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感動再び! 動物園で目撃した奇跡の瞬間

番組ではこれまで、様々な動物園に密着し、その奇跡の瞬間を紹介してきた。
北海道札幌市にある、円山動物園では、アジアゾウの出産に密着。 産み落とした、まさにその瞬間や、生まれたばかりだと上手く呼吸ができないため、蹴って呼吸を促すという、アジアゾウの習性のリアルな光景。 そして、赤ちゃんが立ち上がり、初めての授乳を行う様子など、貴重で感動的なシーンをお届けした

そして、広島県にある安佐動物公園で紹介したのは、今から5年前に誕生したキリンの赤ちゃん、「はぐみ」に起きた奇跡である。 キリンを担当していたのは、当時、この園の飼育員5年目の堂面さん。
朝、キリンの寝室に行くと「はぐみ」が生まれていたという。
堂面「最初、パッと見た時に首がすっと立っていて、見た感じ 体も乾いていたので、無事に元気に産まれてくれたんだなって印象だったんですけど、よく見ると脚の形がおかしいのが外から見て分かって、少しびっくりしました」

これが、その時に撮った実際の写真。 堂面さんが驚いたのは、後ろ脚の曲がり方。 正常な状態で生まれてきたキリンの赤ちゃんの後ろ脚の先は、ヒヅメが体の後ろ方向に向いている。 だが、はぐみの後ろ足のヒヅメは 反対方向、体の前側に向いているのが分かる。 通常キリンは、何度も転びながらも、生まれてから数時間以内に立ち上がる。 そして、生きていくために必要な栄養や、抗体を含んだ母親の初乳を飲む。 しかし、足を骨折したり、関節を脱臼したりすると、立ち上がることができない。 母親は立ったまま授乳するため、立てない子は初乳おろか、お乳を飲むことが出来ず 衰弱して死んでしまうのだ。 例え人工的にミルクを与えたとしても、座っている時間が長すぎると、胃腸の働きが悪くなり、結果、消化不良に陥り、衰弱死する可能性が高いという。

堂面さんは、すぐに獣医師の野田さんを呼び、脚の状態を診察してもらった。
獣医師 野田亜矢子さんは、こう話してくれた。
「うちは移動式のレントゲンとかを持っていないので、とりあえず触診といって、触って確認をして骨は折れてないことがわかった。おそらくここの腱が完全に伸びている状態で、うまく(脚を)支えられてないなっていうのを確認しました」

キリンの脚先には、骨と筋肉をつなぐ組織である腱がある。はぐみの場合 先天的にこの「腱」が伸びきってしまっていたため、脚の先が本来とは、反対方向に曲がってしまっていたのだ。
骨折や脱臼はしておらず、最悪な状態ではなかったものの、もちろん このままでは立つことは不可能。

実は堂面さん、この1年前にもキリンの出産を経験していた。 この時は、脚に問題は無かったものの、未熟な状態で生まれてきたため、筋力が無く、立てなかった。 結果、人口哺乳など懸命な努力の甲斐なく、生後5日で息を引き取った。
堂面「今回産まれた子(はぐみ)は、近くで触ったり様子を見てると、前回の子みたいに筋力が少なそうだとか、ちょっと虚弱だっていう印象が全くなくて、脚の腱以外は元気だから、なんとか腱を治すことができれば、今回は生きられるんじゃないのかと、獣医さんと話していた」

この日から、立てないキリンの赤ちゃん・はぐみを救う安佐動物公園の挑戦が始まった。
はぐみの脚は腱が骨より異常に長い状態。 そこで、まずは、人が骨折した時に使うギプスで 脚を正常な形に固定、立てるようにした上で…やがて脚の骨が成長し、腱の長さと同じになることで、歩けるようになるのを待つ、という治療法を試すことにした。 はぐみは、何度も立ち上がろうとしたものの、自分の体を支えきれず、すぐに倒れてしまったという。

そして、人口哺乳も開始。
キリンからお乳を絞るのは、背が高くじっとしてくれないため、危険を伴う。 そこで、大切な抗体を含んだ初乳は、成分がよく似た牛の初乳を与えた。

しかし、翌日も立ち上がることは出来なかった。
堂面「もしも立てないとか、だんだん衰弱をしていってしまうとか、この先おそらく生かすことはできないだろうと獣医さんが判断した場合は、安楽殺という選択ももちろんありました」
最悪の選択も考えられる中、ギプスをして3日目のことだった。 堂面さんが寝室に来ると、はぐみが立っていたという。 さらに…母の後をついて歩き、お乳を飲む姿も確認できた。

だが、立って歩くようになったことで、はぐみの命を危険にさらす新たな問題が発生した。
歩く衝撃によって、ギプスが割れて壊れてしまう。 当然、交換しなくてはならないのだが…その際は 麻酔を使って眠らせなければならない。 実はこの麻酔が死と隣り合わせなのだ。

野田「赤ちゃんといえどもキリンの麻酔って結構ハードルが高いので、どうしても呼吸の数が減ったりとか、心拍数が減ったりとか、寝た時に頭の位置が下がることによって、胃袋の中身が戻ってきてしまう。それを誤嚥といって、呼吸を吸った時に液体が肺の方に入って、それで誤嚥性の肺炎を起こす。正直なことを言うと帰ってこない(死ぬこともある)だろうと思って。でも、何もやらなければ それで終わってしまうというつもりでやっていました」

