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本当の悪夢

夫婦のかけがえのない幸せな日常が…ある日、突然奪われることがある、たった一晩の悪夢によって。
今から16年前のイギリス。 トーマスとクリスティーンの夫妻は、キャンピングカーで旅行に出掛けたのだが、その日の夜、外で音楽を大音量で流し、酒を飲んで騒ぐ若者たちがいた。 トーマスは若者たちに注意しに行った。 すると、1人がナイフを取り出し、トーマスの手を切りつけたのだ。 トーマスは男の首を強く締め上げると、彼らは車で逃げ去った。

その翌朝のことだった。 トーマスが目を覚ますと…妻が息をしていなかったのだ。 検死の結果、死因は首を圧迫されたことによる、窒息死であることが判明。
ほどなく、クリスティーンを殺害した容疑者が逮捕された。 それは…夫のトーマスだったのだ。

しかし、トーマスとクリスティーンは、近所ではおしどり夫婦として有名。 殺害動機は、何一つ見つからなかったのだが…実は、トーマスは衝撃的な秘密を抱えていた。
あの日、キャンピングカーの外で若者たちが騒いでいたのは、事実。 しかし、トーマスが外に出て若者を注意し、男の首を力強く締め上げ、彼らを追い払ったという一連の行動は、すべて…
夢の中で若者の首を絞めたトーマス。 だが実際は、最愛の妻、クリスティーンの首だったのだ。

逮捕後、医師による検査により、トーマスはある病に冒されていることが発覚した。 それは…『レム睡眠行動障害』
人は一晩にレム睡眠とノンレム睡眠の2つの状態を交互に繰り返す。 レム睡眠の間は眠りが浅く、夢の多くは、この時に見ると言われている。 そして、何かを殴ったり蹴ったりする夢を見ると、眠っているにも関わらず、同じ行動を取ってしまう人もいると思うが、これが頻繁に起き、重度になると、『レム睡眠行動障害』と診断される可能性がある。 これは、高齢者の約1%、特に男性がよく発症すると言われている。 原因は明らかでないケースも多いが、発症した人の約半数には脳と脊髄からなる中枢神経の疾患が見られるという。

ちなみによく知られる夢遊病は、ノンレム睡眠時に生じる睡眠障害である。
実は、トーマスも幼い頃から、夢遊病など様々な睡眠障害に悩まされていた。
その後の裁判でも、睡眠障害を患っていることが正式に認められ、トーマスの無罪が確定した。 事件後、罪の意識に苛まれたトーマスは、自らの命を断つことも考えたというが、娘たちは取材に対し、診療施設と協力しながら悪夢に襲われた父を100%サポートすると語った。

近年、大谷翔平選手が、10時間以上の睡眠を心掛けていると発言し、話題になった。 厚生労働省も健康維持のため6時間以上の睡眠を推奨するなど、日常の活動と大きく関係している睡眠。
睡眠医学が専門の内村学長はこう語る。
「眠ることによって心や体が修復されるとか、記憶を整理するとか、免疫力を向上させるとか、様々な睡眠の機能というのは分かってきているんですけど、どうやって眠るのかっていう睡眠のメカニズムというのは、まだ分かっていなくて、まだまだ謎の部分が多いというのが現状ですよね」
先程のレム睡眠行動障害による事例でも分かるように、睡眠は解明されていない部分が多いのだ。