、私が知っている渡邊さんのものではないです。良い人たちと知り合っていたり、交流していたりしたら、もっと別の形で彼女自身が才能を活かすことができたかもしれないと思います」
立花さんの前では、落ち着いたトーンで淡々と話していたという渡邉受刑者。
しかし、罪を起こしたことは否定のできない事実。
今年1月、3人の男性から、およそ1億5千万円を騙し取った詐欺罪と、マニュアルを基に金銭を騙し取った女子大生への詐欺ほう助罪、さらに脱税の罪で、懲役8年6カ月。
また脱税では、罰金800万円という実刑判決を受けることとなった。