そんな願いが通じたのか、10回以上にわたる麻酔にも耐え抜いた。
しかし、堂面さんは…
堂面「ギプスを巻き直していた頃は、さらに不安が多かったですね」
スタッフ「どうしてですか?」
堂面「体は成長していくんですけど ギプスを変えるごとに脚の腱の状態を見ても、改善している感じが全く感じられなくて、もし、これはもう治らないよと、その場にいる全員が判断したら、安落殺という選択肢がどうしても出てくるので…」

実はギプスは、患部を固定するため、骨の成長を阻害していたのだ。 脚を固定しながらも 骨の成長を助ける、人が使うような装具を作ろうと考えた。
もちろん、キリンの装具などは存在しない。 そこで、地元の広島国際大学で、人の義足や装具などを研究している山田先生に作成を依頼することに。
山田「義肢装具師は人間の赤ちゃんの装具も制作します。役に立つことは出来るだろうなという思いではいた。まず正常なキリン、親キリンの歩き方を動画で撮らさせて頂いて、脚の(関節の)角度が1番安定する角度を勉強して、ちょっとでも前加減だったら歩けない、ちょっとでも後ろに倒れたらつまづいてしまう。歩くための角度ですね」

山田先生は撮影した映像を分析し、キリンの歩行が一番安定する関節の角度を導き出した。 そして実際に装具を作る際、はぐみの変形した脚をこの角度に調整し固定、型を取っていった。
こうして完成したのがこちらの装具。 浮いてしまうヒヅメの先を抑えるために、脚の前後にプロテクターとパットを当て、両側から挟むようにしてベルトで固定した。

生まれてから59日目。
上手くいかず、両足とも怪我をしてしまう可能性もあるため、まずは片足に装着し試してみると、はぐみは軽快に立ち上がった。 これで希望が持てたかに見えたのだが…
堂面「立てた立てたと言って、みんなで喜んでたんですけど、しばらく歩いているのを見ると、脚を振ったりちょっと痛そうな様子だったので、これはだめだっていうので、すぐにリスクは高いんですけど、連日麻酔をかけて装具を外してギプスに戻すという作業を次の日にしました。」

山田「前側のつま先が上がるのは防げたんですけども、後ろの受けですよね。これが小さすぎて(装具の)ずれが生じたっていうのが今回の原因だったんじゃないのか」
キリンが歩く時、足(装具)にかかる衝撃は、思いのほか大きかったのだ。 その結果、装具の後ろ側のパットがずれ、痛みが出たと考えられた。

そこで…山田先生は一から設計をやり直し…3週間後、2つ目の装具が完成した。
山田「今度は後ろを大きく、後ろで力を支えて後ろを大きくしたことによって 装具がずれなくなる」
はぐみに麻酔をかけ、装着。 こちらも試作品のため、怪我をするリスクを考え、片足だけに。 果たしてはぐみは、痛がることなく歩いてくれるのか?

麻酔から覚めたはぐみが 立ち上がる。 そして…歩き出した! ギプスのままの左足は引きずっているが、装具をつけた右足を痛がる様子はない。
そして、外での歩行訓練も開始。 少しずつ歩きもスムーズになっていったという。

だが、1週間後、プレートにヒビが入ってしまった。 関節が動く時の衝撃に耐えられなかったのだ。
たとえ順調に歩行できても、頻繁に交換が必要になるのでは、その度に麻酔を打たなければならない。 常に命の危機にさらされてしまう。

だが…「人とキリンという違いだけ。絶対にキリンに合う装具が作れるはず」
そんな想いを抱いた山田先生は、さらに改良を重ね、ついに3つ目の装具が完成した。 それがこちら!
1作目よりも後ろのパットを長くし、ずれないようにした一方、衝撃でヒビが入った2作目を踏まえ、前側もプロテクターで抑え、さらに2箇所、ベルトで固定し、強度をアップした。

過去2作から安全性は確認できたため、3作目は両足に装具をつけることに。 スムーズに歩いている!
その後も装具は壊れることなく、順調に歩行訓練は進んだ。
堂面「このまま装具を両方ともつけて、さらに長期間歩かせていけば治るんじゃないか、そこで初めてこれはいけるんじゃないかと思いました」

そして ついに、はぐみが走った!
1け月後には、母親のめぐみと共に、初めて外の放し飼いスペースに出た、はぐみ。 走ることで骨や腱が鍛えられ、日に日に脚の状態は良くなっていったという。
しかし、成長に合わせ、装具を替える必要も生じる。 少しずつ経験を重ねていき、4回目には麻酔をかけずに交換できたという。

そして、今から4年前の11月。
誕生からちょうど7か月目のこの日、ついに、はぐみの装具を外す日がやってきた。
堂面さんに誘導され、ゆっくり歩きだす、はぐみ。 母のめぐみと共に放し飼いスペースへ。 そして…全力で走り出した!

山田「はぐみの努力もさることながら、動物園のスタッフ、みんなの力があっての結果なのかなって思っています」
堂面「どんなに心配してもはぐみは全部軽く飛び越えていくというか、麻酔をかけて起き上がれるかなって思っても、ちゃんと元気に帰ってきてくれて。これは歩けるかなと思ってもしっかり歩いてくれるし。たくさん走り回った後に これで脚を痛めたりするんじゃないかと思っても、平気な顔でけろっとしてご飯たくさん食べて、生きてくれていたので、自分たちが心配してる以上に生き物は強いし、しっかりと生きてくれるんだなということを、はぐみを通して感じました」

小さな命を救いたい…全ての人の思いが生んだ奇跡だった。
そして、今現在も、はぐみは、元気に駆け回っている。